Transaction Scheme & Cases

取引スキームや進出事例

H-45 : フランチャイズ契約によるセブンイレブンの新たなる挑戦

(文責:吉盛真一郎 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

2019年2月にセブン-イレブン・ジャパンの完全子会社の米セブン-イレブン・インクとインドの小売り大手フューチャー・グループ傘下企業との間でマスターフランチャイズ契約の締結が発表されました。しかし、当初のムンバイでの初出店計画の時期が見直されていた中、2020年8月にこのフューチャー・グループの組織再編が発表され、その小売部門が国内小売最大手のリライアンス・リテールへ約2,471億ルピーで売却されることになり、セブン-イレブンの初お目見えは不透明な状態となりました。

「近くて便利」 セブン-イレブンは、日本国内で日本の小売業として初の2万店超えを達成し、アジア諸国においても2020年1月時点で約3万6000もの店舗を有し、インドの他にも2021年にはカンボジア、2022年にはラオスへの出店開始が発表され、世界への展開を着々と進めています。

インド小売業におけるFDI外資規制

インドでは2017年より複数ブランド小売業 (Multi -Brand Retail)への51%までの外国直接投資(Foreign Direct Investment : FDI)が可能となりましたが、最低投資額や立地に関する制限、初期投資先の分類指定、製品調達先の制限、電子商取引の禁止規定などがあります。さらに、実質的には管轄の州政府・連邦直轄地政府の判断と決定に基づいて実施の可否や上記規制の加減が行われることもあり、まだまだ外資にとって小売業界の門戸開放は途上と言えます。長らく小売業参入を阻まれていた米国ウォルマートは、卸売チェーン展開に現地の小売店を組み込む新たな戦略をすすめ、複数ブランド小売業認可第1号となった英国TESCOも同国企業委員会からの規制緩和の直接要求にインド政府が速やかに応えていくことを期待しています。

インドにおけるフランチャイズ経営の実務

インドにおいては、コンビニエンスストアをはじめとするフランチャイズ経営に関して、金融法65条 (Section 65 (47) of the Finance Act, 1994) にその定義が規定されているものの、日本における中小小売商業振興法第11条 (特定連鎖化事業の運営の適正化)や、独占禁止法に基づく運営基準 (フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について)に相当する、法令やガイドラインは存在しません。

しかしながら、フランチャイズ本部と加盟店の間の契約では、双方の義務・権利と利益を保証し、円滑な運営を継続する上で、以下のような内容を明確にしておくことが重要と思われます。

  1. 加盟に際し徴収する加盟金、保証金、ロイヤルティ、費用分担、その他の金銭に関する事項
  2. 加盟者に対する商品の販売条件に関する事項
  3. 経営の指導に関する事項
  4. 使用させる商標、商号その他の表示に関する事項
  5. 契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項

2017年8月、マクドナルド・インディアは、フランチャイズ契約会社CPRL (Connaught Plaza Restaurants Limited)のロイヤルティ支払い不履行・内部統制の欠如などのフランチャイズ契約違反を理由に、インド北部・東部地域の計169店舗の営業取り消しを発表しました。CPRLはこれ対し、デリー高裁に異議申し立てを行いつつその営業を継続させ、続いてマクドナルド側も専用業者からの食材供給を停止することで、強制的に閉鎖させるなどの争いへと発展してしまった経緯があり、フランチャイズ経営展開のリスクが露呈した事例と言えます。

インドでのフランチャイズ経営における主な課税関係と留意点は以下の通りです。

◆フランチャイズ本部が加盟者より加盟料やロイヤルティを受領する際、本部の所在(インド国内もしくは海外)によらず、加盟者により当サービスに対する源泉税 (TDS)徴収が行われる。

◆加盟者のフランチャイズ活動は、本部の権利(ブランド名使用権や商品販売権等)遂行の代理行為とみなされるため、加盟者の年間売上の額に関わらずGST登録 (GSTIN)を行う必要があり、その物品・サービスの供給に対してGSTが課税される。

