B-14. インド人の退職および解雇の手続き
(文責:安本理恵 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
解雇という観点では、いわゆる「ブルーカラー」の労働者はインドの労働法による保護が比較的手厚いため難易度が高く、一方、いわゆる「ホワイトカラー」についてはインドでは終身雇用という概念はあまりなく、転職を繰り返してキャリアアップしていく事が一般的なせいか、日本に比べると実務面で解雇も比較的容易なケースが多いといえます。
インドで企業が従業員を雇用する形態としては、一般的に直接雇用の正社員(Permanent Employee)、間接雇用の社員(派遣社員: Contract Labour)、インフォーマル(・セクター)に分けられますがここでは正社員についてご説明します。
試用期間での雇用終了
一般的にどのような労働者においても3~6ヶ月程度の試用期間(Probation Period)を設けることが可能で、試用期間中は会社側から(通常は従業員側からも)自由に雇用を終了することができます。
解雇は問題になりやすいため、試用期間での見極めは会社・従業員双方にとって非常に重要です。
従業員の自己都合による退職(Resignation)
通常、就業規則(注1)または雇用契約書によって定められる1~3か月程度の通知期間(Notice Period)または通知期間分の給与額の支払い規定に従い、従業員が会社に対して辞表を出します。
通知期間に引き継ぎを行い、最終勤務日までに給与や有休買取、前払金、貸与品等について全て清算した旨を「Full and final settlement letter」として書面で作成し、会社・従業員双方より書面で合意をとっておくことが望ましいです。
また「Code on Wages, 2019」により会社は最終の給与を辞職日より10営業日以内に支払いをする義務があります。
退職後、問題なく退職手続きが終わったことの証明として会社は当該従業員に対し退職証明(Relieving letter、Experience certificate)を発行します。
(注1)就業規則:通称HR Policy、Working Regulation等と呼ばれます。2021年施行予定の「The Industrial Relations Code, 2020」では、雇用するワーカー(Worker)が300人以上の場合、「Standing Order」と呼ばれる規定に則った就業規則を作成のうえ政府に届け出、認証を受ける必要があります。
ワークマン(Workman)、ワーカー(Worker)(注2)の解雇(Retrenchment)
1947 年インド産業紛争法(Industrial Disputes Act, 1947)では「ワークマン」について、2021年施行予定の「The Industrial Relations Code, 2020」では「ワーカー」について共通の条件を設けています。
- 1か月前の通知または1か月分の賃金の支払い
- 勤続1年につき15日分の賃金支払い
- 合理的な理由があること
- 理由により当局への通知
この中の「合理的な理由」の証明が難しく、実際は認められないケースも多いことが理由で、ブルーカラーの労働者の中でも、一般的に「ワーカー」と呼ばれる従業員は一度雇用すると、解雇は非常に難しいといえます。
実務上では、推薦状や退職金を用意して本人の退職を促し、書面で合意を取ることが理想です。
なお、「The Industrial Relations Code, 2020」第2条(zh)では有期雇用契約の満了に伴う契約解消は解雇に含まないと明言されています。
(注2)ワークマン(Workman):1947 年インド産業紛争法2条で、手動、未熟練、熟練、技術、運用、事務業務を行うため雇用されている者、または、監督的作業を行うために雇用されているが、賃金が1カ月当たり1万ルピーを超えない者、と定義されますが明確な基準がなく、個別の判断が必要です。
ワーカー(Worker):The Industrial Relations Code, 2020で、主に管理・運営に従事している者や、監督的作業を行い賃金が1カ月当たり1万8千ルピーを超える者を除いた手動、未熟練、熟練、技術、運用、事務業務を行うため雇用されている者と定義されていますが、今後の判例等で同様に慎重な判断が必要であると思われます。
ワークマン・ワーカーでない従業員の解雇(Retrenchment)
雇用契約または就業規則に従って解雇の手続きを取ることとなりますが、特定の社員に対して会社がワークマン・ワーカーではない、という判断をしていたとしても場合によっては本人にワークマン・ワーカーであると主張され、解雇無効を訴えられる可能性も考えられます。
どのような理由であっても、後に紛争の余地を残さないためには上記と同じく本人の退職を促し、書面で合意を取れれば理想的です。
また、たとえ懲戒解雇であっても退職金支払い義務は発生するため注意が必要です。もし会社に損害を与えている場合はその限りではありませんが、それでも明確な損害の立証等、個別に慎重な判断が必要であるといえます。
執筆者紹介About the writter

2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。