F-31 (c):インドの取締役会(Board Meeting)および株主総会(AGM・EGM)の開催概要
ここでは、主にインド法人運営に係る取締役会および定時株主総会関連の手続きについてご説明します。法人設立後の第一回目の取締役会を含めたインド現地法人設立直後の手続きについては以下リンク先の記事で詳述しています。
非公開会社は、取締役会、株主総会、法廷監査役(※)の設置が必須となっています。
(※)法廷監査役 (Statutory Auditor) は、日本の会計監査人に相当し、勅許会計士(chartered accountant)または会計士がパートナーの過半数を務める会計事務所・監査法人から選任する必要があります。主な役割としては、会社の年次決算書類の調査、定時株主総会での監査報告書の提出、会社の年次決算書類の適正性についての判断等が挙げられます。
取締役会
非公開会社(private company)の場合、取締役は2人以上必要、かつ取締役の人数の上限は15人と定められています。また、インド会社法上、取締役のうち、1名は居住取締役 [ (当該会計年度 (4月1日~翌年の3月31日) において、182日以上インドに滞在している取締役] (※)である必要があります。なお、新規で設立された会社に関しては、会社設立日から会社が設立された会計年度末までの期間日数において日割り計算をすることとなり、つまり、当該期間のうち半数以上をインドに滞在していれば、居住取締役と認められることとなっています。
(※)実態としては、当局からは直前会計年度の居住実績を問われることが多い点、また、新設法人については設立時に居住実績を問われたケースもある点には注意する必要があります。
開催頻度
取締役会は、1年に最低4回開催する必要があり、各取締役会の開催日の間隔は120日以下と定められています。
開催場所
開催場所の規定は特になく、日本等国外での開催も可能です。
招集通知
取締役会の招集通知は、開催日の7日前までに各取締役に送る必要があります。ただし、緊急の議題(urgent business)に関するものである場合には、短期招集(7日未満の通知)により開催することも可能です。
定足数・出席方法
取締役会の定足数は、全取締役の3分の1または2人のいずれか多い方の出席となっています。また、ビデオ会議による出席者も定足数に含まれます。取締役は、前回の出席より12か月以内に必ず一度は取締役会に出席する必要があります。かつ取締役本人の出席が義務付けられているため、代理人方式での出席は認められていません。
開催手段
取締役会の開催手段としては、以下の方法があります。
1.対面
2.ビデオ会議
従前は、取締役会における決議について、監査済決算報告書の承認などの一定の決議については会合による決議でなければならなかったのですが(=テレビ会議による決議は不可だったものの)、2021年 6月 15日のインド企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)からの通達により、当該制限が廃止され、コロナ禍においてリモートでのテレビ会議での決議が認められることとなりました。ただし、テレビ会議による取締役会開催に際する手続き、セキュリティ対策や本人確認、議事録や録画データの保管等については、規制緩和後も順守が必要です。以下の記事も併せてご参照くださいませ。
3.書面決議(みなし決議)
取締役会は、全取締役の賛成が得られることを条件に、書面決議を行うことも可能です。しかし、実際の取締役会の開催回数には算入されない点に留意が必要です。なお、以下の事項については、書面決議が認められていないため、対面およびビデオ会議にて開催する必要があります。
書面決議 (Resolution by Circulation) が認められていない事項
- 株式の買戻しの承認 ( To authorise to repurchase shares)
- 新株・社債の発行 (To issue new shares)
- 金融機関からの借入 (To approve loans from Financial Institutions)
- 融資の許可および保証・担保の承認 (To authorise loans and approval of guarantees and security)
- 年次決算書類および取締役会の報告書の承認 (To approve financial statements and directors report)
- 会社の事業の多様化 (To approve diversification of the company’s business)
- 合併・会社分割などの組織再編の承認 (To approve mergers, demergers and other reorganisations)
- 企業買収・他社の支配権獲得 (To acquire companies and control of other companies)
- 内部監査役・会社秘書役・監査役の指名 (To nominate internal auditors, company secretary and auditors)
決議要件・決議方法
取締役会の決議要件は、出席取締役の過半数(a majority of votes)の賛成、決議方法は、挙手による投票となっています。なお、附属定款 (AOA: Articles of Association)にて、決議要件が出席取締役の投票の過半数である旨を規定することもできます。
取締役会決議が必要な主な事項 (Resolution to be passed in board meeting)
- 取締役、会社秘書役等主要経営陣選任 (To appoint Directors & KMPs)
- 監査人選任 (To appoint Auditors of the company)
- 取締役選任・辞任承認 (To approve the appointment and resignation of directors)
- 金融機関からの借入 (To approve loans from Financial Institutions)
- 定款変更承認 (To approve alteration of MOA & AOA subject to shareholders approval)
- 年次決算書類および取締役会の報告書の承認 (To approve financial statements and directors report)
- 株式割当 (To allot shares)
- 新株発行 (To issue new shares)
- 増資・株式譲渡承認 (To consider increase or transfer of shares)
- 当事者間取引承認 (To approve related party transaction)
- 親子ローンの承認 (To approve parent and child loans)
- 銀行口座の開設 (To Open a bank account)
- クレジットカードの作成 (To apply for a credit card)
- 消費税 (GST) 等の権限者の変更 (To approve change of authorised person for GST, etc.)
