"Focus" Indian Startup

スタートアップのインド戦略

Vol.17:急成長中のユニコーン企業に見る〜インド国内求人ポータル最新動向〜

インド国内求人ポータル最新動向に関する記事のイメージ画像

1.はじめに

日本とインド、両国の雇用市場は現在、対照的な課題に直面しています。日本では労働人口の減少が進んでいる一方で、インドでは人口過多が顕著です。

これらの状況は、企業の求人リスト、キャリアアドバイス、履歴書の投稿サービスなどを提供し、一方で雇用主には求人広告の掲載や候補者の検索などのサービスを提供する求人ポータル運営企業の成長に大きな影響を与えています。

インドにおける労働市場の飽和が進む中、求職者と雇用機会をマッチングさせる求人ポータルの役割が重要になっており、新たにスタートアップとして急成長を遂げる企業も出てきました。

本記事では、インドの雇用市場の現状を探り、求人ポータル運営企業がどのようにこれらの課題に対応しているか、またそれがどのようにして両国の雇用状況に影響を及ぼしているかについて考察したいと思います。

2.インド雇用市場の現在

ではさっそく、インドの雇用市場の成長背景について解説していきます。この市場の顕著な成長は、具体的には3つの主要な要因によって支えられてきました。

最初の要因は、経済の急速な拡大とそれに伴う雇用機会の増加です。ここでは、新しい産業や職種の出現が目立ちます。

次に、デジタル化と技術の進歩が、オンラインでの求人・求職活動を助け、特にスマートフォンの普及がこの分野で重要な役割を果たしてきました。

最後の要因として、若く教育を受けた労働力を含む人口構造の変化があります。この変化は、新しい技術の活用を容易にし、雇用市場の発展を促進しています。

これらの要素は、インドの雇用市場がどのようにして成長しているのかを理解する上で中心的な意味を持ちます。以下で、これら3つがインドの雇用市場に与える具体的な影響について、詳しく見ていきましょう。

1)経済成長と雇用機会の増加

インドの雇用市場において、経済成長と雇用機会の増加は密接に関連しており、この相関関係は近年特に顕著になっています。2024年現在、インド経済は多岐にわたる分野で堅調な成長を続けており、これが労働市場に新たな機会をもたらしてきました。

経済成長の推進力の一つは、インドがグローバルな企業の拠点およびサービスセンターとしての地位を確立していることにあります。特に注目されるのは、ITおよびテクノロジー関連の産業です。

このセクターは、年間平均約8%の成長率を記録しており、国のGDPにおける割合も増加しています。また、国策として施行された『デジタルインディア』という政策もインドのデジタル化推進にとても貢献しており、IT分野だけで数百万の新しい雇用が生まれると予測されています。

さらに、製造業においては、『メイク・イン・インディア』の政策で国内外の企業による投資が促進されてきました。これにより、工業製品の生産から品質管理、物流に至るまで、幅広い職種での雇用機会が創出されています。

実際に、以下のインド政府が公式に出したレポートによると、労働力と労働人口の数が着実に増加しており、失業率に関しても年齢や性別による差はあるかもしれませんが、全体の数値としては着実に低下してきています。

※労働力参加率(LFPR)、労働人口比率(WPR)、失業率(UR)

労働力参加率(LFPR)、労働人口比率(WPR)、失業率(UR)を表すグラフ

(*1)インドの雇用状況

このように、インドの経済成長は、高度な技術や専門知識を必要とする職種の拡大に直結しています。これらの産業の成長に伴い、労働市場はより多様化し、新しい機会が生まれ続けていくことでしょう。

故に、インドの経済成長と雇用機会の増加は、労働市場の拡大とダイナミズムを促進する重要な要因となっているのです。

2)デジタル化と技術の進歩

インドのインターネット接続の進展は、雇用市場の変貌に欠かせない要素となっています。2012年の12.6%から2022年には48.7%へと急増したインターネット普及率は、全国で約6億9200万人のアクティブユーザーを生み出し、世界第2位の規模に達しました。

インターネットの料金が驚くほど安くなり、アクセスが容易になった結果、オンライン求人ポータルへのアクセスが劇的に向上しています。

インドのインターネット普及率を表す棒グラフ

(*2)インドのインターネット普及率

特に、スマートフォンの普及はオンラインでの求人情報へのアクセスを民主化し、誰もが簡単に求人を探すことが可能になりました。

デジタル化のもう一つの側面は、新しい技術や専門知識を必要とする職種の出現です。これにより、労働市場はより専門化し、多様化しています。

それに伴い、教育とスキル開発の機会も拡大し、オンライン教育やトレーニングプログラムを通じて、求職者は新しいスキルを習得する機会を得ています。

このように、インターネットとスマートフォンの普及、オンライン求人ポータルの発展、教育とスキル開発の拡大は、インドの雇用市場の成長と進化に重要な役割を果たしてきました。

