"Focus" Indian Startup

スタートアップのインド戦略

Vol.14 : 今押さえておくべきインドのフィンテック企業 後編(保険・資産管理/運用編)

3.急成長中で注目を集める「保険(インシュアテック)」

インドはアジアで2番目に大きなインシュアテック市場かつ最も急成長している市場のひとつとして、多くの投資家から関心を集めています。

インド国内に少なくとも66社のインシュアテック企業が存在しており、APAC(アジア太平洋)地域かつインシュアテックに投資をしているベンチャーキャピタルの総投資額36億6,000万ドル(約4,027億7,300万円)のうち、インドが35%を占めています。

また、インドの支払保険料総額は15年度から20年度までの5年間で年間成長率(CAGR)10%で成長しており、2020年3月までの12カ月間では合計1,070億ドル(約11億7,700万円)に達したと発表されています。

以下、保険カテゴリーにおける主要企業の概要をご紹介します。

(1)年内IPOの可能性!Amazon傘下のオンライン保険サービス Acko

参照:https://www.acko.com

運営会社        :Acko Technology and Services Private Limited

Webサイト      :https://www.acko.com/

設立年           : 2016年11月

本社             :マハラシュトラ州ムンバイ

CEO             :Varun Dua

資金調達先            :Amazon,Binny Bansal,RPS Ventures

Acko(アコ)は、2016年にマハラシュトラ州ムンバイを拠点に創業した保険のオンライン販売を行うフィンテック企業です。

同社は自動車保険やバイク保険をオンラインに特化して販売を行っている点が特徴で、ユーザーの消費行動や顧客の対話・行動などの深層データ分析に基づき、パーソナライズされた保険商品の提案・提供を行っています。

また、出資元であるアマゾンはアコの保険販売代理業として新しい保険を共同開発し、販売を実施しています。

同社は、設立わずか1年間で2万人以上もの顧客を獲得(保険契約)、現在は4,000万人以上の顧客を獲得しており、インドのオンライン購入における自動車保険においては約8%のシェアを獲得しています。

2018年5月、同社は更なる事業強化を目的に、シリーズBラウンドにて1200万ドル(約13億2,000万円)の資金調達を果たしました。このラウンドは世界的リーディングカンパニーであるAmazonが主導し、投資企業ChrysCaptalの創業者であるAshish Dhawanも同ラウンドに参加しました。

翌年2019年、同社は自動車エコシステムの強化を目的に、インド・ムンバイを拠点とする自動車関連企業(国内の故障車販売)VLer Tech社を非公開にて買収しました。この買収により、VLer社の創業者であるSanjay Bharti氏とAkash Saxena氏は、Acko社の技術チームに加わり、更なる同社の技術力の向上に繋がっています。

さらに、2019年3月にはシリーズCラウンドにて新たに6500万ドル(約71億5,300万円)の資金調達を成功しています。同ラウンドには既存投資家であるAmazonをはじめ、Flipkart創業者のBinny BansalやベンチャーキャピタルであるRPS Venturesなども参加しています。

2021年5月、インド国内スタートアップに特化した印大手メディア・Inc42の報道によると、Acko社はユニコーン入りを見据え、新たに2億ドル(約220億900万円)を調達する可能性があり、年内上場の可能性も報じられています。

この資金調達が実現すれば、同社はインドのスタートアップでユニコーン入りを果たす12番目の企業となると言われており、現在注目を集めています。

(2)日本のGunocyが投資!インド若者向け金融サービス「slice」

運営会社               :GaragePreneurs Internet Pvt. Ltd.

Webサイト           :https://www.sliceit.com/

設立年                  :2015年6月

本社                      :カルナータカ州バンガロール

CEO                     :Rajan Bajaj

資金調達先            :Gunosy, Pegasus Wings Group, Das Capitalなど

サービス画面イメージ参照:https://www.sliceit.com/

2015年バンガロールを拠点に設立されたGaragePreneurs Internet Pvt. Ltd.は、インドで若者を対象にキャッシュレス決済・少額デジタル融資・クレジットカード発行サービスを提供する「slice」を運営しています。

同社が提供する「slice」は、従来の手法では信用不足によりクレジットカード等の与信を受けることが困難とされていた学生を中心とする若者(18歳から29歳までの若い消費者に限定)を対象に、スマートフォン等を介したキャッシュレス融資を行える点が最大の特徴として挙げられます。

