G-37. 契約書やその他法務文書にかかる印紙税の実務
(文責:安本理恵, Rianna Lobo / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
インドでは、印紙を見かける機会が日本に比べてやや多いかもしれません。
日本では収入印紙が必要な課税文書は不動産関係の契約書や特定の領収書等に限定されていますが、インドでは、インド印紙税法(Indian Stamp Act, 1899)に基づいて印紙税が支払われていない、つまり印紙が貼られていないあらゆる法的文書は、法的に有効であるとはみなされません。
中央政府は、為替手形、小切手、約束手形、船荷証券、保険契約等の文書(同法第246条Schedule VII, List I, Entry 91)に印紙税を課す権限を持ち、州政府はその他の書類、例えば賃貸契約書等(同法第246条Schedule VII, List II, Entry 63)に印紙税を課す権限を持っています。
同法第35条では、印紙税の対象となる法的文書に印紙が貼られていない場合、法廷で法的証拠として提出することが認められておらず、印紙の貼付によって、初めて法廷での文書の適法性(legality)、法的有効性(validity)、法的強制力(enforceability)、証拠能力(admissibility)が確保されるといえます。
しかし、これは印紙額が不足していたり、貼られていない文書による取引が無効であることを意味するものではなく、場合によっては、刑事裁判の証拠としては認められることがあります。
また、前述の通り州政府に権限のある印紙税額は州によって異なります。ここではチェンナイがあるタミルナドゥ州の印紙税額を一部ご紹介します。(2021年6月現在)
文書 | 印紙税 | |
タミルナドゥ州 | カルナタカ州 | |
宣誓供述書 | Rs. 20 | Rs. 20 |
株式 | 株式価格の0.005% | 株式価格の0.1% |
賃貸契約(30年以下) | 賃貸料総額の1% | 敷金の1% |
賃貸契約 | 賃貸料総額の4%
(契約期間99年以下) |
敷金の3%
(契約期間30年以上) |
その他契約 | Rs. 20 | Rs. 200 |
賠償契約 | Rs. 80 | Rs. 200 |
実務上、売買契約や賃貸契約を除く一般的な契約(例えば業務委託契約等)では損害賠償条項を含むことが多いため、その他契約と賠償契約を足した額、タミルナドゥ州では100ルピー印紙、カルナタカでは400ルピー印紙での作成が推奨されます。なお、印紙は裁判所や公証人役場で入手することができます。
何らかの理由で必要な印紙額が不足していたり貼付されていない文書に対しては、通常の印紙税の10倍額を上限とした罰金が課せられます。印紙を貼付していない文書において想定外に係争に発展してしまった場合は、遅延罰金を支払うことで印紙を後から貼付し、有効な文書として認めてもらうケースもあります。
株式や賃貸契約に法的有効性がないと後々トラブルに発展する可能性が容易に想像できますが、実務上では、印紙税の金額が少額であったり、契約期間が短期であったり、かつ、係争になる可能性が極めて低いような取引では、印紙を貼付せずに契約書が作成されるケースも多々あり、実際、NDA(秘密保持契約書)や雇用契約書等には印紙を貼付せずに作成することも多く行われているのが実態です。
しかし、前述したように、契約相手との間で係争に発展した場合、訴訟プロセスに遅延が発生したり、不要な追加コストがかかってしまうため、常に必要な印紙税を支払って印紙で契約を結ぶことが望ましいといえます。
執筆者紹介About the writter
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。
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