デジタル化と技術の進歩は、今後もインドの雇用市場において重要な推進力となるでしょう。

3)人口構造の変化

インドの雇用市場の成長は、若くて教育を受けた労働力人口という国の人口構造の変化によって大きく後押しされています。

インドの若者たちは新しい技術に対して非常に柔軟な対応を取っており、デジタル技術に精通しているという特徴が、雇用市場ポータルを含む様々なデジタルプラットフォームの使用を推進しています。

現在の若年層の多さと今後の労働年齢人口の増加予測を考え合わせると、インドの雇用市場は大幅な拡大の可能性を秘めているのは確かです。

以下のデータは、国際連合(United Nations)によるもので、中国とインドの今後の人口構造の変化をグラフで表しています。

国際連合(United Nations)によるインドの人口構造変化に関する図

(*3)インドの人口構造変化

インドは、労働年齢人口の増加がもたらす「人口ボーナス」を生かし、経済発展をどのように加速させるかという課題であり好機に直面しています。

これは、教育を受けた若い人々が労働市場に新たなスキルを武器に参入することで、新しい雇用機会の創出と経済成長をさらに促進することを意味しています。

3.注目の求人ポータル運営企業

このように、インドの雇用市場は経済の急速な成長とテクノロジーの進化により大きく変化しつつあります。

そこで特に注目されるのは、いわゆる「求人ポータル運営企業」と呼ばれる革新的なスタートアップやユニコーン企業です。これらの企業は、従来の求人市場に新しい手法を導入し、技術革新とユニークなビジネスモデルで急速に成長してきました。

例えば、女性のキャリア復帰を支援するプラットフォームや、テクノロジー業界専門の求人情報を提供するサイトなど、特定のニーズに特化したサービスが提供されています。

以下では、筆者が考える注目の求人ポータル運営企業を5つ紹介します。なお、ここで紹介する全ての企業がユニコーン企業と認定されている訳ではありません。

※右のワードは筆者が考えています。

Naukri.com 『インド求人業界における老舗』

インド求人業界における老舗Naukri.comのイメージ画像

(*4) Naukri.com

Naukri.comは、インドの主要な雇用ウェブサイトで、1997年3月にサンジーヴ・ビカチャンダニ(Sanjeev Bikhchandani)によって設立されました。本社はノイダというウッタル・プラデーシュの地域にあります。

Naukri.comは、求職者と雇用主を結びつけるためのオンラインプラットフォームとして機能し、インド国内および中東で広く利用されています。

以下が、大まかな特徴と重要なポイントです。

・幅広い求人情報
・利用者数の多さ
・先進的な検索機能
・キャリア関連サービス
・企業との強いネットワーク

Naukri.comの創業者であるサンジー・ビカチャンダニ(Sanjeev Bikhchandani)は最初、グルガオンで花や食品などの地元の店舗向けに急送サービスを提供していましたが、オンライン小売業とEコマースセグメントの拡大とともに、Eコマース企業向けの物流サービスに注力するようになりました。

また、履歴書データベース、求人掲載、ブランディング、E-アプリケーション、キャリアサイトマネージャー、クラウド製品など、様々な製品とサービスでB2Bモデル、B2Cモデルの両方を手掛けています。

同社の収益源は主に、採用者からのサブスクリプション料金と広告で構成されており、収益の90%が採用者(B2B)から、残りの10%が求職者向けサービスから得られています。

また、Naukri.comは、企業名の類似性に関する問題や、競合他社が類似のウェブサイト名を登録する問題に直面してきました。これらの問題に対処するため、世界知的所有権機関(WIPO)の指導のもと、ドメイン名の管理と保護に取り組んでいます。

Naukri.comの成功は、技術とイノベーション、ユーザーフレンドリーなプラットフォーム、そして幅広いサービス範囲に基づいています。これにより、インドの雇用市場において独自の地位を築いてきました。

Apna 『ブルーカラー求人の救世主』

ブルーカラー求人の救世主Apnaのイメージ画像

(*5) Apna

Apnaは、2019年に元Apple幹部のニルミット・パリック(Nirmit Parikh)によって設立されたインドの求人ポータルです。このプラットフォームは特に、インドのワーキングクラス向けの大規模な採用および専門的なネットワークとして知られています。

