E-28. ケース事例から見るインド移転価格税制の実務と税務リスク
(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
1、移転価格税制とは何か?
インドに進出する日系企業が、親会社やインド国外のグループ会社と何らかの国際取引を行う場合には、移転価格税制上の税務リスクを理解しておく必要があります。
つまり、関連者(Associated Enterprise:AE)との国際取引価格については、関連者であるということの性質上、その取引価格をお互いが自由に決めることができてしまう(=関連者それぞれの利益を意図的に操作できてしまう)ことから、税務当局が目を光らせている、ということになります。
したがって、関連者との国際取引については、独立企業間価格(Arm’s Length Price:ALP)に基づいて取引価格(移転価格)を設定する必要があります。つまり、類似取引を行っている企業をベンチマーク企業群に選定し、非関連者間と同等であり、かつ、利害の矛盾が見られない取引価格の妥当性についてを検証した上で、適正な独立企業間価格を算定をする必要があります。
2、インドにおける独立企業間価格の算定方法について
インド所得税法第92F条によると、独立企業間間価格(ALP)とは、非関連者同士の自由取引において適用される価格、と定義されていて、主に以下5つの算定方法が規定されています。
- 独立価格比準法(Comparable Uncontrollable Price : CUP法)
- 取引単位営業利益率法(Transactional Net Margin Method : TNMM)
- 再販売価格基準法(Resale Price Method : RPM)
- 原価基準法(Cost Plus Method : CPM)
- 利益分割法(Profit Split Method : PSM)
ちなみに、インド国内では上記1および2の独立価格比準法(CUP法)と取引単位営業利益率法(TNMM)のいずれかが採用されるのが一般的です。
と言いますのも、インド企業省(Ministry of Corporate Affairs : MCA)のポータルサイトからすべてのインド企業の監査済決算書類を入手することが可能ですが、インドの決算書類フォーマットが製造原価や販売原価が表示される形式になっておらず、正確な原価率を把握することが困難です。
したがって、原価率を基準に評価する再販売価格基準法(RPM)や原価基準法(CPM)についてはインド国内における独立企業間価格の算定方法としては一般的ではありません。また、利益分割法(PSM)についても算定方法の特殊性からあまり採用されるケースは多くありません。
3、税務当局との係争に発展したケース事例
事例1:比較対象企業の選定において税務当局と争いになったケース
外資系の自動車部品メーカーA社はTNMMを採用して独立企業価格を算定していました。この算定にあたって収集した類似企業データが、A社のビジネスモデルとは異なることを理由に、税務当局がベンチマークとすべき企業群が適切ではないとして、A社が算定した独立企業間価格を否認しました。
その結果、税務当局が比較対象として相応しいと選定した企業郡のデータをもとに独立企業間価格を再計算したところ、当初選定していた企業よりも類似企業の営業利益率が高くなる結果となり、多額の加算調整の指摘を受けてしまいました。
事例2:ロイヤリティ料率において税務当局と争いになったケース
外資系の機械メーカーB社は、アメリカ企業C社の子会社でした。B社は独立企業間価格の算定においてTNMMを採用し、機械の販売に際し、インド国内販売については国内売上の5%を、インド国外への輸出については輸出売上の8%をロイヤリティとしてC社へ支払っていました。
しかしながら、税務当局は、当該機械はB社が独自に研究開発したものであり、C社の技術は何ら利用していないとして、当該ロイヤリティ料率を否認しました。
結果的に、当該企業におけるロイヤリティの独立企業間価格はCUP法により算定するのが適切であるとし、また、その料率については算定をし直すよう判決が下されました。
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