"Focus" Indian Startup

スタートアップのインド戦略

Vol.13 : 今押さえておくべきインドのフィンテック企業 前編(決済・融資編)

インド国内スタートアップに特化した印大手メディアInc42の推計によると、2020年インドのスタートアップに対し約115億ドル(約1兆2,700億円)が投資されました

このうち約18.2%にあたる約21億ドル(約2,331億円)がフィンテック部門に投入され、131件の取引を記録し、最も資金調達額が多いセクターとなりました。

同国のフィンテックスタートアップの中で最も大きなシェアを占めるのは「ペイメント(決済)」となっており、次いで「レンディング(融資)」、「ウェルステック(資産管理・運用)」、「インシュアテック(保険)」となっています。

以下、各カテゴリにおける主要企業の概要をご紹介します。

1.フィンテックスタートアップで最も大きなシェアを誇る「ペイメント」部門

(1)インド・フィンテック の王様Paytm

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運営会社        :One97 Communications Limited

Webサイト    :https://www.zomato.com/

設立年           :2010年

本社             :ウッタル・プラデーシュ州ノイダ

CEO             :Vijay Shekhar Sharma

資金調達先:アリババ、Discovery Capital、ソフトバンク他

Paytmインド最大のデジタル決済サービスで、親会社「One97 Communications」の消費者ブランドとして2010年よりインドにて展開しています。

同社は2014年に評価額160億ドル(約1兆7,000億円)に上り、ユニコーン入りを果たしたインド国内で最も価値あるスタートアップのひとつとして知られています。

インドでは銀行口座を持たない層がいまだに多いという背景があり、口座を持たない人でもキャッシュレス決済が可能な同社サービスは人気を博しました。

また、ユーザーはどの銀行口座からでも他の銀行口座への支払いを無料(手数料0%)で行うことができる点や、同サービス内における商品購入に対する請求書の支払い、携帯電話のリチャージなどの各種支払いも可能となっており、利便性が高い点も特徴として挙げられます。

2021年2月時点で、同サービスは2,000万以上の加盟店パートナーを持ち、月間取引数は14億件にも上り、1億5000万人以上の月間アクティブユーザーを抱えています。

同社は2013年に電子マネーでの支払いが可能な「Paytm Wallet」を開始。その後、2016年11月の高額紙幣廃止以降、利用者の急増により1億5000万以上のウォレット利用者ならびにAndroidアプリが7500万件ダウンロードを達し、インド最大のモバイル決済サービスプラットフォームとなりました。

インドで新型コロナのワクチン接種予約が対象年齢引き下げにより(2021年5月より18歳以上が接種可能となった)予約が一時殺到した2021年5月中旬、同社は利用者が効率的にワクチン予約を行えることを目的に「COVID-19 ワクチン・ファインダー」をリリースするなど、顧客ニーズにいち早く対応する取り組みを行っています。

このファインダー機能では、同アプリ内で利用者の地区情報や年齢層に応じ、自動的に予防接種枠の空き状況を確認することができ、ユーザーの負担軽減に貢献しています。

なお、同社はこれまで複数回出資を受けており、2015年には中国アリババと関連会社アントフィナンシャルより共同の資金調達ラウンドにおいて、評価額15億ドル(約1,600億円)にて戦略的投資として6億2500万ドル(約690億円)の資金調達を行っています。同ラウンドにより、アリババグループは同社の筆頭株主となりました。

その後、同社は2017年5月にソフトバンクから14億ドル(約1,550億円)の資金調達を実施し、企業価値は80億ドル(約8,800億円)にまで高めました。同時にソフトバンクはインドにおける単一投資家として史上最大の出資額となり、注目を集めたラウンドとなりました。

また、同ラウンドにおける資金調達はアリババ依存を弱めるのが狙いのひとつとも一部報道されています。

また、2019年11月には、顧客拡大やサービスの拡充を目的に、既存投資家であるソフトバンクならびにアントフィナンシャルから新たに10億ドル(約1,110億円)の追加出資を受けています。

現在、同社は年内を目途に評価額およそ250億~300億ドル(約2兆7,700億~約3兆3,300億円)での上場を目指しており、インド史上最大規模の上場案件となることが予想されています。

(2)小規模事業者や企業向けオンライン決済サービスを提供するRazorpay

運営会社        :Razorpay Software Private Limited

Webサイト     :https://razorpay.com/

設立年           :2013年

本社             :カルナータカ州バンガロール

CEO             :Harshil Mathur

資金調達先:GIC、Sequoia India、Tiger Globalなど

小規模事業者や企業を対象にオンラインでの決済や支払いサービスを提供しているRazorpay(レーザーペイ)は、バンガロールを拠点とする最大のフィンテック企業のひとつです。

