I.49-1インドにおけるリモートマネジメント術(ツール活用編)
コロナウィルスによる移動制限の長期化により、日本からリモートでインド法人を管理しなければならない事態に直面している方も多いと思います。日本人同士でもリモートワークでは様々な困難に直面しますが、インドの場合には日本とは文化が異なるため、更にリモートマネジメントの難易度が上がります。
リモートでのインド法人経営については「I-49. リモートワーク時代のインド現地法人管理術(https://g-japan.in/faq/newnormal-i-49/)の記事にて詳しくご紹介しましたが、ここではインド人スタッフのマネジメント方法について「1. ツール活用」「2. スケジュール管理」「3. クオリティ管理」「4. チームビルディング」「5. 人材育成」の5つのパートに分けて具体的にご紹介します。
1. 情報共有ツール
共有サーバーがイントラネットにあると、リモート勤務の社員がサーバーにアクセスできないという問題が発生します。
この問題を解消するためにはSlack, Microsoft Teams, Google hangoutなどのチャットツール、Dropbox, Google Drive, One Driveなどのクラウドフォルダを利用することが有効です。チャットツールやクラウドフォルダを利用すれば、メールよりも気軽に情報のやり取りやファイルの共有をすることが可能になります。
フォルダやチャットのチャンネルごとにアクセス権を制御し、取引先の方にも一部のアクセス権を付与することで、社内だけでなく社外とのコミュニケーションやデータ共有・連携も容易になります。このように、事業規模に応じた従量制の課金システムを活用し、リモートワークを前提としたITインフラ設計へシフトすることでビジネスを加速させることが可能になります。
セキュリティ面で言うと、例えばSlackのセキュリティレベルは意外に高く、これだけ多くの大企業が利用するチャットツールですが2015年以降一度もハッキング被害が報告されていません。但し、セキュリティソフトやアクセス制御などの技術的なセキュリティ対策を実施しても、ソーシャルエンジニアリング対策が疎かであればセキュリティリスクは高まります。
例えば、カフェで作業をしている従業員が、ログインしたまま机にパソコンを放置して御手洗に行ってしまったら、パソコンが盗難されたり、ログインIDやパスワード情報を盗み見られたりするリスクが高まります。
・席を外すときは最低限でもログアウトする
・盗難防止のため、できれば御手洗にもパソコンを持っていく
・最悪、パソコンが紛失・盗難されても情報漏洩が発生しないよう、デスクトップ内には重要な情報を保管せず、機密性の高い情報は共有サーバー内に保管する
などの対策が必要となります。これらの情報セキュリティ対策は、日本の企業であれば社会人1年目のビジネス研修で習う基本的なことですが、インドではまだ情報セキュリティ意識が日本ほど高くないため、リモートワークを活用する場合には社員への定期的なセキュリティ教育が必要となります。
前述の「I-49. リモートワーク時代のインド現地法人管理術(https://g-japan.in/faq/newnormal-i-49/)の記事で不正のトライアングルについてご紹介していますが、不正の発生原因は資産の横領や粉飾決算と言った会計的な不正だけでなく、営業秘密や財務情報、個人情報の他社への売却といった情報セキュリティ面での不正にも当てはまります。従業員が会社に対して不平不満を持っている場合には情報漏洩も発生しやすくなるので注意が必要であり、不正の機会を与えないためにも情報セキュリティ対策は重要です。
2. 日程調整ツール
リモートワークでは社員同士が顔を合わせる機会はないため、打ち合わせをするためにはZoom, Teamsなどのオンライン会議ツールを使って会議を開催する必要があります。その時に大変なのが会議日程の調整です。
リモートワークの場合、オフィスでのちょっとした相談ができないため、話し合いをするためにはオンライン会議の設定が必要になります。この会議日程の調整に時間がかかります。この問題を解消するためにはスケコン, Spir(スピア), Eeasy(イージー)といった日程調整アプリが有用です。会議の日程調整のためだけのコミュニケーションが不要になり、日程調整が自動化されます。
例えば、弊社で活用しているSpirは、複数のサービスとAPI連携しているためスケジュールの一元管理が可能です。例えば、同僚のスケジュールがリアルタイムで確認でき、Spirでスケジュールを作成するとZoomなどの会議用リンクが自動作成し、Googleカレンダーなどへも自動で反映させることが可能です。また、社内外の複数メンバーに対して投票型の日程調整もできるため、幅広いシーンでの利用が可能となっています。
3. 音声チャットツール
リモートワークの場合、社員同士でもメールやチャットなど、文字のみのやり取りが中心となります。すると、口頭で相談したいことを気軽に話せなかったり、オフィスでできていた雑談が減少したことによりコミュニケーションが不足したりといった問題が発生します。しかし、だからと言ってオンライン会議を設定しようとすると、前述の通りわざわざ日程調整をしなければならないため手間がかかります。口頭で話をしたい時には電話をすれば良いのですが、電話番号管理が面倒であったり、インド人スタッフによってはなかなか繋がらないという可能性も想定されます。
この問題を解消するためには音声チャットルームアプリが有効で、弊社ではHuddle(Slack内音声チャット機能)を活用しています。音声チャットアプリを使うことで、音声によるバーチャルオフィス空間の構築が可能です。また、音声チャット機能を持つバーチャルオフィスアプリの活用も広がっており、日本ではoVice(オヴィス)やRemotty(リモッティ)、海外ではSpatialchatなどが有名です。 但し、突然の声がけにより業務が中断され、従業員の集中力低下を招く恐れがありますし、「自分の好きな場所で、自分の好きな時間に仕事をする」というリモートワークのメリットを損ねてしまう可能性もあるため、時間を区切って活用することが大切かも知れません。
執筆者紹介About the writter
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
コロナ時代のインド進出戦略
I-49-1. インドにおけるリモートマネジメント術(ツール活用編)
I-49-2. インドにおけるリモートマネジメント術(スケジュール管理編)
I-49-3. インドにおけるリモートマネジメント術(クオリティ管理編)
I-49-4. インドにおけるリモートマネジメント術(チームビルディング編)
I-49-5. インドにおけるリモートマネジメント術(人材育成編)