India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0063 大打撃からの見事な跳ね返りを見せたインドフードテックの1年

新型コロナウイルスがフードテック業界に与えた打撃

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2020年12 月28日付けの報道で2020年のインドフードテックについて取り上げています。

インド国内のフードデリバリー業界は、今年3月末に施行された新型コロナウイルス対策のロックダウンによる制限に苦戦し、衛生面や安全面に関して懸念していました。RedSeerのレポートによると、実際に今年4月の大手フードテック企業の受注したオーダー数はプレコロナの2割程度まで落ちているとのことです。

フードテックユニコーンのZomatoは『今年3月のGMV(※1)は直前の2月のピーク時と比較し、8割減少した。』と述べており、インド国内に300以上のクラウドキッチンを持ち、アラブ首長国、東南アジア、イギリスで多数のブランドを展開しているオンラインレストランのRebel Foodsも40%の減少を経験しています。RedSeerのレポートで、6月中旬時点のインド外食産業は650億ドル規模の市場価値の僅か10しか機能していないことが明らかになっています。

 

顧客層の回復とシフト

2020年上半期は苦戦を強いられたフードテック産業ですが、今では少しづつ軌道を戻してきているようです。大手フードデリバリーのSwiggyは『インド全土でのフードデリバリーはプレコロナの注文額にほぼ近い水準まで回復している。』と発表しています。

ロックダウンの規制が解除されてから、多くの社会人がデリーやバンガロール、ムンバイなどの都市部から実家に帰省しました。Swiggyの広報担当者によると、『このことがコルカタ、コチ、ラクナウ、ヴィザグ、グワハティ、マイソールなどの地域での需要の増加に繋がっている。』とのことです。これらの都市では、労働人口の流入により、フードデリバリーの水準はプレコロナを超えているとのことです。

最近ではZomatoが6億6000万ドルを調達した際、CEOのDeepinder Goyal氏は、『インドのフードデリバリーは急速にコロナの影から抜け出しつつある。実際に、2020年12月は弊社史上、過去最高のGMV月になると予想されている。』と述べました。また、ZomatoとSwiggyの両社でユーザー1人あたりの注文額が増加しているとのことです。これはフードデリバリーのメインユーザーである若者が実家に帰省し、家族分も同時に注文をしているためとの要因分析がなされています。

このようなフードテック業界の改善はプレイヤーだけでなく、投資家からも反響があり、YourStory Researchによると、2020年のフードテックセグメントにおける資金調達額は2019年に比べ33.46%の増加を見せています。

しかし、ロックダウンが始まって以来一度もフードデリバリーをしていない層がいることも確かです。企業はこの層を呼び戻すために革新的な戦略をスピーディーにかつ継続的に導入しています。例えば、Zomatoは先月、以前よりも大規模な持ち帰りサービスとセルフピックアップサービスをローンチ、また、提携レストランに対してはこのサービスを手数料無料で提供することを発表しました。同サービスの効果は絶大で、オーダー数に約200%もの伸びがあったようです。さらに、Rebel Foodsは、世界クラスのレストランスタイルの食事を自宅で調理したい人のためのDIYミールキットのような新しいメニューオプションを導入しました。

 

2021年のインドフードテック業界

一部のプレイヤーは、2021年に利益を伸ばすためにキャッシュバーン(資金燃焼)を削減する方法に注目しています。FreshMenuはコスト削減のためにメニューを縮小しました。まだ顧客のオーダーがコロナ禍以前の適正水準にまでもどってきていない会社にとって、キャッシュバーンの削減は来年以降の成長戦略を語る上でのキーワードとなっています。ムンバイを拠点とする食品会社であるThe Biryani Houseもそのうちの一社です。会長のSarvesh氏によると、ムンバイにあるいくつかのキッチンを閉鎖し、いくつかのリソースを手放さざるを得ませんでしたが、新年には野心的な計画を立てており、インド全土に拡大することを目指しているそうです。

Rebel Foodsは、より安全なデリバリー体験を提供するEat.Sure UVデリバリーバッグや、顧客が外食をしながら安全に食品を回収できるEat.Sure ピックアップ キオスクなど、さまざまな製品を導入しています。このように、2021年は新型コロナウイルスと共存しながらも、人々が安心して外食やデリバリーフードを楽しむためのニューノーマルな戦略が不可欠となりそうです。2020年は新型コロナウイルスが流行したことで、インドフードテック産業は政府による規制や、顧客のニーズに合わせる為に、あらやる点において変化を受け入れ、事業をアップデートすることを余儀なくされましたが、来年は利益を伸ばすために各企業が戦略的に、独自のマーケティングスタイルや経営方針を生み出していく年になりそうです。インドは他国と比べても、変化に対し比較的寛容であり、スピード感のある意思決定をする傾向にあります。変わることを期待されるウィズコロナ時代だからこそ、来年のインドフードテック産業もさらなる盛り上がりを見せるのではと、未知なる今後のインドに期待したいところです。

※1 GMV:Gross Merchandise Valueの略。市場において消の販売総額費者に購入される商品やサービスの販売総額を表す。

Source:インドフードテック産業の1年