Vol.004 : 激動のインドヘルスケア市場(②オンライン薬局編)
需要急増中のオンライン薬局を扱うスタートアップ6選
1. インド国内のオンライン薬局市場の動向について
インドにて2013年頃から急速に発展している分野の1つにオンライン薬局が挙げられます。2013年ごろからオンライン薬局は勢いを見せ始め、新型コロナウイルス(以下“コロナ”という)によってさらに注目を浴びるようになりました。Frost&Salivanによると、オンライン薬局市場は2018年で約5.12億ドルに、2022年までに約36.57億ドルにまで成長すると予想されています。[i]また、2014年から2019年の間で約20億ドルがインドのヘルステックスタートアップに投資されましたが、その22.4%(約4.62億ドル)がオンライン薬局分野に渡っていることからも、投資家および社会からの期待の大きさがうかがえます。[ii]オンライン薬局にはさまざまな企業が参入していますが、2019年時点ではMedlife、Netmeds、PharmEasy、1mgの4社が市場の90%を寡占している、とインド国内調査会社RedSeer Consultingが報じています。[iii]オンライン薬局とはその名の通りインターネット上で処方箋が必要な医薬品を買うことができるサービスです。ビジネスモデルには主に「Inventory based model(在庫型)」と「Market place based model(マーケットプレイス型)」の2種類があります。
「在庫型モデル」ではオンライン薬局の運営企業が直接ユーザーに薬を売ります。オンライン薬局が配達拠点各所の倉庫に在庫を備え、ユーザーがアプリやWebサイトに処方箋をアップロードした後に薬剤師が確認し、自社倉庫から薬を配送します。
一方、「マーケットプレイス型モデル」の場合、オンライン薬局はプラットフォームとして機能します。つまり、認可された店舗薬局の薬が、オンライン薬局のWebサイトやアプリ内に表示され、ユーザーがオンラインで処方箋をアップロードした後にそのオーダーが店舗薬局に飛ばされ、確認・認証作業と配送はすべて店舗薬局側で行われます。
Eコマースにおけるマーケットプレイス型の代表例と言えばAmazonですが、今まで正規処方箋医薬品のオンラインでの大々的な取り扱いはありませんでした。ところが、2020年3月にインド政府が発表したガイドライン(詳しくは後述します)により規制上の法的リスクが明確になり、2020年8月Amazon Indiaは新たにオンライン薬局「Amazon Pharmacy」をベンガルールで立ち上げ、薬の販売に本格的に乗り出しました。[iv]
(Amazon HPより)
認証された薬局と提携し、処方箋医薬品やOTC医薬品(一般用医薬品)、ヘルスケア用品を幅広く扱います。Amazon Indiaが企画するキャンペーン”Prime Day”のセールや“Amazon Pay”によるキャッシュバック、資本力のある大手ならではの大胆な割引等を活用し、価格競争力の高さや多くのユーザー数にリーチできる販売チャネルの大きさなどを武器に他社と戦っていくことが予想されます。
インドのオンライン薬局の規模は世界3位だと言われています。なぜ、オンライン薬局市場がこれほどインドで発達したのでしょうか。その背景に、インドの地域格差や不十分な医療体制、そして、生活習慣病の増加が挙げられます。農村部は医師が不足しており、無料で治療を受けられる政府系の病院は設備が古く、不衛生です。地域によっては病院まで何百キロも移動しなければならない人たちもいるほど、社会の基礎インフラであるべき医療施設や設備が不足しています。また、高血圧や糖尿病を発症する人が年々増えているものの、高額な治療費のせいで通院を諦める人も少なくありませんでした。
このような状況下で、2013年ごろからスマートフォンがインドでも普及し始めました。2019年時点で約4.2億人がスマートフォンを持ち、インド全体のインターネットアクセスのうち約73%がスマートフォンからと言われるほどです。[v]スマートフォンによって安価で安全・簡単にオンラインで薬局にアクセスできるようになり、上記のような背景からすぐさま多くの人に利用されるようになりました。なお、オンライン薬局は、ユーザーにとって以下のようなメリットがあります。
