Entry Into India

インド基礎概論

A-8. インドLLPの設立手続について

(文責:安本理恵 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

前セクションA-7でご説明のとおり、LLP(有限責任事業組合:Limited Liability Partnership)は会社の有限責任の利点とパートナーシップの柔軟性を合わせもつ組織として外国企業による利用も進んでいます。今回は、インド国内におけるLLPの設立手続きについてご紹介したいと思います。

LLPの設立手続きは、概ね下記1.から4.の流れで実施され、一般的に登記が完了するまでの期間は1〜2ヶ月程度です。

  1. 指定社員(Designated Partner)のデジタル署名証明DSC取得
  2. 指定社員のDIN/DPIN取得(条件によっては省略可)
  3. 商号名の事前承認申請(”Form RUN-LLP”による申請)
  4. 法人登記の申請(”Form FiLLiP”による申請)
  5. LLP契約書の登記(“LLP FORM NO.3”による申請)

※デジタル署名証明 : DSC (Digital Signature Certificate)

※取締役識別番号 : DIN (Director Identification Number)

※指定社員識別番号 : DPIN (Designated Partner Identification Number)

全ての申請および登記手続きはオンライン上で実施し、必要書類は圧縮したスキャンデータを登記専用フォームに添付する形で提出することになります。必要書類や登記の細かな手続きは頻繁に変更される可能性があるため最新情報に留意が必要です。下記にそれぞれ詳しくご説明します。

1.指定社員のデジタル署名証明DSC取得

指定社員がDPIN・DIN(下記)を取得していない場合は申請に、また各種登記にも必要となるため、DSC取得をします。取得したDSCはインド企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)Webサイトに登録します。

2.指定社員のDIN/DPIN取得

LLPのすべての指定社員(Designated Partner:最低2名)は、「取締役識別番号(DIN: Director Identification Number)」または「指定社員識別番号(DPIN: Designated Partner Identification Number)」が必要になります。取得には、インド企業省が規定する登記フォーム「DIR-3」にDSCでデジタル署名を添付して申請をします(DIN取得と同じ手続きとなります)。既にDINをお持ちの場合は、DPINの別途取得は不要です。

DIN取得について更に詳しい情報はこちらをご覧ください。また、2名以下の場合はDPINを設立登記申請のステップ4と同時に申請することもできます。

3.商号名の事前承認申請

MCAのWebサイト内RUN-LLP (Reserve Unique Name-LLP) フォームにて申請します。一度に申請できるのは2つまでです。既存の商標、法人等の名称に類似する場合は承認が下りない可能性が高いため、事前にMCA Webサイト内の名前検索機能(View Company / LLP Master Data)を利用して確認することをお勧めします。承認されなかった場合、15日以内に再申請が可能です。一度承認が下りた商号名の有効期間は90日間です。

なお、商号名の事前承認と設立登記を同時に申請することも出来ますが、万が一商号名の承認が下りなかった場合には商号名を記載した書類をすべて作成しなおすことになるため、弊社では個別に申請することをご提案しております。

4.LLP法人登記フォームの申請

前項のステップ3で承認が下りた商号名の有効期間内に下記の必要書類をeフォームFiLLiP(Form for incorporation of Limited Liability Partnership) に添付し、指定社員のDSCを添付した上で、事業を行う州管轄の登記局へ設立申請をします。

下記、1)~10)は承認が得られた商号名を記入する必要があり、株主が外国法人の場合や取締役がインド国外居住者である場合は外務省による公印確認もしくはアポスティーユ認証付与が必要となり、もし必要書類をインド国内で作成した場合にはインド国内の公証人(Notary Public)による公証が必要となります。

必要書類

  1. LLPのパートナーに就任する旨の取締役会決議書(法人がパートナーとなる場合)
  2. 署名権限者を選任する取締役会決議書(法人がパートナーとなる場合)
  3. 登記予定住所の賃貸契約書
  4. NOC(Non-Objection Certificate): 登記住所としての利用に異論がない旨を証明する賃貸人が発行する書類
  5. 賃貸人の直近の電気代請求書:請求書上の住所が登記予定の住所と合致している必要があることに注意
  6. 取締役会決議書の抜粋①(登記住所の賃貸人が企業の場合)賃貸人が入居者の登記住所の利用に異論がない旨の取締役会決議の抜粋
  7. 取締役会決議書の抜粋②(サブリースの場合)
    賃貸人がオーナーではない、つまり賃貸人が入居者へ又貸ししている(サブリース)場合は、本来のオーナーが登記住所の利用に異論がない旨のNOCや取締役会決議書の抜粋が追加で必要となる点に注意
  8. パートナーのリスト兼同意書
  9. パートナー/指定社員が取締役/パートナーに就任している法人の詳細(あれば)
  10. 指定社員のDPINを申請する場合はPAN、個人ID証明、住所証明

外国人非居住者の場合

・個人ID証明:パスポート写真面コピーに自署(パスポートと同じサイン)をしたものにアポスティーユ認証付与したもの

・住所証明:電話代(携帯電話可)、電気代、水道代等で現住所と名前が記載されているもの、または銀行口座取引明細書(Bank Statement)にアポスティーユ認証付与したもの

担当官によっては上記以外に追加の確認書類を求められることが稀にありますが、特に問題がなければ会社設立証明書(Form 16/COI : Certificate Of Incorporation)が登録したEメールアドレス宛に送付されます。

5.LLP契約書の登記

当該LLP設立より30日以内に印紙を添付したLLP契約書をeフォーム LLP FORM NO.3 に添付し、登記をします。

執筆者紹介About the writter

安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。

インド基礎概論

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A-7. インドLLPの設立条件・要件および設立前に決定すべき事項

A-8. インドLLPの設立手続について

A-9. インドLLPの設立後のコンプライアンスについて

A-10. 日系企業のインド進出状況と今後の動向