Entry Into India

インド基礎概論

A-3. インドでの合弁会社の設立時に注意すべきポイント

(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

1、インド企業との合弁会社設立メリット・デメリット

日系企業がインドに進出するに際し、インドパートナー企業との間でジョイントベンチャー(JV)/合弁会社を設立するという進出方法は、インド市場で事業展開をしていく上で有効な選択肢のひとつになっています。

インドパートナー企業との合弁で進出をするメリットとしては、主にインド特有の問題(労務管理やインド当局への対応、各種コンプライアンスへの対応など)への対応や、インドパートナー企業が有する人的ネットワークを活かした取引先の開拓などが挙げられます。

一方で、意思決定におけるスピード感の違いや判断基準・価値基準の違い、商習慣の違いから、事業経営上の擦り合わせに多大な時間を要しているケース、また、形式的に日本企業側が51%以上の株式(マジョリティ)を有していたとしても、適切な情報が適時に共有がされない現地のオペレーションがブラックボックス化するなど実質的に事業経営が支配されてしまっているケースも散見されます。

この記事では、インドパートナー企業と合弁会社を設立する際に注意すべき主要ポイントについて、実務経験に基づきステップごとに解説をしたいと思います

2、インドパートナー企業をいかに選定・評価すべきか?

インドパートナー企業との合弁会社の設立は、長期的な関係を前提とした企業同士の“結婚”とも言える重要な意思決定を行うこととなります。

ちゃんと事前に一定期間お付き合いをした上での取引実績があれば、ある程度パートナーのことを理解した上で合意することができますが、多くのケースでお互いをあまりよく知らないまま合弁会社の設立に至っているのが実情ではないかと思います。

まずは、小さく、かつ、継続的に取引実績を積み重ねてみる、そのプロセスを通じて相手のことを知る、というのが最善の方法であると感じますが、必ずしもそれが実現できない状況も多々あろうかと思います。ここではパートナー候補企業について最低限実施しておくべき調査事項についてご紹介をいたします。

1.登記情報から実施すべき信用調査

インドでは企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)のサイトから会社の登記情報を確認できるようになっています。

その登記情報には資本金や登記事務所、設立登記日などの基本的な企業概要だけでなく、ユーザー登録をすることによって有料で、定款や付属定款、監査済決算書類、取締役の変更履歴などを入手することも可能となっています。つまり、これらの登記情報から以下のような項目を事前に確認しておくことが大切です。

  1. 登記されている会社の基本情報とパートナー企業の説明との整合性
  2. 決算登記等の会社法コンプライアンスにおいて法令遵守違反・遅延がないか
  3. 監査済財務諸表の監査意見や財務状況において特筆すべき事項がないか
  4. 取締役が取引先の株主や取締役に就任しているなど不透明な関連者がいないか
  5. 金融債務の担保となっている固定資産などがないか

2.パートナー企業を通じて確認すべき資産調査

インドパートナー企業との合弁設立を検討している背景として、インド企業が有する様々な有形/無形の資産(設備や技術、インド国内販売網やサプライチェーン、その他取引実績や社内外の人的リソースなど)の存在があります。これらの資産が本当に存在しているのかどうかを、根拠となる契約書や合意文書による裏付け、また、取引実績がインド企業の口頭による説明や決算書類、管理会計データなど様々な観点から多面的に整合性が取れるかどうかを確認しておくことが必要となります。

3.定性的な情報

信用調査では、定量的な情報だけでなく定性的な情報も非常に重要です。企業の財務状態に関する定量的な情報は上記の情報から得ることができますが、パートナー候補企業の選定においては定量的な情報だけに頼るのではなく、実際に企業や工場を訪問して経営者と会話をし、経営者の人柄や社員の雰囲気などをじっくりと観察することも重要です。
たとえどんなに財務情報が優れていても、経営者が顧客や株主、従業員のことを考えず、自分の利益だけを考えているような人であったり、肝心な質問に答えずにはぐらかしてしまうような人柄であったら、貴社が投資した資金がすぐに使い果たされ、煙に巻かれてしまうという可能性もあります。特にインドでは、どんなに定量的な情報を調べても不透明さは残ってしまうため、最終的には直観を頼ることも重要です。

3、合弁契約書(株主間契約書とも言う)の締結において何を注意すべきか?

インドパートナー企業との合弁会社設立において、株式持分比率をどうするか、取締役をそれぞれ何名ずつ選任するか、などの設立当初の株主と取締役にかかる合意は当然に重要となります。

しかしながら、見落としがちなのは、もし将来的に増資が必要となった場合の株式持分への影響や、株式持分比率が変わった場合の会社支配権への影響など、将来的にデッドロックを含む事業運営の障害となり得る落とし穴がないか、事前に合意しておくべき条項が漏れていないか、過度に自社が不利になる条項が含まれていないかを慎重に確認しておく必要があります。

特に、日系企業側がマイノリティー株主となる場合には、以下のような項目について事前に合意をしておく必要があろうかと思います。

  • 全株主の賛同を必要とする事前同意事項/拒否権に関する条項
  • 全取締役の賛同を必要とする全会一致条項
  • キャスティングボート(議長決済)に関する条項
  • 株式譲渡の可否や株式評価方法に関する条項
  • 資金調達方法および増資時の株式希薄化に関する合意
  • 監査人の選任や法務・財務関連の職務従事者に関する合意
  • デッドロック(会社の意思決定ができない膠着状態)の状況における対処方針
  • 合弁解消となる事由およびそのプロセス

なお、合弁契約書については株主間での法的合意文書としてはもちろん法的拘束力を持つ一方で、インド国内に設立される合弁会社おいては直接的な会社法上の法的拘束力を持ち得ません。

つまり、合弁契約書において合意した条項については、合弁会社設立時に作成する付属定款(AoA : Article of Association)に反映をさせて初めて効力を発揮することとなります。

インド基礎概論

A-1 : インド現地法人の設立手続について

A-2. インド現地法人設立後のコンプライアンスについて

A-3. インドでの合弁会社の設立時に注意すべきポイント

A-4. インド駐在員事務所・支店の設立条件・要件および設立前に確認すべき事項

A-5. インド駐在員事務所・支店の設立手続について

A-6. インドの支店・駐在員事務所 設立後のコンプライアンス

A-7. インドLLPの設立条件・要件および設立前に決定すべき事項

A-8. インドLLPの設立手続について

A-9. インドLLPの設立後のコンプライアンスについて

A-10. 日系企業のインド進出状況と今後の動向