Indian Personnel & Labour

人事労務

B-14-2. 企業における不正発覚時の初動対応と調査の進め方

(文責:砂本順子, Verma Prastuti / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

Ⅰ. はじめに

インドに進出した企業が頭を悩ませているのが、現地従業員による不正行為です。特にインドのビジネス環境では、文化や規制の違いから不正のリスクが高まることが多々あります。
インド企業内で多発する従業員による不正行為には、次のようなさまざまな種類があります

  1. 横領:従業員が会社の資金や資産を個人的に流用する行為
  2. 贈収賄:従業員がビジネス上の利益を得るために賄賂を受け取ったり、支払ったりする行為
  3. 調達部門での不正:調達担当者がサプライヤーからのキックバックを受け取る、架空の取引を行う、過剰な価格で物品を購入し差額を着服する行為
  4. 営業部門による経費のごまかし:営業担当者が出張費や接待費を虚偽申告したり、架空の経費を計上する行為
  5. 在庫の不正流用:従業員が企業の物品や資材を不正に持ち出し、個人的に使用したり売却したりする行為。特に製造業や小売業で多発。
  6. 利益相反や縁故主義:従業員が個人的な利益を優先し、親族や友人に有利な取引を行うことで企業の公平性と透明性を損なう行為
  7. 情報漏洩とデータの不正使用:従業員が機密情報を外部に漏らしたり、個人的な利益のために不正に利用する行為

Ⅱ. 不正発覚時の初動対応

インド企業内で不正行為が発覚した場合、迅速かつ適切な対応を取ることが企業の信頼性と経済的安定性を維持するために重要です。以下に、基本的な対応手順をまとめます。

1. 初期対応と封じ込め

1)不正行為の検知

不正行為が発覚するきっかけは、内部告発、定期監査、異常な取引パターンの発見など様々です。不正行為を早期に検知するための内部通報窓口の設置やアクセスログやメール監視、異常支出検知システム、サイバーセキュリティ監視等の監視システムやアラートを設定しておくことが重要です。

2)問題の隔離

不正行為が確認されたら、速やかに関与した従業員のアクセス権を制限します。これには、システムログイン権限の停止、業務用メールアカウントの凍結などが含まれます。物理的な隔離も検討し、関与した従業員の職務からの一時的な排除や、オフィス内での立ち入りを制限します。これは、さらなる不正行為や証拠の隠蔽を防ぐためです。

3)証拠の保全

物理的およびデジタル証拠を迅速に収集し、安全に保管します。デジタル証拠については、デジタルフォレンジック専門家の助言を得て、適切な手法でデータを取得・保存します。物理的証拠(書類、契約書、請求書など)も厳重に保管し、証拠の完全性を維持するために、取得から保管、分析に至るまでのチェーンオブカストディ(証拠管理の連鎖)を確保します。

2. 速やかな事実確認の重要性

不正行為が発覚した時点での初動における速やかな事実確認は、さらなる不正行為の進行を食い止め、被害額を最小限に抑えることを可能にします。例えば、資金の不正流用が疑われる場合、速やかに確認して対応することで、追加の資金流出を防止できます。
また、証拠は時間の経過とともに消失したり改ざんされたりするリスクが高まるため、早期の段階で証拠を適切に収集し保全することが重要です。これにより、後の調査や法的手続きにおいて有効な証拠として使用することができます。
さらに、迅速かつ適切な対応を取ることで、顧客、投資家、取引先などのステークホルダーに対して、問題が発生した際に適切に対処する企業としての評価を維持できます。
また、事実確認のために迅速かつ適切に対応することにより、他の従業員に対して公正な職場環境を提供するメッセージを送ることができ、従業員の士気を向上させるとともに、不正行為を未然に防ぐ企業文化を醸成することができます。このように、初動における速やかな事実確認は、企業の信頼性と持続可能性を確保するために極めて重要です。

Ⅲ 調査の進め方

調査チームの編成と役割

調査チームの編成は、不正行為の全貌を明らかにし、再発防止策を講じるために非常に重要です。多部門からの専門家が協力することで、調査が包括的かつ効率的に進められ、企業の信頼性と持続可能性を確保することができます。多くの企業は、グローバルスタンダードや国際的なベストプラクティスを参考にして、内部調査チームを編成しています。以下は、その一例です:

