F-31 (a) : インドの取締役の選任・辞任・解任にかかる各種手続きについて
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(文責:日下夏海 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
ここでは、インドのPrivate Limited Companyにおける取締役の選任(Appointment)・辞任(Resignation)・解任(Removal)の各手続きについてご説明します。
いずれもCompanies Act, 2013および関連Rulesに基づく法定手続きとなりますが、実際の進め方は事案により異なります。そのため、個別案件については現地の会社秘書役(CS : Company Secretary)等の専門家に確認のうえ進めることが一般的です。
(1)取締役の選任(Appointment)
取締役の選任は、Companies Act, 2013 Section 152、Section 161(追加取締役)、Section 170(届出)等に基づき行われます。
外国人非居住者を新たに選任する場合は、一般的に、パスポート写真面の認証付与版(Apostille認証またはインド大使館・領事館による認証)、住所証明書(公共料金請求書や銀行口座取引明細書等)、証明写真、本人による同意書(Form DIR-2)、取締役識別番号(DIN : Director Identification Number)およびデジタル署名証明(DSC : Digital Signature Certificate)が必要となります。DINやDSCが未取得の場合には、通常、Form DIR-3等による取得手続きが先行することになります。
決議としては、当該インド現地法人の定款(AoA : Articles of Association)に授権規定があることを前提として、取締役会決議により「追加取締役(Additional Director)」として選任することが可能です(Section 161(1))。この場合、株主総会の事前決議は不要であり、取締役会決議のみで選任・登記まで進めることができます。ただし、追加取締役の任期は次回の年次株主総会(AGM : Annual General Meeting)までとされているため、その後も継続して就任する場合には、AGMでの株主決議により正式に再選任する流れとなります。
インド企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)への届出、すなわち会社登記局(ROC : Registrar of Companies)への登記としては、Form DIR-12を取締役会決議日から30日以内に提出します。なお、Managing Director(マネージング・ディレクター)等として正式に選任する場合には、通常の取締役選任とは別に、Form MGT-14等の追加届出が必要となる場合があります。実際の届出要否については、対象となる役職、決議内容、会社形態および定款の内容に応じて個別に確認することが望まれます。
選任手続自体は比較的迅速に進めることができますが、DIN未取得の外国人候補者の場合は、DIN申請手続きが先行するため、全体スケジュールには余裕を持って進めることが望まれます。
(2) 取締役の辞任(Resignation)
取締役の辞任は、Companies Act, 2013 Section 168およびCompanies (Appointment and Qualification of Directors) Rules, 2014に基づき行われます。
一般的には、本人による書面の辞任通知(Resignation Letter)の提出、取締役会での受領確認(Take note)、Form DIR-12による登記、という流れになります。DIR-12は、原則としてインド現地法人が辞任通知を受領した日から30日以内に提出します。なお、辞任の効力発生日は、インド現地法人が辞任通知を受領した日、または辞任通知に記載された日のいずれか遅い日となります(Section 168(2))。
従前は、取締役本人による登記フォーム「DIR-11」の提出も義務付けられていましたが、2018年の改正以降、DIR-11の提出は任意となりました。一方で、インド現地法人によるDIR-12の提出は引き続き必要です。
なお、辞任は本人の意思に基づく手続きであり、後述する「解任(Removal)」とは性質が大きく異なります。![]()
(3)取締役の解任(Removal)
1) 辞任と解任の違い
解任は、取締役本人の意思によらず、株主総会の決議により取締役の地位を失わせる手続きです。
本人の意思に基づき退任する辞任とは異なり、株主からの特別通知(Special Notice)、取締役会、株主総会、対象取締役への弁明機会の付与、ROCへの登記(ROC filing)等、複数の手続きを踏む必要があります。そのため、実務上も慎重な対応が求められます。
