E-26 : インド新税制GSTの概要について
(文責:木内達哉 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
(1)GSTとは
物品・サービス税(GST : Goods and Services Tax)は2017年7月に新しく導入された間接税で、日本でいう消費税に相当します。それまでのインドでは、中央政府と州政府それぞれが極めて複雑な間接税を課しており、州境において入境税の支払なども求められていたため、インドのサプライチェーンを非効率なものにする原因となっていました。GSTにより中央と州政府の間接税が統一されましたが、頻繁に制度変更が行われるなど、2020年7月現在ではまだ安定的な運用が定着している状況ではありません。
(2)GSTの仕組み
A社がB社に税抜100ルピーで商品を販売し、B社が最終消費者に税抜200ルピーで商品を販売する(GST料率は18%)と仮定します。GSTの料率を18%と仮定すると、最終消費者はB社に対して税込177ルピーを支払います。B社はA社に税込118ルピーを支払い、B社の手元に残った118ルピーのうち9ルピー部分がB社の納めるべきGSTとなります。A社は、B社から受け取った118ルピーのうち18ルピーをGSTとして納税します。このように、最終消費者が負担するGSTは27ルピーですが、納税は各取引段階の事業者が行う多段階課税の仕組みを採用しています(日本の消費税と同じ仕組みです)。
(3)リバースチャージメカニズム(RCM)
通常の取引では、サプライヤーがGSTの納税を行います。しかし、サプライヤーが海外の場合(輸入取引)など、一定の条件の場合にはサプライヤーではなくクライアントがGSTの納税を行います。これをリバースチャージメカニズム(RCM : Reverse Charge Mechanism)と呼びます。例えば、上の図の例の場合、通常の取引であればA社がGSTを納税する義務を行いますが、A社が海外の企業である場合にはインド税務当局への納税ができないため、B社はA社に対して税抜価格のみ支払い、B社がA社の代わりにGSTを納税します。
(4)GSTの料率
インドのGST料率は0%、5%、12%、18%、28%の5種類があり、料率ごとの主な物品、サービスは下記の通りです(2020年7月時点)。
GST料率は品目ごとに非常に細かく設定され、また頻繁に変更されるため注意が必要です。
(5)GSTの申告
各事業者は、税務当局に対して、原則、毎月オンラインでGSTの金額を申告します。例えば、上記の取引例の場合、B社はC社から27ルピーのGSTを受け取り、A社へ18ルピーのGSTを支払いました。B社がC社から受け取ったGSTをGST output(日本の仮受消費税に相当)、A社へ支払ったGSTをGST input(日本の仮払消費税に相当)と呼びます。
■ B社のGST output : 27ルピー
■ B社のGST input : 18ルピー
従って、B社が納税すべきGSTの金額(GST Payable)は27-18=9ルピーとなります。
注意しなければならないのは、B社がA社へ支払ったGSTをGST inputとして申告するためには、A社がB社へ発行したTax InvoiceにB社のGST番号を記載しておく必要があるということです。もしA社のTax InvoiceにB社のGST番号が記載されていなかった場合、B社がA社へ支払ったGSTはGST inputとして認められず、B社は27ルピーを納税しなければなりません(つまりA社に支払った18ルピーのGSTはコストとなってしまいます)。
これは事業者間の相互監視を通じてGSTを適切に納税させることを目的とした仕組みで、日本で2023年10月から導入が予定されている「適格請求書等保存方式」と同様の仕組みです。
■ 3種類のGST
GSTにはCGST(Central GST)、SGST(State GST)、IGST(Integrated GST)の3種類があります。州内での取引の場合にはCGSTとSGSTが半分ずつ課税され、CGSTは中央政府、SGSTは州政府の財源となります。例えばGSTの税率が5%の場合、2.5%がCGSTとして中央政府の、2.5%がSGSTとして州政府の財源となります。一方、州間の取引または輸入取引(SEZとの取引を含む)の場合にはIGSTが課税され、全額が中央政府の財源となります。GST inputとGST outputの相殺を行う場合には、CGST、SGST、IGSTのそれぞれに分けて行い、相殺の順序が規定されているため注意が必要です。具体的な相殺順序については、過去のニュースレターの中でご紹介していますのでこちらの記事をご覧ください。】
■ GSTの申告期限
日本の消費税申告は年に1度行いますが、インドでは毎月GSTポータルサイトからオンラインでGSTの申告を行います。主な申告は以下の通りです。
■ GSTR-1 : GST outputの申告を行います。毎月、翌月の11日が期限です。
■ GSTR-3B : GST inputとoutputを申告し、該当月の納税額を確定させ、納税を行います。毎月、翌月の20日頃が期限です。
■ GSTR-9 :1年間のGST金額をまとめて申告します。毎年、翌会計年度の12月が期限ですが、しばしば延長されています。例えば、2021年3月期の本来のGSTR-9申告期限は2021年12月です。
各フォームの申告内容を含む詳細については、過去のニュースレターの中でご紹介していますのでこちらの記事をご覧ください。
【News Letter】 VOL.6 GST申告フォーム「GSTR-3B」(後編)
【News Letter】 VOL.5 GST申告フォーム「GSTR-3B」(前編)
【News Letter】 VOL.4 GST申告フォーム「GSTR-1」(事例)
【News Letter】 VOL.3 GST申告フォーム「GSTR-1」
執筆者紹介About the writter
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。