  • 法務部門 : 法的助言を提供し、調査の法的適正性を確保。
  • コンプライアンス部門 : 内部規定やポリシーの遵守状況を確認。
  • 人事部門 : 関与した従業員のインタビューや処分を担当。
  • IT部門 : デジタル証拠の収集と分析を担当。
  • 内部監査部門 : 監査技術を駆使し、不正行為の全貌を明らかにする。

内部調査と外部調査の違い

内部調査は、企業内の専門家によって実施され、迅速かつコスト効率の高い方法です。企業の内部事情に精通しているため、問題の背景や関係者の特定が容易です。また、内部調査は情報の流出リスクが低く、企業内での信頼関係を維持しやすいです。ただし、内部調査には限界もあり、特に大規模な不正や複雑な事案では、専門知識や客観性に欠けることがあります。

外部調査は、外部の専門家や調査会社によって実施されます。外部調査は、より高度な専門知識と客観性を提供し、企業の内部の利害関係に左右されない公正な調査が期待できます。特に複雑な金融不正やサイバー犯罪など、専門的な技術を必要とする場合に有効です。しかし、外部調査は費用が高く、時間がかかる場合があります。また、企業の内部情報が外部に漏れるリスクも伴います。

調査手法の選択基準

企業が内部調査と外部調査のどちらを選択するかは、以下のような基準に基づいて決定されます:

1.不正行為の規模と重大性:

小規模な不正行為や軽微な違反の場合、内部調査で対応することが一般的です。一方で、大規模な不正行為や企業全体に影響を及ぼす重大なケースでは、外部調査が適していることがあります。

2.客観性と公正性の必要性:

調査の信頼性を確保するために、外部の視点が必要とされる場合があります。特に、上層部が関与する不正行為や、内部の利害関係が絡むケースでは、外部調査が求められることが多いです。

3.内部リソースの可用性:

企業内に十分な専門知識やリソースがある場合は、内部調査が効率的です。しかし、専門知識が不足している場合や、調査が複雑で高度な技術を要する場合には、外部の専門家の協力が必要です。

4.コストと時間の制約:

内部調査は通常、外部調査に比べてコストが低く、迅速に開始できる利点があります。しかし、調査の範囲が広がり、時間がかかる場合には、外部の調査会社に依頼することが効果的です。

調査チーム編成後の手順

調査計画を立案し、調査の目的、範囲、手順、タイムラインを明確に設定します。その後、証拠の分析と従業員や目撃者からのインタビューを実施し、調査結果を報告書にまとめます。最終的に、調査結果に基づき、必要な是正措置を講じ、再発防止策を実施します。

1) 調査計画の立案

調査の目的と範囲: 調査の目的、範囲、手順、タイムラインを明確に設定。
リスク評価: 調査対象となる不正行為のリスクを評価し、調査の優先順位を決定。

2) 証拠収集と分析

証拠の収集: 書類、契約書、請求書などの物理的証拠、電子メール、ログファイル、デジタルドキュメントなどのデジタル証拠を体系的に収集。
インタビューの実施: 関与した従業員や目撃者からのインタビューを実施し、その内容を詳細に記録。

3) 調査結果の報告

報告書の作成: 調査結果を詳細にまとめた報告書を作成し、経営陣に提出。発見事項、証拠、インタビュー結果、推奨される是正措置を含む。

4) 是正措置の実施

是正措置の実行: 調査結果に基づき、必要な是正措置を講じる。関与した従業員に対する懲戒処分や内部統制の強化、再発防止策の実施を含む。

5) フォローアップ

継続的な監視: 是正措置の効果を確認し、必要に応じて追加の対策を講じる。継続的な監査やコンプライアンスチェックを実施。

執筆者紹介About the writter

砂本順子 | Junko Sunamoto
日本で貿易会社(輸出)を起業し、14年間会社経営に携わる。輸出商材は建機、自動車・トラック、工作機械を主とし、その他医療器械・ヘルスケア用品・化粧品など、輸出先は65か国。2012年にインド(チェンナイ)にて日印企業間B2B支援の会社を起業。2015年から大手日系製造企業数社での勤務を経て2024年よりGJCに参画。

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