B-11-2 : インド人の英語と面接時のエピソード集
(文責:安本理恵 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
(1)インド英語について
日本からインドへ来たばかりの頃は日本で学んだ英語とはかなり異なる「インド英語」に毎日衝撃を受けていました。インドの現地語に影響を受けた独特のイントネーションや発音、インドにしか存在しない英単語やフレーズ等に慣れるまでは会話が困難な程でした(日本人である私たちも他人の事は言えませんが・・)。また、地域によってインド英語のアクセントも影響を受けていて、デリーはヒンディー語アクセント、チェンナイはタミル語アクセントが強く、同じ英語でも違って聞こえます。私がインドに来て驚いたインド英語を下記にご紹介します。
■ YesとNoが違う!
例えばコーヒーが好きではなかったとして、“You don’t like coffee, right?”と聞かれたら北米では”No, I don’t like coffee.”と答えますが、インド英語では”Yes, I don’t like coffee.”になります。日本語に似ていますね。北米の英語を勉強した私は何度も聞き返さないと確認が取れず、今でも苦労します。
■ インドの「よろしくお願いします」?
インドのビジネスメール等で度々目にする”Do the needful”という表現があります。”Do what needs to be done”という意味ですが、日本語の「よろしくお願いします」が和訳としてピッタリなのではないかと思っています。
■ 「prepone」という単語
“postpone”(=延期)から派生してインドで生まれた英単語で、「(日程などを)前倒しにする」という意味です。
■ 「the same」という単語
the sameは「同じ」という意味ですが、インドでは「該当の」「その」といった意味で使われます。例えば”I will update for the same”などの使われ方をします。これは「同じくアップデートします」では意味が通じず、「それをアップデートします」と理解する必要があります。”it”や”them”などと同じ意味ですが、単数形も複数形もないので使い慣れると便利です。
■ ホテルとレストラン
インドではレストランが「ホテル」と呼ばれる事があります。例えば南インドチェンナイ発で海外進出もしている「ホテル・サラバナバワン(Hotel Saravana Bhavan)」はホテルではなく、レストラン、どちらかというと食堂です。そこでインド人の同僚に「レストランがホテルなら、泊まるほうのホテルは何て言うの?」と聞くと、「ホテル」と言われました。
■ インド英語の発音D、R、Th
地域差はあるものの、インド英語のDは私からするとRに近い発音に聞こえ、Rはとても強く巻き舌のような発音をします。Todayがトゥレイ、Burgerがバルガルに聞こえます。またThのhがあまり発音されず、Thinkがティンク、Birthdayはバーッデイに聞こえます。
日本で生まれ育った私にとっては所謂欧米の英語が正しい、インド英語は「インド人はネイティブではないから間違っている」のだと思いこんでしまっていたのですが、インドに住み日々インド人と接する事でそれが必ずしも正しくなく、偏見でもあることに気づきました。インドはアメリカに次いで世界で2番目に英語話者が多い国で、英語がインドの準公用語にもなっており、少ないながらもインド英語が第一言語のインド人も存在します。イギリス英語話者よりもインド英語話者の方が多いのです。今は、インド英語(インドに限りませんが)は沢山ある英語の一種なのだと捉えるようになりました。
(2)インド人との面接対応とエピソード集
人材採用の基準は、採用する役職、職種、企業規模や文化等によって様々だと思います。弊社では、日系企業のお客様とのコミュニケーション及びサービスの質を担保するという観点から、どの役職であっても弊社が期待をする人物像を明確にし、チームでの仕事を前提とした“カルチャーフィット(企業文化に馴染むか)”を大切にしています。つまり、私たちはどんな人と働きたいのか、絶対に譲れないことは何か、また、言語化するのが難しいことも多々ありますが、候補者の面談時に感じた違和感の正体はなにか、そこに偏見はないか、などを大切な採用基準として共有しています。インド人材は、インドの「多様性」に象徴されるとおり、色々な意味で幅があるので、人材採用はマネジメントがイニシアティブを取り、選考プロセスのスピード感よりも以下のような点に注視をしながら慎重に採用するようにしています。
1、新しい事を学ぶ事に積極的な姿勢
2、礼儀正しさ、素直さ
3、責任感があること
