Indian Accounting & Taxation

会計税務

E-25 : インドの源泉所得税TDSの概要と日印租税条約について

(文責:木内達哉 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

(1)TDSとは

源泉所得税(TDS : Tax Deducted at Source)とは、企業が個人や取引先へ支払う際に所得税を源泉徴収し納税する仕組みです。日本では、源泉徴収の対象は給料や個人事業主への報酬、非居住者又は外国法人への国外送金に限られます。一方、インドの場合には法人が提供したサービスに対する支払いも含めて幅広い取引がTDSの対象となります。

 

(2)TDSの仕組み

A社がB社に100ルピーのサービスを提供し、そのサービスに10%のTDSが課税された場合、B社はA社に90ルピーのみ支払い、差額の10ルピーはTDSとして税務当局へ納税します。TDSの計算はGST()抜の金額を基に計算するため、例えばGST料率が18%と仮定すると、実際にB社がA社へ支払う金額は90 + 18(100×18%)=108となります。

A社にとって、控除されたTDSは法人税の前払となるため、年末の法人税申告の際に前払したTDSの金額を未払法人税と相殺します。もし該当年度が赤字であった場合には、税務署による法人税のアセスメント完了後に還付されます。

 

 GSTとは、日本で言うところの消費税に当たります。GST税制の詳細については以下リンク先をご覧ください

E-26 : インド新税制GSTの概要について

 

(3)TDSの料率

2023年3月期における主なTDSの料率は下記の通りです。下記テーブルは簡略化していますので、支払の内容・性質に基づく規定の詳細は別途インド税務当局のサイトをご確認ください。政策により一時的に料率が変更となる場合があるので、最新の情報に注意が必要です。 

 

(4)TDSの納付と申告

TDSの納付は、対象月の翌月7日までに支払わなければなりません。例えば、1月1日から1月31日の間に控除したTDSの納付期限は2月7日となります。但し、期末である3月分については納付期限が4月30日となります。納付したTDSの申告は四半期に1度行います。各四半期の申告期限は下記の通りとなります。

対象月 申告期限
第1四半期 X年4月~6月 X年7月31日
第2四半期 X年7~9月 X年10月31日
第3四半期 X年10月~12月 (X+1)年1月31日
第4四半期 (X+1)年1月~3月 (X+1)年5月31日

 

TDSの申告を行うとその源泉徴収の根拠書類として給与のTDSに対してはForm16、法人のサービスに対してはForm16Aというフォームが発行されます。源泉徴収を実施した企業はこのフォームを各取引先へ送付することで、各取引先の法人税申告の際に申告納税額と相殺するための根拠資料として利用されることとなります。

 

(5)日印租税条約(DTAA)

国境を越えた商品やサービスの取引をする場合、国際的な二重課税が生じないよう各国政府は租税条約(DTAA : Double Taxation Avoidance Agreement)を締結しています。日本とインドの間でも日印租税条約が締結されています。日印租税条約では様々な取引につき規定されていますが、ここでは日系企業によく関係のある1.配当、2.使用料及び技術上の役務、3.給与について取り上げます。

1.配当(Dividend)

配当については、日印租税条約の第10条において定められています。従来は、インド子会社から日本本社への配当金支払いについてはインド子会社に対して配当分配税(DDT:Dividend Distribution Tax)が課税されており、配当の送金そのものについて源泉徴収は不要でした(DDTは外国税額控除の対象とならないため、実質的には二重課税となっていました)。2020年4月以降は配当分配税は廃止された代わりに、株主への配当支払時に10%の源泉徴収義務が課されますが、この源泉税額は日印租税条約第10条2項に基づき日本において外国税額控除の対象となります。

2.使用料及び技術上の役務(Royalty / Fee for Technical Service)

日印租税条約第12条において、インド(または日本)国内で発生し、日本(またはインド)へ支払われる使用料及び技術上の役務に対する料金に対しては、支払時に軽減税率10%の源泉税を課することができるとされています。主なケースとしては、日本本社のエンジニアがインドへ出張してインド子会社で業務に従事し、インド子会社から日本本社へその作業料を支払う場合(またはその逆)です。

3.給与(Salary)

日印租税条約第15条では、「日本(またはインド)の居住者がその勤務について取得する給料等に対しては、勤務がインド(または日本)の国内において行われない限り、日本(またはインド)においてのみ租税を課することができる。勤務がインド(日本)の国内において行われる場合には、当該勤務から生ずる報酬に対しては、インド(日本)において租税を課することができる」と定められています。

例えば、インドの居住者となっている日本人がインド国内で働いている限り、日本支給給与もインド支給給与もインドで課税されます。一方、たとえインドの居住者であっても、日本国内で働く場合には日本で課税されます。但し、インドの居住者が日本で働く場合、下記の3つの条件を満たすと「短期滞在者免除」を適用することができ、日本での納税義務は発生しません。(※日本とインドとを読み替えていただいても同様の課税関係となります。)

 