- 利便性・アクセシビリティの向上
- 低コスト
- 薬への認識向上(処方薬の情報を細部まで提供しやすい)
- 認可された安全な薬のみの取り扱い
- 服用履歴・処方履歴の追跡が簡単
- 外出によるコロナの感染リスク回避
増加傾向にある都市部の忙しいサラリーマンや、何十・何百キロ先離れた医療機関しかない農村部の人たちにとって、24時間いつでも薬をオーダーできるオンライン薬局は非常に心強いものです。さらに、インドの医療現場の問題として、質の悪いジェネリックや偽薬の流通が挙げられます。病院に行かずに安価な市販薬で治療しようとする人も多く、街中の小さなドラッグストアに混じる低品質のジェネリック医薬品や偽薬を手にしてしまうこともあるのです。オンライン薬局はインド各州が発行・認証するライセンスの取得が義務づけられており、正規医薬品しか扱えないように定められているので偽薬が混じることがありません。そして、オンライン薬局を利用すれば服用歴や処方歴を簡単に追跡できます。病状なども追いやすく、PractoやDocsappのように遠隔医療とあわせてオンライン薬局を展開するのが主流となりつつあります。
遠隔医療は診察コストが低く、病院を受診するよりもはるかに安価です。そして、オンライン薬局なら薬を割引価格で購入できます。以前は高血圧などの患者は毎月処方箋をもらうためだけにわざわざ病院に通い、本来は不要な手間と診察代をかけていました。今ではオンライン薬局によって安価かつ少ない手間で処方薬を受け取れます。持病持ちの人の利用が今後も増えることが見込め、オンライン薬局はさらに成長していくでしょう。
ただし、オンライン薬局にはデメリットもあります。オンラインの特性として薬の即日配送はまだ難しく、痛み止めや抗生物質など急を要する薬の処方には向きません。すぐに薬が欲しい場合は「近所のドラッグストアに連絡をして市販薬を届けてもらう」という従来の方法が依然として一番早く、今後の課題として挙げられます。また、インド国内ヘルスケアメディアETHealthworld.comよると意外にも「オンライン薬局のオーダーのうち65%が急を要するもの(持病向けではない)」との調査結果が出ています。[vi]オンライン薬局の多くが持病持ちの人をターゲットにしているものの、販売網をさらに広げつつ、同時に、配達完了までの時間短縮の実現にも期待が寄せられています。
また、現在オンライン薬局市場にはたくさんのスタートアップが参入していますが、「価格」がユーザーのフォーカスの中心となっています。ユーザーとしても各社サービスの違いがわかりにくく、「価格に厳しい(price sensitive)」とよく言われるインド人なので、価格に目がいくのも仕方のないことでしょう。ユーザーの隠れたニーズを探り、競合他社とのわかりやすい差別化ができるかどうかが各社ビジネスの成功の分かれ目になっていくことが考えられます。
2. オンライン薬局向けの規制
インド政府はコロナの拡大防止のため、2020年3月25日からインド全土でのロックダウンを実施しました。その際に上述のとおりインド政府により発表されたガイドラインが「Telemedicine Practice Guidelines(遠隔医療に関するガイドライン)」です。[vii]コロナによる医療の圧迫を懸念し、政府は遠隔医療を推進する方針を打ち出し、オンラインで処方される薬についても規定が明記されることとなりました。
(Telemedicine Practice Guidelinesより)
具体的には、上記のように処方できる薬の種類がリストO、A、B、処方禁止の4つのリストタイプに分けられ、診察形態や診察回数などが細かく定められています。
これまで、オンラインでの薬の販売には実質的な規制がない状況であり、またオンライン薬局周りの法律が完全に整備されているわけでもないのが実情です。2018年8月28日にMinistry of Health and Family Welfare(インド保健家族福祉省)が「E pharmacy draft(オンライン薬局に関する草案)」を発表しています。[viii]「免許の取得」「薬剤師による薬の認証」「オンライン薬局の届け出・登録」を義務づける内容でしたが、あくまでドラフトに過ぎず、結局議論がまとまることはありませんでした。無規制の状況を懸念し、2019年11月にはThe Drugs Controller General of India(DCGI・インド医薬品規制当局)が、規制が定まるまでの間、無免許のオンラインプラットフォームでの薬の販売を禁じました。[ix]
