Indian Accounting & Taxation

会計税務

D-22. インドの税務監査と原価監査、内部監査の概要について

(文責:吉盛真一郎 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

税務監査(Tax Audit)について

インドの税務監査は、所得税法 (The Income Tax Act,1961)の 第44AB条 に定められており、外部監査人であるインド勅許会計士(Chartered Accountant)によって行われ、会社の収益計上と損金算入の妥当性を監査します。税務監査の対象となる会社は同法 第44B条で以下の通り規定されています。

  1. 前年度の売上が5,000万ルピー以上である場合
  2. 前年度に請け負った特定の業務による収入が年間500万ルピー以上である場合
  3. 同法第44AD条および第44AE条に基づいてみなし納税を行った会社の実際の利益が、みなし納税の根拠となった想定利益よりも少なくなると見込まれる場合。
  4. みなし納税を認められた会社が、一定期間その権利を行使しなかった場合の権利はく奪期間である5年後に、再びみなし納税を行う場合。

税務監査報告書は、所定の監査報告書書式(Form 3CB およびForm 3CD、ただし同法 第44AB条に規定されていない事業体の監査の場合は、Form 3CA およびForm 3CD)によって、毎会計年度終了後の9月30日までに勅許会計士が税務当局に申告する必要があります。申告未済の場合は15万ルピーと年間売上の0.5%の罰金が科されます。

原価監査(Cost Audit)について

インドの原価監査は、会社法 (The Companies Act, 2013)と、2014年会社(原価の記帳と監査)規則 (The Companies (Cost Records and Audit) Rules, 2014) に定められています。

会社法によって区分されている規定分野 (例えば石油製品製造業や製薬業など)と非規定分野 (兵器・弾薬製造業やセメント製造業など) のうち、前者については前年度売上が2億5,000万ルピー以上、後者については3億5,000万ルピー以上の場合は、原価記録(Cost Record)の保管義務があり、原価監査の対象となるのは、前者については前年度売上が5億ルピー以上、後者については10億ルピー以上の会社です。

ただし、上記会社規則の第3条に定められている会社および輸出による売上の割合が総売上の75%超を占める会社、経済特区(Special Economic Zone: SEZ) 内の会社については原価監査は免除されます。

原価監査は、インド原価会計士協会 (Institute of Cost and Works Accountant of India)の定める監査基準に従い、原価会計士(Cost Accountant)によって行われ、会計期末日から180日以内の取締役会に原価監査報告書 (Form CRA-3)を提出する必要があり、さらにその30日以内に所定の書式(Form CRA-4)によってインド企業省 (MCA : Ministry of Corporate Affairs)に申告する必要があります。

原価監査によって、経営者は製品毎の利益構造と生産効率を正確に把握することで、会社の財務判断を迅速かつ適切に行うことができ、状況によっては不正や背任行為の兆候などに気づく機会が得られる場合もあります。

内部監査(Internal Audit)について

インドの内部監査は会社法に定められており、インド勅許会計士もしくは、原価会計士によって行われます。内部監査の対象となる会社は以下の通りです。

  1. 全ての上場会社
  2. 前会計年度の払込済み資本金が5億ルピーを超える非上場の公開会社
  3. 前会計年度の売上が20億ルピーを超える非上場の公開会社
  4. 前会計年度中に10億ルピー超の債務を計上した非上場の公開会社
  5. 前会計年度の預り金が5億ルピーを超える非上場の公開会社
  6. 前会計年度の売上が20億ルピーを超える非公開会社
  7. 前会計年度中に10億ルピー超の債務を計上した非公開会社

特に上場企業に対しては、インド証券取引委員会 (The Securities and Exchange Board of India: SEBI) が定めた企業統治についての規定 (Clause 49 of the Listing Agreement) が適用され、会社内の内部監査委員会による、当監査部門の機能性(組織体制・監査の頻度等)の確認、内部統制の脆弱性の報告、不正・違反・内部統制機能不全の調査、最高経営責任者と最高財務責任者の責任所在確認等を行うことが求められています。

内部監査は、財務諸表に含まれる情報の信頼性だけでなく、財務報告プロセスや内部統制状況、非財務情報および取引の正当性をも精査することによって、財務の健全性、法令・社則の遵守の状況、各組織の機能性、予想されるリスクの程度が明らかになり、それによって経営者は迅速な財務判断や、企業統治メカニズムの改善に努めることができます。

執筆者紹介About the writter

吉盛 真一郎 | Shinichiro Yoshimori
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。

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