Transaction Scheme & Cases

取引スキームや進出事例

H-48-2 : インドにおける主な関税還付スキーム

インドでは、輸出業者の国際競争力保護や輸入関税を減らすことで貿易の円滑化を図ることを目的として輸入時に支払った関税の還付や免除スキームが準備されています。各スキームによって申請方法や還付率、対象となる税種が異なるため、最適なスキーム見分けることが重要です。

本記事では関税還付の適用要件やその他輸出振興を目的とした関税還付および免除スキームについてご紹介いたします。

インド関税の種類と概要

前提として、関税はインド国外から物品を輸入する際に課せられる税であり、インドにおいては以下の税から構成されています。

項目税率計算式
基本関税品目に応じ0~10%

※特定の物品については上記を超える税率が課される場合あり

課税額=FOB価格+輸送費+保険料+荷揚げ費用
社会福祉課徴金10%

※特定の物品については3%

課税額=基本関税額*10%(特定物品は3%)
統合物品・サービス税(IGST)品目に応じ0~28%
GST補償税(GST Compensation Cess)

※特定の高級品や所定のサービスの輸入の際に課される

製品に応じて固定額もしくはパーセンテージで課税

続いて、代表的な関税還付制度(Duty Drawbackスキーム)についてご紹介いたします。

関税還付(Duty Drawback)とは?

インド関税法第74条・第75条では、物品輸入時に支払った関税の還付制度(Duty Drawback) について規定しています。

インド関税法第74条(Section 74 of the Customs Act, 1962)は、輸出品に対する輸入関税の払い戻しについて定めた条文であり、輸入された商品を一定の条件を満たして輸出した場合に、支払った輸入関税の一部または全額が払い戻される旨を定めています。

続く第75条は輸出製品に使用された原材料や投入物に支払われた関税の払い戻しに関する規定となっており、輸出品の競争力を高めるために、輸出者が輸出品の製造や加工に使用した輸入品に対して支払った関税を払い戻す旨を定めています。

以下に第74条、75条の適応要件を比較してみましょう。

項目第74条第75条
対象輸入品そのものを再輸出する場合輸出品に使用された輸入原材料や部品・素材などの投入物
払戻限度関税の最大98%(未使用の場合)政府が発行する「Duty Drawback Schedule」に基づき、製品ごとに異なる割合が設定されている
適用条件·       輸入品が未使用で輸入時と同一の状態であること·       輸入された物品が輸出品の製造に使用されていることが証明できること

·       輸入者と輸出者の関係性が証明できること

·       実際に商品が輸出されたことが証明できること

実務での適用例·       試験目的で輸入された商品を使用せずに輸出する場合

·       一時的に輸入された展示会用の商品を展示終了後に輸出する場合など

·       自動車部品を輸出する企業が、輸入した特定の鋼材を使用した場合

·       衣料品の輸出業者が、輸入された布地や染料を使用して製品を製造した場合など

制度適用外となる場合·       商品が完全に使用されたり、消耗品として使用された場合

·       輸入品の輸入から輸出までの期間が2年以上経過している場合など

·       禁止されている製品または原材料の場合

·       他の輸出インセンティブと二重適用される場合など

また、制度適用を受けるためには、適切に必要書類を整備することが肝要です。利用スキームにより申請書類等には差異がございますが、証憑として主に以下の書類準備が必要となります。

  • 輸入時のBill of Entry(輸入申告書)
  • 輸出時のShipping Bill(輸出申告書)
  • 原材料と完成品の紐付けを示す製造記録や証拠資料
  • GST申告書や財務記録など

その他の関税還付・免除スキームについて

インド政府は輸出促進を目的とした関税還付・免除のスキームを用意しています。以下に主なスキームをご紹介します。

1. 事前認可スキーム(Advance Authorization Scheme

このスキームでは、輸出業者が Advance Authorization(AA) という認可証を事前取得することで、輸入輸出品の製造に直接使用される原材料、半製品・コンポーネント、消耗品を輸入する際の基本関税、IGST(事前にBondsの提出が必要)及びGST補償税の免除を受けることが可能です。

Advance Authorizationの取得の主な条件として、以下の制約がある点に留意が必要です。

  • 免税輸入した原材料等の国内販売・転売及び免税輸入した原材料等を利用した最終製品の国内販売は禁止
  • 製造後の輸出品は、原材料のCIF(Cost, Insurance, and Freight)価格に対して、最低15%の付加価値(Value Addition)達成が義務図けられている
  • 輸出義務を18か月以内に履行必要があり、履行できない場合は、関税+利息(18%)を支払うリスクが生じる
  • 輸出品目別に免税枠で輸入できる原材料等の分量が決められている(DGFT(外国貿易総局)がtandard Input-Output Norms, SIONにて定めている)

2.DFIA(Duty Free Import Authorization Scheme)

事前認可スキームと類似しており、一定の輸出義務を達成することで輸出品の製造に使用される原材料にかかる基本関税を免除できるスキームです。事前認可スキームとの主な相違点は、次の通りです。

  • 輸出完了後に申請し、関税免除を受けるスキーム
  • ライセンス制であり、輸出義務達成後に第三者へライセンスを譲渡可能であること
  • 輸出義務である、付加価値要件が20%(事前認可スキームは15%)
  • 免税対象品目は輸出対象製品に直接利用される原材料のみ(消耗品等は不可)
  • 免税対象は基本関税のみ

3.GST払い戻しスキーム(IGST Refund on Exports

輸出者が輸出時に課税されるGST(統合物品サービス税)を納税し、後日その還付を受けるスキームです。インドではンド国内で州をまたぐ取引や輸出入にIGSTが課されます。日本の消費税に相当する税であり、輸出品に対して課税されたIGSTについては、GST 0%(Zero-rated Supply)が適用されます。

IGSTは以下2種の手続きで還付もしくは免除が可能です。

1.輸出時に課税されるIGSTを納税し、後日その還付を受ける

2.事前にLUT(Letter of Undertaking)を提出することで、IGST課税の免除を受ける

いずれの手続きの場合にも、以下の適用要件を満たす必要がある点に留意が必要です。

  • 輸出品またはサービスの提供地がインド国外区域であること
  • 輸出取引の決済が外貨で行われること(ルピー決済は特定の国(ネパール、ブータン)以外では認められない)
  • 輸出者がGST登録済(GSTIN)であること

関税還付スキームは対象となっている税項目や適用条件、対象品目などが異なることに加えて、原則複数のスキームを重複適用することはできないため、関税専門コンサルや物流企業様等のアドバイスをいただきつつ適切なスキームを選ぶことが肝要です。

執筆者紹介About the writter

園部 貴代 | Takayo Sonobe
国際基督教大学教養学部卒。大手ERPパッケージベンダーにてグローバルチームでの会計システム開発に3年間従事した後、大手日系コンサルティングファームにて、会計システム導入支援やDX改革支援、シェアードサービス化による管理部門業務改革支援等に4年間従事。2024年より当社へ参画。現在は会計・税務支援およびインド進出支援を担当。

取引スキームや進出事例

H-41 : インドにおけるサービスおよび物品の輸入取引

H-42 : インドにおけるサービスの輸出取引

H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク

H-44 : 単一ブランドによる小売取引(ユニクロの進出事例)

H-45 : フランチャイズ契約による小売取引(セブンイレブンの進出事例)

H-46 : NBFCライセンス取得に基づく金融取引(クレディセゾンの進出事例)

H-47 : インド国内外における物品販売スキーム事例

H-48-1 : インドの保税施設および保税制度について

H-48-2 : インドにおける主な関税還付スキーム