1万ルピーから最大10万ルピー((約1.5万~15万円)という少額融資を、スマートフォンなどを利用し手軽かつスピーディに可能としています。

同サービスは、現在300万を超える登録数を有しており、1日あたり15,000件もの取引を実施、前月比25%の安定した成長を続けています。

2019年9月、同社は急成長へのサポートを目的に、280万ドル(約3億800万円)の借入(デット)による資金調達を実施しました。

同ラウンドには情報キュレーションアプリやメディアの開発・運営を行う日本企業・Gunocy(グノシー)の投資育成事業を担う子会社のコーポレートベンチャーキャピタルGunosy CapitalとDas Capitalの投資部門であるPegasus Wings Groupが参加しています。

同ラウンド実施にあたり、創業者・Rajan Bajaj氏は「1日に約15,000件の取引が行われ、30万人以上の顧客が待機している状況。

このペースに追いつくために、資金調達は我々にとって常に必要である」と想いを述べています。

尚、Gunosy Capitalはこれまでもインド企業への出資を行っており、オンラインレンタカー事業を展開するZoomcar、オンライン決済サービスInstamojoにも出資を行っています。

これまで数回にわたりSliceへ投資を実施しており、それは「slice」の顧客基盤分析・デジタルプラットフォーム共同開発などにおける将来的な協業可能性を見据えたものと発表しています。

その後、同社は黒字化達成を発表し、2020年1月にプレシリーズBラウンドにて600万ドル(約6億6,000万円)の調達、最新ラウンドである2021年1月には2,000万ドル(約22億円)の調達をしており、既存投資家であるGunosyがリード投資家としてこれらの資金調達を主導しました。

この資金調達により、経営陣の増員をはじめ、銀行との提携による共同ブランドによるプリペイドカードやクレジットカードの発行、21年度末までに現在の1.6倍以上となる500万人以上のユーザー獲得を目指すなどさらなる成長が期待されています。

なお、2021年11月、同社は既存投資家であるTiger GlobalとInsight Partnersが主導するシリーズBラウンドで2億2000万ドル(約251億1400万円)を調達し、見事41番目のユニコーン入りを果たしました。同社は今回の資金調達により、インドの決済分野における更なるプレゼンスの拡大及び強化、人材採用や製品拡充を図るとされています。(※2021年12月8日追記)

 

4.今後3倍以上もの成長が見込まれるインドのウェルステック

ここ数年、世界的に「ウェルステック」に大きな関心が集まっています。

ウェルステックとは「先端テクノロジーを活用し、資産管理や運用の効率化や利益拡大を図ることを目的としたフィンテックの一種」であり、デジタルプラットフォーム上での投資や換金、ポートフォリオ管理が可能となっています。

世界全域に配信ネットワークを有する企業ニュースリリース配信会社Businesswire社の記事によると、ウェルステックの主なユーザーはデジタルに精通したミレニアル世代(20代前半から30代後半を指し、インドの人口1/3を占める)で、顧客の約70%を占めているそうです。

2020年時点で、インドには約400万人のウェルステック投資家が存在しており、今後の成長と連動して2025年には約3倍の約1,200万人に増加すると予想されています。

インドのウェルステック市場規模は2020年には200億ドル(約2兆2,000億円)であるものの、対象顧客層の拡大および同市場に関心を示す投資家の増加を受け、2025年には約3倍にあたる630億ドル(約6兆9,300億円)にまで成長すると予想されています。

以下、ウェルステックカテゴリにおける主要企業の概要をご紹介します。

(1)Amazonが出資するオンライン金融サービスBankBazaar(バンクバザール)

参照:https://www.bankbazaar.com/

運営会社        : A&A Dukaan Financial Services Private Limited

Webサイト     :https://www.bankbazaar.com/

設立年           : 2008年2月

本社             :タミルナドゥ州チェンナイ

CEO             :ADHIL SHETTY

資金調達先            :Amazon, Fidelity Growth Partners, Mousse Partners社など

2008年にチェンナイを拠点に設立されたA&A Dukaan Financial Services Pvt.Ltdは、金融商品のマーケットプレイスであるBankBazaar(バンクバザール)を運営しています。

同サービスはWebブラウザもしくはアプリにて展開されており、マーケット内では個々によりカスタマイズ可能なローンや投資信託、保険商品などの提供を行っています。

また、ユーザーはマーケット内で希望の金融商品を検索・比較し購入することができ、無料で消費者信用スコアリングを提供している点も同サービスの特徴のひとつです。

2020年2月時点で、登録ユーザ数は4,000万人を超えています。

<無料のスコアリングサービス>

参照:https://www.bankbazaar.com/credit-score.html

2015年7月、同社はシリーズCラウンドにて6000万ドル(約66億円)の資金調達を実施し、同社史上最大の資金調達を実施しました。

同ラウンドは世界的リーディング企業であるAmazonが主導しており、これは競合である印Eコマース企業・Snapdealがデジタル金融サービスプラットフォームRupeePowerへの買収に対抗したものとみられています。

