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G-40 インドの債権回収のステップと破産倒産法の実務

(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

1、インドの債権回収の実態とは?

まずはインドにおける支払期日に対する理解・認識についてご説明をしたいと思います。日本では取引先との契約に基づき、支払期日までに確実に支払うというのは当たり前の商習慣となっていますが、インドではまるで“逆”の発想がまかり通っています。

つまり、言ってしまえばいかにして支払を遅らせるかが経理部門の腕の見せどころ、といった認識さえあるほど。金利の高い国において、運転資金の確保は利息収入を確保する上で大きな財務戦略となり、「請求書が届いていない」「サービスの納品・検修はまだ終わっていない」などと難癖をつけては支払を延期させることで経理部門としての評価を勝ち取るひとつのインセンティブにもなっています。(※逆に、支払を早めることで取引先からキックバックを得るという不正も同時に起こり得ます)

2、債権回収のために必要な対策とステップとは?

(a.)請求書を確実に届ける

最も重要な最初のステップは確実に請求書を届け、相手に請求書の受領を確認してもらうことです。

請求書の原本を送付するだけでなく、PDFデータ化し、担当者ひとりにメールで送るだけでなく、CCに担当部署の責任者や関係者を入れ、請求書データと合わせて請求書をお送りしたという事実を、メールやその他コミュニケーション手段を使って周知することが大切です。

(b.)支払期日後は粘り強くフォローアップをする

次に、支払期日が過ぎれば必ずフォローアップをすることです。支払期日を過ぎているにもかかわらず何も言わずに放っておくと「まあ、この取引先は放っておいても大丈夫だろう、、、」と舐められかねません。電話をかけ、メールでリマインドをし、必要に応じて訪問をすることも辞さないという強い回収の意思表示を粘り強く伝え続ける必要があります

なお、訪問をした場合には小切手による支払を依頼し、もしその場で支払を実行してもらえなかった場合であっても、支払予定日の確約を取り付け、「先日付小切手」をその場で切ってもらうことでそれ以上の支払遅延を防ぐなど、一定の工夫も検討する必要があります。

なお、下部(d)で説明するような顧客との基本契約の締結による事前ルールが明確になっていない場合は、入金確認はインド人スタッフ任せにせず、現地の日本人駐在員または日本本社が積極的にフォローアップをし、少しでも遅れがあれば社内の営業担当者に状況を確認することが重要です。

場合によっては、日本人マネジメントが自ら取引先に赴き、先方のマネジメントと交渉をすることが必要な場合もあります。

クライアントが日系企業の場合には日本人同士でスムーズに話がまとめることができますが、たとえ日本人同士で合意が成立しても現場のインド人スタッフまで合意事項が周知されずに支払が遅延してしまう場合もあります。従って、入金が確認できるまでフォローアップを継続することが重要です。

中には、請求書の支払期日よりも遅くなることが常態化している業界もあり、そのような業界で頻繁な支払催促をしてしまうと顧客からの印象を悪くし、発注を減らされてしまうケースもあるため注意が必要です。

商慣習については日本人だけでは理解できない場合もあるため、インド人スタッフからのヒアリングが重要になりますが、一方で現地スタッフ任せにして一向に回収が進まなくなってしまうのも問題であるため、幅広く情報収集をしながら社内のスタッフや取引先と密にコミュニケーションをとり、バランスのとれたフォローアップをすることが求められます

(c.)請求書発行日から3年以内に何らかの形で支払ってもらう

原則、請求書発行日から3年超経過すると、債権者が訴訟を起こして法的に債権回収を行うことができなくなります。つまり、債務者側はその法的効力を理解した上で、3年が経過するのを今か今かと首を長くして待っているという悪質なケースも散見されます。したがって、債権者としてはこの有効期限内に法的措置も辞さない毅然とした態度で臨むことが重要です。

具体的には、後述するインド破産倒産法に基づく倒産処理手続きを開始させることを視野に、正式な催告手続きを行い、それでも支払が行われなかったという債務不履行の事実を正しく記録し、顧客に対して法的な再生手続の申立を行うことを示唆することで、間接的に債権回収のプレッシャーをかけることが可能です。(※不履行の金額が10万ルピー以上であれば申立可能)

(d.)取引開始前に支払条件やそのプロセスを明確に合意

なお、取引を開始する前にできる対応策として、支払条件や支払遅延時の対応プロセスなどを事前に合意するべく顧客と基本契約(Master Agreement)を締結しておくことは極めて重要です。

事前にルールが明確になっていると、債権回収プロセスの大部分を担当者レベルで平常時のルーティン作業化することが可能となり、インド現地法人の駐在員や本社の責任者が債権回収にいちいち関わる必要なく、不要に顧客との関係を悪化させることなく債権回収できる可能性を高めることができます。

3、インド破産倒産法IBCの実務とは?

さて、上述のとおり債権者は債務不履行となった企業に対しては、一定の催告手続きを経て、会社再生手続きの申立を行うことが可能となっています。これは2016年に導入された「2016年破産倒産法(IBC : Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)」による恩恵です。

当該法律の導入により、破綻処理や効率的な債権回収メカニズムが確立されたため世界銀行が発表する「ビジネスのしやすさランキング(Doing Business)」においても2014年は142位だった順位が、2019年にはなんと77位にまで浮上しています。

旧法のSICA(Sick Industrial Company Act、通称“シックカンパニー法“)にあったような支払能力の有無や債務超過等の要件はなく、債務不履行の事実および催告手続き(支払を要求する通知と、通知受領後10日以内に支払が行われなかった事実確認)を経て、会社法審判所(NCLT : National Company Law Tribunal)に対して申立をすることで手続きを開始させることができます

当該申立が正式に認められると、会社法審判所は暫定管財人(interim resolution professional)の選任や債権者委員会(CoC : Committee Of Creditors)の発足、管財人(resolution professional)の選任、再建計画(resolution plan)の作成などへと法的な再生手続きへと発展していくため、債務者としては当然このような事態への発展を避けたいと考えるため、破産倒産法が債務不履行への抑止力のひとつとして機能しています

なお、再建計画が会社法審判所により不認可となった場合には、再建が困難である状況となり、債権者委員会による清算の決議、もしくは、債権者による清算の申立により、管財人がそのまま清算人(Liquidator)となり清算手続きを遂行することとなります。

その他企業法務

G-36 : インドにおける契約締結時の留意点

G-37. 契約書やその他法務文書にかかる印紙税の実務

G-38: 秘密保持契約書NDAの実務

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