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インドの人事労務・法務アップデート

従業員年金基金(EPS)の一部対象者に対する支給額と拠出上限額の引き上げについて

従業員積立基金機構(Employees Provident Fund Organization: EPFO)は、2022年12月29日2023年1月5日同年1月25日同年2月20日に一連の通達を発出し、従業員年金基金(Employees’ Pension Scheme :EPS)について、2022年11月4日の最高裁判所の判決及び指針に従い、対象となる退職者(詳細は下部に記載)は適切な申請を行うことで、過去の拠出金に対してより多くの年金受給が認められるようになり、加えて、対象となる現役世代(詳細は下部に記載)についても雇用主と従業員が2023年5月3日までに共同申請を行えば、上限の15,000ルピー*8.33%を超える基本給(Basic Salary)の8.33%をさかのぼって拠出することを選択できるようにする旨、発表しました。

1. 対象者一覧(引用元:Cleartax記事

 

2014/9/1時点

 

過去の申請及び拠出の有無

対象

申請方法・期限

2014/9/1以前から現在までEPSに加入している現役世代 過去に申請を拒否された者  

指定フォームにて申請*

 

過去に申請せずに

上限以上の拠出を行なった者

 

 

 

共同申請*

(2023/5/3期限)

2014/9/1以前

に退職済みの EPSに加入していた者

過去に申請を拒否された者  

共同申請+

指定フォームにて申請*

 

 

過去に申請しなかった者

 

×

※各種申請はe-SEWAを通して行います。

 

2. EPS制度の導入から今回の最高裁判決にいたるまでの主な背景とその概要

背景:

西暦 主な出来事 詳細
1995年 EPS-95導入 o   上限5,000ルピー(後に6,500ルピー引上げ)*8.33%を拠出することが義務に

 

1996年 EPS改正 o   雇用主と従業員が共同申請すれば(上限額を超える)基本給(Basic Salary)*8.33%の拠出を選択可能に

 

2014年 EPS再改正 o   上限額を15,000ルピー*8.33%に引上げ

o   上限額以上の拠出に係る規定が削除される

o   上限額以上の拠出を望む既存加入者は当該改正後6ヶ月以内に雇用主と従業員の共同申請が必要となる旨発表

2014年以降 共同申請にかかる係争事案が多発 o   EPFOに多くの共同申請が拒否される

o   多くの者が申請や承認の有無に関係なく、上限以上の拠出を行う

o   当該追加拠出分が年金支給額計算のベース額に考慮されないといった事案が発生

o   不満を持った多くの者が高等裁判所に提訴

 

2022年 最高裁判決 o   最高裁判所にて退職者に有利となる判決

 

 

3. 最高裁判決にかかる詳細:

1995年、インド政府は、1952年従業員積立基金および雑則法 (Employees’ Provident Funds and Miscellaneous Provisions Act, 1952)の第6A条に基づいて、従業員年金制度(EPS-95)を導入しました。EPS-95では、雇用主は、毎月5,000ルピー(後に6,500ルピーに引き上げ)の8.33%を同制度に拠出することが義務付けられました。

1996年に改正が行われ、雇用主と従業員が共同で申請することで、毎月基本給(Basic Salary)*8.33%(上限の5,000ルピー又は6,500ルピー*8.33%を超える金額)をEPSに拠出することを選択適用できるようになりました。また、EPFOは、当該オプションの行使申請に6ヶ月間の申請期限を設けました。

その後、2014年9月1日に再度改正が行われ、EPSへの毎月の拠出上限額は15,000ルピーの8.33%に引き上げられましたが、当該上限を超える基本給(Basic Salary)の8.33%をEPSに拠出できるという規定は削除され、2014年9月1日以降にEPSに加入した従業員は、原則として毎月最大15,000ルピー*8.33%の拠出しかできなくなりました。

また、既にEPS-95に加入していた従業員および2014年09月1日以前からEPSに加入していた従業員に対しては、2014年9月1日から6ヶ月以内という期限内に雇用主と従業員が共同申請書を提出すれば、当該上限を超える毎月基本給(Basic Salary)*8.33%を拠出できると発表されました。

実際にはEPFOは多くの当該申請を拒否しましたが、多くの者が当該申請や承認の有無に関わらず、上限額(15,000ルピー*8.33%)を超えて従業員の基本給(Basic Salary)*8.33%をEPSに拠出したケースが多発しました。しかし、これらの未申請または未承認にもかかわらず上限を超える拠出をした者への年金支給額計算のベース額が、実際の拠出額に関わらず規定の上限額とされてしまったため、これに不満を持った多くの対象者が高等裁判所に提訴したのです。

その後、2022年11月に最高裁判所は、対象者は自身の拠出額に見合う分の年金を受給する権利があり、かつ2014年9月1日以前から現在までEPSに加入している現役世代についても期限付きで上限以上を遡及的に拠出できるように選択肢を与えるべきとの判決を下しました。

これを受けて、EPFOは、前述の一連の通達を発出し、各対象者は2023年5月3日までに適切な申請を行うことで、より多くの年金を受給する権利が認められるようになりました。加えて、2014年9月1日以前から現在までEPSに加入している現役世代についても、雇用主と従業員が2023年5月3日までに共同申請を行えば、(現在の上限額である15,000ルピー*8.33%を超える)基本給(Basic Salary)*8.33%を拠出することを選択できるようになりました。

               

執筆者紹介About the writter

奥 晋之介 | Shinnosuke Oku
学生時代に2015年~2018年の3年間、在ベンガルール日本国総領事館にて在外公館派遣員として勤務。その後、インド大手ITサービス企業の日本法人に入社し、製造実行システム導入の構想策定プロジェクトへの参画や提案活動に従事。インド進出日系企業の支援に関わりたいとの想いから、2022年に当社に参画し、再びベンガルールへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や労務、インド市場調査業務を担当。