Indian Accounting & Taxation

会計税務

E-30. 遅々として変わるインドの税務調査手続きの行方

(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

1、透明性のある課税スキームを目指すインド

モディ首相は、2020年8月に国民に向けた演説を行い、直接税に関する「非対面型の税務調査や申立(Faceless Assessment / Faceless Appeals)」にかかる行政改革を発表し、さらに2021年1月に「非対面型の罰則スキーム(Faceless Penalty Scheme)」という新たなスキームを発表しました。つまり、当局による追徴課税プロセスについては大きく分けると、

  1. 税務担当官による税務調査
  2. 納税者による不服申立
  3. 更生通知

という3つに分けられますが、これら全てのプロセスを“非対面型”に移行をする、と発表をしたわけです。

2、これまでのインド税務調査はどうであったか?

正直、これまでの税務調査を知る限りにおいては、誠実な納税者に対する単なる言い掛かりのような税務調査手続きが散見され、“白”に対して“黒”だと言われた納税者は当然のごとく不服を申し立て、そのまま税務訴訟に発展し、しかしながら結局は納税者側が勝訴する(単に時間と弁護士費用を負担させられただけで終わる)ケースが比較的多いのが実態ではないかと感じています。実際、インドの税務当局の勝訴実績は概ね平均20%程度という統計データも出ています。(※日本では90%近くが税務当局側勝訴)

一方で、「透明性のある課税–“誠実な納税者に敬意を表す“(Transparent Taxation – “Honouring the Honest”)」と題して演説を行ったモディ氏が果たしてどこまで汚職撲滅と納税者保護を実現できるか。コロナ禍で”非接触“が当たり前となった社会において、まさにこのタイミングで、これまでの税務調査手続きを一掃し、オンライン化を一気に推進するモディ首相の手腕はさすが、というものです。

3、これからの税務調査はどう変わるのか?

直接税にかかる新しい税務調査手続き「非対面型の税務調査(Faceless Assessment)」は、すべて電子メールや税務当局ポータルサイト等を通じてコミュニケーションがなされることを前提とし、主に非対面型国家調査センター(NFAC : National Faceless Assessment Center)および下記4つのユニットによって完全オンラインで実施されることになっています。(※ただし、重大な虚偽申告や租税回避行為と認められる場合や、移転価格税制を除く国際税務事案については対象外)

  1. 調査ユニット(Assessment Units) :通知書(Assessment Order)の作成・修正を担当
  2. 検証ユニット(Verification Units) :根拠証憑や証言等に基づく税務調査の実施を担当
  3. 専門ユニット(Technical Units) :専門知識に基づく調査支援およびアドバイスを担当
  4. レビューユニット(Review Units) :調査ユニットが作成した通知書のレビューを担当

この新しい非対面型の税務調査は、概ね以下のような流れで実施がされますが、ポイントとしては

  1. 調査官個人の能力依存、
  2. 一方的な課税・更生通知、
  3. 調査官の賄賂慣習

という3つの悪しき実態から脱却をすることを目指しています。なお、ステップ3のレビュー結果次第では草案が差し戻され、別の調査ユニットに再度割り当てられることとなります。


※AO : Assessment Order(評価通知)
※SCN : Show Cause Notice(情報開示通知)

4、税務当局に対する不服申し立て手続きはどう変わるのか?

直接税にかかる新しい不服申し立て手続き「非対面型不服申し立てスキーム(Faceless Appeals Scheme)」は、非対面型国家不服申立センター(NFAC : National Faceless Appeals Center)が中心となって、納税者と税務調査官、そして、「不服申立ユニット(Appeal Unit)」とのコミュニケーションを仲介し、手続きを進めることとなります。「不服申立ユニット」が担う役割は主に以下のような作業です。

  1. 不服申立手続きに必要な追加的情報・根拠証憑収集を認める
  2. NFACおよび税務調査官に対し、追加的質疑を指示する
  3. 納税者に対してヒアリングの機会を与える
  4. 追加的情報・根拠証憑の分析をする

また、不服申し立て手続きは以下のような流れで実施されます。なお、ステップ5において所得税審判所や裁判所によりNFACに差し戻すこととなれば別途通知書が再発行されます。


※ITAT : Income Tax Applellate Tribunal(所得税審判所)

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