- 州内の登記事務所変更承認 (To approve the shift in registered office of the company within the State)
- 株主総会および臨時株主総会の招集 (To approve notice of EGM/AGM)
会社が設立されるとインド企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)より会社設立証明書(COI : Certificate Of Incorporation)が送付され、当該COIに記載された会社設立日から30日以内に第1回取締役会を開催する必要があります。第1回取締役会で決議される一般的かつ主な内容は、基本定款(MOA: Memorandum of Association)、付属定款の確認 (AOA)、監査人の選任、銀行口座の開設と銀行関連手続の署名権者の任命や、創業費用(Preliminary Expenses)を設立会社が負担することの承認等が含まれます。
また、銀行口座を開設し資本金を送金後に開催する第2回取締役会においては、株券の発行と株式割当、会社登記局(ROC:Resister of Companies)への事業開始登記等を決議します。詳細については、以下リンク先の記事をご参照ください。
株主総会 (Annual General Meeting)
開催頻度
定時株主総会は、毎年必ず1回、会計年度末日 (通常は
3月31日) から6か月以内に開催する義務があり、定時株主総会の開催日の間隔は、15カ月以内と定められています。ただし、新規設立会社が開催する最初の定時株主総会については、会計年度末日より9か月以内でよいとされています。
また、臨時株主総会 (EGM: Extraordinary General Meeting) は任意でいつでも開催可能です。
開催場所
定時株主総会の開催は、インド国外における開催が認められていないため、インド国内に規定されています。原則的には、会社の登記がされた事務所または同一市区町村での開催が義務付けられているものの、全株主の同意のもと、インド国内の任意の場所において定時株主総会の開催が可能です。
臨時株主総会については、外国企業の完全子会社(Wholly Owned Subsidiary)の場合は、インド国外での開催が可能です。
招集通知
定時株主総会の招集通知は、開催日の21日前までに全株主に送る必要があります。ただし、95%以上の株主の同意があれ、、短期招集(21日未満の通知)により開催することも可能です。
定足数、出席方法
株主総会の定足数は、非公開会社の場合は2人とされています。株主が法人である場合には、株主の取締役会決議にて代表者 (Authorized Representative) を選任します。個人株主は、代理人 (Proxy) を選任することも可能ですが、代理人 (Proxy) には発言権がなく、定足数にも含まれないこと、挙手による決議では議決権を持たない点には留意が必要です。例えば株主が、法人株主1社と個人株主1名の合計2者しかいない場合は、定足数を満たさないことになるため、個人株主は代理人を選任できず、必ず個人株主が出席する必要があります。
開催手段
(原則的に) 株主総会のビデオ会議の開催および (取締役会とは異なり、) 書面決議は不可とされています。ただし、例外的にビデオ会議による株主総会および臨時株主総会の実施が、2024年9月30日まで認められています。
決議要件・決議方法
株主総会決議には、普通決議と特別決議があります。
普通決議の決議要件は、出席株主の過半数の賛成、特別決議の決議要件は、出席株主の4分の3以上の賛成で市立します。
代表的な普通決議事項としては、取締役選任・解任、監査人の選任、年次決算書類承認、利益配当等が挙げられます。他方、特別決議事項の代表例としては、基本定款 (MOA) もしくは附属定款 (AOA) の改正、合併・会社分割などの組織再編、会社の清算等が含まれます。
決議方法は、会社法上の原則は出席株主の挙手による投票によるとされているため、保有する株式数に応じた議決権数に関係なく、出席株主1者につき1票の議決権を有しています。また、付属定款(AOA)に規定することで、保有株式数に応じた、投票による決議とすることも可能です。
株主総会決議が必要な事項 (Resolution to be passed in general meeting)
- 授権資本引き上げ (Increase in Authorized Share Capital)
- 定款変更承認 (To alter in MOA & AOA of the company)
- 州を越える住所変更 (Change in registered office of the company from one state to another)
- 社名変更 (Change in Name of the company)
- 取締役の追認 (Regularization of additional directors)
議事録 (minutes) の記録漏れ等の不備
ビデオ会議での記録の保管や取締役会の議事録の記録漏れの場合は、罰則の対象となり、会社に対して25,000ルピー、不履行の各役員に対しては、5,000ルピーの罰則がそれぞれ科されます。
その他
株主総会で可決されたすべての決議は、30日以内に会社登記局(ROC)にオンラインでの提出が義務づけられています。
執筆者紹介About the writter
一橋大学大学院社会学研究科修了。東京大学大学院総合文化研究科在学中。出版社編集部、外資大手小売企業やベンチャー企業のスタートアップメンバーを経て、公的機関にて約3年間、主に南西アジアの調査業務に従事。南インドの地域特性を活かした、日系企業のインド進出と成長を後押しすべく、2024年5月より当社に参画。法務・会社秘書役業務(CS)を担う。
会社法
F-31(a) : インドの取締役の選任や退任、除名にかかる各種手続きについて
F-31(b) : インドの株主選任にかかる名義株主と完全子会社化について
F-31(c) : インドの取締役会(Board Meeting)および株主総会(AGM・EGM)の開催概要