◆フランチャイズ本部が外国法人の場合、外国法人を代表して契約の締結交渉や契約にかかる重要な役割を担っていると見なされる場合において代理人PE課税リスクが高くなるため、加盟者と結ぶフランチャイズ契約書において、加盟者の権利・役割を明確に記載することにより、本部の当該PE課税リスクを減らしておくことが必要である。

インド国内のコンビニエンスストア事情

インドのコンビニエンスストア事情ですが、すでに“24×7(Twenty Four Seven)”が24時間営業のフランチャイズ展開を行っており、ガソリンスタンドとの併設店舗提携契約も行っています。同じ給油会社であるBPCLやShellも、それぞれガソリンスタンドでの独自のコンビニエンスストア展開を行っており、有名ファーストフード店メニューの提供、イートインスペースやATMの設置などサービスの拡充に努めています。また“Essentials”は、セブン-イレブン・ジャパン出身の代表者を中心とするインパクトホールディングス株式会社がインド最大のコーヒーチェーンとの合弁により2019年から開始した小規模カフェの全面改装によるコンビニエンスストア事業展開ですが、競合他社に比べ店内面積が限られている中、今後、日系としてどのような独自色を出していくかが注目されます。

ボトルネックとなり得る日本人の思考傾向として、「そこに混沌・累累・悠久のインドが存在する中、日本標準の価値と利便性提供に挑み、インドを変える、あるいは救う」という構図を作りたがることが挙げられると思います。インドにはおしゃれな大型ショッピングモールが600以上もあり、また冒頭に述べた小売業大手が全国で展開しているメガストアや中規模スーパーマーケットの品ぞろえは日本のそれにひけをとりません。街のコンビニエンスストアとは、そういう場所に今までわざわざ時間をつくって押し寄せていた人たちが、あわただしく学校・勤務先へ向かう早朝、家路へ急ぐ夕方、疲れ果てて帰り着く深夜、その道すがらにフラっと立ち寄り、いろんな用事を済ますことができる場所として愛され、成長してきたのであり、その本質はインドでも変わらないと思います。そして、すでに競合陣がそのような展開を始めているという事実もあります。一方で、インドにおける「利便性」に対する優先順位やその価値基準については日本や東南アジア諸国とは大きく異なる部分もあるため、アジア諸国における成功事例がそのまま通用するというものではなく、そこに未開の地インドという国の難しさと市場の魅力が見え隠れします。

セブン-イレブンのインド事業展開に期待を込めて

日本のセブン-イレブンは、経済発展に伴い生活サイクルを激変させていく人たちの無数の「不便」を「便利」にしていく、その全国展開のために1974年の第1号店からフランチャイズ方式で行うという確固たる基本方針がありました。加盟者には夫婦を含む三親等までの親族との共同名義が義務づけられ、7~8店を担当する本部指導員 (OFC)を含む三階層に及ぶマネージャーたちが加盟店を全面支援し、さらに実はアルバイト従業員たちのPDCA徹底のために導入した(仕入れの効率化のためではなく)といわれるPOSシステム化など、フランチャイズ本部からの上位方針伝達の仕組みと、現場の問題点や要望の共有・吸い上げ機能を充実化させることによる全国2万店での同質サービスの提供を絶対目標にしています。フランチャイズ経営の肝は人だということでしょう。さて、おにぎりを家からもっていくものではなく、「コンビニで買うもの」にしてしまったセブン-イレブンは、これからインド人のどのような「不」を改善していってくれるのかとても楽しみです。

執筆者紹介About the writter

吉盛 真一郎 | Shinichiro Yoshimori
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。

取引スキームや進出事例

H-41 : インドにおけるサービスおよび物品の輸入取引

H-42 : インドにおけるサービスの輸出取引

H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク

H-44 : 単一ブランドによる小売取引(ユニクロの進出事例)

H-45 : フランチャイズ契約によるセブンイレブンの新たなる挑戦

H-46 : NBFCライセンス取得に基づく金融取引

H-47 : インド国内外における物品販売スキーム事例

H-48 : インドの保税施設および保税制度について