以下が、大まかな特徴と重要なポイントです。

・ブルーカラー・グレーカラー労働者向け
・ネットワーキング機能
・スキルベースのマッチング
・レーニングとキャリア開発
・利用者フレンドリーなインターフェース

創業者であるニルミット・パリック(Nirmit Parikh)は、AppleのiPhone製品運営チームのメンバーとして活躍していた経歴があり、インテル社においても新製品/データアナリティクスのディレクターという重役を担っていました。

そんな彼が創ったApnaのビジネスモデルは、ブルーカラーおよびグレーカラーの仕事を探している人々を対象としており、Androidアプリを通じて複数の言語で70以上の専門職カテゴリーを提供しています。このアプリを通じて、ユーザーはお互いに交流し、キャリアアドバイスやリードを共有することができます。

また、スキル開発、面接練習、職業強化のためのリソースも提供しており、縦型コミュニティを通じたスキルコース、結果または仕事に基づくトレーニング、P2P学習の機会などをさらに強化することを目指しています。

2022年時点で、Apnaは毎月2000万以上の仕事面接を促進し、迅速な成長を遂げてきました。インドの主要な政府および民間機関との協力を通じて、求職者により良いスキル強化と就職の機会を提供しているそうです。

Apnaの収益モデルは、求職者およびリクルーターにサービスを提供するための技術サポートサービスを保有会社に提供することで収入を得ており、この相互に有益な取り組みは、収入を得ながらプラットフォームの円滑な機能を支援するという一石二鳥の仕組みを形成しています。

Apnaは、インドの雇用市場に革新的なアプローチを提供し、求職者と雇用者の間のギャップを埋める役割を果たしてくれる企業と成長することが期待されます。

Shine.com 『キャリア成長と求人の架け橋』

キャリア成長と求人の架け橋Shine.comのイメージ画像

(*6) Shine.com

Shine.comは、インドで最も革新的で2番目に大きなオンライン求人ポータルとして知られています。2008年に設立されたこのプラットフォームは、過去十年以上にわたり、採用業界で名を馳せてきました。本社はグルガオン、ハリヤーナ州に位置し、求人業界における重要な存在となっています。

以下が、大まかな特徴と重要なポイントです。

・新卒者向けのサービス
・キャリアガイダンスとアドバイス
・再就職とキャリアアップ支援
・面接準備のサポート
・パーソナライズされた求人マッチング

Shine.comの魅力は、求職者とリクルーターの間で正確なマッチングを提供する先進的な2Wayマッチング技術にあります。多くの求人ポータルが単に次の仕事を見つけることに焦点を当てる中、Shine.comは求職者の全体的なキャリア成長に注力してきました。

これを実現するために、Shine Learningというインド最大のキャリアスキルサイトを立ち上げており、500以上のコースと認定資格を提供しています。

業界がモバイルへと移行する中、Shine.comはこのトレンドをリードし、モバイルデバイス上での急速な成長を遂げています。そのモバイルトラフィックは年間100%の成長を実現し、Shine Job Search Appを通じて移動中でも求人検索が可能です。

さらに、Shine.comはE2Eの採用ソリューションを提供し、候補者と雇用者を結びつけるための取り組みを強化しており、これにはShine Job FairやShine HR Conclaveなど、候補者とトップ雇用者を一堂に会するイベントの開催が含まれます。

Shine.comの収益モデルは、主にB2BおよびB2Cのマーケットプレイスを通じて構築されています。サブスクリプション料金と広告が主な収入源であり、求職者と雇用者の両方に対して価値を提供してきました。

このように、Shine.comはインドの求人市場において革新的なアプローチを提供し、求職者と雇用者の間のギャップを埋めることを目指しています。

Jobsfor Her 『女性のキャリア支援プラットフォーム』

女性のキャリア支援プラットフォームJobsfor Herのイメージ画像

(*7) Jobsfor Her

インドの雇用市場において、求人ポータルは多様な労働力ニーズに応える重要な役割を果たしています。その中でも、特に注目されるのが「JobsFor Her」です。このプラットフォームは、女性のキャリア復帰やキャリアアップを支援することを目的としており、インド全土で活躍しています。