同社の決済サービスは多様なデジタル決済(デビットカード、クレジットカード、ネットバンキング、UPI(※)、プリペイド式デジタルウォレット等)での受付や処理、分配が可能である事が特徴で、500万以上もの企業が同社サービスを利用しています。

同社は決済サービスを主軸に、事業所へのローン貸付や法人クレジットカードを発行するネオバンキングプラットフォームを立ち上げ、顧客ニーズの積極的な取り込みと同時に更なるサービス展開を行っています。

同社は2020年10月、製品ポートフォリオの拡充及び事業の成長と収益性の向上を目的とし、シンガポールの政府系ファンドであるGICと既存の投資家であるSequoia Indiaが主導したシリーズDラウンドで1億ドル(約110億)を調達し、評価額が10億ドル(約1,110億円)を超え、念願のユニコーン入りを果たしました。

同社は、前述のPaytmやオンライン決済ゲートウェイのBillDesk、Flipkart傘下のPhonePeなど名だたる企業に続き、5番目にユニコーン入りを果たしたインドのフィンテック企業となりました。

なお、同ラウンドには既存投資家であるRibbit Capital、Tiger Globalも参加しました。

ユニコーン入りを果たしたわずか半年後である2021年4月、同社は年内の東南アジア市場への進出及び製品拡大を目的に、1億6000万ドル(約170億円)の資金調達を実施しました。

シリーズEにあたる同ラウンドでは、前ラウンドでも主導したGICとSequoia Indiaが主導し、評価額は初期の評価額である10億ドルの3倍にもあたる約30億ドル(約3,300億円)となりました。

コロナ禍で資金調達が困難を極める中、念願のユニコーン入りを果たした同社。

今後も更なる成長を目指しており、2025年までに現在の10倍にあたる5000万もの事業所との協業、更にはネオバンキング分野における事業拡大に向けた企業買収についても示唆しています。

※UPI:Unified Payment Interface: 統一支払いインターフェース

インド決済公社が構築したリアルタイムの送金を可能にする銀行間支払いシステムで、スマホを通じて365日24時間、リアルタイムの銀行口座間送金を可能にする決済システム。

UPIを導入した代表的なサービスとしては、Google Pay,WhatsAppなど

(3)ユニコーンの仲間入り従業員福利厚生ソリューションをも提供 Zeta

運営会社        :Zeta(ゼータ)

Webサイト    :https://www.zeta.tech/in

設立年           :2015年

本社             :カルナータカ州バンガロール

CEO             :Bhavin Turakhia、 Ramki Gaddipati

資金調達先       :SoftBank Vision Fund, Sodexo Benefits and Rewards(BRS)

Zetaはバンガロールを拠点に2015年に設立されたインドを代表するフィンテック企業のひとつ。シリアルアントレプレナーであるBhavin TurakhiaとRamki Gaddipatiにより設立されました。

同社は銀行やフィンテック企業を対象に、独自ソフトウェアを提供する「技術サービスプロバイダー」として、クライアントの製品・サービス立ち上げを支援するソリューションを提供しています。

同社はRBL銀行、IDFC First Bank、Kotak Mahindra Bankなどの銀行をはじめ、14,000社の企業を顧客として抱えており、約400万人のユーザーが、銀行やその他の金融機関を通じて同社のサービスを利用しています。

同社のAPI(※)やSDK(※)を導入した顧客企業は、最新のクレジット・デビット処理、BNPL(※)、コア・バンキングやモバイル・エクスペリエンスが搭載された法人向けフィンテック商品を発売することが可能となります。

また、ビジネスモデルとしては、銀行に対しては取引件数や顧客数に応じて課金、フィンテック・スタートアップに対しては、レベニューシェアモデルを採用しています。

※引用:Zeta Payroll Benefitホームページ

 

なお、”Zeta Payroll Benefit”として展開する従業員福利厚生ソリューションを提供しているのも同社の特徴です。

つまり、食事券(meal vouchers)や医療費精算、ギフトカード、燃料カード(fuel card)などを含むすべての給与手当や経費精算プログラムをワンストップで管理できるデジタルソリューションを提供することで、これまで煩雑であった所得控除等の節税手段およびその手続きを、企業および従業員間でシームレスに活用できるようデジタル上でサポートします。

2019年7月に同社は仏フードサービス大手・Sodexo Benefits and Rewardsより非公開にて資金調達を受け、評価額は3億ドル(約330億円)となりました。