規制があいまいなためにユーザーからもオンライン薬局の安全性を心配する声が上がり続け、オンライン薬局を運営するスタートアップ側からも「明確な決まりがないと投資を受けづらい」「投資家が慎重になってしまう」と、法整備が待ち望まれています。そして、上述のガイドラインによってオンラインで処方される薬の取り扱いのルールが明確化されたのは、オンライン薬局業界にとって一歩前進だと言えるでしょう。法律面の整備は未だに十分ではありませんが、モディ政権が遠隔医療・オンライン薬局を推進する方針を明確に打ち出したことで、スタートアップ企業にとって大きな追い風が吹きました。
モディ政権が遠隔医療・オンライン薬局を推進する理由の1つは、コロナによる医療圧迫を避けるためとの報道がされています。[x]医療体制が脆弱なインドでは、全患者を対面で診察するとすぐに医療崩壊を引き起こしかねません。医療現場を守るため、また病院内での感染拡大を防ぐためにもコロナ軽症者や急を要しない傷病患者はオンラインでの診断・薬の処方が勧めています。また、もう1つの理由として国産薬の普及率を高めたい意図が考えられます。[xi]現在一般には多くの中国製のジェネリック薬が流通しています。低コストで薬の処方ができる遠隔医療・オンライン薬局を普及させ、価格面からも中国製ジェネリックを市場から排斥しようとしていることがうかがえます。利便性が高く、かつ、政府のバックアップも得たオンライン薬局は今後も順調に成長を続けていくでしょう。
3. 需要急増中のオンライン薬局を扱うスタートアップ6選
(1)オンライン薬局市場の雄「Medlife」
サービス名 :Medlife(メドライフ)
会社名 :Medlife Wellness Retails Private Limited
設立年 :2014年
拠点 :ベンガルール
CEO :Ananth Narayanan
ビジネスモデル :在庫型モデル
カバーエリア :インド全土
取り扱う薬の種類 :処方医薬品、OTC薬品、ヘルスケア用品
公式HP :https://www.medlife.com/
オンライン薬局最大手のMedlifeは「ベストプライス」をコピーに圧倒的な知名度を誇っています。現MedlifeのCEOは、ファッションEコマースの大手Myntraの元CEOでもあります。以前は、薬の購入のためには患者自ら通院して処方箋を入手する必要がありましたが、ECclinic24/7を買収してオンライン診察も有するようになりました。ベンガルールなどの一部地域では対面診察の予約も可能です。
また、次にご紹介する医薬品デリバリーサービス「Myra Medicines」を買収し、「Medlifeフランチャイズ」という独自のフランチャイズ展開も進めながら、配送網の拡大と配達時間短縮に挑んでいます。2019年には#HealthFortheNationという選挙に絡めたプロモーションによってメディアからの注目を集めました。[xii]オンライン薬局市場を牽引する存在です。
(2)「2時間以内のデリバリー」配達最速オンライン薬局「Myra Medicines」
サービス名 :Medlife Express(旧Myra Medicines)
会社名 :旧Metarain Software Solutions Private Limited(現在はMedlife)
設立年 :2014年
拠点 :ベンガルール
CEO :Anirudh Coontoor
ビジネスモデル :在庫型モデル
カバーエリア :ベンガルール、ムンバイ、その他20都市
取り扱う薬の種類 :処方箋医薬品、OTC医薬品、ヘルスケア用品
公式HP :https://www.medlife.com/express/page/home
Myra Medicineは南インドのIT都市・ベンガルールで「最速配達」を実現したオンライン薬局です。ユーザーが薬の写真や処方箋を送り、薬の確認後にオーダーをすれば、2時間以内で薬が手元に届きます。2019年に業界の最大手Medlifeに買収されました。設立最初はベンガルールのみの展開でしたが、現在では22の都市にて「Medlife Express」としてサービスを展開しています。
