Indian Accounting & Taxation

会計税務

D-24. インド子会社のおすすめ経理業務の管理体制

(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

1、インド事業立ち上げ当初の管理体制はどうするべきか?

外部との協業による若手人材トレーニング

弊社はこれまで100社超の日系企業のインドにおける経理業務の管理体制を見てきました。弊社が関わらせていただくにあたって、また、同業他社から引き継ぎをさせていただくケースにおいて、管理体制がうまくいっていない多くの場合は以下3つが当てはまります。

  1. 会社が対応すべき経理業務および関連コンプランスの全体像が把握できていない
  2. 社内経理スタッフを適切に管理して業務内容の質をレビューできる人材がいない
  3. キャリアステップが不明確で、本人のモチベーションが低く、人材が定着しない

「やるべき業務を明確にし、従業員のパフォーマンスを適切に評価をし、そして、会社として本人にキャリアステップを提示する。」もはや、日本本社ではおそらく当然の、かつ、最低限やるべきことと思われますが、海外現地法人でそれを実現するとなると急にハードルが上がります。

そうなってしまうのは無理もありません。日本とは異なる複雑な法規制や文化、言語の壁や価値観の違いなど、経営管理における多くの障壁が立ちはだかっているだけでなく、多くのケースで、そもそも経理や労務・法務が専門ではない駐在員が、インド現地法人設立当初の事業立ち上げと並行してこれらの役割をすべて担うのは現実的ではありません

事業の立ち上げ初期だからこそ、本業に集中できる経営管理体制を作る必要があり、特にブラックボックス化しやすい経理財務関連業務については思い切った外部委託をおすすめしています

なお、今後もずっと外注でいく、という前提であれば完全に“丸投げ”でも問題ないと思いますが、弊社が特におすすめしている管理体制としては、若手の経理事務スタッフのみ社内で1名雇用した上で、外部委託先に業務を外注しつつ、当該社員の教育・トレーニングとしても同時に活用する方法です。

社内に1名雇用し、信頼できる外部委託先と協業をすることで、将来的な事業拡大を見据えた上で上記(1)〜(3)をすべて同時に解消することができます。

2、事業が拡大していくフェーズの管理体制をどうするべきか?

外部からのフィードバックによる経理マネージャーの能力開発支援

事業が拡大していく中で、徐々に従業員が増え、日々の事業取引数も増えていきます。

ここで重要になってくるのが、社内の標準プロセスを構築し、チームで仕事ができる体制・仕組みを作ることです。

また、事業規模に応じて内部統制の観点からも標準プロセスを再考し、不正が起きない仕組みづくりに着手することも検討します。経理部門としては、経理マネージャーとその部下数名というチーム体制になるでしょう。

立ち上げ当初から働いている経理事務スタッフがこの頃には昇格・昇給し、頼りになる経理マネージャーの右腕のような存在になっていれば理想的です。

ただし、ここで新たな課題が浮上します。つまり、経理マネージャーにとっての上述(2)と(3)をどのように解消するか、です。どれだけ良い人材を採用できたとしても、経理マネージャーの業務およびモチベーション管理ができなければ経理チームは崩壊します。実際に、そのような事例を数多く見てきました。

弊社では、事業が拡大していくフェーズにおいては特にこの経理マネージャークラスのスキルアップとモチベーション管理のためのご支援を実施しています。

具体的には、現地法人社長や日本本社の代わりに月次決算報告書や税務申告内容のレビューを実施し、違和感のある数値、修正が必要と思われる箇所についてご指摘事項としてレポートにまとめます。重要なことは、上長や日本本社が(難しければ弊社のような外部委託先が)、ちゃんと経理マネージャーの業務内容を確認し、的確に評価し、経理マネージャーに対してちゃんと正しいフィードバックができるかどうか、です。

フィードバックをするときには「なぜその手続きが必要なのか」について背景を丁寧に説明することが重要です。インド国内で経験が豊富な経理マネージャーであっても、必ずしも日本の本社が期待する水準を理解できるとは限らないからです。

例えば、インドでは数ルピー程度の誤差が生じるのは日常的に起こることで、監査でも問題となることは殆どありません。従って、単に「銀行の口座残高について、Bank Statementと帳簿との間で小数点以下の端数に誤差が生じているので修正してください」と伝えても、インド人経理マネージャーから「なぜそんな細かいことまでやる必要があるのか。費用対効果が悪いではないか」と反発される可能性もあります。

それに対して「そういう決まりだからお願いします」という説明ではインド人に動いてもらうのは難しく、例えば「日本では小数点以下の端数を放置していると監査人から統制リスクを高く評価され、監査手続きが厳しくなってしまう可能性がある」などの事情などを丁寧に説明して納得してもらう必要があります

このフィードバックを中心としたコミュニケーションを日常的に実施することを通じてでしか、経理マネージャーが学び、さらなる成長と共に、本人のモチベーションを向上させることはできないと考えています。このプロセスを疎かにしないことが、経理マネージャーが御社にとって信頼し得る人材として成長し、かつ、組織に定着させる最も重要なポイントです。

3、支払プロセスにおける内部統制をいかにして実現するか?

外部モニタリング機能の確立支援

事業が拡大していくにつれて、当然日々の支払の数もどんどん増えていきます。日本人駐在員がすべての取引における請求内容を把握し、控除すべき源泉税および差引支払額や支払先の銀行情報、最終支払承認に至るまでのプロセスをちゃんと確認・実行していれば大きな問題が起こる可能性は極めて低いと言えます。

しかしながら、支払の数が多くなってくるとどうしてもそこまで細かくチェックをすることは現実的ではありません。実態としては、いつの間にか支払先の銀行情報などは確認せず、“めくら判”のように承認ボタンを押すだけ、になってしまっているケースも散見されます。

実際、繰り返し不正送金が実施されていたにもかかわらず数年気づかなかった、というケースも発生しています。多くのケースで、これらの不正送金がちゃんと返金されることは稀で、また不正調査や従業員への処分に相応の弁護士費用などが発生し、結果的に多額の損失・費用計上を余儀なくされることとなります。

弊社では、これらの不正送金が起こらないよう、事前に支払プロセスにおける内部統制の仕組みを構築することをご提案しています。まず、可能な限り現金取引や小切手による支払を減らすことは当然ですが、銀行振込における不正送金リスクを排除するために、常時モニタリングができる機能を設置することは検討に値すると考えております。

つまり、(1)社内で権限規定を作成し、(2)ネットバンキングでの2段階承認プロセスを設定し、(3)必要に応じて1段階目の承認プロセスを第三者である弊社が担う、という体制を構築することで、モニタリング機能を設置するご支援をしております。

(※つまり、弊社がクライアントの銀行口座のネットバンキングログインIDを取得して1段階目の承認時に支払金額や支払先の銀行口座情報を照合し、2段階目の承認を現地法人MDが実施します。権限規定に定められた支払上限金額を超える支払が発生した場合は、しかるべき社内承認(本社稟議や取締役会決議など)が取得されているか否かを弊社が確認し、取得されていなければ支払を拒否します)

会計税務

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