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インド人事労務・法務アップデート

インド現法への投資・資金還流の注意点

はじめに

本稿は、日本本社の子会社として設立された、非公開(Private Limited)かつ中小規模のインド現地法人を念頭に置いています。多くの場合、日系親会社が株式の大部分(実質100%に近い比率)を保有し、上場を予定しない、いわゆる「日系100%子会社」の形態です。

インドへの資金投入時には、増資やECB(対外商業借入)の実行手続きに目が向きがちですが、将来その資金を日本へ戻す段階では、会社法・外国為替管理法(FEMA)・所得税法・銀行実務が同時に問題になります。工場用地の購入や事業拡大を見据えて資本金を厚めに設定したものの、事業計画が変わり、「入れた資本の一部を戻したい」「ECBローンの条件を見直したい」という相談が最近増えているのは、この「入り」と「出」の非対称性が理由です。

加えて、インドの税制・外資規制は2024年以降、毎年のように大きな改正が続いています。本稿執筆時点(2026年10月)で有効な制度を前提に、資本投下時の規制動向と資本回収・組み替えの選択肢を整理します。ただし制度は今後も変わり得るため、実行時点での最新情報の確認を前提にお読みください。

1. インドへの資本投下:主な手法と2026年の規制アップデート

インド現地法人への資金供給は、大きく「増資(エクイティ)」と「ECBローン(親子ローン)」の二つに分かれます。増資は返済義務がなく資本基盤を強化できる一方、株式の発行価格にはFEMA上の公正価格規制(プライシングガイドライン)があります(増資の手続きについては、こちらの記事もご覧ください)。ECBは低コストで機動的に資金を投入できますが、資金使途や返済期間に規制上の制約があります。

このECBの制度は、2026年2月16日に発効したFEMA(Borrowing and Lending)規則改正で大きく変わりました。

  • 金利上限の撤廃:従来の「ベンチマークレート+500ベーシスポイント」という上限が撤廃され、市場条件に基づく柔軟な設定が可能になりました。ただし関連当事者からのECBについては独立企業間原則(Arm’s Length Basis)に基づくことが明記されており、親子ローンの金利設定には移転価格(TP)文書による裏付けが必須です(移転価格税制については、こちらの記事もご覧ください)。
  • 最低平均償還期間(MAMP)の標準化:原則3年に標準化されましたが、製造業については未返済残高1.5億米ドルを上限に、1~3年という短いMAMPも認められています。
  • 自動承認による借入上限の拡大:従来の7.5億米ドルから「ECB残高10億米ドル」または「ECBを含む総借入残高(国内借入を含む)が純資産の300%以内」のいずれか高い方に拡大されました。固定的に10億ドルになったわけではなく、純資産の大きい会社ではネットワース基準によりさらに大きな借入余地が生じ得る点に注意してください。
  • 既存ECBの扱い(グランドファザリング):改正前にLRN(Loan Registration Number)を取得済みのECBは、報告(reporting)義務を除き、原則として従前の規制がそのまま継続適用されます。既存の親子ローンを見直す際は、新規ECBとして扱われるのか、既存契約の変更として従前規制が続くのかを最初に確認する必要があります。
  • 未使用資金の一時運用:調達したECB資金のうち未使用分は、指定AD Category-I銀行の担保に供されていない定期預金に、最長1年間まで置くことが認められています。「資金使途が固まるまで長期で定期預金に置いておけばよい」という理解は誤りで、1年を超える運用は規制違反になり得ます。

資金調達のハードルが下がった分、金利設定の自由度が上がったことで、税務当局による移転価格面での精査は今後より厳格になると見込まれます。ECBは元本の調達・返済だけでなく、利息に対するTDS(源泉徴収)、日印租税条約の適用、独立企業間利率の文書化、ECB2フォームによる報告(改正後は月次報告から、実行・返済等があった月の翌月7日以内の都度報告に変更)、為替リスク、そして出資ではなく負債として扱われることによる金利の税務上の扱い(国外関連者への支払利息が1千万ルピーを超える場合に、EBITDAの30%を超える利息等を損金不算入とする過少資本税制〔旧94B条、2025年所得税法177条〕を含む)まで、セットで設計する必要があります(2025年所得税法の概要についてはこちらの記事もご覧ください)。

2. 増資の前提となる会社法対応:株式電子化

増資を検討する際、見落とされがちなのが会社法上の前提条件です。特に重要なのが、非上場の私会社(Private Company)を対象とした株式の電子化義務(会社法ルール9B)であり、ここは日系中小子会社が特に誤解しやすいポイントです。

