Indian Market "Insight"

インド市場の”今”を知る

Vol. 008 勢いを増すインドの美容市場

Nykaaのユニコーン入り、国内上場

インドを代表する美容Eコマースサイトとして有名なNykaa(ナイカ:FSN・Eコマース・ベンチャーズ社)が、2021年10月、インド国立証券取引所(National Stock Exchange of India)に上場しました。

上場に際して、Nykaaの発行株式総数約2.64千万株に対し、21億株以上の入札がありました。

インド国立証券取引所では、Nykaa の株価は 2,018 ルピーで初値がつき、新規株式公開(IPO)価格である 1,125 ルピーを上回る株価は、同社の評価額を 一兆ルピーに押し上げました。[1]

インドニュースメディアNews18によると、Nykaaは、インド初の女性が経営トップを務める企業としてユニコーン入りした企業であり、インドでは唯一利益を上げているオンライン・マーケットプレイスでもあると報じています。また、創業者のファルグニ・ナヤル氏(Falguni Nayar)は、今回の同社の上場により、インドで二人目の女性ビリオネアとなりました。

今回は、Nykaaの上場によっても注目を浴びている、インドの美容・化粧品市場についてご紹介したいと思います。

インドの美容・化粧品市場と主要プレイヤー

リサーチ・アンド・マーケット社のレポートによると、2020年のインドの美容・化粧品市場規模は130億ドルと推定されています。

また、同市場は年率16.39%の二桁成長を続け、2026年には約290億ドルに達すると予測されています。[2]

インド政府の発表では、2022年度のインドのGDP成長率は世界一位の9.2%であると予想されており、[3]人々の可処分所得も年々急速なペースで増加していることから、同市場の中長期的な成長は間違いないと言っても良いでしょう。

世界的にDove、Life buoy、Rexona等のブランドを持つユニリーバ社が、インドに最初の現地法人を設立したのは1931年でした。

現在、ユニリーバ社のインド現地法人であるヒンドゥスタン・ユニリーバ(HUL: Hindustan Unilever Limited)社は、インドのスキンケア市場の50%以上の圧倒的なシェアを誇っています。[4]

HUL社の他、Godrej、Dabur、Colgate、P&G、ロレアル等の大手コングロマリット企業がシェアの大半を占めています。[5]

これらのブランドは、どの都市に行っても入手可能であると言っていいほど、インド全国に流通しています。

需要の多様化と新しいトレンド

近年、インドでも健康的なライフスタイルやセルフケアへの意識が高まっています。

インドで盛んな伝統医療であるアーユルヴェーダのパーソナルケア製品や化粧品が、近年、大きな成功を収めており、HimalayaやLotus等廉価アーユルヴェーダブランドも昔から人気がありますが、HUL社のブランド”Lever Ayush”[6]や、Colgate社の”Vedshakti“[7]に見られるように、コングロマリット企業の製品もこのトレンドを取り入れています。

また、若者やミレニアル世代の間では、製品としての品質だけでなく、倫理的なプロセス、動物福祉や環境への配慮、透明性等への意識やニーズも高まっています。

また、インドでは、他のアジア諸国と同じように美の基準といえば「色白の肌」とされており、このような差別的な社会通念を変えようというムーブメントがあります。

1975年から今までHUL社から販売されている”Fair and Lovely”という美白クリームが、2020年に”Glow and Lovely”に商品名を変更[8]しました。

なぜなら、”Fair and Lovely”は、テレビCMで色黒の女性が同製品を使用して色白になり、成功を収めるというストーリーが描かれており、差別的であるとして度々物議を醸していたからです。

この様なニーズの多様化とその顕在化には、インドの教育レベルの上昇と国際化に加え、オンラインでのインフルエンサーマーケティング(注1)と、Facebook、Instagram、Tiktok、Youtubeをはじめとするプラットフォームを活用したD2Cマーケティング(注2)が大きく影響しています。

下記で紹介するようなブランドは、実店舗で見かける事はかなり少なく、全てD2Cマーケティングをメインに販売を拡大しています。

(注1)Financial Expressの記事によると、インフルエンサーマーケティング市場において、25%がパーソナルケアのカテゴリーで占められています。また、インフルエンサーマーケティング市場規模は2025年までに220億ルピーに達すると予想されています。[9]

(注2)D2Cとは、消費者直接取引 (英: direct-to-consumer、DTC、D2C)、中間流通業者を通さずに、自社のECサイトを通じて製品を顧客に直接販売することです。[10](Wikipedia)