その後、2021年5月に米国や欧州・インドでの事業拡大を目的にシリーズCラウンドを実施。同ラウンドはソフトバンク・ビジョン・ファンド主導のもと、2億5000万ドル(約270億円)の資金調達を実施、同社はインドのスタートアップ企業として最速のスピードでユニコーン入りを果たしました。

なお、同ラウンドには、既存の投資家・Sodexoも参加し、同社の評価額は前シリーズでの評価額より4.8倍にも跳ね上がる14.5億ドル(約1,600億円)となりました。

同社は、全デジタル・バンキングのニーズに対応したワンストップ・ソリューション提供を可能とする企業になることを目指し、同分野でのトッププレイヤーになる事を目指しています。

※API…Application Programming Interfaceの略。アプリケーションやソフトウェアの構築と統合に使用されるツールや定義を指す。

※SDK…Software development kitの略。少ない労力でのアプリケーション開発を目的に、プログラム、API、サンプルコードなどをパッケージにしたもの

※BNPL…Buy Now, Pay Laterの略で後払い式 の決済手段を指す。

2.フィンテックスタートアップで2番目のシェアを誇る「融資」部門

前述の通り、フィンテック部門の資金調達において、Lending(融資)はペイメント(決済)に次ぐシェアを誇るカテゴリーです。融資カテゴリーにおけるフィンテックは、従来のアナログ式な融資プロセスを打破し、デジタル方式での実施が可能となったことで、必要な事務処理を最小限に抑える事ができ、スムーズな資金調達が可能となりました。

そのため、これまで十分なサービスを享受できなかったインド国内の零細・中小企業(MSME/ Micro, Small and Medium Enterprises)にとってありがたいものとなっています。

以下、融資カテゴリにおける主要企業の概要をご紹介します。

(1)中小企業向けに融資サービスを提供「Lendingkart」

運営会社        :Lendingkart Technologies Private Limited

Webサイト    :https://www.lendingkart.com/

設立年           :2014年

本社             :グジャラート州アーメダバード

CEO             :Harshvardhan Lunia、Mukul Sachan

資金調達先:Fullerton、Bertelsmann、FMO他

アーメダバードを拠点とするLendingkartは、非銀行金融会社(NBFC)および融資技術プラットフォームとして、迅速な資金調達を希望する中小企業を対象に融資サービスを提供しています。

2014年にHarshvardhan LuniaとMukul Sachanにより設立された同社は、これまで91,000社以上の中小企業に1,000件以上のローン提供を実施しました。

同社はビッグデータに基づく分析ツールを独自開発しており、何千にもわたる様々なデータを分析し、貸し手が借り手の信用力を迅速かつ丁寧に評価を行い、融資サービスを提供しています。

2020年3月以降のコロナ禍により、同社はローン管理におけるSaaS(Software as a Service)の需要性の高まりを受け、2021年1月に独自開発したオールインワンAPI及びSaaSプラットフォーム「Lendingkart xlr8」というパートナー向けオムニチャネルを立ち上げました。

同社はパートナーへAPI(Application Programming Interface)を提供し、同社の介入なくともスムーズにローン管理が出来るようになりました。

そのためパートナー企業はAPIを利用することで、自社プラットフォーム上でローンの進捗状況の確認が可能となり、SaaSプラットフォームを利用することで、全ての申請書作成や記録、進捗管理などワンストップで利用することが可能となりました。

新規事業分野の開発に注力したことが功を奏し、同社は2019年より2年連続黒字を達成しており、20年度の売上高は46億4,000万ルピー(約68億5,800万円)、利益は2億9,600万ルピー(約4億3,700万円)を達成したことを発表しています。

2019年8月、同社は独メディア企業のインド投資部門であるBertelsmann India Investments (BII)やインドのファイナンシャル・アドバイザリー企業であるFullerton Financial Holdingsが主導するシリーズDラウンドにて、21億ルピー(約31億円)の資金調達を実施しています。

その後さらに、同社はコアビジネスの強化と新規分野の開拓への注力を目的に、オランダの起業家育成銀行であるオランダ開発金融公社(FMO)から1,500万ドル(約16億5,100万円)を資金調達しています。

(2)個人向けローンを中心に各セグメントへの融資サービスを展開するInCred

運営会社        : InCred Financial Services Limited

Webサイト    :https://www.incred.com/

設立年           :2017年

本社             :マハラシュトラ州ムンバイ

CEO             : Bhupinder Singh

資金調達先:FMO, Moore Capital,Elevar,Alpha Capital他

ムンバイを拠点とするInCredは、消費者だけでなく企業にもローンを提供しており、個人向け・教育向け・住宅向け・SME(中小企業向け)の4種類のローンを提供しています。

