Indian Personnel & Labour

人事労務

B-13. インド労働関連法規の基本的理解と各種コンプライアンス

(文責:安本理恵 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

インドの労働法の大まかな特徴として、特に企業に雇用されて働く労働者、特にワークマン・ワーカーと呼ばれる、いわゆるブルーカラーの労働者への保護が手厚いという点が挙げられます。

ブルーカラーとホワイトカラーの社員とは同じ地域、同じ企業であっても適用法が異なることがあります。

また、法制度としては連邦法(中央政府による法令)と州法(州政府による法令)の双方が存在し、地域によって細則や実態が異なるという特徴があります。

現状、連邦法・州法共に多数の労働法が数えきれないほど存在している状況で、例えば賃金に関連するものだけで賃金支払法(The Payment of Wages Act)、最低賃金法(The Minimum Wages Act)、賞与支払法(The Payment of Bonus Act)、均等報酬法(The Equal Renumeration Act)の4つがあり、それぞれの法律の関係やその多さから実務上把握が困難でしたが、2020年に新労働法として29の連邦労働法が下記4つに再編されることが発表され、2021年6月現在、正式な施行時期の発表が待たれている状況です。

  1. 賃金法(Code on Wages, 2019)
  2. 労働安全衛生法(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)
  3. 年労使関係法(Industrial Relations Code, 2020)
  4. 社会保障法(Code on Social Security, 2020)

ここでは、主にタミル・ナドゥ州やカルナタカ州、テランガナ州における従業員の労働条件を規定する労働法の概要を中心にご紹介します。

工場法(Factories Act, 1948)

製造を行う工場で勤務する労働者の勤務条件について定めています。

また、工場法における「製造」には、装飾、修理、洗浄、包装、冷蔵倉庫での物品保存等のかなり幅広い工程も含まれているため、製造と見なされる可能性がある事業者については正しい準拠法を理解しておくことをおすすめ致します。

なお、満18 歳以上の場合の労働者における工場法の規定概要は下記の通りです。

勤務時間 1日9時間まで、週48時間まで
残業 2倍の賃金支払い

(残業時間を含めて)週60時間まで

合計残業時間は四半期に50時間まで

休憩 勤続5時間毎に30分の休憩
有給休暇(年間) 年間に240日以上勤続後勤続20日につき1日の有給休暇
賃金支払い  賃金支払法適用(賃金支払い期間締め日より7日以内)

また、女性の勤務時間について、工場法は午前6時から午後7時までに限定していますが、アンドラ・プラデーシュ州、グジャラート州、タミルナドゥ州等では違憲とする判例が既に存在し、各州政府が独自にガイドラインを発行しています。

また、2020 年労働安全衛生法では午後 7 時以降午前 6 時までの女性の勤務が認められています。

賃金支払法(The Payment of Wages Act)

月額賃金が2万4,000ルピー以下の従業員に適用されます。同法は賃金支払い期間が1か月を超えないこと、締め日より7日以内に支払うこと等を定めています。

賞与支払法(Payment of Bonus Act, 1965)

従業員が20人以上の事業所に適用され、月額賃金が 2 万 1,000 ルピー以下の従業員に対して最低で賃金の8.33%の賞与支払義務を定めています。

退職金支払法(The Payment of Gratuity Act,1972)

従業員が10人以上の事業所に適用されます。勤続5年以上の従業員の退職時に勤続1年につき15日分の賃金を退職金として支払う義務があります。

出産手当法(The Maternity Benefit Act 1961)

従業員が10人以上の事業所に適用されます。女性従業員のみ、第二子まで産前8週間前より26週間の産前産後休暇を取得することができます(※第三子以降は12週間)。

店舗施設法(Shops and Establishment Act)

工場を除く事業所の従業員に適用する各州政府がそれぞれ定める州法です。工場のオフィスで勤務する従業員は工場法なく店舗施設法が適用します。

ここでは下記の3州について概要をご紹介します。

タミルナドゥ カルナタカ テランガナ
勤務時間 1日8時間まで
週48時間まで
1日9時間まで

週48時間まで

1日8時間まで
週48時間まで
残業 2倍の賃金支払い

(残業時間を含めて)
1日10時間・週54時間まで

2倍の賃金支払い

(残業時間を含めて)
1日10時間・3か月で50時間まで

2倍の賃金支払い

残業時間は1日8時間・週48時間まで

休憩 勤続4時間毎に1時間の休憩 勤続5時間毎に1時間の休憩 勤続5時間毎に1時間の休憩
有給休暇
(年間)
12か月勤続後12日間の有給休暇

疾病休暇・臨時休暇(それぞれ12日間を超えない)

20日勤続につき1日の有給休暇

疾病休暇(12日間を超えない)

12か月間に240日以上勤続後15日間の有給休暇

疾病休暇・臨時休暇(それぞれ12日間を超えない)

賃金支払い 賃金支払い期間締め日より5日以内 賃金支払法適用(賃金支払い期間締め日より7日以内) 賃金支払い期間締め日より5日以内

新労働法の概要について

現行労働法が再編された新労働法施行後は、工場法・店舗施設法がそれぞれ別途適用されていた従業員へも同じ法規が適用となりますので、下記にその概要についてご紹介します。

但し、休憩時間や週の労働時間等の細則は今後州政府がそれぞれ既定する可能性が高いため、注意が必要です。

勤務時間 1日8時間まで
残業 2倍の賃金支払い
休憩 規定なし
有給休暇(年間) 年間 180 日勤続後、勤続20日につき1日

(つまり年間18日間の付与義務)

賃金支払い 月給の場合、翌月7 日以内
雇用終了時は終了日より2日以内
(日給・週給等の場合も規定あり)

執筆者紹介About the writter

安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。

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