Indian Personnel & Labour

人事労務

B-11-5 : インド従業員との信頼関係を築くためにマネジメントが気をつけるべきこと(後編)

今回も前回に引き続き、インド人の離職を防ぐ方法についてご紹介します。前回は直接的に仕事と関連するポイントを中心にご紹介しましたが、今回は多様性の尊重やインドの祝祭日の理解など、よりインド文化に根差したポイントをご紹介します。

5. 文化的にセンシティブな問題への配慮

(1)インド国内の文化的ニュアンスや多様性を理解し、尊重する

インドは多種多様な文化、言語、宗教、伝統を持つ国です。この多様性を認識し、尊重することが極めて重要です。インドでは地域によって文化的規範や慣習が異なります。これらのニュアンスを理解することで、インド人との信頼関係構築やビジネスの発展をより効果的に進めることができます。
とはいえインドに赴任したばかりではインド文化のことは分からないと思いますので、「インドには複雑な文化や多様性がある」ということを念頭に置いた上で、興味を持って積極的にスタッフに質問をしたり雑談をしたりすることが重要と言えます。

(2)現地の習慣、伝統、祝日に対する敬意を示す

インドには様々な習慣、伝統、祭日があり、それらは盛大に祝われます。これには宗教的なお祭り、地域のお祝い、文化的な行事などが含まれます。このような伝統に敬意を示すことは、インド人の同僚、顧客、パートナーとの良好な関係を築くのに役立ちます。適切なときにこれらの祭りに参加することで、敬意と文化的感受性を示すことができます。参加するのが難しい場合には、WhatsAppでお祝いのメッセージを送るだけでも敬意が伝わるでしょう。

(3)上下関係を意識し、それを尊重する

職場では、上下関係を理解し、特に地位の高いインド人に対しては適切な肩書きをつけて挨拶し、その立場に敬意を示すことが大切です。社交の場では、相手の年齢や地位に気を配り、正式な肩書きを使ったり、敬語で呼びかけたりするなど、適切な敬意を示すことが有効です。例えばアメリカなどの場合には、ファーストネームで呼ぶことで親近感を示すことが重要と言われますが、インド人は逆にフォーマルな関係を好みます。
特に社会的立場の高い人にお願いをするときに、相手の立場を尊重し、メンツを立てて丁寧な言い方へ変えるだけで相手の反応は全く変わり、難しい頼み事でも快諾してもらえることはインドではよくあることです。

6. ワーク・ライフ・バランス

(1)ワーク・ライフ・バランスの重要性を認識し、推進する

近年は日本でも働き方改革が叫ばれ、ワーク・ライフ・バランスの重要性が浸透しつつありますが、インド人は仕事よりも家族を大切にする傾向が日本よりも強いです。ワーク・ライフ・バランスを重視することにより、会社がスタッフに対して仕事以外にも責任や関心事があることを示すことができます。
「仕事とプライベートの両立をサポートされている」と感じている社員は、感じるストレスも少なく、より積極的に仕事に取り組むことができます。

(2)従業員に休暇を取得するよう奨励し、個人の時間を尊重する

従業員が休暇やプライベートの時間を取得することは非常に重要です。有給休暇の取得を奨励し、会社の休暇ポリシーを社員に周知させましょう。
プライベートの時間を尊重するということは、勤務時間外でのメールやミーティングなど、時間外の過度な仕事の要求を避けるということです。社員がリフレッシュしたり、家族や友人と過ごしたりする時間が必要であることを認識しましょう。
社員に有給休暇を取ってもらうためには、マネジメントが各スタッフの業務内容や業務量を適切に把握しておくことも重要です。

