Indian Personnel & Labour

人事労務

B-11-6:日本とインドの文化的価値観の違いについて考察する(権力格差・個人主義・不確実性回避)

(文責:田中啓介、記事執筆協力:R Naresh, Prastuti Verma, Y Yamuna)

日本と関わるインド人から見た日本の印象(前編)

インド経済の発展により、昨今では多くの日系企業がインドへ進出しています。日本においてインドが注目されるにつれて、インド人との接し方やインド文化に関する日本語の記事も多く見受けられるようになりました。しかし、インド人から見た日本への印象を書いた日本語の記事は多いとは言えません。インドでのビジネスを発展させるためにはインド人との相互理解・相互協力が不可欠ですが、インド人が日本人に対してどのような印象を持っているか理解することで、インドでのビジネスをより円滑に進めることができます。そこで本記事では、インド人の日本に対する印象について、弊社インド人スタッフへのアンケート結果に基づき、ホフステードの6次元モデルを参考にしながら紹介し、日本とインドの文化的な違いについて考察を深めます。

ホフステードの6次元モデルとは?

6次元モデルとは、世界的権威であるオランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード(Geert Hofstede, 1928 – 2020)が提唱した、国民文化の違いを相対的に比較できる指標です。国民文化に関する6つの各指標が0点から100点で表され、50が平均、そして数字が大きくなればなるほどその傾向が強いとされます。まずは、6つの各指標の結果を見てみましょう。

参考URL

Country Comparison

 

本記事では、6つの指標のうち権力格差、個人主義 / 集団主義、不確実性回避という3つの指標をご紹介します。残りの3つは次回の記事でご紹介します。

 

1. 個人主義と集団主義 (IDVIndividualism Versus Collectivism)

スコアが高い国は個人主義的傾向を好み、組織の結束力が弱くなります。スコアが低い国では、結束力の強い組織を好み、所属組織の忠誠が強くなります。

【日本:46】

・グループの調和とコンセンサスを重視する文化

・会社や集団への強い忠誠心

【インド:48】

・家族や地域社会との結びつきが強い集団主義的な社会

・家族や社会の期待を考慮して決断することが多い

【弊社スタッフのコメント】

  • 一般的にはインド人は議論好きで、日本人は議論を回避する傾向がある。
  • インド人は感情的な衝突を避け、調和を保つために間接的なコミュニケーションをよく用いる。そのため、時には曖昧になり、行間を読む必要が生じることもある。日本のコミュニケーションも非常に微妙で暗示的な傾向があり、非言語的な合図や、明示的な発言なしに文脈を理解することに重きが置かれている。
  • 日系企業は始業前に朝礼を行うと聞いている(ちなみに弊社では実施していない)。
  • 日本人の話し方はインドの文化とは異なる。特に日本人は最後の会話はすべて「ありがとう」で終わっているような気がする(好意的なコメントとして認識)。
  • インド人は会社に対する忠誠心より、専門性やキャリアパスへの忠誠心が高い。
  • 日本人はインド人に比べて怒りの感情コントロール(アンガーマネジメント)が得意である。
  • インドではカースト制度が厳格に守られ、それがかなり浸透しているため、人口全体に非常に大きな影響を及ぼしている。一方、日本ではカースト制度は存在しない。

コメントの中には南インドの傾向がより出ていると思われるものもありました。日本もインドも集団主義的な傾向が強い点では同じですが、インドは日本と比べて地域社会や親族関係への所属意識を重視しており、会社組織への所属意識は日本と比べると相対的に低いと言えそうです。一方で、日本は集団主義的な傾向を社会としても持ちながら、個人の本質としては個人主義的な考え方を強くもっているように感じています。

2. 権力格差(PDI: Power-Distance Index

権力格差とは、社会において弱い立場にいる人達が、富や権力などの不平等を当然のこととして受け入れる度合いを示す指標です。100に近いほど不平等を受け入れる傾向が強いと言えます。