以下が、大まかな特徴と重要なポイントです。

・女性のキャリア復帰支援に特化
・フレキシブルな働き方の推進
・専門的なキャリア開発プログラム
・ネットワーキングとメンタリング
・企業とのパートナーシップ

JobsFor Herは、ネハラ・バグリア(Neha Bagaria)によって設立されました。彼女は自身の経験から、キャリアブレイク後の女性が直面する挑戦を深く理解しており、その解決策を提供するためにこのプラットフォームを立ち上げたそうです。

JobsFor Herの本拠地はインドのバンガロールにあり、このプラットフォームでは、パートタイム、フルタイム、在宅勤務、フレックスタイム、フリーランスなど、様々な種類の仕事が提供されています。

また、キャリアカウンセリング、リスキリングプログラム、ネットワーキングイベントなど、女性がキャリアを再開し、発展させるための多様なサポートも提供してきました。

資本面においては、個人投資家やベンチャーキャピタルなど複数の投資家から出資を受けており、これによってプラットフォームの拡張とサービスの強化を図っています。

JobsFor Herはインドの雇用市場において、女性のキャリア復帰と発展を支援する画期的なプラットフォームであり、女性が直面する特有の課題に対応し、彼女たちが社会と職場でより活躍できるよう支援することで、インドの労働市場の多様性と包摂性を高めています。

Hirist.tech 『次世代を駆け抜くIT人材求人ポータル』

次世代を駆け抜くIT人材求人ポータルHirist.techのイメージ画像

(*8) Hirist.tech

インドの雇用市場における求人ポータルの中で、Hirist.techは特に注目に値する存在です。このプラットフォームは、特にテクノロジー業界に特化した求人情報を提供しており、インド国内のテクノロジー分野の専門家や企業と求職者を結び付ける重要な役割を担っています。

以下が、大まかな特徴と重要なポイントです。

・テクノロジー業界専門
・高度な技術職に特化
・専門的なスキルセットのマッチング
・品質の高い求人情報
・業界専門家によるキャリアアドバイス

Hirist.techは、インドの首都ニューデリーに拠点を置く企業で、その創業者はディープィカ・バンサル(Deepika Bansal)とアンカー・バンサル(Ankur Bansal)です。彼らは、インドのテクノロジー分野の雇用市場に特化した求人ポータルを立ち上げることにより、この分野の成長とダイナミズムに貢献してきました。

プログラミング、データサイエンス、UI/UXデザイン、ソフトウェア開発など、テクノロジー分野の多様な職種に対応しており、求職者にとっては専門性の高いキャリアオプションを探すことができます。また、企業にとっても、専門技術を持つ候補者を効率的に探すことが可能です。

資本面においては、Hirist.techはベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの出資を受けています。これらの投資により、プラットフォームはその技術基盤を強化し、ユーザー体験を向上させることができています。

今後もHirist.techは、ディープィカ・バンサルとアンカー・バンサルのビジョンのもとインドのテクノロジー業界に特化した求人ポータルとして、高度な専門技術を持つ候補者とテクノロジー企業を効果的に結び付ける役割を果たしていくことでしょう。

4.求人ポータル運営企業の成長方向性

これまでの内容で分かる通り、インドの雇用市場は確かに成長しています。しかし、いくつかの重要な課題に直面しているのも事実です。これらの課題には、スキルと職業のミスマッチ、雇用市場の偏り、そしてキャリアパスの不透明性が含まれます。

これらの問題を解決するためには、効果的な対応策が必要です。具体的には、求人ポータル運営企業によるAIを活用した個別化サービスの提供、求人市場の多様化推進、そしてスキル開発とキャリアサポートの拡充が挙げられます。

これらの対策は、インドの雇用市場が直面する課題を克服し、さらなる成長への道を拓く鍵となるかもしれません。

AIによる個人化サービスの提供

インドの雇用市場において、スキルと職業のミスマッチは顕著な問題となっています。特に、高速に発展する技術分野において、現在の労働力が市場の需要に即応できていない状況が見られます。この問題に対処するため、求人ポータル運営企業がAIによる個人化サービスを提供することで大きな改善を図ることが可能です。

AI技術の活用により、これらの企業は求職者のスキル、経験、教育背景、そしてキャリア志向を詳細に分析し、個々のニーズに合致した職業を推薦することができます。このような大規模な需要に対応するために、AIによる個人化サービスは特に重要となります。

AIを駆使したキャリア推薦システムは、求職者のポテンシャルと市場の需要とのギャップを縮めるだけでなく、企業側にとっても適切な人材を効率的に採用する手段を提供するため、市場全体の効率性が向上し、経済成長にも寄与することが期待されます。

