Transaction Scheme & Cases

取引スキームや進出事例

H-47. インド国内外における物品販売スキーム事例

(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

1.物品販売取引スキームの典型事例

弊社がよくお問い合わせを受けるご相談のひとつとして、商社や製造業者による物品販売スキームの検討、があります。

2017年にインド新税制GSTが導入されて以来、取引スキームにかかる課税関係は比較的シンプルになったとは言え、いまだに課税・非課税の判断において見解が分かれる論点も多々あります。

今回の記事では、インドにて事業展開をする日系企業がよく行っている典型的な取引スキームの事例およびその課税関係についてご紹介したいと思います。

2.保税倉庫活用によるインドへの輸出スキーム

インドに現地法人を持たない日系企業が、インド国内の顧客にJust-in-timeで商品・製品を販売したい場合には、保税倉庫(FTWZ : Free Trade Warehouse Zone)に倉庫を持つ物流会社と協業することで、保税倉庫内に在庫を保管・管理しつつ、顧客からの発注に対して迅速に納品できる仕組みを構築することが可能です。

当該スキームにおいては、物流会社が一時的に輸入者となり、かつ、一時的に商品所有者となることが想定されるため、業務委託契約における責任範囲の明確化と業務連携を強固にするコミュニケーションがとても重要となります。

3.インド国内における物品直送Bill-to-Ship-toスキーム

インド国内で実施されている最も典型的な取引スキームとして、インド国内で商品を購入し、自社の倉庫で受け入れることなくそのままインド国内の顧客へ直送するという「Bill-to-Ship-to」スキームがあります。

「請求先(Bill-to)」がどの州か、そして、「納品先(Ship-to)」がどの州かによって、課税されるGSTの種類が異なるため、取引スキームによってGSTの課税関係については注意が必要です。

なお、5万ルピー(約7万円)を超える物品を自動車等で輸送する場合には、原則、“電子運送状(E-Way Bill)”を輸送者が携行することが義務付けられており、E-Way Billのポータルサイトを通じて自社、もしくは、物流業者が発行することとなります。

E-Way BillはPart AおよびPart Bから構成されていて、Part Aについては取引の基礎情報、Part Bには輸送業者の詳細情報や輸送車の車両番号などの記載が求められ、E-Way Billが発行されると固有の電子運送状番号Unique E-Way Bill Number (EBN)が発番されます。

当該E-Way Billは100キロごとに有効期限が1日となっており、例えば250キロの距離を輸送する場合に発行されたE-Way Billの有効期限は2日となっています。

ちなみに、輸送業者に商品が届くまでの距離や、輸送業者から顧客までの距離が50キロ未満である場合には、Part Bの記載は免除されているのでご留意ください。

4.クロスボーダー による物品直送スキーム(インドから輸出編)

インド国内サプライヤーから商品・製品を購入し、自社の倉庫で受け入れることなくそのままインド国外の顧客へ輸出・直送するケースも比較的に多く見受けられます。

この場合、インド国内サプライヤーからの購入取引はGST課税対象の取引となる一方で、インド国外顧客への販売取引はGST 0%取引(Zero-Rated Supply)となるため、税務当局から事前にLUT(Letter of Undertaking)を取得することでGSTを納税しないか、もしくは、LUTの取得をしない場合には当該販売取引に対して一度IGSTを納税した後、当該IGSTについて還付請求をする、という手続きを取ることができます。

また、サプライヤーに対して支払った(ITC : Input Tax Creditとして計上された)GSTに対しては還付請求をすることが可能である。

なお、当該LUTは課税年度ごとに取得する必要がありますので、毎年の年初にLUTの必要性を評価し、必ず事前に取得をしておくことが重要です。

5.クロスボーダー による物品直送スキーム(仲介貿易編)

さらに、インド国外から商品・製品を購入し、国内に輸入することなく第三国の顧客に直送する「仲介貿易(第三国貿易)」と呼ばれる販売スキームもあります。

この場合、通関書類のひとつである船荷証券(Bill of Lading: B/L)には、最終的な荷受人(Consignee)として第三国の顧客名が記載され、商業送り状(Commercial Invoice)にも、仲介荷受人(Intermediate Consignee)としてインド国内業者名が記載されるものの、実際の荷受人として当該顧客名が記載され、インド国内での輸入関税は、原則、発生しないと考えられます。

また、CGST法の附則第3条第7項(Section 7 of Schedule III)に規定されている「インドに輸入されることなく非課税地域からその他の非課税地域に供給される取引」に該当すると理解され、物品・サービスの“供給(Supply)”に該当しないため、ICSTも課税されないという認識が妥当であると考えられます。

一方で、上述のとおり「原則」と書いたのは、2020年3月に下されたグジャラート州の事前審査機関 (Authority for Advance Ruling: AAR) の審査結果内容(※)によると、この見解に反して仲介貿易がIGSTの課税対象となるという結果でした。

この回答結果については適法性に欠くと主張する有識者も多いため、今後の税務当局の見解には十分注意していく必要があると考えています。

※グジャラート州AAR回答結果(Advance Ruling No. GUJ/GAAR/R/04/2020)

http://gstcouncil.gov.in/sites/default/files/ruling-new/GUJ_AAR_04_2020_17.03.2020_STL.pdf

取引スキームや進出事例

H-41 : インドにおけるサービスおよび物品の輸入取引

H-42 : インドにおけるサービスの輸出取引

H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク

H-44 : 単一ブランドによる小売取引(ユニクロの進出事例)

H-45 : フランチャイズ契約による小売取引(セブンイレブンの進出事例)

H-46 : NBFCライセンス取得に基づく金融取引(クレディセゾンの進出事例)

H-47. インド国内外における物品販売スキーム事例

H-48 : インドの保税施設および保税制度について