Indian Market "Insight"

インド市場の”今”を知る

Vol. 009 金融サービスのイノベーションを牽引するインドフィンテック市場

1. フィンテックとは?

フィンテックとは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指し、米国で2000年代前半から使われ始めたと言われています[1]。フィンテックという言葉は当初は銀行や商社のバックオフィスで使用されるコンピュータ技術を指していましたが、インターネットやモバイルインターネット、スマートフォンの普及以降、フィンテックは産業として爆発的に成長し、今では個人や様々な金融サービスへ向けた幅広い技術を指すようになりました。フィンテックは、人の手を介さずに、送金、ローン、企業の資金調達、保険商品管理、資産管理などの様々な金融活動を可能にしています。

 

2. インドのフィンテック市場規模

インドのフィンテック市場規模は、2019年に1兆9,216億インドルピー(約2兆9,000億円)と見積もられており、2025年には6兆2,074億インドルピー(約9兆3,000億円)に達し、2020~2025年の間に22.7%の年平均成長率(CAGR)で拡大すると予測されています。[2]2016年にインド政府主導で導入された、スマートフォンで銀行口座からの送金が簡単にできる小口決済システム、統合決済インターフェース(UPI: United Payments Interface)には、2022年3月時点で313の銀行が参加しており、毎月54億ドル(約1280億円)以上の取引を記録しています。

また、インドには、2022年6月時点で7,202社のフィンテックスタートアップ企業が存在[3]しており、世界で最も急速に成長しているフィンテック市場の1つであるといえます。

更に、インドのフィンテック産業には、2022年だけで、既に278件、85億3000万ドルの投資がされており、2022年4月時点で16社のフィンテック企業が評価額10億ドル以上でユニコーン入りを果たしています。 [4]

 

インド通信規制庁(TRAI)のデータによると、インドのインターネットユーザー総数は2021年3月末には8億2530万人に達しており、四半期ベースで3.79%の成長率を記録しています。[5]

インドのインターネットユーザー数は、主に農村部での高い普及率によって、さらに拡大することが予想されます。また、2030年には中所得者層が1億4000万世帯、高所得者層が2100万世帯増加し、インドのフィンテックに対する需要と成長が更に加速すると推測されています。[6]

 

3. インドのフィンテックサービス

インドのフィンテック市場ではどのようなサービスが提供されているのか、分野毎にご紹介したいと思います。

 

1. ペイテック(PayTech)

主に消費者向けサービスとして、決済システム(TPAP: Third Party Application Provider)、プリペイド電子マネー、QRコード決済、決済サービスプロバイダー(Payment Aggregator/PSP: Payment Service Provider)、販売時点情報管理システム(POSレジ、POS: Point of Sales)などが提供されています。インドでは、Paytm、PhonePe、MobiWik、Google Pay、Razor Payがこの分野の主要プレイヤーであるといえます。

2. 融資(LendTech)

融資関係では、後払い決済(BNPL: Buy Now Pay Later)、個人ローン、ゴールドローン、自動車ローン、教育ローン、P2Pレンディング、固定期間融資、貿易金融などのサービスがありますが、この分野では、回収管理、信用調査機関、代替信用スコアリング、サービスとしての融資、融資実行システム(LOS)および融資管理システム(LMS)などが採用されています。Google Pay、M-Swipe、Razor Payは、消費者向けの決済サービスだけでなく、加盟店向けの融資プラットフォームとしても台頭しています。

3. デジタルバンキング(オンラインバンキング)

銀行のオンライン子会社、ネオバンク(オンラインのみで運用され、独自のインターフェース上で銀行サービスを提供する企業)、中小企業向けネオバンクが成長しています。インドでは、Yono、Kahatabook、Crazybeeがデジタルバンキング分野の主要プレイヤーです。

4. 保険/インシュアテック(InsureTech)

保険比較プラットフォーム、デジタル保険会社、オンライン保険商品などのサービスで、クレーム管理、保険金請求、リスク管理、保険商品コンフィギュレーター、保険契約管理システムなどが活用されています。インドのインシュアテックを代表するサービスとしては、Digit InsuranceやPolicy bazaar、Acko Insuranceなどが挙げられます。

5. 資産管理/ウェルステック(WealthTech)

AIを使ったロボアドバイザー、ディスカウントブローカー、投資信託プラットフォーム、リサーチプラットフォーム、オルタナティブ投資(代替投資)プラットフォームなどのサービスが提供されています。主要プレイヤーとしては、Zerodha、Smallcaseが挙げられます。

6. 金融規制対応/レグテック(RegTech)

KYC(本人確認)、不正検知、アンチマネーロンダリング(AML)、銀行コンプライアンスやリスク管理ソリューションなど、金融サービス分野におけるコンプライアンスや規制要件を満たすためにフィンテックが活用されており、Kyo Lab, Enforcd、Finchat、Regroom等がレグテックソリューションサービスを提供しています。[7]

