Indian Accounting & Taxation

会計税務

E-27-1:インドの法人税関連コンプライアンスと予定納税制度について

(文責:木内達哉 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

【インドの法人税制度の概要】

インドの法人税は所得税法(Income-tax Act, 1961)に規定されており、課税所得に実効税率を乗じて算出される点は日本と同じです。しかしながら大きく2つの点で日本の法人税と異なります。

1つ目は、中間納付する法人税の算出方法が大きく異なることです。日本では前年度の実績もしくは上半期の仮決算に基づき法人税の中間納付を行いますが、インドにはそのような制度はありません。その代わり、前払いの法人税としてTDS(Tax Deducted at Source:源泉所得税)とAdvance Tax(予定納税)があります。

2つ目は、決算期が法定されていることです。日本では会社によって決算期が異なり、法人税の申告期限は決算期の2ヶ月後(特例を適用した場合には3ヶ月後)と定められていますが、インドでは全ての企業の決算期を3月と定めており、法人税の申告期限も毎年9月末(関連者間取引がある企業の場合は11月末)に統一されています。

なお、インドでは、例えば2020年4月から2021年3月までのFY(Financial Year:会計期間)を、”FY2020-21”と表現します。FY2020-21の決算は翌年2021年4月以降に行うことから、会計期間の翌会計年度をAY(Assessment Year:賦課期間)と呼びます。例えばAY2021-22は、FY2020-21の税金計算を行う期間であることを示します。

本記事では、インドで求められる法人税申告の具体的なフォームや申告内容、申告期限のほか、日本の法人税制度には見られない予定納税や最低代替税についてご紹介します。

 

【予定納税】

インドの前払法人税にはTDS(源泉所得税)とAdvance Tax(予定納税)があります。TDSについては別の記事にて詳しくご説明をしていますので下記のリンク先をご覧ください。

E-25 : インドの源泉所得税TDSの概要と日印租税要約について

 

一方のAdvance Taxは、法人税の年間見積納税額に対して、以下のとおり一定割合を年4回に分けて納税する制度です。

 

日本の法人税中間納付は前年度実績または今年度上半期の仮決算の数字に基づいて行いますが、年間の法人税納付額を見積もらなければならない点がインドの特徴です。年間見積金額が外れた場合(当初の見積金額よりも業績が良かった場合)には、予定納税額が結果的に不足することとなるため、延滞利息を支払わなければなりません。また事業収入がない場合でも、定期預金利息を稼いでいる場合には予定納税が発生する場合があるため、注意が必要です。こちらについては、過去のコラムで詳しくご説明をしていますので下記のリンク先をご覧ください。

 

コラム:製造業者が工場完成までに直面する経理実務の実態を理解する

 

 

【法人税の申告】

期末の法人税申告期限は、上述のとおり、決算期の翌会計年度の9月末と定められています。但し海外との関連企業との取引がある場合(移転価格税制が適用される場合)には11月末が申告期限となります。申告期限までに会計監査を完了し、ITR-6というフォームをオンラインで税務当局に提出することにより申告を完了します。また、FTC(Foreign Tax Credit:外国税額控除)の適用を受ける場合には事前にForm-67というフォームを通じて事前申請する必要があるため留意が必要です。

9月末の申告期限はしばしば1ヶ月延長され、10月末となるケースが例年発生していますが、延長が発表されるのは期限の直前(2~3日前)となる場合があります。従って、インド人の経理スタッフの中には「申告期限は毎年延長されるから、9月末までに完了しなくても大丈夫だ」と言う人がいるかも知れません。しかしながら、毎年延長しているからと言って必ず延長するという保証はないため、たとえインド人経理スタッフが「必ず延長されるから遅れても問題ない」と言っていたとしても、9月末までに完了させるようマネジメントすることが重要です。

さて、法人税の申告では、日本と同じように財務会計上の数字に対して加算減算調整を行います。インドでも貸倒引当金繰入の損金算入が認められない点などは日本と同じですが、日本とインドとの間で大きく異なる代表例は減価償却額の計算です。

日本の会計基準では、法人税法に定める耐用年数や償却方法に基づいて減価償却を計算することが認められているため、会計と税務の間で差は生じません。ところがインドでは、会社法(Companies Act, 2013)Schedule IIにおいて固定資産の耐用年数が定められており、財務会計ではこの耐用年数に基づき計算される減価償却費を“最低償却額”(=最低限計上すべき減価償却費)として計上しなければならない一方、所得税法(Income-tax Act, 1961)では償却率が定められており、会計と税務で異なる固定資産台帳を作成・管理しなければならず、税効果会計上での一時差異が発生することとなります。