7. 表彰と感謝

(1)従業員の貢献と功績を称え、それに報いる

表彰: 従業員の貢献を率直に認めることは重要です。ミーティングでの口頭での賞賛、Eメールでの書面での賞賛、または職場における表彰などを通じて従業員の貢献に対する感謝を示すことができます。社員の努力を認め、評価されていると実感させるために、承認は不可欠です。但し、客観的な基準や根拠がなく特定のスタッフを表彰すると、他のスタッフから「えこひいきだ」と思われてしまうリスクもあるため、表彰についてはスタッフ同士の投票制にするなど、納得感のある方法を考えることが重要です。特定のスタッフの貢献を認めたければ、全員の前で褒めるのではなく、1対1で褒めることにより他のスタッフからの誤解を避けることができます。

報酬:表彰に加えて、優れた業績に対する意欲を高め、強化するために、有形無形のインセンティブを提供することも有効です。こうした報奨には、以下のようなさまざまな形があります。

・金銭的報酬: 賞与、昇給、または従業員の貢献に基づく利益分配の取り決めなど
・昇進:より高い責任と報酬を伴うより高い役割に従業員を昇進させることは、強いインセンティブになります
・非金銭的報酬: 休暇の延長、フレックスタイム制の導入、能力開発プログラムの提供などが含まれます。

(2)個人的および仕事上の節目を祝う

誕生日: インドでは会社で社員の誕生日を祝福する習慣があります。誕生日を祝うことで、会社がスタッフを単なる労働者としてではなく、一人の人間として認めていることを示すことができます。誕生日ケーキやカード、あるいはちょっとしたプレゼントで祝うのもよいでしょう。
仕事の記念日: スタッフの入社記念日などを祝うことは、そのスタッフの会社に対する献身を認めることになります。お祝いは、チームランチ、ささやかなプレゼント、心のこもった感謝の手紙など、簡単なもので構いません。
感謝状: 上述の記念日や、大きな貢献をしたときなどに、手書きであれ、デジタルであれ感謝状を送ることは、スタッフに対して誠実に感謝の気持ちを伝えるために有効な方法です。
贈り物:ギフトカード、花束、名入れの品物など、感謝の気持ちを表す意味のある贈り物をすることも喜ばれます。このようなささやかな記念品によって、スタッフに特別感と感謝の念を抱いてもらえるかも知れません。

8. 心理的ケア

(1)スタッフの健康維持のサポート

従業員の心身の健康は会社にとって何よりも貴重な資産となります。これには医療保険の加入、ジムの会員権、定期的な健康診断受診の補助、健康的なライフスタイルを奨励するプログラムの提供などが含まれます。他にも、ストレスマネジメント・ワークショップ、栄養教育、エクササイズ・クラス、メンタルヘルス・リソースなどの取り組みも挙げられます。

(2)職場のストレス要因への対処

職場におけるストレス要因を特定し、緩和することが重要です。こうしたストレス要因には、仕事量の多さ、非現実的なノルマ、人間関係の衝突、ワーク・ライフ・バランスの悪さなどが考えられます。これらのストレス要因に対処することで、より健康的な職場環境を作ることができます。スタッフの心の健康を保つため、カウンセリングの利用サポート、柔軟な勤務形態の導入、メンタルヘルスのための有給休暇支援なども考えられます。これらのリソースを提供することで、従業員はサポートされていると感じるでしょう。

(3)定期的なミーティング

インド人の離職を防ぐには、会社を家族のように思ってもらうことが大切です。そのためには、仕事のことだけでなく、仕事や趣味、将来の夢など、仕事とは直接関係のない話題についても話したり、相談に乗ったりできる関係になることが大切です。
ここは文化によって価値観が分かれるところで、国によっては会社がプライベートの領域に踏み込んでくることを警戒する場合もあり、ビジネスとプライベートをきっちり分けることで信頼関係を築ける場合もあります。しかしインドの人間関係は比較的ウェットな人間関係を好む傾向にあるため。

(4)社員旅行などイベントの実施

上述の通り、インド人スタッフが会社のことを家族のように感じてもらうことで離職率を防ぐことができるので、食事会や社員旅行、懇親会などのイベントを定期的に開催することも効果的です。単なる仕事上の関係だけでなく、プライベートの話をできるような場を設けることが重要です。

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。

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