E-27-2:インドへの出張者に対するPE認定リスクについて
PEとは恒久的施設(Permanent Establishment)のことで、事業を行う一定の場所のことを指します。PEの有無は企業が海外で事業を行う際に進出国で課税されるかどうかが決定される重要な指標となっており、「PEなければ課税なし(No PE, No Tax)」という考え方が事業所得課税における国際的なルールとなっています。今回は、インドに出張する日本企業の社員がPEと認定されるリスクについて解説したいと思います。
PEの類型
PEはその性質により下記のとおり4つのタイプに分けられます。
1. 支店PE
例えば、支店や事業管理の場所、工場などが挙げられます。たとえ何らかの法的主体としてインド国内に登記がされていなかったとしても、長期間活動拠点となっている場合にはPEと見做されるケースがあります。
2. 建設PE
建設工事現場、建設・据付の工事で6ヶ月を超えるもの、またはこれらに関連する監督活動が挙げられます。一般的には、日本企業が現地での工場立ち上げのために出張者を長期的に送り込む場合などが該当します。
3. 代理人PE
駐在員や海外子会社、海外の販売代理点などが外国企業の代わりに活動し、かつ、外国企業の名義において顧客との契約締結権限を持つ場合や、契約締結のために重要な役割を持つ場合が該当します。代理人PEに関する詳細はこちらの記事をご覧ください。H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク
4. サービスPE
OECDモデル租税条約ではなく、国連モデル租税条約に記載がみられる概念です。海外における役務提供者の継続的な滞在や活動自体がPEを構成するもので、例えば、一定期間を超えるコンサルティング業務の役務提供などが挙げられます。なお、日本とインド間で合意している日印租税条約にはサービスPEにかかる条項が規定されていないため、原則、日本企業がインド国内にサービスPEを創出することはないと考えられます。
「出向者PE」や「出張者PE」という用語は、租税条約上は存在しませんが、実務的に出向者や出張者が上記1〜4に該当する活動を現地で行うことでPE認定されるリスクが生じます。
PEリスクを回避するために避けるべき活動
インドでの出張者の活動がPEと見なされることを防ぐためには、以下のような活動をできる限り控えることが重要になります。
1. 契約締結など重要な意思決定を行わない
出張者がインドでの契約締結に繋がる「主要な役割(principal role)」を担うことのないようにする必要があります。つまり、顧客との重要な交渉を行うことを避け、かつ、あくまで価格交渉や契約締結にかかる決定権限は日本にあり、インド国内での活動は補佐的な業務のみであることを明示する必要があります。具体的には以下の点に注意することが重要です。
- 契約を締結する権限を持たせない。
- 価格交渉を行う権限を持たせない。
- 出張者が重要な意思決定を行わないようにする。
- 継続的な営業活動を避け、市場調査業務やマーケティング活動等に限定する。
2. 固定されたオフィスや設備を持たない
インド国内での固定された事業所やオフィスを持つことは、PEと見なされるリスクを高めます。具体的には以下の点に注意することが重要です。
- インド国内に固定されたオフィスや設備を設けない。
- 必要な場合は、会議室やレンタルオフィスの一時的な利用に留める。
- 他社オフィスの一部を借りる場合はあくまでゲスト扱いにしておく。
3. 複数の出張者が長期間プロジェクトに関与しない
複数の出張者が同一プロジェクトに関与し、かつ、6ヶ月を超えてプロジェクトに関与する場合、そのプロジェクトがPEとして認定される可能性があります。このため、以下の点に留意することが重要です。
- 各出張者の滞在日数をインド非居住者と区分される限度日数である183日以下に抑える。
- 日本からのリモートワーク等により出張回数、滞在日数を極力減らす。
- 現地でのプロジェクト運営管理を避ける。
- 重要な技術的決定は日本で行う。
- 状況に応じて長期出張ではなく在籍型出向に切り替える
出張者の活動記録の管理
出張者の活動記録を適切に管理することも、PE認定リスクを回避するために重要です。具体的には、以下の対策が有効です。
- 出張記録や会議の議事録など、出張者の訪問目的やインド滞在中の行動を確認できる記録を残す。
- 出張負担金に関する契約書を事前に締結し、出張者の活動内容を明確にする。
それでもPE認定されてしまった場合・・・
PEとして認定されてしまった場合、以下が課税対象となります。
法人課税
PEに帰属する所得に対して、法人所得税が課税されます。出張者に対するPE課税の場合は外国法人と見做されるため、税率は35%になります。
個人課税
PE関連業務に従事している出張者のインド源泉給与はインドでの課税対象とされます。その場合、インド滞在日数が183日以下であったとしても、短期滞在者免税(※1)を適用することができません。また、追徴された個人所得税を会社が代わりに負担をする場合、当該負担額が現物給与と見なされるため、日本においても個人所得税が追加で課税されることとなります。
(※1)日本居住者がインドに短期滞在する場合は、以下3つの条件をすべて満たす場合に、インドでの納税義務が免除されます。(日印租税条約のもと、両国において適用される規定であるため日本とインドを適宜読み替えることが可能)
- 出張者の課税年度におけるインド滞在日数が合計183日を超えないこと
- 報酬が日本法人など、インド国外居住者により負担されるものであること
- 報酬が、日本法人のインド国内に有するPEにより負担されないこと
PE認定を受けてしまうと、遅延金利やペナルティも含め大きな損害を受けることが想定されます。PE認定リスクを回避するためには、上述のとおり重要な意思決定や契約の締結など、PEと見なされる可能性のある行動を避けること、短期間の出張に留めること、活動内容を情報提供や助言などに限定するなど活動の制限を行うこと、そして何を記録に残すか残さないかを事前に確認することが重要です。PEリスクの観点から、重要な取引については事前に専門家へ相談し、適切な対応を取ることが推奨されます。
執筆者紹介About the writter
筑波大学生命環境学部卒業。大手日系企業に入社後、営業部にて日々インド人とコミュニケーションを取る職場環境に身を置き、インドをはじめ、中国、タイ等の海外子会社の経営管理業務に約4年半従事。海外子会社経営の難しさ・大変さを目の当たりにした経験から、インドへ進出する多くの日系企業をより直接的に支援したいと考え当社に参画。現在はインド税務・会計のアドバイザリー業務、およびインド市場調査業務を担当している。デリー在住。