labor-legal

インド人事労務・法務アップデート

【2026年最新】インド会社法改正によるDirector KYCの大幅見直し

Director KYCが「毎年」から「3年に1回」へ

インド企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)は、2025年12月31日付の官報にて「2025年会社(取締役の任命および資格)改正規則(Companies (Appointment and Qualification of Directors) Amendment Rules, 2025)」を公布し、2026年3月31日に施行しました。

Director KYCとは、取締役識別番号(DIN : Director Identification Number)を持つ個人が、氏名、連絡先、住所などの本人情報を当局に届け出る手続きです。KYCはKnow Your Customer(顧客確認)の略で、もとは金融機関が口座開設時などに行う本人確認を指す言葉ですが、インド会社法の実務では取締役の本人確認手続きを指して使われています。届出に使うフォームの名称から「DIR-3 KYC」とも呼ばれます。

今回の改正で、これまで毎年必要だったKYCの提出は原則3年に1回となり、フォームも一本化されました。その一方で、連絡先や住所を変更した場合の届出期限が規則上はっきりと定められたため、「毎年まとめて対応する」という従来の管理方法は見直しが必要です。本稿では、改正の内容と、日系企業が押さえておきたい実務上の留意点を解説します。

1. 改正前後の比較

主な変更点は以下のとおりです。

項目 改正前 改正後(2026年3月31日以降)
提出頻度 毎年 3年に1回
定期提出の期限 毎年9月30日 3年ごとに到来する対象年度の翌年度6月30日
使用フォーム e-Form DIR-3 KYC(初回提出時・登録内容の変更時)DIR-3 KYC-WEB(登録内容に変更がない場合) Form DIR-3-KYC-Webに一本化
携帯電話番号・メールアドレス・住所の変更 e-Form DIR-3 KYCにより更新 変更日から30日以内に、Form DIR-3-KYC-Webで届出
期限までに提出しなかった場合 DINが無効化され、5,000ルピーの手数料を支払って再有効化 同左(再有効化もForm DIR-3-KYC-Webで行う)

2. 主な改正ポイント

(1)提出頻度と期限

改正後のCompanies (Appointment and Qualification of Directors) Rules, 2014 Rule 12A(1)では、各年度の3月31日時点でDINを保有している個人は、3年ごとに、その翌年度の6月30日までにKYCを届け出ることとされました(インドの会計年度は4月1日~翌年3月31日)。

改正前にKYCを完了している取締役の次回の定期提出期限は、2028年6月30日です。なお、期限が従来の9月30日から6月30日に変わっているため、次回は旧制度の感覚より3か月早く準備を始める必要があります。

(2)連絡先・住所を変更したときは30日以内に届出

Rule 12A(2)により、携帯電話番号、メールアドレス、居住住所のいずれかに変更があった場合は、3年のサイクルとは関係なく、変更日から30日以内にForm DIR-3-KYC-Webで届け出なければなりません。この届出には、Companies (Registration Offices and Fees) Rules, 2014に定める手数料がかかり、たとえば携帯電話番号の変更では500ルピーです。

(3)フォームの一本化

従来は、初回提出時や登録内容の変更時に使うe-Form DIR-3 KYCと、変更がない場合にオンラインで確認だけを行うDIR-3 KYC-WEBの2種類がありました。改正後はForm DIR-3-KYC-Webの1本となり、定期のKYC届出のほか、携帯電話番号・メールアドレス・住所の更新や、無効化されたDINの再有効化もこのフォームで行います。

(4)本人確認の方法

新フォームでは、登録済みの携帯電話番号とメールアドレスに届く一時パスワード(OTP : One Time Password)で本人確認を行います。登録内容に変更がない定期届出であれば、本人のデジタル署名証明(DSC : Digital Signature Certificate)や専門家による証明は不要で、OTPによる確認だけで提出できます。

一方、連絡先・住所の変更を行う場合は、変更を証明する書類を添付したうえで、本人のDSCと、開業している勅許会計士(CA : Chartered Accountant)、会社秘書役(CS : Company Secretary)または原価会計士(CMA : Cost and Management Accountant)の証明が必要です。また、KYCの未提出でDINが無効化され、その再有効化を行う場合は、これらに加えて最新の本人確認書類(外国人取締役の場合はアポスティーユ認証を受けたもの)の提出が求められます。

