Indian Market "Insight"

インド市場の”今”を知る

vol.007 シェアリングエコノミーの新トレンド、インドのコリビングサービス

インドの不動産需要のうち、約8割は住宅が占めていると言われています。

特に大都市では、常に需要が供給を上回っており、住宅の価格上昇は大きな懸念事項のひとつであるといえます。

しかしながら、賃貸住宅市場では、近年の都市部への移住者やミレニアル世代の労働力の増加に伴ってコリビングという今までになかったサービスが出現し、変化が見られるようになっています。

コリビング(co-living)とは

コワーキングスペースとシェアハウスを組み合わせたような、共同住宅のことです。

元々は1970年代にデンマークで生まれた概念で、当初はコレクティブハウジングや、コハウジングという名で呼ばれていたものが発祥だそうです。

現在、単に物理的な空間を共有するシェアハウスに近いものから、価値観や興味、人生観を共有するコミュニティとしての機能まで、さまざまな可能性を提供しています。

日本でもトレンドになっており、複数拠点型のサービスもあります。インドでは、アッパーミドル層の単身の若者を対象に、お洒落なインテリアで、清潔な部屋を提供するコリビングが急成長しています。

インドの住宅市場とコリビングへの需要

前回の記事でもご紹介しましたが、2021年のインドにおける世帯年収の中央値は3,168米ドルと推定され、都市部の人口を中心に見ると、単身者の生活費は月326.5ドル、4人家族で月1,138.1ドルと推定されています。

ざっくりとした数字ではありますが、インドの不動産紹介プラットフォーム99acres.comの調査によると、Tier 1の都市の2BHK~5BHK(注1)の物件購入価格は約300万ルピー~2,000万ルピー(約4万~27万米ドル)前後です。

大多数の人にとって、都市部の土地や家を購入することは非常に難しく、賃貸物件への居住が現実的であると考えられています。さらに、若い人口にとっては、一般的に賃貸住宅を個人で借りるよりも共同住宅のほうが価格が安いため、コリビングは、コスト面でも優れています。

(注1)BHK: 部屋の間取りをB(ベッドルーム)、H(ホール、つまりリビング・ダイニング)、K(キッチン)で表すインドの表現で、日本でいうLDKとほぼ同義となります。2BHKはベッドルームが二つあり、リビング・ダイニング、キッチンがある物件となります。

住宅を複数人で共有すること自体はインド全土に普及しているものの、従来は家主が個人的に提供しているものが殆どでした。

しかし近年、コリビングビジネスの組織化、サービスの品質改善、産業全体の成長が顕著になっており、企業による、より質の高いサービス提供への変化が生まれていると言えます。

例えば、インド全土で学生や社会人の若者によく利用されているPG(Paying Guest:注2)やHostelと呼ばれているサービスがありますが、殆どが個人経営の下宿といった趣のもので、そもそもの住宅の質が高いものはあまり多くありません。

私も昔PGに住んでいたことがありますが、楽しい思い出もあるものの、住宅の質とプライバシーが気になって数年で賃貸住宅へ引っ越しました。

(注2)PG:Paying Guestの略で、複数の寝室があり、食事と清掃のサービスがつく、学生寮のようなサービスです。寝室は2~3人で共有されるドミトリータイプであることが多いです。

大半は家主が個人的に経営しており、インド全土に普及しています。学生や結婚前の若い社会人に利用されています。

また、一般的に、単身者や学生に対して家主がネガティブなイメージを持っていることが多く、就業や学位取得のために新しく都市に移り住むミレニアル世代は、売り手市場のマーケットの中で、条件に合う物件を見つけることにとても苦労します。

このように、特にアッパーミドルクラスの若者の基本的なニーズを満たす質の良い物件が限られていることと、可処分所得が高いミレニアル世代による需要がコリビングサービスの成長を後押ししています。

インドのコリビング市場

米総合不動産サービス会社Cushman & Wakefieldのインドにおけるコリビング市場に関するレポートによると、インドの上位30都市におけるコリビング市場規模は、2019年に約66億ドルで、2025年には約139億ドルに達すると予想されています。

また、インドの上位8都市において、賃貸で暮らす単身者は、2019年の197万人から2025年には261万人に拡大するものと予想されています。

さらに、上位30都市における単身者による需要は、2019年の420万床から2025年には570万床まで増加すると予想されています。

一方、2021年の組織化されたコリビングサービスの利用可能数は約21万床とされており、2024年には需要が約45万件に達すると予測されています。

コリビング市場の今後と主要プレイヤー

コロナ禍により、インドのコリビング市場は第1波、第2波と大きな打撃を受けました。

しかし、2021年1月付のThe Hindu電子版のビジネスメディアによると、2021年12月には、ワクチン接種率の向上によりコロナ禍より前の水準に戻ると伝えていました。

インドには現在70社以上のコリビングサービスを提供する企業があり、その多くがコロナ禍に創業しています。

現在、この分野の主要な企業は、NestAway、Zolo Stays、OYO Living、CoLive、Stanza Living、CoHo等が挙げられます。

価格は、都市や地域、アメニティ、部屋の大きさによって異なるものの、平均して1ヶ月あたり150ドル前後です。

NestAway、Zolo Stays、CoHoは、2022年にそれぞれ10万床以上のベッドを提供することを目標としています。

また、この5年間で、コリビングサービスを提供するスタートアップに多くの投資がされています。

NestAwayは約1億ドル、Zolo Staysは約3,500万ドル、Housr Technologies Pvt. Ltdは約3,000万ドル、Good Host Spaces Pvt. Ltd- NewDoorは約3,800万ドルの資金調達を大手ベンチャーキャピタルより行っています。

インドでは現在、単身者、若い社会人、学生など、ミレニアル世代をターゲットにしたコリビングが主流ですが、今後は、夫婦、同性カップル、シニア層、ペット等をターゲットにしたコリビングも登場するかもしれません。

コリビング市場は今、まさに成長段階にあります。今後数年のうちに、さらに多くの新興企業が参入し、市場として成熟していくでしょう。

               

執筆者紹介About the writter

安本 理恵
安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。