India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0087 結核診断・治療ソリューションを提供するインドヘルステック5選

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年3月22 日付けの報道で、結核の診断と治療に関してのソリューションを開発しているインドのスタートアップ5社を取り上げています。

世界的に深刻な健康危機が叫ばれている中、WHOは結核を世界の死因トップ10の一つに挙げています。結核は、診断と治療が早ければ完全に治る病気であるにもかかわらず、インドでも主要な死因の一つとなっています。Indian Journal of Community Medicineのデータによると、インドでは毎年48万人が結核で命を落としています。加えて毎年100万件以上の未報告のケースがあることも明らかになりました。

Indian Expressの報道によると、インドでは昨年、結核の届出が25%減少したことが明らかになりました。しかし、2020年12月以降、その数は回復していると報告されています。結核がもたらす健康面、社会面、経済面での影響についての認識を高めるため、毎年3月24日は「世界結核デー」となっています。

Docturnal

ハイデラバードを拠点とする医療技術スタートアップのDocturnalは、2016年にArpita Singh氏、Rahul Pathri氏、Vaishnavi Reddy氏の3人によって設立されました。このスタートアップは、肺結核と肺炎のポイントオブケア(※1)および非侵襲性(※2)な検査と診断のソリューションを開発しています。Docturnal の代表的なサービスに「TimBre」という咳の音を分析して結核を診断するアプリがあります。TimBreは、人口統計学的、臨床学的、社会経済的変数とともに、個人の咳の音を記録します。このデータはリアルタイムで処理され、機械学習(ML : Machine Learningを利用して、咳が結核陽性か陰性かを判断します。モバイルアプリをダウンロードし、デバイスのマイクに向かって咳をするだけで録音、分析され、その後検証のためにパートナーの医療機関や医師と共有されます。検査結果はアプリ上でユーザーと共有され、ユーザーが取るべき次のステップが提示されます。また、同社は新型コロナウイルスのパンデミック対策として、アプリを再利用し、ユーザーが自宅にいながらCOVID-19の感染状況を事前にスクリーニングできるcoVaweをリリースしました。

 

AarogyaAI

2019年にPraapti Jayaswal氏とAblokita Tiwari氏によって設立されたニューデリーのAarogyaAIは、わずか数時間で結核患者の薬剤耐性を診断できるAI対応のSaaSを提供しています。結核は治る病気であるにもかかわらず、発見されるまでに時間がかかり、治療に2ヵ月以上かかることもあります。また、患者に薬剤耐性があることが判明した場合、状況は悪化します。AarogyaAIは、患者のDNA配列をソフトウェアにアップロードすることで、機械学習アルゴリズムがDNA分析を行い、患者の総合的な薬剤感受性の状態より早く診断することを可能にしています。同社は、英国のEntrepreneur Firstの支援を受け、既にいくつかの賞を受賞しています。

 

NextGen Invitro Diagnostics Pvt Ltd

グルグラムを拠点とするNextGen Invitro Diagnostics(NGIVDは、Vivek Chandra氏とSushil Mehta氏によって2015年に設立されました。このスタートアップは、1つのサンプルを使って複数の疾患バイオマーカー(※3)を検出できる高度な多重化技術(※4)を用いて、安価で簡単かつ正確な感染症の診断を提供することを目指しています。NGIVD社のTB-Lamp(結核菌群核酸増幅同定検査)ソリューションは、ドイツのHuman Diagnostics Worldwide社との提携により、DNAの抽出が容易で、結核の診断を迅速に行うことができます。NGIVD社によると、TB-Lampは周辺のラボでも使用できるため、国内の遠隔地でも患者に診断を届けることができ、さらに診断時間は1週間からわずか1. 5時間に短縮されるといわれています。また、WHOも成人の肺結核の診断において、顕微鏡検査の代わりにTB-Lampを用いた診断法を推奨しています。同社は結核以外にも、マラリアやリーシュマニア症などの多重化疾患診断プラットフォームを提供しています。

 

