"Focus" Indian Startup

スタートアップのインド戦略

Vol.002:競争激化のインドオンラインフードデリバリー市場【後編】(調理済フードデリバリー編)

 

注目のインド国内スタートアップ各社の動向!【後編】(前編はこちら

(4)地場大手2社の複占状態の「オーダープラットフォーム市場」

インドのオーダープラットフォーム型の市場では、業界大手2社であるグルガオン発のZomatoとバンガロール発のSwiggyによりほぼ複占状態となっています。これまではSwiggyが業界トップシェアを誇っていたものの、2020年1月にUberからEats事業を買収したZomatoがマーケットシェアを52%まで伸ばし、シェアの逆転が起きています。

両社はこれまで合計20億ドル(約2,140億円)以上の資金調達をしているものの、新規顧客の獲得及び既存顧客維持のために毎月1,500万ドル(約16憶円)以上の損失を出しており、未だ収益化には至っていない状況が続いています。そのような中、新型コロナウィルスにより業績が悪化し大規模な解雇などに踏み切る両社を背に、2020年5月新たにAmazonがフードデリバリー市場への参入を果たしました。これまで、多くの外資企業が撤退に追い込まれてきた市場において、Amazonがどのような戦略で市場を開拓していくのかが注目されています。

 

また、フードデリバリーの需要の高まりを受け、近年インドでは飲食スペースを持たずデリバリーを専業とする「クラウドキッチン」のニーズも増え始めており、Fassosなど地場スタートアップをはじめ、大手フードテック企業・ZomatoやSwiggyもクラウドキッチン事業に本格参入し始めています。更に、昨今のコロナ禍による外食規制及び外食需要の減少を受け、各社クラウドキッチン事業への注力が加速化しています。以下に、オーダープラットフォーム市場における3社の概要をご紹介します。

 

Zomato(ゾマト)

運営会社        :Zomato Media Private Limited

Webサイト    :https://www.zomato.com/

設立年           :2008年7月

本社             :ハリアナ州グルガオン

CEO             :Deepinder Goyal(ディペンダー・ゴヤル)

 

Zomatoは、2008年ハリアナ州グルガオンを拠点に創業し、レストラン紹介および宅配事業を展開しているユニコーン企業です。世界24ヵ国、150万件のレストランを登録しており、月間ユーザー数は7000万人。インド国内では200都市・10万以上の飲食店と提携しています。

同社は2015年まで飲食店情報サイトの広告収入が売上の大半を占めていたものの、2015年よりフードデリバリー事業に本格参入を果たし、2019年度のフードデリバリーの売上は1億5500万ドル(約170億円)にまで成長。同社売上の75%を占めるまでに躍進しています。同社は堅調であるフードデリバリー事業など既存事業の強化を目的に、2020年1月既存投資家であるAlibabaのAnt Financialから30憶ドル(約3,210億円)の評価額で新たに1億5,000万ドル(約160億5000万円)を調達しています。

上述のとおり、2020年1月にはライバル社である米配車サービス大手Uberから同社の株式9.99%の取得を条件にEats事業を買収し、マーケットシェアを52%にまで伸ばしました。この買収によりマーケットシェア43%である国内最大ライバル社Swiggyを上回っただけでなく、Swiggyのプレゼンスが高い南インドにおける同社のプレゼンス強化も図っています。

同社は2017年より、クラウドキッチンとデリバリー専用レストランを結ぶキッチンインフラサービス「ゾマトインフラストラクチャーサービス(ZIS)」を立ち上げており、独占契約を前提とするキッチンスペースの提供や同社サービスに蓄積された購入データを利用した最適立地の検討や新規メニューの考案などクラウドキッチン事業者の支援サービスを提供してきましたが、2020年2月、当該プラットフォームの独占権を手放す意思決定をしています。

 

Swiggy(スウィギー)

運営会社        :Bundl Technologies Pvt Ltd

Webサイト    :https://www.swiggy.com/

設立年           :2014年8月

本社             :カルナータカ州バンガロール

CEO             :Sriharsha Majety

 

インドのフードデリバリプラットフォーム大手Swiggyは2014年にバンガロールを拠点に設立。同社は創業から現在に至るまでフードデリバリー事業を主軸に展開しており、現在はインド国内520都市・16万を超える飲食店と提携しており、業界トップのリピート率を誇りながら急成長を続けています。

同社は2015年に最初の資金調達に成功しており、その後アプリのリリースによりインド全土にサービスを拡大し、プレゼンスを高めることに成功しました。その後、2017年には南アフリカ発テクノロジー投資家であるNaspers Limitedより8,000万ドル(約85億6,000万円)規模の投資を受けており、翌年12月に同社は既存投資家であるNaspers、中国のテンセントなどから10億ドルを調達してユニコーン企業の仲間入りを果たし、インドのフードテクノロジー関連スタートアップでは最大規模となる資金調達に成功しました。