対象範囲:ルール9Bは、会社法上の「Small Company(小会社)」に該当しない私会社を対象としています。ここで注意が必要なのは、会社法第2条(85)により、持株会社(Holding Company)または子会社(Subsidiary Company)は、たとえ払込資本金や年間売上高がどれだけ小さくても、Small Companyの定義から一律に除外されるという点です。日本親会社の出資によって設立されたインド現地法人は、財務規模の大小にかかわらず会社法上の「子会社」に該当するため、「自社は資本金・売上高が小さいから対象外のはずだ」という理解はできません。

期限:判定基準日は2023年3月31日で、この時点でSmall Companyでなかった私会社については、2025年6月30日までに電子化を完了する必要がありました(この期限は既に経過しています)。これに対し、それ以降の事業年度末に初めて対象となった会社(新設会社を含む)については、その事業年度の末日から18か月以内に対応することが求められます。日系子会社は設立時点から会社法上の子会社に該当するため、設立日ではなく「最初の事業年度末から18か月」が期限の目安になります(例:2025年7月設立・3月決算なら2027年9月30日)。期限経過後は、新株発行・買戻し等の前にプロモーター・取締役・KMPの保有証券の電子化が必要になります(ルール9B(4))。

制限される会社行為:ルール9Bが制限するのは、証券の新規発行、自己株式買戻し、ボーナス株式の発行、ライツ・イシュー、およびプロモーター・取締役・主要経営幹部(KMP)が保有する証券の(電子化前の)譲渡・新規引受です。配当の実施自体はルール9Bの直接の制限対象ではありません。したがって実務上は、「電子化未了のまま増資・買戻し・株式関連の手続を進めることはできない」という理解が正確であり、「資本関連の手続が一切できなくなる」という表現は過度に広く、配当のような利益処分とは区別して理解しておく必要があります。

いずれにせよ、増資やECBの株式転換、あるいは次章で扱う自己株式買戻しを計画している現地法人は、電子化対応が完了しているかを最優先で確認する必要があります。

3. 投下した資本を戻す・組み替える方法

事業計画が変わり、投下した資本の回収や組み替えが必要になった場合の主な選択肢を整理すると、次のようになります。

方法 原資 相対的なスピード 主な論点
配当 当期・過年度の蓄積利益(Section 123要件を満たすもの) 比較的早い Section 123要件、DTAA配当条項、TDS
ECB返済・借換え ECB元本(契約・MAMPの範囲内) 契約条件次第 FEMA、TDS、TP、ECBレポーティング
自己株式買戻し フリー・リザーブ、証券プレミアム等(後述) 中程度 会社法上の制限、2026年税制
減資 払込資本金そのもの 遅い(NCLT手続) NCLT認可、税務上の個別判定
株式売却(第三者・関連者への譲渡) 株式そのもの 案件次第 FEMA(FC-TRS)、DTAA第13条、TP
清算 残余財産 最も遅い 債権者保護手続、FEMA、税務

 

以下、それぞれの論点を見ていきます。

配当は最も基本的な回収手段ですが、原資は単純に「蓄積利益」というだけでなく、会社法第123条の要件(当期または過年度の利益から、減価償却費の計上と過年度損失の相殺を経た上で算定される利益・フリー・リザーブ)を満たす必要があります。日本親会社への配当には、国内法上の源泉税に加え、日印租税条約第10条に基づく軽減税率(一般に10%)が適用されますが、適用には居住地証明書(TRC)、Form 10F (2025年所得税法によりForm 41に名称変更されており、毎年の提出が必要)、受益者(Beneficial Owner)としての要件を満たすことが必要です。なお日本側では、外国子会社配当益金不算入制度(25%以上・6か月以上保有)により配当の95%が益金不算入となる一方、インドで課された源泉税は損金不算入となり、外国税額控除の対象にもなりません。

ECBの返済・借換え(リストラクチャリング)については、前述の2026年2月改正が実務上の選択肢を広げました。株式への転換、借換え、貸し手による債務免除、組織再編に伴う返済について、最低平均償還期間(MAMP)要件の適用除外が明確化されたことで、事業状況の変化に応じてECBの返済条件を見直す余地が広がっています。ただし返済・借換えの実行にあたっては、元本だけでなく利息に対するTDS、独立企業間利率の文書化、ECBレポーティング(Form ECB2など)、為替リスクまで含めて検討する必要があります。

もっとも実務上の変化が大きいのが、自己株式買戻し(会社法第68条)と減資(会社法第66条)です。ここは2024年10月、2026年4月と二段階の税制改正が重なっており、時系列で整理する必要があります。

