"Focus" Indian Startup

スタートアップのインド戦略

Vol.09 : プロフェショナルの派遣サービス「Urban Company」 急速なビジネス成長の理由とは

プロフェショナルの派遣サービス「Urban Company」 急速なビジネス成長の理由とは

1.各分野のプロフェッショナルを家庭に派遣する「Urban Company」

Urban Company

企業名:UrbanClap Technologies India Private Limited
創業年:2014年
CEO:Abhiraj Bhal
拠点:デリー
業種:ハイパーローカル(地域密着型)ホームサービス
サービス:清掃や美容に携わるローカルのプロフェッショナルを自宅に派遣
展開エリア:インド17都市、海外4都市

Urban Companyは各業種のローカル専門業者「プロフェッショナル」をアプリで自宅に派遣するサービスです。インドでもっとも成長速度のはやいスタートアップと言われ、世界中から大きな注目を集めています。

Urban Companyでは、目的や希望など細分化された項目をアプリ上で選ぶと、ニーズを満たすことができるローカル専門業者を派遣してくれます。

2014年創業当時は占い師やウェディングプランナー、カメラマンの派遣など幅広い職業を扱っていましたが、2020年12月現在は以下の7つをサービスの軸に絞っています。

  • サロン(ネイル、脱毛など)
  • スパ(マッサージ)
  • ホームクリーニング
  • フィットネス
  • 修理
  • グルーミング(散髪)
  • 塗装

特に都市部の女性からの支持が厚く、サロンとホームクリーニングがオーダーの約40%を占めています。[i]2020年1月時点で25,000人以上のプロフェッショナルがプラットフォームに登録し、派遣回数は累計500万回以上を記録しました。[ii]

また、オーストラリア、ドバイ、アブダビ、シンガポールにも進出しており、グローバル企業としての存在感を増しています。

2014年から「Urban Clap」の名で親しまれていましたが、2020年1月にはグローバルブランドとしてのアイデンティティを確立する目的で「Urban Company」にサービス名を変更しました。各分野を独立したブランドとして成長させていくとともに、「ブランドの傘」としてグローバルに「Urban Company」の名前を定着させていく狙いがあります。

2.競争の激しいハイパーローカル界でUrban Companyが人気を誇る理由

Urban Companyが人気を誇る理由

地域の自営業者と消費者をつなげるハイパーローカルビジネスは競争が激しく、フードデリバリーのZomatoやSwiggy、オンラインスーパーマーケットのBig Basketなどがしのぎを削っています。

2015〜2016年にハイパーローカルをマーケットとするスタートアップが約400社にまで増えましたが、2016年末にはそのうち100社以上がサービスを終了しました。[iii]

ホームクリーニングやサロンスタッフの派遣サービスに関しては、AmazonがバックアップしているHousejoyやインドの大手EコマースQuikrが獲得したTimesaverz、美容分野に注力するYes Madomなどが2020年12月現在もサービスを展開していますが、Urban Companyほどの勢いはありません。

競合が乱立するハイパーローカルマーケットで、なぜUrban Companyは拡大の一途を遂げることができているのでしょうか。

Inc42によるとユーザーのリピート率は80〜85%と非常に高い水準を誇っているとのとです。また、ハリヤナ州のソフトウェア企業OyelabsはUrban Companyの収益の85%がプロフェッショナルのコミッションからだと報告しています。Urban Company着実に成長を続けている理由として、ユーザーとプロフェッショナルの両者にとってメリットである以下の4つの点が考えられます。

  • 理由1:ローカル専門業者を効率的に手配できるアプリのUI/UXデザイン
  • 理由2:質の高いサービスを提供するための徹底したトレーニング
  • 理由3:透明な料金システム
  • 理由4:満足度の高いプロフェッショナルの労働環境

理由1:ローカル専門業者を効率的に手配できるアプリのUI/UXデザイン

Urban CompanyアプリのUI/UXデザイン

Urban Companyの人気の最大の理由として、「そもそもUrban Companyなどのサービスを利用せずローカル専門業者を呼ぶのがあまりにも時間がかかりすぎる」ことが挙げられます。

Urban Companyのサービスを使わない場合、知人に聞いて紹介してもらうか、Yellow Pages やJust Dial(ローカル専門業者の連絡先をまとめたもの)に載っている電話をかけて回らなければなりません。「配管工を呼ぶのに半日、ヨガのトレーナーを探すのには3日かかる」と創業者が言うように、自力で信頼できる業者を見つけるのは至難のわざです。