本人の真意に基づく辞任書(Resignation Letter)を取得できる場合は、解任よりも実務負担は小さくなるため、まずは辞任手続きを検討することが一般的です。ただし、辞任書の取得過程に強迫・不当圧力・条件不明確性があると、後日、辞任の有効性や不当な退任強要が争われる可能性があるため、メール、取締役会議事録、退任条件、未払報酬・費用精算、守秘義務等を明確に残すことをおすすめいたします。
2) 解任手続きの概要
取締役の解任は、主にCompanies Act, 2013 Section 169に基づき行われます。また、Special NoticeについてはSection 115およびCompanies (Management and Administration) Rules, 2014、株主総会通知に添付する説明書(Explanatory Statement)についてはSection 102、取締役異動の届出についてはSection 170等が関係します。
手続きとしては、まず適格株主からインド現地法人に対してSpecial Notice(特別通知)が提出されることから始まります。Special Noticeは、株主からインド現地法人に提出される通知であり、インド現地法人から取締役へ一方的に発出される通知ではありません。
Rule 23に基づき、Special Noticeを提出できる株主は、議決権の1%以上を保有する株主、または払込資本相当Rs.5 lakh以上の株式を保有する株主とされています。また、Special Noticeは、株主総会開催日の少なくとも14日前までにインド現地法人へ提出する必要があります。ただし、開催日の3か月以上前に提出することはできず、日数計算についても通知日および会議日を除いて確認する必要があります。
なお、インド現地法人はSpecial Noticeを受領した後、当該決議について株主に通知する必要があり、この通知は株主総会開催日の少なくとも7日前までに行う必要があります。
インド現地法人はSpecial Noticeを受領後、臨時株主総会(EGM : Extraordinary General Meeting)の開催承認、招集通知およびExplanatory Statementの内容確認、株主および対象取締役への通知発出等を進めます。なお、取締役会で「解任そのもの」を最終決議するわけではありません。最終的な解任は、株主総会における決議によって行われます。
3) 対象取締役への通知と弁明機会
インド現地法人は、対象取締役に対してSpecial Noticeの写しを送付し、書面による弁明(Written Representation)の機会を与える必要があります。
対象取締役は、自身の弁明書(Representation)を株主へ回付するよう求めることができ、合理的に可能な範囲でインド現地法人はこれを株主へ共有します。また、事前共有が時間的に難しい場合には、株主総会の場でRepresentationを読み上げるよう求めることも可能です。対象取締役には、株主総会で口頭による弁明権(right to be heard)も認められています。
これらは、対象取締役に十分な弁明機会を与えるという観点から、重要な手続きとされています。
4) NCLTについて
国家会社法審判所(NCLT : National Company Law Tribunal)については、「事前承認が必要」と誤解されることがありますが、通常の解任手続きにおける事前承認機関ではありません。
通常の解任についてNCLTの事前承認は不要です。ただし、インド現地法人または利害関係を有する者の申立てにより、Tribunalが、対象取締役のRepresentationが名誉毀損的内容の不必要な公表を目的として権利濫用的に用いられていると判断した場合には、Representationの送付または読み上げを不要とすることがあります。
また、手続不備や紛争性のある事案について、対象取締役または関係当事者がNCLTや裁判所等に申立てを行うケースもあります。たとえば、手続が法令に違反している場合、対象取締役に十分な弁明機会が与えられていない場合、定款に反している場合、または解任が抑圧的・差別的・不誠実な目的によるものと主張される場合などが考えられます。
5) 株主総会(EGM)での決議
取締役の解任は、EGMにおける株主決議により確定します。原則として、Section 169に基づく取締役解任は普通決議(Ordinary Resolution)で足ります。普通決議は、適法な通知がなされたうえで、議決権を有し実際に投票した株主の賛成票が反対票を上回ることにより成立します。ただし、Section 149(10)に基づきIndependent Director(※Private Companyでは通常設置義務はありませんが、任意設置またはグループ方針上設置している場合)として2期目に再選任された取締役の解任については、特別決議(Special Resolution)が必要となります。また、NCLTにより選任された取締役(Section 242)は、Section 169による解任の対象外です。加えて、インド現地法人がSection 163に基づく比例代表制(proportional representation)による取締役選任制度を採用している場合にも、Section 169の通常の解任規定は適用されません。