オンライン薬局最大の弱点とも言える「配達の遅れ」をカバーしており、今後さらに配送網の拡大・充実が期待できます。Myra Medicinesのように配達に重きを置くサービスは今後も引き続き注目されるものと思われます。
(3)オンライン薬局からコンプリートヘルスケアプラットフォームへ「Netmeds」
サービス名 :Netmeds(ネットメズ)
会社名 :Netmeds Marketplace Limited
設立年 :2015年
拠点 :チェンナイ
CEO :Pradeep Dadha
ビジネスモデル :在庫型モデル
カバーエリア :インド全土
取り扱う薬の種類 :処方箋医薬品、OTC医薬品、ヘルスケア用品
公式HP :https://www.netmeds.com/
Netmedsは認証済みの処方箋医薬品やジェネリック医薬品などをインド全土に配送できるオンライン薬局で、「小さな町に住む持病を持つ人たち」をメインターゲットとしています。現在は大都市の倉庫の拡充や配送網の充実に注力し、24時間以内の配送を目指している最中です。
また、2019年5月にはヘルステック企業であるKiViHealth(キヴィヘルス)を買収しました。KiViHealthはクリニックマネジメントのためのプラットフォームで、医者にはAIによるデジタル処方箋の作成や患者の診察・診断履歴のデータ化を提供しています。また、患者はKiViHealthを通じて事前にクリニックの受診予約ができます。
ラボによる検査や健康診断なども提供しており、Netmedsはオンライン薬局だけでなく、ヘルスケアサービス全般を提供するプラットフォームに変身しつつあることがうかがえます。
なお、2020年8月現在においてまだ正式な発表はされていませんが、インド最古の日刊英字新聞であるThe Times of Indiaにより「リライアンスグループがNetmedsを買収する計画か」との報道がされたことでも注目を集めました。[xiii]もしかしたら、Netmedが「リライアンスのデジタル王国」の一員として医薬品部門のEコマースを担う日が来るのかもしれません。
(4)西インドで存在感を示す、持病の服薬管理に便利な「PharmEasy」
サービス名 :PharmEasy(ファームイージー)
会社名 :Axelia Solutions Private Limited
設立年 :2014年
拠点 :ムンバイ
CEO :Dharmil Sheth
ビジネスモデル :マーケットプレイス型モデル
カバーエリア :国内の1000以上の都市を含む22,000地域
取り扱う薬の種類 :処方箋医薬品、OTC医薬品、ヘルスケア用品
公式HP :https://pharmeasy.in/
PharmEasyはムンバイに拠点を置くオンライン薬局です。OTC医薬品・ヘルスケア用品・処方箋医薬品を幅広く扱っており、検査や健康診断にも注力しています。他社は外部検査機関と提携することが多いのですが、PharmEayはナビムンバイに自社の検査施設である「PharmEasy Lab」を構えています。
PharmEasyは服用薬がなくなる前に購入を促すリマインダーや、定期購入制度、デジタル上の処方履歴や無料の遠隔コンサルテーションなどのサービスを提供し、持病を持った人が使いやすいように工夫されています。
HPには最大70%割引されたヘルスケアグッズが並んでおり、2020年7月にはAmazon Payとタイアップし「200ルピー以上購入で最大300ルピーのキャッシュバックキャンペーン」を行っていました。割引やキャッシュバックなど、価格面からもシェア拡大戦略を進めています。
(5)高い安全性を実現した「1mg technologies」
サービス名 :1mg(ワンエムジー)
会社名 :1mg Technologies Private Limited
設立年 :2015年
拠点 :ニューデリー
CEO :Prashant Tandon
ビジネスモデル :マーケットプレイス型モデル
カバーエリア :インド全土(処方箋医薬品は一部の大都市・地方都市のみ配達)
取り扱う薬の種類 :処方箋医薬品、OTC医薬品、ヘルスケア用品
公式HP :https://www.1mg.com/