4、質問の内容を理解出来ること
5、質問に対して論理的な回答が出来ること
6、正直であること
7、日本人とコミュニケーションが取れる英語力
とはいえ、どんなに精査したつもりでも間違える事もありますし、1人を見つけるために500人にコンタクトを取らなければならなかったときもありました。それでも、この人だ!と思う人が見つかり、仲間が増えるのはとても嬉しい瞬間です。なお、上述のポイントは弊社の「私たちが大切にしているバリュー(Our Value)」ともリンクをするところで、慎重な選考プロセスを経て選ばれた人材であったとしても、入社後の試用期間中にこれらの価値観を共有できる人物かどうかをあらためて実務を通じて見極めていくことになります。
最後に、弊社が実際に経験した面接時の代表的なエピソードを10個ご紹介します。インドでは採用活動においても私たちの想像を超えてくることがよく起こりますが、インドの多様性については理解をしつつ、冷静にかつ客観的視点を持って対応するようにしましょう。
1、転職の理由は「キャリア形成」
中途採用の場合、「なぜ転職を考えているのですか?」という質問をすると、十中八九「Career growth(キャリア形成)のため」という回答が来ますが、転職をする事でどのようなキャリア形成を期待していますか?転職して得たいことは?詳しく教えてください、と聞くとこちらは十中八九、途端に答えてくれなくなることが多いです。
2、転職の理由は「全くなし」
上記と同じ質問をしたところ、元気よく「Nothing!」と答えられたことがありました。何度聞いても、同じ仕事がしたいけど全く理由なく転職活動を行っていると言われました。正直に言ってくれるのはありがたいですが、入社頂いてから突然理由なく転職されても困るので採用は見送りました。
3、将来の目標が「役職」
「今後どのような経験を積み、5年後、10年後どのような人材になりたいですか?」と質問すると「General Managerになりたいです。」と役職で答えるケースも多いです。役職と年収を上げることが目的の転職候補者が多い中で、その役職に届くためにどのような経験を積む必要があるのか一緒に考えてあげながら、中長期的に一緒に成長ができそうな人材かどうかの見極めが大切になってきます。
4、「全ての業務をやっていた」人
経験のある業務について聞いたところ、「全ての業務をやっていました」と答える人が少なくないです。特に注意が必要なのは、職務経歴書(レジュメ)に記載されている業務経験は上司や部下がやっていただけで、実は本人が全ての業務をやっているわけではなかった、というケースがよくあります。面接の中では具体的な作業レベルまで本当に理解をしているかどうかを確認をしましょう。
5、「給料3倍欲しい」人
「もしご入社いただけるとしたらどれぐらいの年収を希望しますか?」という質問に対して、現在の年収の2〜3倍ぐらいを提示してくる候補者もいます。日本ではあり得ませんが、インドの場合は正しく評価されずに不当に低賃金で働いてきたケース(良い人材である可能性が高い)もあり得るので、現在の年収だけでなく、候補者の適正年収がいくらなのかを客観的に評価してあげるようにしましょう。過去に一度、経理部門責任者(Head of Accounts Department)という部門トップの役職で勤務されていた候補者の月給が約4万円だったのを聞いて驚いたことがあります。
6、お父さんと一緒
チェンナイという土地柄のせいか、お父さんと一緒に面接に来られた女性候補者の方が数人いました。心配だったのでしょうか。
7、お父さんと赤ちゃんと一緒
お父さんと小さい赤ちゃんと一緒に面接に来られた候補者の方がいました。びっくりしましたが、この方は採用となりました(赤ちゃんがいたから採用したわけではありません)。
8、面接に裸足
宗教行事で靴を履いてはいけない期間だったそうで、裸足で面接に来られた方がいました。そのことを知らず、思わず「靴はどうされたのですか?」と聞いてしまいました。
9、圧がすごい
まだ面接の段階で「ところで、オファーレターはいつ発行されますか?」と何度も聞かれたことがあり、「ちょっと考えさせてください」と言いたくなりました。
10、面接に来ない
日本では面接を無断欠席するなどという応募者は極めて珍しいと思います。しかしインドでは、面接を無断欠席する人は極めて多いです。私の感覚では、面接が確定した方の半分ほどしか来ません。これは弊社だけでなくインドでは一般的に見られる現象なので、応募者が面接へ来なかったからといって驚かず、一定割合は来ないものという割り切りが必要です。
執筆者紹介About the writter
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。