さて、前払いの法人税の話に戻りましょう。法人税の税務申告時に納付すべき年税額が、これまでご紹介をしてきた期中に前払しているTDSとAdvance Tax、そして、FTCの税額の合計金額を上回った場合には、当該不足額をSelf-Assessment Taxとして法人税の申告期限までに納付しなければなりません。逆に、前払法人税の金額が多かった場合には、税務当局によるアセスメント後に当該超過額が利息とともに還付されます。なおインドでは、繰越欠損金は8年まで繰り越すことができます。

 

【最低代替税】

所得税法に基づいて計算した法人税額が、会社法上の(会計上の)当期純利益の15%を下回る場合には、会計上の当期純利益の15%と当該法人税額との差分をMAT(Minimum Alternative Tax:最低代替税)として支払わなければなりません。なお、最低代替税は従来18.5%でしたが、2020年3月期の税務申告分(AY2020-21分)から15%となりました。納税したMATはクレジットとして資産計上され、15年繰り越すことができます。

MATの計算例をご紹介します。

<X年>

X年の法人税額は60万ルピーですが、会計上の税引前純利益に15%を乗じた金額は100万ルピーとなりました。この場合、60万ルピーの法人税に加えて差額の40万ルピーをMATとして納税する必要があります。MATの40万ルピーについては資産計上され、X+15年まで繰り越すことができます。

<X+1年>

X+1年の法人税額は50万ルピーですが、会計上の税引前純利益に15%を乗じた金額は80万ルピーとなりました。この場合、50万ルピーの法人税に加えて30万ルピーのMATを納税する必要があります。MAT(資産)の残高は40万+30万=70万となります。

<X+2年>

本来X+2年の法人税額は110万ルピーですが、会計上の税引前純利益に15%を乗じた金額は90万ルピーとなりました。この場合、差額の20万についてはMAT残高と相殺することができるため、実際の納税額は110万-20万=90万となります。MATの残高は70万 – 20万 = 50万ルピーとなります。

<X+3年>

本来X+3年の法人税額は80万ルピーですが、会計上の税引前純利益に15%を乗じた金額は20万ルピーとなりました。この場合、差額は60万ですが、MAT残高が50万しかないため、納税額は80万-50万=30万ルピーとなり、MAT残高はゼロとなります。

<X+4年>

X+4年にはMAT残高がなく、かつ税引前純利益に15%を乗じた金額が法人税額を下回っているため、法人税額である110万ルピーを納税します。

 

【法人税の仕訳】

法人税関係の仕訳についてご紹介いたします。経理担当の方以外は読み飛ばして頂いて構いません。

 

<期中のTDS控除>

顧客に1000を売り上げて、10%のTDSを控除した900が入金された場合、仕訳は下記になります。

 

<期中のAdvance Taxの納付>

Advance Taxを100納付すると、仕訳は下記になります。

 

<期末の法人税の申告>

3月までのTDS控除累計額が100、Advance Tax納付累計額が100、法人税の納付額が210だった場合、期末に支払うべきSelf-Assessment Taxの額は210 – 100 – 100 = 10となり、期末に下記2本の仕訳を切ります。

 

法人税入力後の期末残高は、下記の通りとなっています。

 

法人税の申告から約1年を目途に税務当局によるアセスメントが行われ、税務当局によるアセスメント完了後に上記の資産と負債を相殺します。逆に言うと、例えばもし貸借対照表にProvision for Income Tax(FY2020-21)という勘定科目が残っている場合には、2020-21年度の税務当局によるアセスメントが完了していない、もしくは、完了しているにも関わらず勘定科目が正しく精算されていない、ということが想定されます。

執筆者紹介About the writter

木内 達哉 | Tatsuya Kiuchi
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。

会計税務

E-25 : インドの源泉所得税TDSの概要と日印租税条約について

E-26 : インド新税制GSTの概要について

E-27:インドの法人税関連コンプライアンスと予定納税制度について

E-28 : ケース事例から見るインド移転価格税制の実務と税務リスク

E-29 : インドの関税およびSVB当局対応について

E-30 : 遅々として変わるインドの税務調査手続きの行方