3. 日系企業が見落としやすい実務上の留意点

① OTPを受け取れる連絡先が登録されているか

会社設立時の手続きの都合で、取締役本人ではなく、現地スタッフや手続きを代行した業者の携帯電話番号・メールアドレスが登録されているケースがあります。新制度では登録済みの連絡先にOTPが送られるため、退職者の電話番号や使われていないアドレスが残っていると、OTPを受け取れず、連絡先の変更届出も含めて手続きを進めることができません。その場合は、インド企業省のヘルプデスク(MCA Helpdesk)と個別にやり取りし、OTPの確認と登録番号の変更を進める必要があります。

また、日本の携帯電話番号など海外の番号を登録している場合に、OTPが届かない事例も弊社では確認しています。ヘルプデスクとのやり取りには時間がかかることもあるため、次回期限の直前に慌てないよう、早めに確認しておくことをお勧めします。

② 退任した取締役もDIN保有者として対象になる

Rule 12Aの対象は「DINを保有する個人」であり、現地法人の取締役を退任しても、DINを持ち続けている限り届出義務は残ります。帰任した元駐在員のKYCが漏れてDINが無効化されると、後日インドのグループ会社で再び取締役に就任する際に、5,000ルピーの手数料に加え、DSC、専門家の証明、アポスティーユ認証を受けた本人確認書類をそろえて再有効化の手続きを行わなければなりません。日本にいる元駐在員の場合、書類の準備だけでも相応の時間がかかります。

③ 転居・帰任も「住所の変更」にあたる

駐在員のインド国内での引っ越しや帰任、日本の自宅住所の変更も、居住住所の変更として30日以内の届出が必要です。人事異動や転居の情報がDirector KYCの担当者に届くよう、社内の連絡の流れを決めておくと安心です。

④ 年次コンプライアンスとは期限の考え方が異なる

Form AOC-4(財務諸表の登記)やForm MGT-7(当期概要の登記)といった年次の登記は、定時株主総会(AGM : Annual General Meeting)を基準に期限を管理します。これに対し、Director KYCは3年ごとの6月30日と、変更時の30日以内という別の期限で動きます。決算・AGMのスケジュールに合わせて管理していると漏れやすいため、別の管理表で扱うのが現実的です。

4. 今後の対応ステップ

対象となる取締役がいる企業では、以下の順に確認を進めることをお勧めします。

  1. DIN保有者の洗い出し:現任の取締役だけでなく、退任した元駐在員も含め、DIN、前回のKYC提出日、次回の期限を一覧にする。
  2. 登録連絡先の確認:OTPを受け取る携帯電話番号・メールアドレスが本人のものか、現在も使えるかを確認する。
  3. 社内ルールの整備:電話番号の変更、転居、帰任があった場合に、30日以内に担当者へ連絡が入る仕組みを作る。
  4. 期限の登録:次回の定期提出期限(多くの場合は2028年6月30日)をコンプライアンスカレンダーに登録する。
  5. 無効化されたDINの確認:過去の未提出によりDINが無効化されていないかを確認し、必要に応じて再有効化の手続きを行う。

まとめ

今回の改正により、Director KYCの定期提出は3年に1回となり、取締役本人の手続き負担は軽くなりました。ただし、提出の間隔が空くぶん、次回の期限や登録連絡先の状態を把握しにくくなります。また、連絡先・住所の変更については30日以内の届出が必要となり、毎年の決算・AGMの流れの中で対応していたこれまでとは管理の仕方が変わります。この機会に、DIN保有者の一覧と連絡先を一度整理しておくことをお勧めします。

Director KYCをはじめ、取締役の選任・退任やカンパニーセクレタリー業務に関するご不明点がございましたら、弊社までお気軽にご相談くださいませ。

参考資料

・The Gazette of India, G.S.R. 943(E) – Ministry of Corporate Affairs(2025年12月31日付・本改正の直接の根拠)

・Press Information Bureau プレスリリース – Ministry of Corporate Affairs(2026年1月1日付・改正概要の発表)

・Companies (Appointment and Qualification of Directors) Rules, 2014(改正対象の規則)