アメリカのlegitScript(オンライン薬局を対象とした検証・監視機関)の認証を受けている、インド唯一(2020年8月時点)のサービスです。オンライン薬局に対しては「不安」「怖い」という消費者からの声が上がることもありますが、同社は米国機関からの正式な認証を取得することでユーザーに対して安心や信頼を提供することができています。
1mgの特徴の1つにWebサイト上に豊富な情報を掲載していることが挙げられます。薬の名前から検索でき、その効能や副作用、肝臓や腎臓への影響、妊婦への影響など、1ページ内で非常に細かな情報を整理して提供しています。オンライン薬局のメリットの1つである「患者の薬への認識向上」に大いに貢献しており、情報や分かりやすい説明の充実度は他のオンライン薬局とは比にならないほどです。
また、ホメオパシーやアーユルヴェーダを扱うオンライン薬局や遠隔医療サービスを買収して拡大し続けており、数多くのラボとの提携も進めています。今後は検査・診断分野に注力していくとのことです。
(6)ロート製薬と提携するコルカタ拠点の「SastaSundar」
サービス名 :SastaSundar(サスタスンダル)
会社名 :SastaSundar Healthcbuddy Limited
設立年 :2013年
拠点 :コルカタ
CEO :Ravi Kant Sharma
ビジネスモデル :在庫型+マーケットプレイス型モデル
カバーエリア :国内の約16,000地域
取り扱う薬の種類 :処方箋医薬品、OTC医薬品、
公式HP :https://www.sastasundar.com/
コルカタに拠点を置き、総合的なヘルスケアを提供するオンライン薬局「SastaSundar」です。日系企業のロート製薬が業務提携しており、インド子会社ロート・ファーマ社がロート製品をSastaSundar内で販売しています。今後はロート製薬の目薬販売拠点としてSastaSundarを生かしていく予定とのことです。[xiv]
SastaSundarは低価格を維持しながらも、高い安全性を実現しています。「100%の正規医薬品」「翌日配送」を約束しており、それを可能としているのが自社保有の中央倉庫とフランチャイズ倉庫を併用することにより構築された物流システムの存在です。高血圧や糖尿病などの持病を持つ人をターゲットにしていることから食事管理のアドバイスをする「YANA Diet Clinic」というオンラインサービスも提供しています。
4. まとめ
今回はオンライン薬局の動向と、オンライン薬局を運営するスタートアップ企業を紹介しました。どの企業もオンライン薬局のみならず、遠隔医療を提供したり、クリニックやラボと提携したりとビジネスフィールドを拡大している傾向にあります。現在は競合との差別化として「価格」がもっとも大きな要素となっていますが、今後は市場の拡大やM&Aなどによる勢力図の再編とともに、各サービスの特徴や付加価値が洗練されていくものと思われ、各社のブランドがいかにして消費者に認知されていくのか目が離せません。
参照元データを見る
[ii] https://inc42.com/buzz/exclusive-online-pharmacy-medlife-raises-inr-173-cr/
[iv] https://inc42.com/buzz/amazon-launches-epharmacy-bitter-pill-for-1mg-netmeds-medlife/
[vii] https://www.mohfw.gov.in/pdf/Telemedicine.pdf
[xii] https://www.medlife.com/web/health-for-nation-contest-2019/
[xiii] https://inc42.com/buzz/reliance-may-be-planning-to-enter-epharmacy-with-netmeds-acquisition/
監修者からのコメント
医薬品流通スタートアップ:B2Cは勝ち組が見えてきた。今後はB2Bにも注目。
