Other Legal Practice

その他企業法務

G : インドの法体系とビジネス関連法規

(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

インドの法制度は、歴史的にイギリスで発達したコモンローの法体系をベースとしており、司法の判断が尊重され、法廷における「判例」がもっとも重要な法源とされます。日本には憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法という6つの「六法」が制定されていますが、インドにおいてもインド国憲法(The Constitution of India)を中心にそれぞれに対応する法律が制定されています。ただし、民法についてはいわゆる「民法典」として存在しているわけではなく、様々な個別の成文法においてカバーされており、インドでビジネスを行う日系企業にとって理解をしておく必要がある法律として、契約実務を司る1872年インド契約法(The Contract Act, 1872)、主にB2Bにおける契約に基づく損害賠償に関して司る1930年物品販売法(The Sale of Goods Act, 1930)、B2Cにおける消費者ー企業間取引における損害賠償に関して司る1986年消費者保護法(The Consumer Protection Act, 1986)などがあります。

また、その他のビジネス関連法規として日系企業が理解をしておくべき法律がそれぞれの関連当局により制定されており、(1)インド企業省(Ministry of Corporate Affairs)が管轄する会社法(The Companies Act, 2013)、(2)インド労働雇用省(Ministry of Labour & Employment)が管轄する各種労働関連法規、そして、(3)インド商工省(Mistry of Commerce & Industry)内の産業国内取引促進局(DIPP : Department of Industrial Policy & Promotion)が管轄する知的財産法(特許法や商標法、意匠法等)などがあります。

 

B-13. インド労働関連法規の基本的理解と各種コンプライアンス

F : 会社法およびカンパニーセクレタリー実務の概要

インドの契約実務の基礎

さて、ここではインドの契約実務の基礎についてご紹介いたします。まず、上述の1872年インド契約法によると、インド国では、原則、口頭による合意により契約が成立するとの理解ができます。しかしながら、インドは文書による契約社会でありかつ交渉上手なインド企業との取引においては契約の隙間を突かれることも散見されるため、日本以上に事細かな条項の制定と、文書化における徹底的な曖昧さの排除が不可欠です。また、契約締結に至るまでの交渉期間が長期に及ぶケースは多々あり、一度合意したはずの条項が締結直前で覆されることも起こります。合意すべき条項の優先順位を明確にし、意思決定権のある責任者と直接かつ粘り強く継続的に交渉をすることが必要です。なお、インドにおいて契約書はその言語を問わず法的有効性が認められることから、日本語による契約書であっても法的に問題になることはありません。しかしながら、会計監査や税務調査、民事訴訟などにおいて当然に英語での文書提示を求められることから、実務的には当初より英語による契約書を作成しておくことが望ましいと言えます。

 

また、契約書の準拠法については、インド国内法人同士の契約の場合にはインド法を準拠法とする必要がある一方で、外国法人との契約の場合には相手国の法律(例えば日本法)を準拠法として設定することも可能です。この場合、当該外国法をインドの裁判所で立証する手続きが追加的に必要となるため、費用対効果の観点から慎重に判断されることをおすすめいたします。

 

インドにおける紛争解決および債権回収について

なお、紛争に発展した場合の解決手段として「仲裁(Arbitration)」もしくは「裁判(Court)」という選択肢があります。インドにおける紛争解決の特徴として、従来までは仲裁および裁判の長期化や、仲裁に対する裁判所の介入などが問題視されていましたが、2015年改正仲裁法(The Arbitration and Consolidation (Amendment) Act, 2015)、そして2015年商事専門部及び商事控訴部法(The Commercial Courts, Commercial Division and Commercial Appellate Division of Hight Courts Act, 2015)の成立により、いずれも原則1年間(+6ヶ月の延長可)で仲裁や裁判の第一審が終結する新たな制度が導入されました。また、別の法制度として2016年破産倒産法(The Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)の成立により、倒産処理手続きの簡便化と同時に債権回収のための強い交渉材料としての影響力も持ち得たため、インドの紛争解決や紛争に至るまでの事前の解決手段において、徐々にビジネス環境の改善が進んでいる状況と言えます。

 

【参考データ】

JETROニューデリー事務所による「2015年改正仲裁法」にかかるレポート

(The Arbitration and Consolidation (Amendment) Act, 2015)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2016/777f4bb0969fb156/rp-in-arbitration201611.pdf

 

JETROニューデリー事務所による「2015年商事専門部及び商事控訴部法」にかかるレポート

(The Commercial Courts, Commercial Division and Commercial Appellate Division of Hight Courts Act, 2015)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/report_201608.pdf

 

JETROニューデリー事務所による「2016年破産倒産法」にかかるレポート

(The Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2016/ae5908bd0f96e0ec/rep-in-bankruptcy201612.pdf

その他企業法務

G-36 : インドにおける契約締結時の留意点

G-37 : 契約書やその他法務文書にかかる印紙税の実務

G-38 : 秘密保持契約書NDAの実務

G-39 : 事例から見るインド司法制度の特徴

G-40 : インドの債権回収のステップと破産倒産法の実務