Indian Market "Insight"

インド市場の”今”を知る

Vol.015 : インドにおけるWeb3の可能性〜テクノロジーの進化が止まらない新たなフロンティア〜

1. はじめに

この記事を読まれている皆様は、今後Web3業界で活躍していきたい、または新しいテクノロジーに興味があり、インドという国についてもっと知りたいと思っている方々が多いのではないでしょうか。

私自身、現在インドのバンガロールという地域でインターンシップを経験しているのですが、改めて「インドに来てよかったー!」と実感しております。

やはり、日本と比べてIT系の優秀な人材が圧倒的に多く、明らかに今後成長していく雰囲気を感じられる国、それがインドです。そして、現在ではAIやXRのような将来的に世界の進化を担う一つのテクノロジーとして、「Web3」、つまり、“ブロックチェーン技術”を使用した次世代インターネットが世界中で注目されています。

私の個人的な考えとしては、これらのような新しいテクノロジーの進化や時代の流れに上手く順応して、かつ自分の軸はぶらさない人こそ、長期的に活躍し続けるビジネス・パーソンではないかと考えます。

本記事では、Web3の基礎知識、インドが期待されている理由、ビジネスにおけるインドとの関わり方、というような内容について詳しく考察していきたいと思います。

私も将来的には、皆さんと同じように1人の起業家としてグローバルに活躍したいという野望があるので、これからの成長が期待されるマーケットに参入できるよう共に学んでいきましょう。

2. Web3とは

では、まずWeb3とは何かということを体系的に整理して、IT大国インドとの将来的な関連性を見ていきたいと思います。

Web3とは端的に言うと、「ブロックチェーン技術を使用した、分散型でユーザーコントロールが可能な次世代インターネット」の概念です。

現在のインターネット(Web2.0)は、GAFAのようないくつかの巨大ITプラットフォーム企業に多くのユーザーデータが集中しており、中央集権的な状態にあると言えます。

そしてこの中央集権的なシステムが確立されてきた今、膨大な量の個人データが流出してしまう可能性があり、言論の自由も保証されないといった様々な課題が浮き彫りになっていました。

(*2)

しかし、2008年頃に、サトシ・ナカモトと名乗る正体不明のエンジニアがブロックチェーン技術に代表されるビットコインを開発することになります。それ以来、このブロックチェーン技術(ユーザー自身が個人のデータを全てのインターネットデバイスで管理・運用できるシステム)が現在のWeb2.0に見られる中央集権的なインターネットの課題を解決できると考えられるようになりました。

ブロックチェーン技術の構造的な仕組みを解説すると、世界中で行われている取引データが時系列的にハッシュ値と呼ばれる暗号で、ブロックとして格納され、それらがチェーン状に連結されている状態であると考えられます。

(*3)

3. Web3に関連する技術

ブロックチェーン技術を利用した取引は、透明性とセキュリティが向上しており、これが新たな経済や組織の在り方を形成しています。データの改ざんやハッキングを試みても、ブロックチェーン上の全ての取引データはチェーン状に連なっており、これを変更することは非常に難しいです。

そのため、ブロックチェーンのセーフティ・ネットワークが容易に崩れることは考えにくく、その特徴を生かした様々な応用技術が生み出されてきました。以下には、近年注目を浴びてきているトレンドをまとめたので、それぞれ何を目的としていてどのようなメリットがあるのかを見てきましょう。

1.Cryptocurrencies(暗号資産)

Cryptocurrencies(暗号資産)はWeb3を代表する発展技術の1つです。これまでの現金や電子マネーなどの通貨とは違い、Cryptocurrenciesには発行主体や永久的な管理者は存在せず、世界中の利用者の信用に基づいて価値が担保されています。(*4)

また、物理的な実態は無く、インターネット上の電子データとして扱われるので大きく以下のようなメリットがあると考えられます。

・手数料が安い
・銀行を通さず、スピード送金ができる
・少額から投資できる
・24時間いつでも投資できる
・市場としての将来性がある

2.DAO(分散型自立組織)

そして、Web3時代に本格化するとされている組織形態を表す言葉として、DAO(分散型自立組織)が注目されています。この組織形態は、特定の所有者や管理者が存在せずとも、事業やプロジェクトを推進できる特徴を持っており、有名なDAOの例としてはビットコインが挙げられます。

(*5)

DAOでは一般的に、開発者、連携パートナー、ユーザーなどの全てのステークホルダーに対して、DAOへの貢献度合いに応じてガバナンストークンを分配し、従来の組織形態とは反して、創業者や投資家への所有権の集中を防止することが出来ます。

なお創業のリスクを取っている、DAOの発起人や立ち上げメンバーに一定量のガバナンストークンが付与されることは当然ありますが、過度な報酬や不正は第3者がブロックチェーン上の取引などを監視することで防ぐという流れが一般的です。