(a) インドの居住者が当該課税年度を通じて合計183日を超えない期間日本国内に滞在すること。

(b) 報酬がインドから支払われるものであること。

(c) 報酬が雇用者の日本国内に有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものでないこと。

 

例えば、インドの居住者となっている日本国籍の駐在員が日本へ出張した場合、日本本社から支給される給与については日本で所得税を源泉徴収しなければなりません(上記(b)の条件を満たさないため)が、出張の日数が183日を超えなければインドで支給する給与の分については日本での納付は不要になります。また、日本出張中の駐在員が日本本社で業務をした場合、日本の税務当局から「インド法人の恒久的施設または固定的施設(場所PE)が日本にある」と判断されると、上記(c)の条件を満たさないものと判断されて短期滞在者免除を受けられない可能性があるため注意が必要です。

 

(6)外国税額控除(FTC)

租税条約に基づき日本又はインドで源泉徴収を行った場合には、納税証明書を相手側の国へ送ることで、相手国において外国税額控除(FTC : Foreign Tax Credit)の適用を受け、二重課税を回避することができます。

例えば、インド企業所属のインド人エンジニアを日本の企業へ派遣して日本国内で業務を行い、その業務の対価として100万円を日本の企業からインドの企業へ送金する場合、日印租税条約第12条の規定に基づく10%(10万円)を日本で源泉徴収して日本の税務当局へ納めなければなりません。日本からインドへの海外送金の際に源泉徴収をすることとなりますが、その時に軽減税率10%の適用を受けるために日本の税務署へは「租税条約に関する届出書」を提出し、源泉税納付後に税務署へ納税証明書の発行を申請します。

インド企業側からすると、受け取れる金額が10万円だけ少なくなりますが、その分は上述の納税証明書を日本の企業から入手し、当該インド企業が法人税を申告する時に「Form 67」というフォームと合わせて外国税額控除の申請をすることで、未払法人税と相殺することができます。但し、インド国内で源泉徴収されたTDSについてはインド法人が赤字だった場合には還付されますが、海外で源泉徴収された源泉税についてはたとえ当該インド企業が赤字でも還付を受けることができず、そのままインド企業の費用となってしまうため注意が必要です。

逆に、インドから日本へ海外送金をする場合には、インドでの税務申告後に税務当局から発行される「Form 26AS(源泉徴収票のようなもの)」を日本の税務署へ提出することにより、日本で外国税額控除を受けることができます。

 

(7)日本法人のPAN取得義務および税務申告義務に関する考察

日本からインドに対する技術的役務提供やロイヤリティの対価の請求については、日本法人側でPANを所得する必要があると言われることがよくあります。ただし、こちらについてはインドからインド国外への送金手続きの際に控除すべきTDSについて、下記2つのうちいずれの源泉徴収税率を適用するかにより課税関係が分かれるところです。

(1)インド所得税法上の適用税率20%(2023年インド予算案で10.4%から引き上げられました)

(2)日印租税条約上の適用軽減税率10%

つまり、(1)インド所得税法上の20%を適用する場合には、受領者であるインド国外非居住者(日本法人など)はPANを取得する必要はなく、したがってインドでの税務申告義務も免除されることとなります。ただし、インド側で控除された20%は、日本側で外国税額控除の適用が不可(つまり二重課税が発生)となるため、(1)と(2)どちらの選択肢がより御社にとってメリットがあるかを評価し、必要に応じてインド側企業と事前に合意をしておく必要があります。

もし日印租税条約の軽減税率10%を適用する場合には、日本法人の所轄税務署が発行するTRC(Tax Residency Certificate:居住者証明書)とForm 10F等の書類が必要となり、また、受領者たる日本法人側はインドでPANを取得し、かつ、税務申告も実施する必要があります。ただ、これによりインド側で控除された10%は、日本側で外国税額控除FTCとして税額控除の適用が可能です(二重課税を回避可能)。

例えば、取引金額がそもそも少額である場合においては、もしかしたらわざわざPANを取得して軽減税率10%を適用するメリットはないかもしれません。なぜなら、PANの取得手続きやインドでの税務申告手続きにかかる手間・コストを考慮すると、軽減税率を適用して外国税額控除を適用するほどの経済合理性が見込めない可能性があるためです。ちなみに、インド側の送金者が子会社やJVなどの関連会社である場合には、そもそも移転価格税制の適用対象となるため、上記の選択に関係なく、いずれにせよインドでの税務申告義務が発生するため、この場合においてはシンプルに日印租税条約を適用しておく方がメリットがあると言えます。

執筆者紹介About the writter

木内 達哉 | Tatsuya Kiuchi
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。

会計税務

E-25 : インドの源泉所得税TDSの概要と日印租税要約について

E-26 : インド新税制GSTの概要について

E-27:インドの法人税関連コンプライアンスと予定納税制度について

E-28:ケース事例から見るインド移転価格税制の実務と税務リスク

E-29:インドの関税およびSVB当局対応について

E-30 : 遅々として変わるインドの税務調査手続きの行方