当時、「(2014年にもなって)ローカル専門業者に仕事を頼むのが大変すぎる」問題が創業者たちの目に止まり、Urban Company立ち上げのきっかけになったとのことです。

Urban Companyはアプリでカテゴリーを選択すると事前に見積もりを見ることができ、ユーザーのニーズにマッチングしたプロフェッショナルを時間通りに派遣してくれます。加えてサービスの質が安定しており、トラブルの際にはカスタマーサポートが仲介してくれます。圧倒的な便利さから、瞬く間に利用者が増えていきました。

理由2:質の高いサービスを提供するための徹底したトレーニング

Urban Companyの徹底したトレーニング

Urban Compapnyの売り上げ増加に伴い、プロフェッショナルのトレーニング費用への投資額が大きく増えています。2019年3月期の売上高が4億6,670万ルピー(約6億6,000万円)に対し、2020年3月期の売上高が11億5,650万ルピー(約16億3,600万円)と約2.5倍に躍進しました。

一方、トレーニングおよびリクルーティング費に関しては、3月期340万ルピー(約480万円)に対し、2020年3月は1,550万ルピー(約2,200万円)と5倍近く増加しています。トレーニングおよびリクルーティングに投資する金額の増加率からも、Urban Companyがいかにトレーニングを重要視しているのかわかります。[iv]

Urban Companyのプロフェッショナルは厳しい採用過程を経て、現場に送り出されます。AuthBridgeなどのサードパーティーサービスを使用して候補者のバックグラウンドをチェックした後にスキルテストとインタビューで候補者を絞り、トレーニングに進みます。トレーニングはインド全土50箇所の訓練所で100人のトレーナーのもと行われます。15日間の接客と専門スキルのトレーニングののちにプロフェショナルとして認定されるのは、最初の候補者の5〜15%程度です。

Urban Companyはインド 政府の職業訓練政策(Skill India Mission)を支える存在としてNational Skill Development Corporation (NSDC・インド財務省によって官民パートナーシップのモデルとして設立された非営利企業) とパートナーシップも結んでおり、Urban Company自身のビジネスのためだけでなく、インドの将来の雇用機会の創出も担っています。

また、手洗いの方法やマスクの利用、手袋や雑巾などの掃除道具や散髪用ケープ、マッサージ用シーツなどのプロダクトの使い捨てを徹底するトレーニングも行い、サービス利用によるコロナ感染拡大対策にも尽力しています。

2020〜2025年にかけて、Urban Companyによって訓練されたプロフェッショナルを100万人規模まで増やす展望とのことです。[v]

理由3:透明な料金システム

Urban Companyの透明な料金システム

ローカル専門業者にサービスを依頼する際にトラブルになりやすいのが支払い関係です。あらかじめ事前にきちんとした見積もりを書面で得ることが難しく、得ることができたとしても当てにならないことがめずらしくありません。

一方、Urban Companyは料金設定が細かく、希望するサービスの金額をあらかじめアプリ画面上で確認することができるので、ユーザーの安心感が格段に高いと言えます。

また、Urban Companyが掲げるミッションの1つに「仲介する第三者をできるだけ取り払い、実際に手を動かすプロの業者と消費者をつなぐ」ことがあげられます。

例えば、エアコンの修理を地元の業者に頼む場合、一度仲介業者が来て状態を確認し、それから専門の修理業者を呼ぶことも少なくありません。この場合、いくらコミッションを払い、本来の請求金額がいくらなのか実態がわかりません。時間も無駄にかかります。

当然、プラットフォームを提供するUrban Companyへのコミッションは存在しますが、プロフェッショナルとユーザーが直接取引するので不透明な仲介手数料を払う必要がなく、わかりやすい料金システムを実現できています。

理由4:満足度の高いプロフェッショナルの労働環境

Urban Companyの満足度の高いプロフェッショナルの労働環境

Urban Companyは「ローカル専門業者の働き方・稼ぎ方を変える」ことにも重きを置き、ユーザーだけでなくプロフェッショナル側の体験も重視しています。

Urban Companyのコミッションはサービスの種類によって5〜20%に設定されており、ユーザーがプロフェッショナルに支払ったサービス料金にチャージされます。一般的なローカルのサロンで働く人の給料は月10,000〜15,000ルピー(約14,000〜21,000円)ですが、Urban Company創立者の1人であるAbhiraj氏のLinkedinによるとプロフェッショナルは月平均30,000〜50,000ルピー(約56,000円〜70,000円)稼ぎ、10万ルピー(約14万円)以上の収入がある人も少なくないとのことです。

