Entry Into India

インド基礎概論

A-10. 日系企業のインド進出状況と今後の動向

(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

2021年現在、インドには約1,500社が進出をしており、自動車産業を中心とする製造業が約半数を占め、新興国戦略商品開発を目的とする現地化を進めるべく研究開発拠点を設置する動きも増えてきています。

特に南インドのバンガロールやハイデラバードIT産業の集積地として注目を浴び、楽天やソニー、パナソニックなどの日系企業もR&Dセンターを設立しています。

一方で、インドに進出している日系中小企業の割合はまだ20%弱とも言われており、東南アジアを中心に海外展開を進めていた日系企業にとって、インドはNext Marketとしての存在感を日に日に強めています。以下に、ここ数年で特に動きが大きかった産業に注目して、ご紹介したいと思います。

1.盛り上がりを見せるインドの外資小売市場の行方は?

2018年に無印良品やイケアがインドに進出を果たし、2019年にはついに「ユニクロ」を運営するファーストリテイリング社が首都ニューデーリーにインド1号店をオープンさせました。

従来より、インドは国内産業を守るため、小売業に対する外国直接投資を規制してきましたが、単一ブランドの小売業についてはここ数年で大幅に規制が緩和され、外国企業による進出が増加しています。

また、依然として外資規制が残る複数ブランド小売業については、例えば、コンビニエンスストア事業においてインパクトホールディングス社がインド大手コーヒーチェーンの株式49%を取得し、2019年8月にバンガロール市内に1号店をオープンさせました。

インドで営業開始予定のセブン―イレブンもインド小売り大手フューチャー・グループ傘下企業とのマスターフランチャイス契約を通じてインド進出を果たす予定との報道がされています。

インド国内産業保護と、外資誘致による市場全体の競争力強化は、インドにとって引き続き重要な舵取りを求められていくものと思われます。

2.“日本食ビジネス”はインドで今後どのような展開を見せるのか?

世界では日本食ブームが席巻をしているようですが、インドではまだまだこれから。

インド国内で展開されている日本食レストランはまだおそらく30〜40店舗ほどです。

私が住むチェンナイでは7店舗ほど。いわゆる総合居酒屋風の日本食レストランが主流ですが、数年前から焼鳥や焼肉、ラーメンといった専門食系の日本食レストランも各地で少しずつオープンし始めています。

北インドのグルガオンではCoCo壱番屋がカレーの本場インドに逆進出、吉野家やすき家が牛の神様を横目に各種どんぶり屋をオープンするなど、独自の盛り上がりを見せています。

なお、2021年7月現在、海外展開を急速に進めている大戸屋や丸亀製麺などはまだインドに進出していません。

なんと言っても味付けを中心とした食文化の差が大きな課題となっています。

週7日毎日3食カレーを手で食べる(これ本当です!)ほとんどのインド人にとって、スパイスをベースとした刺激が味付けにおいて大切です。

インド国内で提供されている多くのイタリアンや中華料理もインドナイズ(現地化)されているため、カルボナーラでさえも胡椒たっぷり、食べ終わると汗だくになっているほどです。

素材の味やうまみを大切にする日本食のコンセプトからもはや対極にあるインド人の味覚に対して、どのように現地化していくのか。

このような市場環境において、果たして本格的な日本食ブームはやってくるのか、どのような日本食が流行るのか。まだ誰も知らない隠されたマーケットがあるのかもしれません。

3.インドスタートアップといかに協業するか?そして日本のスタートアップはインドで勝てるのか?

2018年12月、株式会社ニチレイは、インド・バンガロールを拠点とする食肉・魚介類の流通・宅配サービス事業Licious(リシャス)を運営するインドスタートアップDelightful Gourmet Private Limited(ディライトフルグルメ社)に対しリード投資家として1,500万ドル(約17億円)を出資しました。

ニチレイ社のホームページによると、Delightful Gourmet社を互いに長期的な関係性を築く「ストラテジックパートナー」と位置づけ、互いのビジネスに寄与するとしています。

つまり、ニチレイ社はDelightful Gourmet社が持つコールドチェーン構築や購買履歴データに基づくデジタルマーケティング手法のノウハウを得る事で、新たなビジネスへの可能性を模索すると共に、Delightful Gourmet社はニチレイ社の持つ高い衛生管理技術や肉の加工技術などの領域に期待をするとしており、互いの強みを最大限に活かし共に成長・貢献ができる関係性を構築していく予定のようです。(※インド事業責任者である同社バンガロール駐在員事務所長の丸山氏へのインタビュー記事についてはこちら

このような日系企業とインドスタートアップとの連携事例は今後少しずつ増えていくと考えています。

インドは良くも悪くもインフラが整っておらず、ルールも未整備、もちろん生活やビジネスの様々な局面において不便や不合理が散在しているわけですが、何を始めるにもゼロから。その代わりに規制や既得権益に邪魔されない自由があるとも言えます。

そんな環境が後押しして、例えば、オンライン診療やオンライン薬局、ドローン(小型無人機)を使った事業展開までがコロナ禍で急速に発達し、スタートアップのスピーディーな動きにルールが追いついていない状況さえ起こっています。

ある意味DXの最先端をゆくインドという国において、日本の技術が貢献できる領域や、逆にインドのDX事例から日本が学ぶことができる領域は多岐に渡ると考えています。

2021年5月には産業用ドローンを開発する自律制御システム研究所(ACSL、東京都江戸川区)が自社のサイバーセキュリティ対策技術において商機を見出し、本格的にインドへ進出することを発表しました。

規制産業に限らず、人工知能(AI)やIoT関連における共同研究・共同開発などの領域においても今後日印の連携が進むことを期待しています。

インド基礎概論

A-1 : インド現地法人の設立手続について

A-2. インド現地法人設立後のコンプライアンスについて

A-3. インドでのJV・合弁会社の設立時に注意すべきポイント

A-4. インド駐在員事務所・支店の設立条件・要件および設立前に確認すべき事項

A-5. インド駐在員事務所・支店の設立手続について

A-6. インドの支店・駐在員事務所 設立後のコンプライアンス

A-7. インドLLPの設立条件・要件および設立前に決定すべき事項

A-8. インドLLPの設立手続について

A-9. インドLLPの設立後のコンプライアンスについて