I-49. リモートワーク時代のインド現地法人管理術
(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
1.駐在員不在の中でもいかにしてリモートで経営管理を行うか?
新型コロナウイルスによるパンデミックは、インドに進出している日系企業に多大な影響を与えています。
特に、他国と比べても生活環境や医療体制が厳しいインドにおいて、コロナ禍で駐在員を一時的に日本に退避させる動きや、インドに駐在員を派遣すること自体を無期限停止とする企業も出てきています。一方で、このような状況にあっても、中長期的な成長が確実視されているインド市場から撤退を決断する企業は少なく、リモート環境でいかにして現地法人の経営の攻守を管理し、組織をマネジメントしていくかが問われています。
弊社では自らが実践をしてきた経営管理対策の中で、
- オンラインコミュニケーションツールの積極活用、
- 社内外のレビュー機能強化による不正防止対策
- 経営者レビューによる従業員モチベーション向上
の3点が特に重要であると考えています。
2021年7月現在、手前味噌ながら2014年創業以来従業員退職者ゼロ、顧客による解約件数ゼロの弊社だからこそ言える経営管理手法について、ご紹介をしたいと思います。
2.オンラインコミュニケーションツールの積極活用
2020年のロックダウンや緊急事態宣言などにより、在宅勤務やリモートワークが当たり前になりつつある中で、従業員間や取引先とのコミュニケーションをいかにシームレスかつストレスフリーな環境で実施できるかはとても重要です。
Zoom等のWebミーティングは当然ですが、インドの場合はWhatsAppやSlackのようなメッセージングアプリを活用した社内外との連携、さらに、Spirなどの日程調整アプリおよびGoogleカレンダーとの連携をすることで、従業員との打ち合わせや取引先との商談を一気通貫で効率的にアレンジできる体制は極めて重要だと考えています。
先日、社内でZoomのブレイクアウトルーム機能を活用したクイズ大会を実施したところ従業員から大変好評でした。リモートワーク により「個」のパフォーマンスがより鮮明に注目されがちですが、仕事のパフォーマンスに限らず普段の“職場環境”という観点でも、逆にオンライン上で「個」が孤立してしまう危険性も孕んでいます。
例えば、リアルとオンラインが混在した形で打ち合わせをする場合には、なるべくオンラインのメンバーがマジョリティとなるような配慮をしたり、上述のような全員参加型のアクティビティを取り入れたりしながら、会社全体のチームワーク力をどのように高めるかもこれまで以上に重要になってきます。
また、SaaSなどのデジタルツールを活用したインサイドセールスや、ウェビナー開催による潜在顧客へのアプローチなども当たり前となった今、企業は自らを変革することを迫られており、一方で、これまで以上にビジネスチャンスを得やすい経営環境になったとも言えます。
3.社内外のレビュー機能強化による不正防止対策
コロナ禍において多くの日系企業が抱えている懸念が不正対策です。不正を防止するためには主に(1)予防的統制(Preventive Control)と、(2)発見的統制(Detective Control)の2つがありますが、社内でダブルチェックをする仕組みや、業務プロセスに対する規定整備および運用の徹底、社外からの定期レビューなどがこの両統制において大変重要な機能を果たします。
(1)予防的統制(Preventive Control)
予防的統制においては特に「不正はなぜ起こるのか?」の本質を理解する必要があります。
これは犯罪学者ドナルド・クレッシー氏が発表した「横領の社会心理に関する研究」が大変参考になります。
同氏の研究によると、① 不正を働く動機、② 不正を働く機会、そして、③ 不正を正当化できる環境、があった場合に人は不正を犯してしまうと述べており、つまり、過度なノルマや失敗を隠蔽したくなるような状況(=動機)、規定や内部統制の不整備や管理・監督不足(=機会)、そして、行動倫理や指針の啓蒙不足や従業員との良好な関係の欠如(=正当化したくなる環境)をいかに排除していけるか、が予防的統制に繋がります。
もっとも、この研究が我々に教えてくれるのは、従業員を疑うとか信じるという類の話ではなく、このような状況や環境をもし会社が作ってしまった場合に、人間は誰しも魔が刺してしまう瞬間というのがあるものだと考えることが大切です。
信頼をしている従業員を守るためにも、会社として不正が起きない環境をつくってあげることが大切だと考えます。
(2)発見的想定(Detective Control)
発見的統制においては特に「不正はどのようにして発見されるか?」を知ることが重要です。
世界最大の不正対策機関であるACFE(公認不正検査士協会)が2020年に世界の企業1712社に実施したアンケート調査によると、ダントツの1位が内部告発(内部通報)、2位が内部監査、そして3位が経営陣によるレビューです。
また、内部告発により不正が発見された場合、その損失・被害額が多額になる傾向も指摘されています。
つまり、いかに平常時から経営者や内部監査人による有効なチェック機能を持つか、そして、万が一不正が発生したとしても、有事の際であっても不正を早期に発見することができるよう内部通報制度を導入しておくことも重要だと考えます。
4.経営者レビューによる従業員モチベーション向上
なぜ経営者によるレビューが大切か。経営者が部下の仕事をレビューするのは当たり前の話ではありますが、南インドでは特に大切だと考えています。
上下関係に対する意識が強く、上司への忠誠心が高い南インドでは、経営者は想像以上に従業員から言動や仕事ぶりを見られているものです。そして、従業員は経営者からも自分の仕事をちゃんと見て評価して欲しい、経営者と話をしたいと思っている傾向にあります。
コロナ禍でリモートワークに移行したことで、インド人従業員と実際に会って話す機会が減り、従業員の仕事ぶりをリアルに把握することが以前よりも難しくなりました。
従業員間のコミュニケーションも不正対策ももちろん大切なのですが、このコロナ禍で何より大切なのは、経営者がいかにして従業員とコミュニケーションを取っていくかであると考えています。
もちろん、サービスや商品の品質におけるクリエイティブ・コントロールという点で経営者レビューや意思決定は極めて大切ですが、そのレビューを通じて従業員が経営者から学び、実はそのコミュニケーションが従業員のモチベーション向上に想像以上に大きく貢献しているからです。
従業員との良好な関係を築くことができれば、まさに上述のとおり不正対策としての予防的統制の強化にもつながります。