高い収入がプロフェッショナルのモチベーションになっていることはもちろんのこと、無料で受けられるトレーニングの満足度が高いことも特徴としてあげられます。

Urban Companyはプロフェッショナルを労働者(worker)ではなく、個人企業家(micro entrepreneur)と位置付けています。そのため、プロフェッショナルはスキルアップのトレーニングだけでなく、企業家として自立できるよう財務や保険に関する教育も行っています。

銀行口座の開設やローンの手続き、生命保険や健康保険へのアクセス方法を教育しており、2020年3月時点でコロナ感染に対する保険内容を拡大し、全プロフェッショナルに適用しました。(コロナ感染の際には最大25,000ルピーまでの入院費のカバーと最大14,000ルピーの収入保障)[vi]

加えて消毒液やPPTキットの配布や、緊急時のためのSOSヘルプラインセーフティーセンターの設置も実施されています。

Financial Express Onlineの独自調査は、ZomatoやUber、Amazonなどハイパーローカルの大手競合を抑え、労働者の労働環境への満足度がもっとも高い企業はUrban Companyだと報じています。

プロフェッショナルがUrban Companyの看板を背負って働くことへのやりがいを感じて働くことで、サービスの質やユーザーリピート率の高さにつながっていると言えるでしょう。

3.サービスの質で活躍するソーシャルベンチャー「Sakura Home Service」

サービスの質で活躍するソーシャルベンチャー「Sakura Home Service」

インドのハイパーローカルマーケットで、プレミアムなサービスを武器に活躍するベンチャー企業もあります。

水流早貴さんが立ち上げたBLJ International Private Limitedの「Sakura Home Service」はインド人富裕層をターゲットに、日本で用いられる清掃技術を駆使したプロフェッショナルなホームクリーニングサービスを提供しています。

Sakura Home Serviceの特筆すべき点は、スラムの女性を雇用していることです。スラムの女性は一般家庭のメイドとして雇われることが多いのですが賃金が非常に安く、子供を学校に通わせることさえできません。貧しく厳しい環境に置かれたスラムの女性に徹底したマナーとスキル研修を行い、「清掃のプロ」に育てあげることで高い給料を実現しているのがSakura Home Serviceです。

また、雇用時には「子供を通学させる」ことを条件としており、貧困の連鎖を食い止めようとするソーシャルベンチャーとしての強い理念が窺えます。

Urban Companyをはじめとするインドスタートアップのサービスはどうしてもインド基準なので、清掃でも「トイレは掃除しない」「全体的に雑」などの点が気になることもあります。一方、Sakura Home Serviceは日本のプロの清掃業の技術を活用しており、マナー教育も水流さん自らが指導しているため、質の高さは抜群だと言えるでしょう。教育の際には誰がやっても真似できるよう、徹底的な作業の標準化を実施し、可能な限り写真や図を手順書に利用しているとのことです。

ユーザーとして質の高い清掃サービスを提供しながら、社会への貢献も実現しているSakura Home Serviceの今後のサービス展開にも要注目です。

実際にサービスを利用してみた感想

洗濯機の排水溝から水が漏れ、給水口が詰まってしまった際にUrban Companyを利用しましたが、とにかく楽だと感じました。以下の3点が気に入ったポイントです。

  • プロフェッショナル自身の評価に響くのでほぼ予約時間どおりに来てくれる
  • 請求金額の詳細がアプリに記載されるので、不正請求の心配がない
  • サービスに不具合があった場合、後日同じ人が再訪問してくれる

インド暮らしの悩みの1つが、「地域の業者とのやりとり」です。インドのアパートや製品は何かしらの不具合が起きる頻度が高いのですが、業者に電話しても現地語しか通じない、時間通りに来てくれない、請求金額がやたらと高い…などトラブルが続き日本の3倍以上の時間と手間、労力がかかるイメージでした。

一方、Urban Companyのプロフェッショナルはユーザーの評価を重視しているのか、(評価が4.2/5以下になると登録解除)きちんと時間通りに来てくれました。日本では考えられませんが、時間を守ってくれるだけでもUrban Companyのサービスを利用する価値があると感じます。