買戻しに対する課税の変遷

  • 2024年9月30日まで:会社側が買戻し税(旧115QA条、実効約23.3%)を負担し、株主側は非課税とする仕組み。
  • 2024年10月1日~2026年3月31日:会社への課税は廃止され、買戻し対価は株主側で「配当」として課税。取得原価相当額は資本損失として扱われ、現金として回収することはできない仕組みでした。
  • 2026年4月1日以降(Finance Act 2026):買戻し対価は再び株主側のキャピタルゲインとして課税される仕組みに戻りました。取得原価を控除してキャピタルゲインを算定できる点は株主にとって有利ですが、同時に「Promoter」に該当する株主には追加の所得税(additional income-tax)が課される仕組みが導入されています。追加税の具体的な税率・算定方法は情報源により表現が異なり(本稿執筆時点の各種報道では、国内法人Promoterで実効税率ベース22%程度、個人等のPromoterで30%程度という解説が多く見られます)、法令・通達の確定版での確認が必須です。

ここで日系子会社にとって重要なのは、Promoterの範囲です。 非上場会社における「Promoter」は、会社法第2条(69)上のPromoter、または直接的・間接的に10%超の株式を保有する者と法令上定義されています。日本親会社は通常100%(または過半数)出資者であり、この基準に該当する可能性が高いため、「海外の株主だから対象外」と決めつけず、買戻しを検討する際にはPromoter該当性と追加税の影響を個別に確認する必要があります。また、買戻し対価がキャピタルゲインとして扱われることで、非居住株主への課税は日印租税条約第10条(配当)ではなく、第13条(キャピタルゲイン)との関係で検討することになる点も、2024年10月~2026年3月の期間とは異なる整理が必要です。ただし日印租税条約第13条3項は、インド法人株式の譲渡益についてインドの課税権を認めているため、条約による軽減は原則として期待できません。

一方で、追加税を含む課税はあくまで「対価-取得原価」の譲渡益に対するものです。プレミアム付きで出資した株式など取得原価が高い株式を取得原価に近い価格で買い戻す場合は、譲渡益が小さく、追加税の影響も限定的です。ただし非居住者からの買戻しはFEMA上「非居住者から居住者への譲渡」に当たり、公正価格以下での実行とForm FC-TRSの提出(60日以内)が必要なため、株価が出資額を下回っている場合には、買戻しで出資額を回収することはできません。

さらに、2024年10月の改正以降も変わらず存在するのが、買戻しの「原資」そのものに関する会社法上の制約です。会社法第68条(1)の但書により、買戻しの原資として使えるのは、①フリー・リザーブ、②証券プレミアム口座、③買戻し対象とは異なる種類の株式・証券の発行代金、の3つに限られており、買戻し対象となる株式と同じ種類の株式の発行代金(=日本親会社が払い込んだ資本金そのもの)は、買戻しの原資に充てることができません。設立初期・投資先行段階でフリー・リザーブや証券プレミアムが薄い現地法人では、そもそも買戻しの原資を確保できない場合があります。買戻しは、あくまで蓄積された利益(または株式発行時のプレミアム部分)を株主に還元するための仕組みであって、「入れた資本をそのまま戻す」ための制度ではない、という点は2026年4月以降も変わっていません。

両者の実務上の違いを整理すると、次のようになります。

比較項目 自己株式買戻し(第68条) 減資(第66条)
実行手続き 原則として株主の特別決議が必要。払込資本金+フリー・リザーブの10%以内の小規模な買戻しは、一定の条件のもとで取締役会決議により実行可能 NCLT(国家会社法審判所)の認可が必須。実務上は概ね4〜8か月程度を要し、審判所の混雑や債権者の異議があれば1年を超えることもある。
買戻し・返還の原資 フリー・リザーブ、証券プレミアム口座、異なる種類の株式・証券の発行代金に限定。買戻し対象と同じ種類の株式の発行代金(払込資本金そのもの)は原資にできない 払込資本金(額面部分)そのものを直接取り崩して返還可能。原資の種類について法令上の制限はなく、NCLTが会社の支払能力(solvency)を確認したうえで認可する
一度に戻せる金額 払込資本金+フリー・リザーブ合計の25%まで(1事業年度あたり)。かつ前回買戻しの完了から1年以内は新たな買戻しの申出ができず、買戻し後の負債・資本比率は原則2:1以内に収める必要がある。買戻し後6か月間は同種株式の新規発行も原則できない。 明確な数量上限規定はなく、会社の財務余力とNCLT・債権者の同意が得られれば、まとまった金額を一括で回収することも可能
税務(2026年4月以降) 対価から取得原価を控除した額がキャピタルゲインとして課税。Promoter (日本親会社は通常該当)には追加税が課される可能性がある 蓄積利益からの支払部分は「みなし配当」、残りはキャピタルゲインとして課税という基本的な枠組みに変更はないが、Income-tax Act, 2025への移行により条文番号が変更されている
非居住株主(日本親会社)への影響 日印租税条約第13条3項によりインドに課税権があり、条約による軽減は原則なし。FEMA上、公正価格以下での実行とFC-TRS報告が必要 みなし配当部分は第10条、キャピタルゲイン部分は第13条、それぞれ条約適用を個別に検討する必要がある。FEMA上も株式の譲渡として、公正価格以下での実行とFC-TRS報告を求めるのが実務
実務上の留意点 原資の制約と2026年のPromoter追加税により、当初投下した資本そのものを大口で回収する手段としては使いにくい場面が多い 決定日と効力発生日にズレが生じるため、適用される税制が不透明になる場合がある

