India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0101 インドでの不妊治療の認識を広めるスタートアップ『BabyReady』

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年5月20日付けの報道で、不妊治療のサービスを提供しているBabyReadyを取り上げています。

 

BabyReady設立までの道のり

インド生殖医学会(※1)によると、世界第2位の人口を誇るこの国では、2,750万組のカップルが不妊に悩んでいるようです。

2020年11月にムンバイを拠点に、Snneha Lukaa氏によって立ち上げられたBabyReadyは、現在、不妊治療中の7,000組のカップルに、適切な医師やクリニックの検索から、融資の提供、同じような治療を受けている人とのつながりまで、エンド・ツー・エンドのサポートを提供しています。

BabyReadyを起業する前は不妊治療のためのローンを提供する消費者金融フィンテックのスタートアップCredit Fair社でマーケティング責任者を務めてたLukaa氏は不妊症に悩んでいる多くのカップルに出会ってきました。その中で『かなりの人々が誤った情報を得ており、自分たちが持っている選択肢について知らない』ということに気が付いたようです。『多くの不妊に悩んでいるカップルは、体外受精が不妊症の唯一の解決策だと信じているが、それは間違いだ。体外受精の場合でも、それがどのようなもので、どのくらいの期間を要するのかを知らない人がほとんどだった。』と話しています。さらにインドでは多くの人が不妊に関する会話を避ける傾向があります。

このような背景からLukaa氏はBabyReadyの設立を決意し、500万ルピー(約745万円)をチームとアプリ開発に初期投資しました。現在は6人のコアチームとともにビジネスの拡大を目指しています。

 

BabyReadyのビジネスモデル

BabyReadyの第一目標は卵子や精子の凍結、子宮鏡検査、顕微授精、体外受精、人工授精など、さまざまな種類の治療法に関する情報を顧客に提供することです。次に、21歳から65歳までのカップル・ご夫婦は、婦人科医や不妊治療の専門家に紹介され、10,000ルピー(約15,000円)を上限としたEMI(※2)不要のローンによる経済的支援を受けることができます。しかし融資を受けるには条件があり、月収15,000ルピー以上の収入があり、過去6カ月間の銀行取引明細書を提出する必要があります。

医師による相談は通常150ルピー(約225円)からと手頃な価格ですが、BabyReadyはパンデミックの第2波がインドに与える影響を考慮して、現在は無料で相談を受け付けているとのことです。また、栄養士、ライフスタイルコーチ、ホメオパシー(※3)やアーユルヴェーダの医師と提携し、自然な妊娠プランを支援しています。

ユーザーは、同プラットフォームに掲載されている医師を検索し、自分の経験に基づいて評価やレビューすることができます。

 

インドでの不妊治療に関する課題

インドでは、『ほとんどの場所に医師や婦人科医はいるが、不妊症の専門家は大都市にしかいないことが普通で、不妊に悩んでいる人々はしばしば近隣の都市まで出向く必要がある。』という問題が顕在していますが、設立からわずか6ヶ月のBabyReadyには、Tier 3(※4)やTier 4(※5)の都市から毎日100件以上の相談の電話がかかってきているとのことです。このことは、テクノロジーがいかにして大都市以外の人々に届いているか、そしてBabyReadyが大都市圏以外の人々の頼み綱となっていることを証明しています。

代表のLukaa氏は、『患者に医師を推薦しているが、デリケートな決断なので、無理には勧めないようにしている。赤ちゃんを授かりたいカップルのためのサービスなので、非常に透明性の高いものにしたいと思っている』と述べています。

同スタートアップを利用することのメリットとして、透明性が高く、質のいいサービスを受けられるだけではなく、不妊に悩む人々がコミュニティを形成し、個人的な経験やさまざまな医学的アプローチから得た学びを共有することができるということが挙げられます。オープンに話せる内容ではないからこそ、こういったコミュニティは情報収集の場としても、また精神的な面からみても利用価値がありそうです。

 

BabyReadyの今後の展望

インドヘルステック市場ではPracto(※6)のような有力なプラットフォームが存在しますが、BabyReadyは不妊症のサービスに特化することで未開拓のエリアの可能性を見出しています。実際、インドでは体外受精(IVF)市場だけでも2026年までに14億5,000万ドルに達すると予想されており、2019年から2026年までの年間平均成長率は14.7%になると見られています。

Lukaa氏は将来的に、BabyReadyをカップルの妊娠・出産を支援するためのサービスとして多様化していきたいと考えています。

実際にインドは性に関してかなりセンシティブで、そのような話をオープンにすることはタブーとされている傾向があります。2,750万組もいるとされている、不妊に悩むカップルが一組でも多くBabyReadyの存在を知り、不安を解消できればいいなと思います。

 

 

※1 インド生殖医学会:Indian Society of Assisted Reproduction (https://www.isarindia.net/)
※2 EMI:Equated Monthly Installmentの略。定額月賦払いのこと。
※3 ホメオパシー:200年以上前にドイツで確立された医療体系で、「類似したものは類似したものを治す」の考えのもと、現在の症状に関して、同じ物質を投与することで治す治療法。
※4  Tier 3:人口2万人~5万人未満の都市
※5  Tier 4:人口1万人~2万人未満の都市
※6 Practo:https://www.practo.com/

 

Source:不妊に悩むカップルにサービスを提供するBabyReady