なお、解任により生じた欠員については、Special Noticeによる通知がなされていれば、解任決議を行う同じ会議で後任者を選任できます。後任者の任期は、解任された取締役が本来在任していた期間までです。欠員を同会議で補充しない場合は空席(casual vacancy)として処理され得ますが、解任された本人を再任することはできません。
6) ROC filing(ROCへの登記)
決議成立後は、Form DIR-12および必要に応じてForm MGT-14の提出対応を進めます。
Form DIR-12は、取締役の異動届出として、株主総会決議日から30日以内に提出します。
一方、Form MGT-14については、Section 117(3)がSpecial Resolutionおよび一定の取締役会決議を届出対象として明示している一方、Section 169によるOrdinary Resolutionは明示的な列挙対象には含まれていません。もっとも、実務上は、Section 169による解任決議(Removal resolution)についても、ROCへの記録およびコンプライアンス対応の観点から、決議の種類を問わずMGT-14を提出する運用が取られることがあります。そのため、弊社実務上も、取締役解任に関する決議についてはMGT-14の提出を前提に手続きを進めています。
7) ROCからの追加書類について
DIR-12等のROCへの登記(ROC filing)については、ROC側の審査(scrutiny)を経て受理されます。
事案の内容によっては、ROCから追加書類の提出を求められることがあります。
実務上求められることのある書類としては、対象取締役からの弁明書(Representation Letter)、株主から提出されたSpecial Noticeの写し、法令遵守を確認する宣誓供述書(Affidavit)、補償書(Indemnity)、Practising Company Secretary(PCS : Practising Company Secretary)による証明書、対象取締役への通知発送記録、取締役会議事録、株主総会議事録、出席者名簿等が挙げられます。
ただし、これらは事案により異なり、すべての案件で必須となるわけではありません。
8) ROC承認までの期間
通常案件であれば、DIR-12は比較的短期間で処理されることが多いですが、紛争性のある案件、ROCからの追加照会、利害関係人からの異議申立て等がある場合には、承認まで数か月を要することもあります。
実務上「3~6か月」と言及されることもありますが、これは法定期間ではなく、あくまで案件ごとの実務上の目安となります。
9) 罰則および紛争リスク
Section 169自体には固有の罰則規定はありませんが、関連手続違反についてはCompanies Act, 2013 Section 172やCompanies (Management and Administration) Rules, 2014等に基づき、罰則が適用される可能性があります。
また、手続不備、定款違反、Special Noticeの瑕疵、差別的取扱い、不誠実(mala fide)な目的による解任等が認められる場合には、対象取締役が解任の有効性を争うケースもあります。
事案によっては、NCLTへの申立て、裁判所への訴訟、仲裁、損害賠償請求等に発展する可能性もあります。なお、Section 169(8)は、取締役が解任された場合であっても、その取締役地位の終了に関して支払を受ける権利のある補償または損害賠償の権利が失われるものではない旨を明示しています。
このように、取締役の解任(Removal)は、辞任と比べても手続負担および紛争リスクの大きい手続きとなります。そのため、実際に対応する際には、Companies Actや定款(Articles of Association)等を確認しながら、インド側のCSや法律専門家と連携のうえ、慎重に進めることが望まれます。
執筆者紹介About the writter
日本にて店舗運営に従事した後、インドに渡航。現地では、映像制作およびビジネス関連プロジェクトにおけるコーディネーターとして、通訳、撮影調整、行政手続き対応など多岐にわたる実務を担当。のちに日系電子機器メーカーの現地法人にて、南アジア市場を対象としたマーケティング業務に従事。現在は法務コンサルタントとして、会社設立、コンプライアンス体制の構築等を通じ、日系企業のインド進出を実務面から支援。経営視点の深化を図るべく、MBA課程に在籍中。