また、同社は2020年4月、新規事業の拡大を目的として、既存の投資家であるテンセントと新規投資家より4,300万ドル(約46億円)の追加資金を調達しています。新たな資金調達により、同社が運営するクラウドキッチン事業「Swiggy Access」の強化及び提携先の拡大、更なるテクノロジー基幹の強化に向けた一流エンジニア人材の確保及び地元密着型のオンデマンド配達を目的とした次世代の人工知能(AI)プラットフォームの立ち上げに今後注力する方針です。

 

Amazon food(アマゾン・フード)

(※米国企業のため企業概要は省略)

2013年6月にインド進出を果たした米国のネット通販大手Amazon。インドでもすでにEコマース市場でプレゼンスを高めている同社は、2大巨頭であるインド地場大手のSwiggyとZomatoがコロナ禍中のパンデミックによる影響を受け大量解雇を実施する最中の2020年5月に「Amazon Food」を立ち上げ、フードデリバリー市場への参入を果たしました。

現在は本拠地であるバンガロールの一部エリアでサービスを開始し、同社の衛生認証基準に合格した地元のレストランやクラウドキッチンからのみ注文可能となっています。現時点ではインド全土への拡大など今後の具体的な展開に関しては表明していないものの、同社はインド東部の西ベンガル州など一部にてアルコール配送に向けて許可の確保を進めています。

 

 

(5)年々ニーズの高まりを見せる「クラウドキッチン市場」

フードデリバリー市場への需要拡大を受け、インドでは初期投資を抑え調理に特化できるクラウドキッチン市場へのニーズが拡大しており、同市場は2023年までに10億5,000万ドル(約1,123億5,000万円)に達する可能性があると見込まれています。以下に、インドのクラウドキッチン市場におけるスタートアップ4社の概要をご紹介します。

 

Faasos(ファーソス)

運営会社        :Rebel Foods Private Limited

Webサイト    :https://order.faasos.io/

設立年           :2011年

本社             :マハーラーシュトラ州プネ

CEO             :Jaydeep Burman, Kallol Banerjee

 

プネを拠点とするインド最大のクラウドキッチンチェーンRebel Foods社が所有する食品ブランドのひとつ「Fassos(ファーソス)」は、2011年にプネを拠点に法人化され、現在はインド国内35都市にて展開しています。2010年に設立されたRebel Foods社は、東南アジアとヨーロッパで海外事業を展開しており、世界的には325のクラウドキッチンを運営しています。

Rebel Foodsは2017年度から2018年にかけ、67.34%の増益を記録しており、2019年8月にFaasosの親会社Rebel Foodsはゴールドマン・サックス、Go-Jekなどから1億2500万ドル(約137億円)を資金調達、同社の評価額は5億ドル(約535億円)となりました。また、翌年2020年2月にはAlteria Capitalより490万ドル(約5億円)資金調達を行っています。

同社は新型コロナウイルスによるロックダウンの影響により、キッチンネットワークの削減及びオーダー数減少を受け、ビジネスの30~40%が減少したものの、雇用削減などの対応は行わない方針を示しています。

 

BOX8(ボックスエイト)

運営会社        :Poncho Hospitality Pvt. Ltd

Webサイト    :https://box8.in/

設立年           :2012年

本社             :マハラシュトラ州ムンバイ

CEO             :Anshul Gupta, Amit Raj

 

ムンバイを拠点に2012年に設立されたクラウドキッチン型のスタートアップPoncho Hospitality Pvt. Ltd社が所有する食品ブランド。ムンバイ、プネ、バンガロール、グルガオンにおける110以上の自社所有のクラウドキッチンから毎月100万食以上を提供しています。当初はメキシコ料理専門のクイックサービスレストランとして開始したものの、現在はインド料理に特化したフルスタックのオンラインフードデリバリーブランドとして展開しており、同社はピザ宅配ブランド「MOJO Pizza」も所有しています。

同社はこれまでに、同社の技術向上・既存市場(ムンバイ、プネ、ベンガルール)の強化及び新規市場(デリーNCRやチェンナイ、ハイデラバード)への事業開始を目的に、IIFLシード・ベンチャーズ、メイフィールド・ファンド、トライフェクタ・キャピタル・アドバイザーズなどの既存投資家から、合計3880万ドル(約41憶5,000万円)の資金調達を行っています。2020年4月、Box8の親会社であるPoncho Hospitalityは、コロナ禍による影響への対応を目的に現在進行中のシリーズCの資金調達ラウンドで、IIFLシード・ベンチャーズ・ファンドやメイフィールド・ファンドなどの既存投資家から約400万ドル(約4億2,800万円)を新たに調達しました。

 

FreshMenu(フレッシュメニュー)

運営会社        :FoodVista India Private Ltd

Webサイト    :https://www.freshmenu.com/

設立年           :2014年

本社             :カルナータカ州バンガロール

CEO             :Rashmi Daga

 

バンガロールを拠点に2014年設立したオンラインのクラウドキッチン型のスタートアップ。新鮮な食材を用いて、ユーザーが毎日様々な多国籍料理を楽しめるというのをコンセプトにしており、アプリから注文する事が可能です。同社は過去3年間で、同社のキッチンはベンガルールに18店舗、ムンバイに5店舗、デリーNCRに4店舗、合計27店舗にまで拡大、550人のスタッフと700人の配達員にて毎日約12,000件の提供を行っており、受注数は月に10~15%のペースにて成長しています。