尚、同ラウンドには、ベンチャーキャピタルのFidelity Growth Partners社とMousse Partners社も参加しました。

また、同年6月にはシリーズDラウンドにて約600万ドル(約6億6000万円)の追加資金調達を実施し、新型コロナによる非接触型需要の高まりを受けた「非接触型金融サービス」の提供を加速するソリューション開発(クレジットへの非接触型アクセスの実装)を推進しました。

同ラウンドには既存投資家であるAmazonをはじめ、Walden SKT Venture FundやSequoia Indiaも参加しています。今回の資金調達により同社の総資金調達額は1億1,600万ドル(約127億円)に達したと報じられています。

多くのフィンテック企業が、キャッシュバーン(現金燃焼)を下げようとしている中、同サービスは2019年10月から2020年1月まで、月平均46%の収益成長を達成しており、同期間にて17%のコスト削減を実現しました。

また、同社の創業者・Adhil氏は2020年度に初の単年度黒字化も視野に入れている事を述べており、この黒字化が実現すれば、22年度を目途にIPO実現と同時に更なる大きな成長が期待されます。

(2)フィンテックのベテランが新たに立ち上げ!インドの専門職に特価したウェルステックアプリ「Cube Wealth(キューブウェルス)」

運営会社        :Cube Consumer Services Pvt. Ltd.

Webサイト     :https://www.bankoncube.com/

設立年           :2016年1月

本社             :マハラシュトラ州ムンバイ

CEO             :Satyen V Kothari

資金調達先    :Beeenext,500 Startup,Asuka Holdingなど

引用:http://www.janavikothari.com/cube-wealth

Cube Wealth(キューブウェルス)はインドのビジネスパーソン・専門家向けに、アプリ上で投資オプションと専門家のアドバイスを提供するデジタルウェルスマネジメントサービスです。

Cube社は「インドのビジネスパーソンを財務的に独立へと導く」をミッションに、過去Citrus Pay社を設立した経験を持つ“フィンテックのベテラン”であるSatyen Kothari氏により、2016年にムンバイを拠点に設立されました。(※ちなみに、Citrus Pay社は2016年にNaspersグループ傘下のオンライン決済サービスPayU社によって、インドのフィンテック領域で最大級のM&A案件として、1億3000万ドル(約142億7,900万円)で買収されています。)

Cube Wealthは「MAP哲学(*1)を用いた規律ある長期的な富の創造」をコンセプトに掲げ、忙しいビジネスパーソンがシンプルかつストレスフリーに投資が行えるように、ゲーミフィケーション(*2)を利用し、アプリを通じて投資が可能となっています。

投資オプションとしては、投資信託、外国株式、デジタルゴールド、株式取引など、資産クラスを超えた17種類を提供しており、ユーザーのニーズに合わせた投資の多様化を支援しています。

また、投資家による投資ポートフォリオ作成のガイド提供や、専任のウェルスコーチのサポート提供や、海外の株式投資を望む投資家向けに、従来の複雑な手順を取り除いた簡素なデジタル投資を行える点も同アプリの特徴として挙げられます。

2018年10月、同社は製品ラインナップの拡大及びヨーロッパと日本の非居住インド人へのリーチ拡大を目的に、シリーズAラウンドにて、200万ドル(約2億2000万円)の資金調達を実施しました。

今回のラウンドはシンガポールのアーリーステージVCであるBeeenextや米国のベンチャーファンド500 Startupをはじめ、シリコンバレー、香港、ヨーロッパ、シンガポール、インドの国際的なエンジェル投資家およびシード投資家、日本からはAsuka Holdingが参加しました。

2020年1月、同社は新サービス立ち上げを見据えたエンジニアリングチームおよびグロースマーケティングチームの拡大を目的に、50万ドル(約5,400万円)のミッドシリーズファンディングを実施しました。同ファンディングには、前ラウンドに続き既存の投資家であるBeenext及びAsuka Holdingが参加しています。

また、同時期に同社は「Cube Cloud」というクロスボーダーSaaSサービスとマーケットプレイスを立ち上げました。この新サービスにより、インドや東南アジアのファンドマネージャーが50カ国の投資家からの資金追跡が可能となり、今回の資金調達の一部が、Cube Cloudのマーケティングにも活用されると公表しており、今後の更なる成長が期待されます。

*1…MAP哲学:MAPは以下の頭文字を取ったもの

M=株式、投資信託、P2P融資、慈善事業への投資などの複数の資産クラスを表す

A=アドバイザー

P=会員に対する人的サポート及びプレミアムメンバー向けのWhatsAppプライベートウェルスコンシェルジュサービス

*2…ゲーミフィケーション:ゲームに使用されている構造をゲームとは別分野で応用すること。

ゲーム化を意味する「Gamify(ゲーミフィ)」という単語が語源とする。

代表的な例としては、会員制のサービスに設けられている「ポイント制」や「レベル別の特典」など。

前編:Vol.13 : 今押さえておくべきインドのフィンテック企業 前編(決済・融資編)