インドのユニークな美容ブランド

ここでは、インドの新しいトレンドをけん引するブランドを3つご紹介します。

Bare Necessities

https://barenecessities.in

WHOに勤務していたサハ・マンスール氏(Sahar Mansoor)が創業した「Bare Necessities」は、生産から販売までの全てのプロセスへの倫理的な配慮、環境に配慮した包装など、持続可能性を理念として掲げた企業であり、クリーンビューティの第一人者と言えます。

Bare Necessitiesは、パーソナルケア製品の販売だけでなく、循環型経済についてのワークショップ、本の出版等の活動も積極的に行っています。

Minimalist

https://beminimalist.co

2020年にUprising Science社によってローンチされた基礎化粧品ブランド「Minimalist」は、徹底した透明性、全ての成分の開示をポリシーとしています。

同社はこのような商品が市場に浸透するまでには時間がかかるだろうと思っていたところ、ローンチ後すぐに、予想の10倍の売上があり、非常に驚いたそうです。

ARATA

https://www.arata.in

Slick Organics社のブランド「ARATA」は、自然派の原材料、動物実験をしていないこと、環境に配慮した包装に加え、強いカールヘアのためのシャンプーやスタイリング剤(カールを落ち着かせるためでなく、強調するもの)を製品として打ち出していることが特徴です。

インドで、美の基準といえば「色白の肌」に加え、「黒髪のストレートヘア」も好まれています。

しかし、インドには元々黒い肌や、強いカールヘアの人口もとても多いのです。個人的にはカールヘアに特化した高品質な製品の登場は画期的に感じました。

ここでご紹介したブランドは、インド市場でコングロマリット企業の主要ブランドに取って代わる程シェアがあるわけではありませんが、今までインドに存在していなかったもののトレンドをうまく捉えたユニークな企業・製品と言っても良く、その市場の拡大を肌で実感しています。

少し前までは、Himalaya等の廉価ブランドか、KAMA、Forest Essential等のハイブランドのどちらかしか選択肢がないと感じており、日本への一時帰国時にパーソナルケア製品をせっせと買い溜めし、インドに運んでいましたが、ここ数年はインドで気に入る製品がたくさん見つかるようになりました。

インドの消費者のニーズも日々アップデートされており、一消費者としても、今後の変化が楽しみです。

       

参照元データを見る

[1]Nykaa: India’s First Women-led Profitable Unicorn’s Valuation Surges to Rs 1 lakh Crore
https://www.news18.com/news/business/nykaa-indias-first-women-led-profitable-unicorns-valuation-surges-to-rs-1-lakh-crore-4426460.html

[2]India $28.9 Billion Cosmetics Market, Competition, Forecast & Opportunities, FY2026
https://www.businesswire.com/news/home/20210126005520/en/India-28.9-Billion-Cosmetics-Market-Competition-Forecast-Opportunities-FY2026—ResearchAndMarkets.com

[3]Indian GDP may grow 9.2% this fiscal on base effect
https://economictimes.indiatimes.com/news/economy/indicators/india-govt-forecasts-year-to-march-economic-growth-of-9-2/articleshow/88758290.cms?from=mdr

[4]Share of skin care companies’ market in India 2016-17
https://www.statista.com/statistics/649409/market-share-skin-care-companies-india/#:~:text=Hindustan%20Unilever%20Limited%20was%20by,and%20three%20percent%20share%20respectively.

[5]Leading household and personal care companies in India as of March 2022, based on net sales
https://www.statista.com/statistics/1200639/india-leading-personal-care-companies-based-on-net-sales

[6]Lever Ayush
https://www.hul.co.in/brands/beauty-personal-care/ayush/

[7]Colgate® Vedshakti Toothpaste
https://www.colgate.com/en-in/products/toothpaste/colgate-swarna-vedshakti

[8]Glow & Lovely
https://www.hul.co.in/brands/beauty-personal-care/glow-lovely/

[9]Influencer marketing industry size to reach Rs 2,200 crore in India by 2025: Report
https://www.financialexpress.com/brandwagon/influencer-marketing-industry-size-to-reach-rs-2200-crore-in-india-by-2025-report/2332321/

[10]消費者直接取引
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%88%E8%B2%BB%E8%80%85%E7%9B%B4%E6%8E%A5%E5%8F%96%E5%BC%95

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執筆者紹介About the writter

安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。