そして、訪問料金499ルピー(約700円)と各種部品代やコロナ対策料金、サービス後に不具合が生じた場合の再訪問に備えた保険など合わせて3,200ルピー(約4,500円)の支払いでしたが、アプリに請求の詳細が表示されるので安心です。

プロフェッショナルの方はカスタマーサービスに関してもしっかりとトレーニングを受けている印象があり、終始トラブルになるようなことはありませんでした。ただ、やはりUrban Companyのルールが厳しいからか、何度も「今後はアプリを通さず直接連絡してくれ」と頼まれたのもインドらしいと感じました…。

ユーザーとしてはあらゆるトラブルから守ってくれるUrban Companyが仲介してくれている点が非常に頼もしく、今後も使い続けることは間違いありません!

4. コロナ禍でも業績良好なUrban Companyの今後の展望

Urban Companyの今後の展望

コロナの感染拡大を受けてインド政府は2020年3月末からロックダウンを実施しました。その影響を受け、Urban Companyもプロフェッショナルの派遣を一部中止し、売上が落ち込みました。

しかし、2020年11月の時点で4月より30%売上が増加し、回復の兆しを見せています。[vii]特に男性のグルーミングが人気で、コロナ禍以前の売上の4倍にも到達しているとのことです。サロンに行くより自宅でサービスを受ける方が衛生的だと考える人が増えたことや11月のインドのフェスティバルシーズンの後押しなどが背景にあると考えられます。外出自粛の影響を受け、家庭でのサロンやスパ分野の需要も高まっています。

今後は、サービス名変更時に掲げた「グローバルブランドとしての規模拡大」に再度注力していくとのことです。

数年後には「Urban Company」のロゴを日本でも見ることができるのでしょうか。ビジネス展開に期待がつのります。

5.まとめ

もっとも勢いよく成長するスタートアップとして知られる「Urban Company」はユーザーの高いリピート率と満足度を保ち、拡大の一途を遂げています。

コロナの感染が拡大する以前からプロフェッショナルの保険拡充やユーザーの安全確保に努め、感染拡大が続く中、順調に売り上げを取り戻しつつあります。グローバル規模でのサービス展開を進めるUrban Companyの今後に注目してみてください。

               

監修者からのコメント

インドのB2Cサービスコマースにおける成長プロセス

さまざまな修理工やホームクリーニング、ネイルや散髪などのプロフェッショナルサービスの品質に極めてばらつきがあり、予約一つとっても不便なインドにおいて、予約の簡便さと一定のサービス品質を保証する、いわゆる「サービスコマース」への需要は大きく、本稿でも取り上げられたUrban Companyをはじめとして様々なスタートアップが成長してきました。

そんなUrban Companyですが、2014年のサービス開始当初は、そのサービス品質にはかなりばらつきがありました。一方で、立ち上げ初期から大型の資金調達を行い、その資金をディスカウントやマーケティングへと大胆に投下して一気に多くのユーザーを獲得したことで、各プロフェッショナルへの膨大なレーティング(評価)データを蓄積することに成功し、今ではかなり高いサービス品質を維持しています。

このように、インドのB2Cサービスにおいては、「量が質を生む」という現象が発生しやすく、ユーザー数やデータ量が一定のクリティカルマスを越えるまで経営者や投資家が(場合によっては巨額の赤字も含めて)我慢をして取り組めるかどうかも明暗が別れるポイントとなっているように感じられます。

村上 矢

監修者:村上 矢

野村證券グループの東京及びNY拠点にて一貫してIT/インターネット領域のスタートアップを担当。多くの企業をIPOへと導く。2014年にインドへと移り、現地にてスタートアップ立ち上げを経験。2016年にIncubate Fund Indiaを設立し、ジェネラルパートナー就任。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 政治学専攻、歴史学副専攻 卒

Incubate Fund Indiaは創業初期のインド企業への投資に特化したベンチャーキャピタル。日本で200社を超えるスタートアップ企業をサポートしてきたインキュベイトファンドの投資哲学とノウハウを活かしてインド企業への投資と成長支援を行なっている。これまでに15社のインド企業への投資を実行。日本人投資責任者がインド現地に常駐する稀有なファンドとして、投資だけでなく日印間の企業連携などへも積極的に貢献している。