 

このように、当初「多額の資本金」を普通株式として設定した企業が、その資本自体を一括で回収したいと望む場合、買戻しは①原資がフリー・リザーブ等に限定されること、②年間数量上限があること、③含み益が大きい場合にはPromoterへの追加税が生じ得ること、という複数の制約に直面しやすく、結果として時間はかかっても払込資本金そのものを取り崩して返還できる減資が選択肢として浮上する場面が増えています。なお減資の税務上の取扱いも、「蓄積利益部分はみなし配当、残りはキャピタルゲイン」という枠組みの方向性自体は維持されているものの、実際の計算は蓄積利益の額、取得原価、消却される株式の内容、取引のストラクチャーなどを踏まえた個別の判定が必要であり、「資本金をそのまま無税で返してもらえる」という単純な理解は避けるべきです。日本側の課税にも注意が必要です。日本の法人税法上、外国子会社の自己株式取得や減資で受け取る金額のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当となり、外国子会社配当益金不算入の対象となり得ます。一方、インド側ではキャピタルゲインとして課税されるため、インドで課された税が日本で損金算入も外国税額控除もできず、二重課税が残る可能性があります。実行前に日本側の税理士と取扱いを確認してください。

もう一つの選択肢として、株式売却による投資の一部・全部の引き揚げも挙げられます。親会社がインド現地法人の株式を第三者(または関連者)に売却する方法で、資本を「戻す」というより投資そのものを「エグジットする」意味合いが強くなりますが、事業の縮小・撤退を検討する場面では実質的な選択肢になります。実行にはFEMA上のプライシングガイドラインとFC-TRSによる報告、日印租税条約第13条に基づくキャピタルゲインの検討、関連者間売却の場合の移転価格対応、買い手側のFDI規制適合性、スタンプ・デューティー、場合によってはGSTの論点まで絡むため、他の選択肢とは別枠で、早い段階から専門家を交えて検討することをおすすめします。

事業継続の見込みが乏しい場合の最終手段として清算もありますが、債権者保護手続きなどを含むため、他の選択肢と比べて最も時間を要します。

(清算の手続きについては、こちらの記事もご覧ください)

おわりに:資本投下時に意識すべき「出口設計」の視点

資本投下のハードルが下がる一方で、資本回収の難易度が下がったわけではありません。むしろ2024年以降、買戻し税制だけで2度の大きな改正が重なるなど、選択肢ごとの有利不利の前提が目まぐるしく変化しているのが現状です。

だからこそ、資本を投下する段階から「出口」を意識した設計をしておくことが重要になります。最後に、資金投入前に確認しておきたいポイントを整理します。

  • その資金は本当にエクイティ(普通株式)で入れる必要があるか、ECBや現地借入で代替できないか
  • 将来3~5年以内に、その資金が事業上不要になる(余剰資金化する)可能性はないか
  • 余剰になった場合、配当・ECB返済・買戻し・減資・株式売却のどれで戻すことを想定しているか、その原資(利益剰余金か払込資本そのものか)は何か
  • 親会社からのECBであれば、金利設定・TDS・移転価格・過小資本税制・FEMA上の報告をどう設計するか
  • 株式電子化、PAN/KYC、AD銀行対応、FEMAレポーティングなど、将来の資本回収・エグジットの前提となる会社法・銀行実務上の要件を現時点で満たしているか

資本を普通株式として厚めに入れる場合、将来の一括回収の手段は実質的に減資(またはエグジット時の株式売却)に限られやすく、買戻しや配当だけでは対応できない場面が多いという点は、特に意識しておく価値があります。

インドの外資・為替規制、会社法、所得税法は改正が続いており(2026年4月の2025年所得税法(Income-tax Act, 2025)への全面移行や、同年2月のFEMA借入・貸付規則の改正もその一例です)、本稿の内容も今後の制度変更により変わる可能性があります。個別の投資・資金還流の判断にあたっては、実行時点の最新の規制動向を踏まえた専門家への相談をおすすめします。

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