【日本:54】

・階層社会で、権威者や上位者を敬う傾向が強い

・決定はトップが行うが、中間管理職も一定の権限を有する

【インド:77】

・社会においても組織的な文脈においても非常に強力な階層社会を形成している

・年長者や上位者に対する敬意が深く根付いており、意思決定は中央集権的である

【弊社スタッフのコメント】

  • 日本人経営者はインド人経営者と異なり、オフィスの清掃に直接参加することが多い。
  • 清掃員が休みの場合、インドではお茶も出ないし掃除もされないが、日本では清掃員が休みなら経営者や従業員が自分でお茶を入れてトイレを掃除する。
  • インド人は目上の人に対してのみSir / Madamの敬称を付けるが、日本人は立場に関係なく“さん(San)”を付ける。
  • インド企業では敬意が階層に紐づいており、言葉で感謝を口にする機会が少ない。日系企業では職位に関係なく従業員が互いに尊重され、「ありがとうございます」「お疲れ様です」という敬意を言葉で伝え合うことが多い。
  • インド人のリーダーは個人的な影響力やビジョンによって社員を鼓舞しやる気を起こさせるカリスマ的なリーダーが多く、個人の資質に依存する。一方、日本人のリーダーはファシリテーターとしての側面が強く、トップダウンで物事を決めるのではなくメンバーへ意思決定への参加を促し、組織のあらゆるレベルからの意見を重視する。
  • 日系企業はメンバー全員の意思を重視するため意思決定に時間がかかるのに対し、インドの企業はトップダウンで物事を進める

インド人から見ると、日本の組織はインドの組織と比べて比較的フラットで、マネジメントとの関係が比較的対等だと感じるようです。弊社スタッフの日本式マネジメントに対する感想の中に「マネジメントは組織のトップなのだから、もっと強いリーダーシップを発揮するべき」「マネジメントがオフィスの清掃をしていたら、スタッフから見下されるだろう」などという批判的なコメントはなく、マネジメントとスタッフが相互に敬意を払う日本式のマナーについては(忖度されているであろう可能性を割り引いたとしても)好意的に捉えているように感じられました。したがって、この点については必ずしもインド式を取り入れる必要はなく、スタッフの役職を問わずに礼儀正しく対等に接することがインド人スタッフからのロイヤリティを獲得する上で日系企業のアドバンテージとなる可能性があると考えます。

. 不確実性回避 (UAIUncertainty Avoidance Index )

不確実性回避は、リスクを回避する社会状況を指し、スコアが高い国ほどリスクを回避する傾向が強く、低い国ほど失敗を恐れずに挑戦する傾向が強いと言えます。

【日本:92】

・構造、規則、安定を強く求める

・綿密な計画とリスク回避を重視する

【インド:40】

・曖昧さや不確実性に対する許容度が高い

・状況の変化に対応する柔軟性と適応力がある

【弊社スタッフのコメント】

  • インド人は一般的に、リスクを取って新しいアプローチを試みることに寛容であり、ダイナミックで起業家的な思考を持っている。一方、日本人は一般的に、リスクを避ける傾向があり、急進的な変化よりも綿密な計画と段階的な改善を強く好む。
  • 日系企業は変化を好まず、安定と伝統を好む。変化は徐々に、綿密な計画のもとに実施される。新しい戦略やイノベーションに対してはリスクを忌避して回避しがちである。インド企業は、順応性が高く、変化を受け入れる。新しい戦略を素早く実行し、リスクを取る。競争力を維持するため、新しいテクノロジーを迅速に取り入れる。
  • 日本人は状況を深く分析・評価してから決断するが、インド人はすぐに決断する傾向がある。

インド人は日本人と比べて変化や不確実性に慣れているので、インド人から見ると日系企業の意思決定や行動は保守的に映るようです。インドの税法について調べていると” change is only the constant”というフレーズをよく見かけますが、このようにインドではあらゆることが常に変化するので、変化に対応していくことがインドビジネス成功のカギと言えそうです。

 

次回の記事では、残りの3つの指標である目標達成意欲、長期志向/短期志向、充足的/抑制的についてご紹介します。

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。

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