Qure.ai

2016年にPooja Rao博士とPrashant Warrier博士によって設立されたムンバイのQure.aiは、AIを使って放射線スキャンを解釈し、迅速な診断を可能にしています。同社は、深層学習(DL : Deep Learning)を活用して、放射線学と病理学の画像から病気を診断し、さらに心理病理学の画像とゲノム配列から個人に合わせたがん治療計画を作成しています。Qure.aiのqXRは、CE認定(※5)の胸部X線自動読影ツールで、古典的な原発性肺結核やその他の肺、肺門、胸膜の異常スクリーニングに使用されます。以前、YourStoryとのやりとりの中で、Warrier博士は、『胸部X線のAIベースの解釈に当社のソリューションqXRを使用することで、低コストで国内の遠隔地でも結核診断が可能になる。』と述べていました。また、コロナ禍の中、同ヘルステックスタートアップは2つのソリューションを発表しました。ひとつ目は新型コロナウイルス感染の兆候を検出するためにX線解釈ツールを再利用したもの、もうひとつはコロナウイルス患者の連絡先を追跡し、遠隔地でトリアージ(※6)するためのアプリベースのソリューションです。

 

DeepTek

プネに本拠を置くDeepTekは、Amit Kharat氏、Ajit Patil氏、Aniruddha Pant氏によって2018年に設立され、医療用画像処理のためのAIベースのツールを開発することを目的としています。日本のNTTデータもDeepTekのパートナー企業としてサポートしているようです。

同社のAIベースのGenkiソリューションは、「エンド・ツー・エンドの画像ワークフロー」を提供する結核の検出事前スクリーニングツールです。画像診断の専門家がGenkiの深層技術を使うことで、X線レポートを早期に解釈、結核を早期診断することができます。これ以外にも、Genkiは新型コロナウイルスの診断にも使用できると主張しています。Kharat氏は、YourStoryとのインタビューで、『弊社のAIモデルは、15以上の病状を診断し、自動でレポートを作成することができる。また、画像診断の専門家がレポートを承認したり、修正を加えたりすることが可能だ。修正があった場合は、再びAIモデルへの入力として与えられ、当社のモデルが継続的に学習し、改善するためのフィードバックループを形成している。弊社はすでに世界中の50以上の病院や画像センターにサービスを提供している。』と主張しています。

 

ヘルステック業界の今後

以前は医療分野のプレイヤーは限定されていましたが、ここ3年ほどで異業種の企業やベンチャー、スタートアップ企業などが加わり、新しい価値を持った医療サービスが誕生しています。また、ヘルステックの必要性とその価値はコロナ禍で格段に増しており、これまで以上にヘルステックに注目が集まっています。

日本でもヘルステック界隈で盛り上がりを見せていますが、㈱メドレー(※7)や㈱エス・エム・エス(※8)、メドピア㈱(※9)のようなコミュニティやプラットフォームの提供をしている企業が多い印象です。エムスリー㈱(※10)が提供している遠隔治療サービスや、PHC㈱(※11)の糖尿病マネジメント、データ連携ソリューションなどは需要があるにも関わらず、日本ではまだ競争率が低いように感じます。法律や規則の問題もあるとは思いますが、インドのようにAIや機械学習、深層学習を利用した、診断や治療の効率・スピードを上げるサービスがもっと積極的に誕生してもおかしくはないと思います。ヘルステックの分野においてはインドから学べることが多いと感じました。

 

※1 ポイントオブケア(POCT):診療・治療・介護現場で患者の近いところで行われる検査のこと
※2 非侵襲性:(検査・治療が)切ったり、器具を挿入したりしない、拡張しない、他の組織に広がらない方法
※3 バイオマーカー:ある疾患の有無や、進行状態を示す目安となる生理学的指標のこと
※4 多重化技術:電気通信およびコンピュータネットワークにおいて、複数のアナログ信号またはデジタルデータストリームをまとめ、一つの共有された伝送路で送ること
※5 CE認定:自社製品が該当する欧州医療機器指令の必須基本要件を満たしていることを示すもの
※6 トリアージ:患者の手当の緊急度に従って優先順位をつけること
※7 ㈱メドレー:https://www.medley.jp/
※8 ㈱エス・エム・エス:https://www.bm-sms.co.jp/
※9 メドピア㈱:https://www.medpeer.co.jp/
※10 エムスリー㈱:https://corporate.m3.com/corporate/
※11 PHC㈱:https://www.phchd.com/jp/phc

 

Source:インドの結核診断ソリューションを提供するスタートアップ5社

NTTデータ、インドで結核診断アクセスを支援

 

本記事で取り上げたインドヘルステック5社

Docturnalhttp://www.docturnal.com/
AarogyaAIhttps://aarogya.ai/
NGIVDhttp://www.ngivd.com/
Qure.ai
https://qure.ai/
DeepTek
https://www.deeptek.ai/