Indian Personnel & Labour

人事労務

B-16 : 日印社会保障協定について理解しておくべきポイント

(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

1.日印社会保障協定が2016年10月から発効

 

日印社会保障協定は2016年10月1日に発効されました。日本にとっては日印社会保障協定は16か国目の協定であり、対象となる社会保障制度は、日本における「国民年金」および「厚生年金」、そして、インドにおける「被用者年金(EPS:Employees’ Pension Scheme)」および「被用者積立基金(EPF:Employees’ Provident Fund)」等です(※例えば、日本の政府管掌健康保険等については対象外)。日印社会保障協定の発効による大きな変更点としては(1)日印両国における保険料の二重負担の解消と(2)年金受給条件の緩和、の2点です。

2. 保険料の二重負担が解消

日印社会保障協定の発効による影響が最も大きいのがこの保険料の二重負担の解消です。2016年10月以前まではインドに滞在する多くの日本人駐在員は、インド駐在期間中であっても国民年金等の日本の社会保障制度への加入を継続しながら、インドにおいてもEPSやEPFといった社会保障制度に半ば強制的に加入せざるを得ないケースが多く、両国における保険料の二重払いは日系企業にとって大きな負担となっていました。しかしながら、日印社会保障協定が発効した2016年10月1日以降、派遣期間が5年を超えない駐在員の場合にのみ、日本年金機構から適用証明書(COC:Certificate of Coverage)を取得することによって、例外的にインドの社会保障制度に加入する必要がなくなっています(※なお、自営業者は当該協定の対象外)。具体的には、日本側で取得した適用証明書を駐在員がインドまで持参した上で社内に保管しておくことになります(=提出義務はなし)。また、派遣期間を延長して、合計が5年を超えるような場合には、予見できない特段の事情等がある場合にのみ、個別に両国間での協議・合意の上、最大3年間の延長が認められることになっています。なお、協定発効日時点においてすでにインド駐在中であった場合には、2016年10月1日から起算して5年以下の駐在期間が見込まれる方が当該協定の対象となります。適用証明書の申請書やサンプル(見本)は日本年金機構のホームページよりダウンロードが可能なため、詳しくは以下のURLをご覧ください。

日本年金機構の日印社会保障協定に関するページ

https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shikumi/shinseisho/India/india1.html

適用証明書のサンプル(見本)

https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shikumi/shinseisho/India/india1.files/7.pdf

 

3. 積立基金および年金の受給資格要件の緩和

日印社会保障協定の発効後は、受給資格要件も大きく緩和されました。具体的には(1)保険期間の通算、と(2)適用証明書(COC)取得による積立金還付の即時申請、という2つのポイントがあります。
まずは(1)年金の保険期間の通算について見ていきましょう。日本の老齢年金の受給資格要件は保険加入期間25年間。一方で、インドの年金(EPS)の場合には保険加入期間10年間です。2016年10月以前までは、ほとんどのケースでインドにおける保険加入期間の要件を満たすことができず、インドで支払っている当該EPSに対する年金保険料は単なる掛け捨てのコストとして認識せざるを得ませんでした。しかしながら、EPSに加入をする場合においては、日印社会保障協定の発効により、保険期間の通算が認められることとなったため、日本においてもインドにおいても両国で年金受給資格を得ることができ、それぞれの国おいて年金保険料を支払った期間に応じて、年金が給付されることになります。ちなみに、インドにおける老齢年金EPSは58歳以降に受給開始となります。
次に、(2)適用証明書(COC)取得による積立金還付の即時申請について見てきましょう。2016年10月以前までは被用者積立基金(EPF)については、駐在員の年齢が58歳に達する時点もしくは会社を引退する時点のいずれか遅い時点までは当該積立基金に対する還付を申請することができませんでした。つまり、従来までは駐在員が日本に帰国する際には、インドの個人口座を閉鎖せずに、積立金の受け取り用口座(=非居住者用NRO口座: Non-Resident Ordinary)として維持しておき、かつ、受給資格が得られるまではただひたすら待つ、、、、という状況でした。しかしながら、2016年10月1日以降は、帰任済の駐在員については適用証明書取得後に速やかに、また、現在駐在中でEPFに加入している方は帰任等によりインドを離れる際に、58歳まで待つことなくすぐに還付申請を行うことができるようになっています。
なお、積立基金および年金の受給申請においては、管轄地域によって、また、Aadhaar Number(アーダール番号)の有無によって手続きが変わるようです。詳しくはEPFO (Employees’ Provident Fund Organisation)の各管轄の事務所にお問い合わせください。

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