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週刊インドトピックス

Vol.0074 Paytmの成長に携わった重要人物が始めたアグリテックビジネスとは?

元Paytm CFOがアグリテックを設立した背景

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年2月4日付けの報道で、2019年にPaytm Mallの元COOであるAmit Sinha氏が設立したアグリテック系スタートアップ『Unnati』を取り上げています。

Sinha氏はインドで2つのユニコーン企業(※1)(PaytmとPaytm Mall)の構築に深くかかわってきました。この2大デカコーン(※2)での任期は12年に及び、そこでCFO、人事のトップ、Paytm MallのCOO、Paytm Insuranceの事業部長を務めました。フィンテックや金融サービスでの豊富な経験がある彼がなぜ農業の分野で起業しようと考えたのでしょうか?その答えとしてShinha氏は『私は、ボトムアップから10億ドル規模の組織を構築するためのあらゆる役割を経験してきた。だからまたゼロから始めることに一切抵抗はなかった。』と説明しています。

Unnatiの共同創業者には彼の友人であり、元Paytmの同僚でもあるAshok Prasad氏が加わっており、ヒンディー語で「改善」を意味する「Unnati」はノイダを拠点に『フィンテックを駆使したデジタル農業企業』として活動を始めました。昨年 10 月には 農業に特化したベンチャーファンド NABVENTURES からプレシリーズ A ラウンドで 170 万ドルの資金調達しており、それに先立ちGemba Capitalからも200万ドルの調達に成功し、注目を集めています。

 

農産業のための「技術的バックボーン」の構築

農業というエコシステムはあらゆる面においてコントロールが不可能で、複雑でリスクを伴いやすいものです。農産業の構造と土地所有システムの弊害によって、多くの人々や企業は農家に働きかけることが難しいと感じています。農家にまで効果的なソリューションが全く届いていないか、多くの中間業者を介することでそのコストが非常に高くなってしまっている、というのが実状です。Shinha氏は『これが、Unnati を開始した時に掲げた現在の農業の問題点であった。』と述べています。

Unnatiは、種苗の購入や作物指導から、農薬や肥料などの投入資材の供給、生産物の販売のための市場連携、運転資金のニーズの充足など、農家の作物サイクルのあらゆる段階を「改善」するために技術的介入を行っています。農業関係者のために、エンドツーエンドの「技術的バックボーン」を開発しており、収穫前のガイダンスから収穫後のサービス、農民のためのワーキング・クレジットに至るまで、すべてをひとつのプラットフォームの下にまとめています。登録農家は、Unnatiに掲載されている数多くのブランドサプライヤーや販売者から、種子、農薬、肥料などを購入することができ、さらに、プラットフォームに接続されている食品加工業者やアグリビジネスに直接生産物を販売することができます。このようにしてバイヤーは本物の作物を入手することが可能となり、農家はより良い価格を得ることができます。

同社の目標は、最高の技術を使って生産性を高めることであり、最終的には農業のインプットとアウトプットをコントロールできる「農家の起業家」を生み出したいと考えています。Sinha氏は『アグリチェーンのすべてのプレーヤーは、農場のアウトプットには影響を与えている。しかし、他社サービスは、相互交流していない。我々は、農家を農業貿易の中心にすることを目指している。農家がアウトプットの制御をする必要がある場合は、それに伴いあらゆる側面のインプットコントロールも自身でする必要があることを伝えている。』

農業は季節や天候によって収穫高が変動する複雑な産業ですが、Unnatiは毎シーズンの開始時に農家に基本価格を約束しています。そのため、潜在的な不確実性にもかかわらず、農家の収入は安定しています。

 

ビジネスモデルと成長計画

15ヶ月余りで、Unnatiは、インド全土の48地区の農家に農業投入資材を販売するための4,500の現場パートナーとのネットワークを構築しました。 ウッタル・プラデーシュ、マディヤ・プラデーシュ、ビハール、マハラシュトラ、オーディシャー州の27万5000人以上の農家の登録があり、1日あたり約2万件の取引がされています。  2022年までには、ハリヤーナ、ラジャスタン、アンドラプラデシュ、テランガーナ州を含む15州に拡大し、農民ネットワークを100万人に拡大することを計画しています。最近では、肥料ブランドのMosaic Indiaと提携し、インドの農村部にある1.5万人以上の小規模な農業資材小売業者の業務デジタル化も担っています。  Unnatiは現在、サトウキビ、水稲、トウモロコシ、大豆、厳選された野菜など保存のきく食材に焦点を当てていますが、今後はマスタード、綿花、ジャガイモ、タマネギなどの半生鮮品のカテゴリーへの参入も計画しているようです。

Unnati はまた、小口融資を利用するためのユニークなIDカードを農家に提供しています。農家は、これらのカードの QR コードをスキャンすることで、デジタル KYC (※3)を行うことができます。いくつかの農業金融機関とは異なり、Unnati は農家に「非担保かつ柔軟な融資」を提供しており、返済期限が決まっていません。農家は購入する製品に応じて、何度も借りたり返したりすることができ、取引履歴が信用度を左右します。運転資金だけでなく、カードを保持している農家は、Unnatiのすべての取引に自分のIDを使用することができます。

同社はプラットフォーム上で取引を行った人たちから手数料を得ています。数字を明らかにしていませんが、収益は3倍から4倍に成長していると述べています。

EYによると、テクノロジー主導の農業はインドではまだ始まったばかりで、市場規模は2025年までに240億ドルに達すると予測されています。農業はインドのGDPの13%を占めており、アグリテックは大きな可能性を秘めています。インド政府も同産業に力を入れていることもあり、昨年はアグリテックスタートアップの名を聞く機会が一気に増えたように感じています。今年はさらにその傾向が強まることでしょう。しかしUnnatiのように農業資材を取り扱っている小売業者と農家、農家とバイヤーのインプットとアウトプットの両方を繋ぎ、かつプレーヤーではなく農家そのものをビジネスの中心にしようと働きかけているスタートアップはまだあまりありません。Unnatiがこれからさらに規模を拡大し、インドアグリテック業界の主要プレーヤーとなる期待は高く、これからも同社の動きを追っていきたいです。

 

※1 ユニコーン企業:企業としての評価額が10億ドル以上で非上場のベンチャー企業のこと

※2 デカコーン:ユニコーン企業のうち、企業価値が100億ドル以上のベンチャー企業のこと

※3 KYC:Know Your Customerの略。個人情報などの必要データを入手するプロセス。

 

Source:元Paytm CFOが設立したアグリテックUnnati