4. インドフィンテック市場への投資

Tracxnのデータベース[8]によると、2021年6月までのフィンテック市場への投資総額は208億ドルで、そのうちの36%は過去2年間に調達されており、その額は86億米ドルにのぼります。2021年第1四半期に、Pine Labsが6億ドル相当の資金調達を行い、更にBharatPe(3億7000万ドル)、OfBusiness(2億700万ドルと1億6000万ドルの2回)、Digit Insurance(2億1700万ドル)、Khatabook(1億ドル)が続き、インドのフィンテック分野だけで46億ドル相当の投資が記録されました。最近では、消費者インターネットグループのProsusの決済部門であるPayUが、インドの決済ゲートウェイサービスプロバイダーのBillDeskを47億ドルで買収しています。

 

インドのフィンテック企業について、もっと詳しく:

Vol.13 : 今押さえておくべきインドのフィンテック企業 前編(決済・融資編)

Vol.14 : 今押さえておくべきインドのフィンテック企業 後編(保険・資産管理/運用編)

5. インドフィンテック市場の展望

インドでは、ミレニアル世代に代表される、最新のテクノロジーに精通した消費者層が急速に増加しており、モバイルファーストの商品やサービスの導入をリードしています。インド国内、特にティア2、ティア3等の比較的小規模な都市では、消費者は昔からの銀行の支店でのサービスを飛ばして、スマートフォンによるオンラインバンキングに移行しはじめています。さらに、スマートフォン・バンキングの分野では、新規顧客の獲得が容易であることが確認されています。[9]

さらに、フィンテックは、雇用の創出やジェンダー格差解消への貢献など、インドにおける社会的格差の解消にも貢献しています。2021年12月9日、Paytmは技能開発省とMoUを締結し、6ヶ月のコースを通じて6000人以上若者に職業訓練を提供し、一部には雇用も提供すると報道されました[10]。また、インドの女性の貯蓄や投資の数は、男性に比べると極めて少なかったものの、モバイルアプリやモバイルウォレット、モバイルプラットフォームの利用が増えるにつれて、増加しているという調査もあり、ジェンダー格差是正への貢献も期待されています。[11]

さらに、インド政府は、公共インフラとしてのオープンAPI群「インディア・スタック」の整備、スタートアップ支援のほか、フィンテックに関する開発や規制を検討する委員会(IMSC: Inter-Ministerial Steering Committee on Fintech)[12]や、シンガポール政府との協業で設立されたフィンテックに関する合同作業部会(JWG: joint working group)[13]など、フィンテックの成長を支援するための組織を設置し、フィンテック業界の成長を推進する取り組みを積極的に行っており、これからも順調な成長は間違いないといえるでしょう。

インドが世界に誇るオープンAPI「インディア・スタック」とは(前編)

「インディア・スタック」はなぜ画期的なのか(後編)

       

参照元データを見る

[1] 日本銀行

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/kess/i25.htm/

[2] India’s Fintech Market 2020-2025

https://www.prnewswire.com/news-releases/indias-fintech-market-2020-2025-expected-to-grow-at-a-cagr-of-22-7-despite-covid-19-disruptions-301067857.html

[3] Fintech Startups in India

https://tracxn.com/explore/fintechStartups-in-India

[4] BFSI – Fintech & Financial Services

https://www.investindia.gov.in/sector/bfsi-fintechfinancial-services

[5] Internet users up nearly 4% to over 825 million in Q4 of FY21: TRAI data

https://www.business-standard.com/article/economy-policy/internet-users-up-nearly-4-to-over-825-million-in-q4-of-fy21-trai-data-121082701105_1.html#:~:text=The%20total%20number%20of%20Internet,(TRAI)%20released%20on%20Friday.

[6] What Trends are Driving the Fintech Revolution in India?

https://www.india-briefing.com/news/what-trends-are-driving-the-fintechrevolution-in-india-23809.html/

[7] What Trends are Driving the Fintech Revolution in India?

https://www.india-briefing.com/news/what-trends-are-driving-the-fintechrevolution-in-india-23809.html/

[8] Fintech Startups in India

https://tracxn.com/explore/fintechStartups-in-India

[9] How Better Mobile Onboarding Can Help Banks Target Millennials and Gen Z

[10] Paytm signs MoU with skill development ministry to train over 6000 youngsters in Fintech

https://www.indiatoday.in/education-today/news/story/paytm-signs-mou-with-skill-development-ministry-to-train-over-6000-youngsters-in-fintech1886113-2021-12-09

[11] Fintech firms are paving the way for women to scale their businesses

https://ibsintelligence.com/blogs/fintechfirms-are-paving-the-way-for-women-to-scale-their-businesses/

[12] Report of the Steering Committee on Fintech Related Issues

https://dea.gov.in/sites/default/files/Report%20of%20the%20Steering%20Committee%20on%20fintech_1.pdf

[13] Cabinet approves India-Singapore pact for setting up JWG on Fintech

https://economictimes.indiatimes.com/small-biz/policy-trends/cabinet-approves-india-singapore-pact-for-setting-up-jwg-on-fintech/articleshow/66346777.cms?from=mdr

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執筆者紹介About the writter

安本 理恵
安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。