Indian Personnel & Labour

人事労務

B-12. インド人の雇用手続きおよび給与について

(文責:安本理恵 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

インド人の採用が決まってからの雇用の手続きと給与について知っておきたい情報についてご紹介します。採用面接エピソード集についてはこちらをご覧ください。

雇用の流れ

 1.オファーレター(Offer Letter)発行

採用の意思表明として、必要最低限の採用条件(役職、業務内容、待遇、給与額等)を記載したオファーレターを内定者に対して発行します。

オファーレターに雇用主と内定者の双方が署名することで、入社の合意を締結します。なお、インドは経歴詐称が多いため、詐称が発覚した場合には内定取消および入社後であっても即刻解雇をする旨を記載しておきましょう。

2.入社までに確認しておきたい書類

面接や履歴書で確認した事項や、ID証明等を入社までに提出してもらい、確認します。

  • 学歴や資格の証明書
  • 前職のアポイントメントレター、給与明細、退職証明書(Relieving Letter)等の経歴を証明する書類
  • 健康診断書
  • アダールカード、納税者番号(PAN)、パスポート等のID証明書類

3.入社後、アポイントメントレターまたは雇用契約書発行

採用した方が無事入社されれば、アポイントメントレター(Appointment Letter)または雇用契約書(Employment Contract : アポイントメントレターとぼぼ同じものと考えて差し支えありません)を発行します。アポイントメントレターまたは雇用契約書には個別の事項(待遇、役職、業務内容、勤務地等)を記載し、他の細かなルールは就業規則(HR Policy/Standing Order)で定めるのが一般的です。

給与構成について

 インド人従業員に対して支払う給与体系としては、2,000を総額とした場合に、1,000(=50%)を基本給与、500(=25%)を家賃手当、残りの500(=25%)のうちいくらかを通勤手当や役職手当などに割り振って作るのが一般的です。

基本給が総額の50%と低めに設定されているのは社内規定に基づいて算出される賞与や社会保険料などの負担額を抑えるための実務として根付いていた習慣だと思われます。

役職に応じて、賞与金額の係数などが変わる、という計算方法を採用しているインド企業が少ないですが、日系企業を含む外資系企業の給与体系は様々で、役職の高い人材についてはインド企業よりもかなり良い条件・待遇を設定しているケースが多いと思います。

なお、賞与については、10月もしくは11月(ディワリの時期)に支給する企業が多いです。

家賃手当にかかる課税対象額について

 下記i)~iii)より一番低い額が課税対象となります。

  1. 実際に支給された家賃手当
    Actual HRA received:HRA*
  2. 指定の大都市であればbasic+DAの50%、その他の都市は40%
    50% of salary (basic+DA*) if living in metro cities, or 40% for non-metro cities
  3. 年間で支払った家賃から年間給与(basic+DA)の10%を引いた額
    Excess of rent paid annually over 10% of annual salary

*HRA: House Rent Allowance(家賃手当)
*DA: Dearness Allowance(補填手当・物価調整手当)

実際の家賃支払額や家賃手当が、個人所得税の納税額に影響を与えるます。また、所得控除の対象となる各種手当も考慮し、会社毎に賞与の算出規定や従業員全体の公平性などの観点から給与内訳のバランスに配慮をして決定されることをおすすめいたします。

非課税対象となる項目

 給与の一部手当として付与したり、規定を整備することにより、一部非課税とすることが出来るものは下記のようなものあります。

給与計算実務が煩雑となることから、設立当初の立ち上げ段階で導入している企業は少ないですが、 参考までにご紹介します。

1.有給旅行手当LTA(Leave Travel Allowance):

会社がLTAを給与の一部手当として付与する場合、その金額を上限に実際に使用した旅費の額を非課税とすることが出来ます。

ただし、例えば固定4年毎に最大2度まで、また、航空券の場合はインドの航空会社であること、申請できる家族の範囲など、細かな条件があります。

2.子供教育手当Children Education Allowance:

子供上限二人まで、ひとりにつき月額100ルピー、教育費と寮費300ルピーまでを非課税とすることが出来ます。

3.携帯電話・インターネット代の実費精算:

会社の規定で定める事により非課税とすることが出来ます。

4.5,000ルピーまでのギフト券:

会社より非課税で付与することが出来ます。

所得税の源泉徴収

一般的に従業員の給与に対する所得税は、日本と同様、源泉所得税(TDS)として会社が給与から天引きして支払いを行います。

確定申告(Income Tax Return)は、駐在員や外国人を除き現地従業員は本人が自分で行うのが一般的です。

従業員積立基金(EPF)および従業員年金基金(EPS)

 EPF(Employees’ Provident Fund)およびEPS(Employees’ Pension Scheme)と呼ばれる厚生年金のような制度があります。

こちらは、原則、従業員が20名を超えるまでは加入の義務はありません。20名を超えると強制加入となりますが、その時は会社と個人それぞれ決まった割合(2021年施行予定の新労働法により10%へ改訂予定、時折変更されます)の負担があります。

雇用時は導入していなくても、近い将来にEPF/EPSの適用事業所となることが見込まれる場合には、新たに雇用される方の入社前にPF導入前・導入後の給与について事前合意をしておくと、将来的に適用となった際に従業員との係争に発展する可能性を排除できるため良いと思います。

低所得者向け労災保険(ESI : Employee’s State Insurance)

 10名以上を雇用する事業所は、給与月額(額面)が21,000ルピー以下(2021年6月現在)の従業員に対して、Employee’s State Insurance(ESI)という政府の低所得者向け労災保険への加入義務が発生します。

退職金(Gratuity)

 10人以上の従業員を雇用する会社は当該法律の規定に則り、5年超勤務する従業員には一定の退職金を支給する義務が発生いたします。(10人未満の会社は法的に支給義務は発生いたしません。)

LIC(Life Insurance Corporation of India)等の税制優遇スキーム等を利用して積み立てをする企業もありますが、拠出する積立金は運転資金として使えなくなるためキャッシュフローに影響を与えることを考慮して設立当初2〜3年は様子を見られている会社も比較的多い印象です。

医療保険(Medical Insurance)

インドには日本のような国民皆保険制度がなく、会社からの医療保険付与は義務ではありませんが、一般的に民間企業が提供している医療保険を給与額面に含めずに福利厚生の一環として付与するケースが一般的です。

もっとも、医療保険の加入に際しては、保険会社が医療費のどこまでをカバーするのかによって保険料が大きく変わるため、慎重に保険対象領域の設計をされることをおすすめいたします。

つまり、従業員の親族をどこまで保険対象とするか(配偶者まで?子供や親は?)、従業員の医療費負担割合をどうするか(100%保険会社負担とするのか?それとも日本のように被保険者30%負担などと設定するか)、保険金額の上限をどうするか、などが得意に重要な論点となり得ます。

執筆者紹介About the writter

安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。

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