テクノロジーとデータサイエンスを活用し、融資プロセスの簡素化を実現しており、各セグメントにおける融資を迅速かつ容易とする金融サービスプラットフォームとして、すでにインドの20以上の都市で確固たる地位を築いています。同社は、今後は未開拓であるTier III都市への進出を計画しているようです。

2019年4月、同社は分析・リスク管理機能を強化するための技術投資を行うことを目的に、オランダの開発金融公社(FMO)が主導するシリーズAラウンドにて60億ルピー(約88億7,000万円)の資金調達を実施しました。

同ラウンドには、米国の資産運用会社であるMoore Capital、インド・ラテンアメリカに特化したPEファンドのElevar、同社の初期段階での投資家であるAlpha Capitalも参加しています。

同ラウンドでの評価額は1,000億ルピー(約1,478億1,700万円)を超えました。

2020年6月、同社はデジタル配信の強化を目的に、 バンガロールを拠点とするフィンテック企業Ant Creditex Technologies 社が提供する個人ローンの融資プラットフォームサービス「Qbera」を非公開にて買収しています。(一部の報道によると、取引額は1,000万~1,500万ドルと推定)

2017年1月に立ち上がったQberaは、既存の銀行やNBFCでは十分なサービスを受けられない中所得の給与所得者を対象に、様々な小規模の雇用主に雇用されていることを理由に、Indusind BanlやRBL Bankなどの金融機関と提携し、ローンを提供しています。

また、Qbera買収の翌月2020年7月には、個人やMSME、教育など特定セグメントにおける融資拡大を目的に、様々な公的銀行や金融機関に対して債券を発行することにより50億ルピー(約73億9,000万円)を調達しました。

この債券発行は、タームローン、NCD(LTROおよびPCGスキームによる)、市場連動型債券の形で行われました。

後編:Vol.14 : 今押さえておくべきインドのフィンテック企業 後編(保険・資産管理/運用編)

 

       

参照元データを見る

参考記事(Paytm)

1)Top 50 Fintech Startups In India | Fintech Startups in 2021

https://startuptalky.com/fintech-startups-in-india/

2)Introducing COVID-19 Vaccine Finder to help you find a slot for vaccination at the earliest:ワクチン予約リリース記事

https://blog.paytm.com/introducing-covid-19-vaccine-finder-to-help-you-find-a-slot-for-vaccination-at-the-earliest-eda413c2f064

3)Source: Paytm looks to raise $3b in potentially India’s largest IPO:Paytm最新の取引数・IPOに関する記事

https://www.techinasia.com/source-paytm-raise-3b-indias-potentially-largest-ipo

4)SoftBank makes its biggest investment in India, pumps $1.4 billion into Paytm:2017年Softbankによる資金調達

https://www.techinasia.com/softbank-biggest-investment-india-pumps-14-billion-paytm

参考記事(Razopay)

1)India’s Razorpay becomes unicorn after new $100 million funding round:2020年シリーズDの資金調達&今後の展開

https://techcrunch.com/2020/10/11/razorpay-100-million-billion-valuation-unicorn/

2)Razorpay Raises $160 Mn Funding At $3 Bn Valuation; Eyes Southeast Asia Expansion:2021年4月シリーズE&東南アジア展開

https://inc42.com/buzz/razorpay-raises-160-mn-funding-at-3-bn-valuation/

参考データ(Lendingkart)

1)5 top FinTech lending companies for MSMEs in India:サービス概要

2)Lendingkart Raises $15 Mn From Dutch Bank FMO To Sustain Post-Lockdown Momentum

:実績+FMOからの調達(2021年度)

3)[What The Financials] Lendingkart Records Second Straight Profitable Year With INR 464 Cr FY20 Revenue:2年連続黒字

4)Lendingkart Enters Lending SaaS Market To Help Agents Cater To Rising Credit Demand(04 Jan’21)・新規立ち上げ(SaaSプラットフォーム)

5)Lendingkart Launches “Lendingkart Xlr8”, An API & SaaS Platform For Channel Partners And DSAs To Boost Their MSME Reach 新サービス概要(Lendingkart xlr8)

 

<参考記事(InCred)>

[Funding alert] InCred secures Rs 500 Cr in debt led by public sector banks, financial institutions

https://yourstory.com/2020/07/funding-alert-digital-lending-platform-incred/amp

Digital lending platform InCred acquires personal loan marketplace Qbera

https://yourstory.com/2020/06/digital-lending-incred-acquires-fintech-platform-qbera/amp

[Funding Alert] NBFC InCred raises Rs 600 Cr in Series A

https://yourstory.com/2019/04/fintech-startup-funding-nbfc-incred/amp

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