F-33 : インドの監査人変更手続きについて
(文責:安本理恵 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
インド会社法139条(1)により会社が選任する監査人の任期は1期(最大5年)です。個人の監査人ではなく監査法人の場合は2期(最大10年)までとなります。ここでは、監査人の任期満了または辞任に伴う手続きをご説明します。
(1) 監査人の退任(Resignation)および選任(Appointment)
- ①監査人任期満了に伴う新監査人の選任の場合
旧監査人に、任期満了に際して退任することに異論がない旨を書面に記したNOC(Non Objection Certificate)を発行してもらいます。NOC発行は法的には必須ではありませんが、新監査人に求められることがあります。
②任期中の監査人の辞任(Resignation)による変更の場合
辞任する監査人は、辞表(Resignation letter)を発行し、会社の承認を得たら規定フォームADT-3にて辞任登記をします。 - 取締役会開催
新監査人選任の決議、株主総会の招集をします。 - 新監査人による書類発行
新監査人は、監査人就任資格があることを宣言するレター(Eligibility Letter)を会社に対して発行します。 - 株主総会開催
新監査人選任の決議をし、新監査人に対して選任通知書(Appointment Letter)を発行します。 - 新監査人による書類発行
新監査人は、監査人就任同意書(Consent Letter)を会社に対して発行します。 - 会社登記局(ROC: Registrar of Companies)へ登記
株主総会開催後15日以内に企業省規定フォームADT-1にて新監査人の選任を登記します。
ADT-1の添付必要書類
- 取締役会決議抜粋
- 株主総会決議抜粋
- 旧監査人辞表(Resignation Letter)
- 旧監査人ADT-3登記領収証
- 新監査人就任同意書(Consent Letter)
※可能であれば、短期召集通知により取締役会および株主総会を同日に開催し、かつ、1~5の手続きを同日付で済ませても構いません。
(2)監査人の除名(Removal)
会社法第140条(1)により、インドの会社の監査人は、特別決議による株主の承認を条件に、政府の承認を得た上で、任期満了前に解任することができるとされています。具体的には、除名の手続きを行うためにはROC(インド登記局)のRegional Directorに、監査人除名の承認をもらう必要があり、承認申請時には明確な除名の理由について文書での提出を求められ、当局に詳しく調査をされる可能性があります。
監査人の除名は通常、監査人が粉飾決算に加担するなどの詐欺や明らかな違法行為等があったと認められる場合において承認されるものであるため、除名手続きの申請が認められるには長期にわたるプロセスを必要とします。また、もし仮に除名手続きが認められたとしても、除名申請をされた監査人は根拠不十分を理由に除名の停止を提訴することも出来ます。
例えば、監査人が対価に見合う適切なサービスを提供していないと会社が感じ、監査人の除名申請手続きを行ったとしても、そこに明らかな違法行為等が認められない場合には、監査人除名の理由として直接的な関係がなく、根拠不十分と判断され、除名申請が認められないという結果になる可能性が高いわけです。
したがって、そもそも監査人を除名しなければならない事態にならぬよう、普段から監査人とのコミュニケーションには配慮をし、業務に対する適切かつ納得性のある評価とフォローアップ、そして、決して感情的にはならず、客観的かつ合理的な言動をベースに対応をされることをおすすめいたします。
執筆者紹介About the writter
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。