D-23. インドの勅許会計士(CA)試験制度
(文責:吉盛真一郎:Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
インド勅許会計士の人数は、2019年4月1日時点で約29万人、公的機関や民間企業において、その活躍の場を広げています。従来からの主な業務である会計監査、税務監査、GST監査、会社秘書役業務、原価計算業務等のみならず、近年は、株式評価やデューデリジェンス、外資参入時の経営戦略策定、リスクアセスメント、内部統制の仕組み構築、知的財産権評価、企業の合併・買収 (M&A) や株式公開支援、債務超過や会社清算時の手続きなど幅広い分野で活躍しています。
インド勅許会計士の資格を得るためには、インド勅許会計士協会 (The Institute of Chartered Accountants of India: ICAI)が定める以下の3段階のトレーニングコースを受け、それぞれの試験に合格する必要があり、制度上、最低5年を要します。
- 基礎コース(Foundation Course)
- 中間専門適性コース (Integrated Professional Competence Course: IPCC)
- 最終コース(Final Course: FC)
インドの教育制度では、6歳時から初等・中等教育(全10年制:このうち8年間は義務教育)が行われ、進学希望者は上級中等教育(2年制)に進みます。その終了時に行われる第12学年修了試験にて一定以上の成績を修めた者がインド勅許会計士の受験資格を得ることができます。
第1段階の基礎コースの修了試験であるCommon Proficiency Test (CPT) に合格した者は、ICAIの受講生番号(SRN)を取得します。CPT合格後、続く中間専門適性コースIPCCを受け、その修了試験に合格した後、勅許会計士事務所(ライセンス資格をもつ開業勅許会計士の下)でArticleshipと呼ばれる3年間の実務経験を積む必要があります。この研修中の勅許会計士事務所の変更は開始後1年以内であれば無条件に行うことができますが、2年目以降の事務所変更は合理的な理由がない限り、原則、認められません。
この期間の給与は、研修年数や勤務地域に基づき1,000ルピーから3,000ルピーの範囲で最低月額が規定されていますが、実際は受け入れ先の規模や条件によっておおよそ5,000ルピーから20,000ルピーの範囲で支払われています(なお、勅許会計士資格の取得後に就職した際の初任給は、業界によって差があるものの、おおよそ約25,000ルピーから約65,000ルピー程度です) 。そして、当研修期間 3年目の最後の6か月の期間中に、最終コースFCの試験を受験することが可能になります。
この最終コースFCの試験は、毎年2回、5月と11月に実施されますが、2018年の5月より、新しい履修課程に基づく新試験方式が、旧試験方式と並行するかたちで導入されました。これは2015年からインド版IFRSとして新しい会計基準 (Indian Accounting Standards: Ind AS) の段階的導入が始まったこともあり、経済のグローバル化にともなう国際会計・税務に対応していく会計士の養成のために新設された履修課程です。
新方式の試験の受験者数は導入後の1年半で約16倍増加し、2019年11月度の旧方式の最終試験 (GroupⅠとⅡの両科目グループ) の合格率は10.19%、新方式試験 (GroupⅠとⅡの両科目グループ) の合格率は15.12%でした。
ICAIと英国勅許会計士協会 (ICAEW : Institute of Chartered Accountants in England and Wales) による2008年の合意により、一方国の勅許会計士による両国での会計監査以外での業務が可能となり、2019年の合意ではさらにその職域の可動性は高まり、国際会計・税務に対応していくインド勅許会計士の需要はさらに増え続けることが予想されます。
また、インドにある国際的企業の拠点は、財務会計におけるハブの役割を果たしていることも多く、その処理の多様性に対応していくために米国公認会計士(US CPA) 資格の需要も増しています。2020年に試験的に行われたUS CPAのインド国内での試験が、2021年より正式に継続実施されることが決定したこともあり、会計士たちのキャリア向上のために重要な資格になるものと考えられます。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。