以下の表は、イーサリアム財団が公式ホームページにて載せているDAOと従来の組織構造との比較です。DAOが注目されている理由は、この表に詰まっているといっても過言ではありません。

(*6)

3.NFT(非代替トークン)

最後にNFTについても解説します。NFT(非代替トークン)とは主にイーサリアム(EHT)のブロックチェーン上で構築できる代替不可能なトークンのことを言います。特徴として「唯一無二の価値」を持つことが可能なことから、ゲーム以外に会員権や不動産の所有の証明、著作権やアートなど様々な分野で実用化が進んでいます。

(*7)

上の図で分かるように、NFT以外のトークンはデータ上で同じものが存在しており、Cryptocurrencies(暗号資産)といった代替可能なトークンのことはFT(Fungible Token/代替可能トークン)と呼ばれています。 (*7)

余談ですが、私自身もANA(全日本空輸)が2023年に開始したNFTマーケットプレイスで、NFTを一つだけ購入した経験があります。

その際は表示金額が99,999円だったのを、なぜか9,999だと勘違いして購入してしまいました…あまりにも自分がバカすぎて、嫌になります。

4. インドにおけるWeb3企業のメリット

私の個人的な経験は非常に見苦しいものですが、Web3系の事業自体は今後、ますます需要が伸びてくることが予想されます。なぜなら、今の10代や20代の若者たちは一般的デジタルネイティブと言われており、スマートフォンやパソコンに1日の時間の半分以上を費やすことも珍しくはありません。

また、オンラインゲームやEコマースのような、まさにデジタル資産が本領を発揮する領域が急速に成長しつつあります。

そういった現状の中で、何故インドという国を私がWeb3系企業の進出先としておススメするのかを具体的な理由を3つまとめたので、以下で解説していこうと思います。

1.業界の成長と巨大なマーケットのポテンシャル

まず注目したいのが、インドにおけるWeb3業界全体の成長とユーザー数です。Bharat Web3 AssociationというインドのWeb3エコシステムの著名なメンバーによって立ち上げられた協同団体によると、インドのWeb3セクターは2032年までの今後10年間で1兆1000億ドルの経済貢献をする可能性があると報告されました。

また、暗号資産(※以降、Cryptocurrenciesではなく暗号資産を使用します)のユーザー数ではインドが世界で最も多くのユーザーを抱えており、その数は1億人を超えていると推測されています。

現在もその数は依然として増加傾向にあり、2021年にはインド人女性の暗号資産所有率が300%も上昇しています。(*8)

やはり、平均年齢が27.9歳(2022年時点)かつ、人口約14億の大国インドがWeb3のような新たな成長分野で世界の国々を牽引していく存在であることは間違いありません。

Web3マーケットの成長要因 
(*9)

2.技術インフラの整備と高度な人材

そして次に、インド国内のWeb3領域に対応できる技術インフラと世界でもトップクラスの工科大学を卒業してWeb3領域の開発者になっていく人材もインド進出を考えるべき魅力の1つだと言えます。

というのも、インド国内のインターネット環境はここ数年で目覚ましい程の成長を遂げており、月々の通信料金が安価なだけでなく、農村地域にもブロードバンド接続を普及させるためのプロジェクトが進められています。

私自身、日本にいるときは通信料金で月々3500円程払っていたのが、現在では1000円以下の価格に抑えられています。あの高額な支払いは何だったのだと思ってしまいます…

そして何よりも、世界のWeb3人材の11%、約75,000人のブロックチェーン系ITエンジニアがインド国内に集中しており、この技術者プールは今後1~2年で120%以上成長すると予想されています。(*10)

下のグラフは、インドにおけるITエンジニアの需要を表したもので、ブロックチェーン関連の技術者が他の専門と比べて非常に求められていることが分かります。

(*11)

需要があるということは、ITエンジニアの数も増加するので、優秀な人材をスタートアップの企業が雇うことも可能になります。

資金やコネクションの面で他の大企業に劣ってしまうスタートアップ企業からすると、これ程の好条件が揃っている国は世界中を探しても中々ないでしょう。

3.スタートアップ企業への投資システム

最後に重要視しておくべき点として、インドで盛り上がりを見せるスタートアップへの投資額の増加率を知っておく必要があります。

Bharat Web3 Associationの報告書によると、インドにはWeb3分野のスタートアップが900社以上あり、そのうちの5社は2023年時点でユニコーンとして認定されました。


(*12)
※上は2022年時点の情報

資金調達にしてもWeb3関連のスタートアップは、2022年4月までの2年間で13億ドルを調達しており、インドのWeb3エコシステムが成長と多様化を続ける中、Web3のユースケースは、金融やガバナンスからエンターテインメントやサプライチェーン管理まで、様々な分野で急速に変革をもたらしています。

Web3マーケットの成長要因


(*12)

このようにスタートアップ投資が盛んな場所では、その数に比例してコミュニティーイベントやフォーラムなどが頻繁に開催されるので、情報や人脈が手に入りやすいというメリットもあります。

まさに、アメリカのシリコンバレーでWeb2時代を席巻してきたGAFAMのような企業が、Web3時代にインドのバンガロールから生み出される日もそう遠くないのかもしれません。

5. インド政府のWeb3に対する意向

では、インド政府としてはWeb3領域のビジネスに対してどのような意向を示しているのでしょうか?