本記事にもあります通り、ちょっとした外出がとても不便なインドは医薬品Eコマースとの相性が非常に良く、多くのプラットフォームが立ち上がり、既にユニコーンクラスの企業が複数存在している状況です。今回のコロナ禍も背景に政府のガイドライン整備が一気に進んだことも追い風となり、またインドにおいてロックダウンが長引いていることで今までこの様なデリバリーサービスを使ったことのなかった消費者が利用する機会も増え続けていると考えられ、さらに普及は進んでいくものと思われます。一度その利便性に触れてしまうとなかなか元には戻れないのはその他のEコマースやデリバリーサービスと同様で、この大きな流れは不可避で不可逆なものだと想定されます。一方で、未だにインドにおける医薬品販売の85%以上は街中のドラッグストア、それも家族経営のパパママショップの様な小規模店舗経由であると言われています。これらの小規模ドラッグストアはインド全土に80万〜90万店舗存在しているとされ、また医薬品メーカーやOEMとドラッグストアの間にはディストリビューターや卸売業者などの中間事業者が3〜4レイヤーに渡って数万事業者存在しており、流通構造が非常に複雑かつ非効率になっています。これらの流通構造を改善するチャレンジをするSaveo (https://saveo.in/)やBiddano(https://www.biddano.com/)といったスタートアップも徐々に立ち上がってきており、こちらからも目が離せません。
監修者:村上 矢
野村證券グループの東京及びNY拠点にて一貫してIT/インターネット領域のスタートアップを担当。多くの企業をIPOへと導く。2014年にインドへと移り、現地にてスタートアップ立ち上げを経験。2016年にIncubate Fund Indiaを設立し、ジェネラルパートナー就任。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 政治学専攻、歴史学副専攻 卒
法律面からのアドバイス
インドの技術的進展と同時に立ちはだかる既存の抵抗勢力。
インドのオンライン薬局の今後の展開を考えたとき、技術的なブレイクスルーに目を向けつつ、既存の薬局という抵抗勢力の存在も意識することが大切です。これらの点について、法律的な側面も含めてコメントしたいと思います。
まずこの分野での技術的なブレイクスルーとして、僻地への迅速な配達を可能にする自動操縦ドローンが挙げられます。ルワンダやガーナで血液やワクチンをドローンで配達しているzipline社では、グライダー型のドローンを用いて目的地の上空からパラシュート付きの箱に入れた医薬品を投下しています。このzipline社はマハラシュトラ州政府と連携してインドでのサービス展開も準備中です。このようなサービスに対する法整備も近年急ピッチで進んでいます。インドでは2018年にドローンポリシーが制定され、2020年6月2日には無人航空機システム規則 2020(The Unmanned Aircraft System Rules 2020) の草案が公開されました。この草案には自動操縦、荷物の運搬、荷物の落下のそれぞれに対する規定がありますが、いずれも民間航空局局長の許可があれば認めるとなっているので、個別ケースで判断されるものと考えられます。
また、既存の薬局という抵抗勢力の存在も無視できません。2020年5月にインド政府は遠隔医療・オンライン薬局を推進するためAarogyaSetu Mitrというポータルサイトを用意し、接触確認アプリであるAarogya Setuからリンクさせました。これに対してデリーの薬剤師の業界団体であるSouth Chemists & Distributors Associationがデリー高裁でインド政府に対して公益訴訟を起こしました。オンライン薬局のみを宣伝して既存の薬局をないがしろにするのは不当であるという主張に対し、インド政府は翌月このポータルサイトを削除しました。今後も既存の薬局がオンライン薬局に対してなんらかのアクションを取ってくると考えられるため、リーガルリスクの存在を意識することをお勧めします。
AsiaWise Groupでは、今後もインドのテクノロジー関連規制の最新動向を情報提供して参ります。
アドバイザー:田中陽介
外資系メーカー知的財産部、特許事務所を経て、2019年AsiaWise Groupに加入。2010年より東南アジア、南アジアを拠点都市、医療機器、情報通信技術分野の特許調査や権利化をする一方で、新興国におけるテクノロジーの社会実装、デジタルエコノミーの動向を調査。京都大学工学修士(電子工学)シンガポール国立大(知的財産コース修了)