2016年1月、同社はチームビルディングやブランド拡大及びアプリなど技術面の強化を目的に、Zodius CapitalやLightSpeed Venturesから1,700万ドル(約18憶1,900万円)を調達しています。また、2019年1月、Lightspeed Venture Partnersが主導する資金調達ラウンドで294万ドル(約3億1,400万円)を調達しており、既存の投資家であるZodius Technology FundとK. GaneshのファンドGrowthStoryも参加しています。

また、インド発ホテルベンチャー企業OYOがFreshMenuに対し、同社の運営するホテル食の標準化や利益率向上を狙いとして、5000~6000万ドル(約53憶5000万~64億2000万円)の条件で買取交渉を進めていると報道されています。

 

InnerChef(インナーシェフ)

運営会社        :InnerChef India Private Ltd

Webサイト    :https://www.innerchef.com/

設立年           :2015年4月

本社             :ハリアナ州グルガオン

CEO             :Rajesh Sawhney

 

グルガオンを拠点に2015年に設立したクラウドキッチン型のスタートアップ。ヘルシーメニューの提供をコンセプトにした「Healthie」やサンドイッチブランド「Bombay Sandwich Company」、インド料理のターリーブランド「Thalis of India」など複数のブランドを展開しています。現在は、デリーNCRをはじめ、バンガロール、ハイデラバード、ムンバイで展開しており、昨年よりプネやアーメダバード、チェンナイなど10都市への展開も計画しています。2019年1月には、既存の投資家である日本のベンチャーキャピタル「Mistletoe」から650万ドル(約7億円)の資金調達ラウンドを確保しました。

 

さて、いかがでしたでしょうか?依然として新型コロナウィルス感染の懸念が強く残るインドのフードデリバリー市場。将来的な成長拡大が見込まれる市場での生き残りをかけ、既存のデリバリー事業を軸にクラウドキッチン事業や周辺事業を推進する各企業の動きは今後も続く見込みです。次回はインドのオンラインフードデリバリー市場の中でも注目を集めている「食料品デリバリー」関連のスタートアップをご紹介します。

 

監修者からのコメント

ある程度勝ち組が見えたインドのフードデリバリー市場。今後は収益性の確保がポイントに。
公共交通機関も未整備であり、ちょっとした外出をすることが日本からでは想像できないほどに不便なインドはあらゆるデリバリービジネスとの相性が良く、大きく成長してきました。フードデリバリーも例外ではなく、多くの企業が立ち上がり、ユニコーン企業も生まれ、一大産業となりました。こちらの記事にもある通り、現在プラットフォーマーとしてはSwiggyとZomatoのユニコーン2社が市場を寡占している状態です。一方で、「飲食店で作られた料理をバイクに乗った配達員がピックアップして届ける」というビジネスモデルにはこの2社を含めたほぼ全てのプラットフォーム間において本質的に差はなく、結果として(他のプラットフォームに負けないためには)ディスカウントやクーポン発行の応酬によるユーザーの獲得と繋ぎ止めを続けたり、配達員を他のプラットフォームに取られない様に一定以上のインセンティブを与え続けたりする必要があるため、結果としてどのプラットフォームも収益性に乏しい状況に陥ってしまっています。この状況を打破する為に、例えばSwiggyは「The Bowl Company」などの自社ブランドを複数立ち上げたり、他の飲食店事業者向けにデリバリー
専用のキッチンを貸し出す「Swiggy Access」というクラウドキッチンサービスをすでに14都市で展開するなどして、プラットフォーマーとしての地位をを活かしながら収益性の改善を目指しています。また、Zomatoは「Zomato Gold」と呼ばれる、様々なな特典がもらえるサブスクリプションサービスを提供するなどして、こちらも収益性の改善を図っています。勝ち組がある程度は見えてきているインドの
フードデリバリーサービス市場ですが、今後はここまで圧倒的な資金調達力も背景にプラットフォームとしての地位を築いてきたユニコーン企業が、しっかりと収益性を確保できるモデルを構築できるかに注目が集まります。

村上 矢

監修者:村上 矢

野村證券グループの東京及びNY拠点にて一貫してIT/インターネット領域のスタートアップを担当。多くの企業をIPOへと導く。2014年にインドへと移り、現地にてスタートアップ立ち上げを経験。2016年にIncubate Fund Indiaを設立し、ジェネラルパートナー就任。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 政治学専攻、歴史学副専攻 卒

Incubate Fund Indiaは創業初期のインド企業への投資に特化したベンチャーキャピタル。日本で200社を超えるスタートアップ企業をサポートしてきたインキュベイトファンドの投資哲学とノウハウを活かしてインド企業への投資と成長支援を行なっている。これまでに15社のインド企業への投資を実行。日本人投資責任者がインド現地に常駐する稀有なファンドとして、投資だけでなく日印間の企業連携などへも積極的に貢献している。