       

参照元データを見る

リード文:India is second largest insurtech market in Asia Pacific, S&P Global says

https://economictimes.indiatimes.com/tech/startups/india-is-second-largest-insurtech-market-in-asia-pacific-sp-global-says/articleshow/82735254.cms

1)6 InsurTech Companies in India Featured in the Prestigious InsurTech100

https://www.mantralabsglobal.com/blog/insurtech-companies-in-india-insurtech100/

2)Amazon, ChrysCap Founder Lead $12 Mn Funding In Insurtech Startup Acko:Amazon出資

https://inc42.com/buzz/amazon-chryscap-led-12-mn-funding-round-in-online-insurance-startup-acko/

3)Amazon-Backed Acko Raises Fresh $65 Mn In Series C From Binny Bansal, RPS Ventures, Others

https://inc42.com/buzz/amazon-backed-acko-raises-fresh-65-mn-in-series-c-from-binny-bansal-rps-ventures-others/

4)Binny-Bansal Backed Acko Acquihires Automotive Startup VLer Tech:買収

https://inc42.com/buzz/acko-acquihires-automotive-startup-vler-tech/

5)Amazon-Backed Acko May Raise $200 Mn To Enter Unicorn Club:年内IPO

https://inc42.com/buzz/amazon-backed-acko-may-raise-200-mn-to-enter-unicorn-club/

1)SlicePay Raises $2.8 Mn Debt Funding To Support Its Rapid Growth:19 Sep’19

https://inc42.com/buzz/slicepay-raises-2-8-mn-debt-funding-to-support-its-rapid-growth/

2)Fintech Startup slice Closes Pre-Series B Funding Round At $6 Mn:25 Jun’20

https://inc42.com/buzz/fintech-startup-slice-closes-pre-series-b-funding-round-at-6-mn/

3)Fintech Startup Slice Raises $20 Mn Led By Blume Ventures, Gunosy Capital:28 Jun’21

https://inc42.com/buzz/fintech-startup-slice-raises-20-mn-led-by-blume-ventures/

リード文:India Wealthtech Market Report 2020: A $60 Billion Opportunity by Fy25 – ResearchAndMarkets.com

https://www.businesswire.com/news/home/20210618005490/en/India-Wealthtech-Market-Report-2020-A-60-Billion-Opportunity-by-Fy25—ResearchAndMarkets.com

1)Sequoia-backed BankBazaar bags $6m to build out contactless financing capabilities

https://www.techinasia.com/bankbazaar-bags-6m

2)BankBazaar CEO Adhil Shetty Targets Profitability This Year, IPO By 2022:26 Feb’20(IPO)

https://inc42.com/buzz/bankbazaar-ceo-adhil-shetty-targets-profitability-this-year-ipo-by-2022/

3)BankBazaar Bags Another Investment From Amazon:10 Apr’20:アマゾンからの出資

https://inc42.com/buzz/bankbazaar-bags-another-investment-from-amazon/

4)BankBazaar Bags INR 45 Cr To Offer Contactless Financial Service:02 Jun’20

https://inc42.com/buzz/bankbazaar-bags-inr-45-cr-to-offer-contactless-financial-service/

5)Updated: Amazon Invests $60 Mn In Online Financial Marketplace BankBazaar

https://inc42.com/flash-feed/amazon-bankbazaar/

1)Cube Wealth Adds Foreign Stock Investments To Bring Global Markets To Indian Retail Investors

https://inc42.com/features/cube-wealth-adds-foreign-stock-investments-to-bring-global-markets-to-indian-retail-investors/

2)Citrus Pay Founders’ Startup Cube Wealth Raises $2 Mn Funding

https://inc42.com/buzz/citrus-pay-founders-startup-cube-wealth-raises-2-mn-funding/

3)Beenext, 500 Startups join Indian startup Cube Wealth’s US$2M funding round

https://e27.co/beenexts-teruhide-sato-invests-indian-app-cube-wealth-20181022/

 

4)Naspers-owned PayU to acquire India’s Citrus Pay for US$130M

https://e27.co/naspers-backed-payu-to-acquire-indian-fintech-company-citrus-pay-for-us130m-20160914/

5) Cube Wealth raises mid-series funding, launches SaaS solution for fund managers

https://www.livemint.com/companies/start-ups/cube-wealth-raises-mid-series-funding-launches-saas-solution-for-fund-managers-11590993577633.html

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