結論から申し上げると、「インド政府はブロックチェーン技術を使用した暗号資産やNFTに対してあまり良い反応を示していない」というのが現状ではないかと思います。

というのも、Web3を代表する様々な技術は国や大手企業のような中央集権機能を必要としない特徴があり、それはつまり、国の制御下で国民の動向を管理できないことを意味します。

また、マネーロンダリングや急な価値変動による問題など国策として進めていくには不安要素が多すぎるのかもしれません。

従って、当初はRBI(インド準備銀行)が他の商業銀行に暗号資産に関する取引の禁止を命じるといった出来事もありました。

しかし、時間の経過と共にG20の議長国を務めるなどインド政府の立ち位置が確立されてきているため、近年ではWeb3関連の技術を禁止するのではなく厳重に管理するといった方針が見受けられるようになっています。(*13)

このようにグレーゾーン的な状況の中で、スタートアップへの投資、Web3人材、そして暗号資産のユーザーなど、将来の産業形成に不可欠な要素が次第に整いつつあることは、インドが持つポテンシャルが私たちの想像を遥かに超えているのかもしれないと思わざるを得ません。

6. まとめ

本記事では、Web3というキーワードに関する基礎知識、暗号資産・DAO・NFTなどのブロックチェーンを代表する技術、インドのWeb3進出におけるポテンシャルといった内容について、様々なレポートと経験をもとに考察してきました。

インドではWeb3領域のスタートアップが成長できる環境にあることは確かですが、一方で政府の今後の動向が少し気になるという側面もあります。

しかし、インドにおける役割を開発だけに絞り、海外に対してサービスを提供するといった方法もあるので、何も政府の動向だけを気に掛ける必要はありません。実際にインドにあるWeb3スタートアップの40%以上はこの方法でインド人材を活用しています。

私も将来的にはWeb3関連のスタートアップを立ち上げる予定なので、今インドのバンガロールにてインターンシップを出来ていることに感謝しています。

ぜひ、この記事を読まれている皆様も、Web3という新たな注目領域とインドという国のポテンシャルに賭けてみては如何でしょうか。

 

※本記事の参考サイト一覧

(*1) The Impact of Decentralized Tech on Your Business Inside Telecom – Inside Telecom

(*2)今注目のWeb3とは?基本をわかりやすく解説 | クラウドの活用とインフラ設計 | NTTコミュニケーションズ

(*3)ブロックチェーンの仕組み | NTTデータ – NTT DATA

(*4)暗号資産(仮想通貨)とは何か?いまさら聞けない特徴について基礎から解説! | Coincheck(コインチェック)

(*5)DAO(分散型自律組織)とは?図解で初心者にもわかりやすく解説! | Coincheck(コインチェック)

(*6)Decentralized autonomous organizations (DAOs) | ethereum.org

(*7) NFTとは?仮想通貨との違いや利益を出す方法、最新の活用例を紹介 | Coincheck(コインチェック)

(*8) Crypto ownership India 2022 – Triple-A

(*9) Web3 & Metaverse — The rise of the new Internet & the India opportunity | Arthur D. Little (adlittle.com)

(*10) Web3 can contribute $1.1 trillion to India’s GDP by 2032: Report – The Hindu BusinessLine

(*11) From Supply Chain to IP Protection: Why Demand for Blockchain Engineers is Exploding (hired.com)

(*12) Web3 to inject $1.1T in India’s GDP by 2032, following 37x growth since 2020 (cointelegraph.com)

(*13)Web3 In India: G20 Presidency A Crucial Step Towards A Global Regulatory Framework – Forbes India

               

執筆者紹介About the writter

橋口悠雅 | Yuga Hashiguchi
明治大学商学部会計学専攻。貿易・物流ゼミにてゼミ長を務め、リーダーという役割の苦労・やりがいを経験。また、教育業界におけるデジタルインフラ統合をビジョンとした EdTech ベンチャー企業でインターン生として約半年ほどリサーチ・翻訳業務を担当。その後、グローバルな環境でも活躍できるビジネスパーソンになるため、大学を休学し、南インドの当社バンガロール事務所にてインターシップをスタート。市場調査や在インド日系企業・インドスタートアップ企業へのインタビュー等を通じて、インド市場や投資環境、最新のDX動向に関する記事・コラムの作成に携わる。インターンシップの傍ら、USCPAの資格取得に向けた勉強に取り組み、将来的には日本を代表する実業家になりたいと考えている。