AIによるパーソナライズ化のイメージ画像

(*9)AIによるパーソナライズ化

総じて、インドの雇用市場におけるスキルと職業のミスマッチという深刻な課題は、求人ポータル運営企業がAIによる個人化サービスを通じて効果的に対応し、改善していくことが可能です。

求人市場の多様化

インドの雇用市場におけるもう一つの大きな課題は、雇用市場の偏りです。特定の産業や地域に雇用機会が集中しているため、市場全体のバランスが崩れ、多くの潜在的な労働力が未活用のままになっています。

この問題に対処するためには、求人市場の多様化が効果的な対策となることでしょう。特に求人ポータル運営企業が重要な役割を果たすことができます。

以下は、筆者が考える主な成長方向性です。

・地域的な多様化の促進
・産業の多様化
・スキルベースのマッチングの強化
・教育と職業訓練の連携
・リモートワークの推進

本記事で紹介したようなスタートアップ、ユニコーン企業が新興セクターや地域に投資し、新しいビジネスモデルを採用することによって、雇用市場の多様化を促進できます。

新しい産業への参入や地方都市への投資は、従来の雇用市場に偏在していた機会を広げ、多様な背景を持つ人々に対する職の提供を可能にするため、特に未開拓の市場や低開発地域において、経済活動の活性化に繋がります。

このように、求人ポータル運営企業による地域的な多様化、産業の多様化、スキルベースのマッチング強化、教育・訓練との連携、リモートワークの推進という戦略はインドの経済全体の成長を促進する重要な手段となります。

スキル開発とキャリアサポートサービスの拡充

インドの雇用市場におけるもう一つの大きな問題は、キャリアパスの不透明性です。特に若い労働力にとって、どのようなスキルを身につけ、どのようなキャリアを目指すべきかが明確ではありません。この問題を解決するためには、スキル開発とキャリアサポートサービスの拡充が必要です。

以下は、注目の求人ポータル運営企業で紹介したShine.comの人材育成コースの提供画面です。

Shine.comの人材育成コースの提供画面

(*10) Shine.comの人材育成コース

企業によるスキル開発プログラムの提供は、職業訓練、オンラインコース、ワークショップ、インターンシップなど多岐にわたります。Shine.comのように人材育成からサポートを行うことで、労働者は新しい技術や業界のトレンドに適応し、より良い雇用機会を見つけることができます。

また、キャリアサポートサービスは、個々のキャリアゴールに合った具体的なアドバイスやガイダンスを提供し、キャリアパスの計画にも役立ちます。

このように、企業によるスキル開発とキャリアサポートサービスの拡充は、キャリアパスの不透明性を解消するだけでなく、企業自身の成長にも寄与することでしょう。

5.まとめ

この記事を通じて、インドの雇用市場の躍進と、その中で活躍する求人ポータル運営企業の重要性を理解できたのではないかと思います。

経済成長、デジタル化の推進、人口構造の変化などの要素が組み合わさり、この市場のダイナミズムを形作ってきました。

その中で、求人ポータル運営企業は、AIを活用した個別化サービス、市場の多様化推進、スキル開発とキャリアサポートの拡充という形で、市場の課題に対応しています。

また、Naukri.com, Apna, Shine.com, Jobsfor Her, Hirist.tech などのスタートアップ、ユニコーン企業は、それぞれ独自のアプローチで市場に革新をもたらし、求職者と雇用者のニーズを満たしています。

これらの企業の果たしている役割は、単に求職者と雇用者を繋ぐこと以上のものであり、市場の発展と社会全体の進歩に貢献していくでしょう。

インドの雇用市場の今後の展開は、引き続き注目されるべき領域であり、その中心で活躍する求人ポータル運営企業の動向にも目を光らせていくことが重要です。

               

執筆者紹介About the writter

橋口悠雅 | Yuga Hashiguchi
明治大学商学部会計学専攻。貿易・物流ゼミにてゼミ長を務め、リーダーという役割の苦労・やりがいを経験。また、教育業界におけるデジタルインフラ統合をビジョンとした EdTech ベンチャー企業でインターン生として約半年ほどリサーチ・翻訳業務を担当。その後、グローバルな環境でも活躍できるビジネスパーソンになるため、大学を休学し、南インドの当社バンガロール事務所にてインターシップをスタート。市場調査や在インド日系企業・インドスタートアップ企業へのインタビュー等を通じて、インド市場や投資環境、最新のDX動向に関する記事・コラムの作成に携わる。インターンシップの傍ら、USCPAの資格取得に向けた勉強に取り組み、将来的には日本を代表する実業家になりたいと考えている。