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インド基礎概論

A-1-1 : インド現地法人の設立手続について

「メーク・イン・インディア」政策のシンボル

(文責:安本理恵 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

(※ 設立手続きが新しくなったため一部アップデート予定)

インド現地法人の設立手続きは概ね下記(1)から(3)の流れで実施され、一般的に法人設立登記が完了するまでの期間は1〜2ヶ月程度です。

  1. 取締役のデジタル署名証明DSC(Digital Signature Certificate)の取得
  2. 商号名の事前承認申請(”Form RUN”による申請)
  3. 法人登記の申請(”Form SPICe”による申請)

関連当局であるインド企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)の規定により、(2)で商号名の承認が得られた日から20日以内に(3)の法人登記の申請を実施しなければならないため、必要書類は事前に出来る限り用意しておくことが重要です。特に、商号名が確定して初めて完成させることができる書類や、インド国外の取締役や外国法人が準備すべき書類の中には外務省による公印確認もしくはアポスティーユ認証(※)の付与が必要な書類も多いことが背景にあります。全ての申請および登記手続きはオンライン上で実施し、必要書類は圧縮したスキャンデータを登記専用フォームに添付する形で提出することになります。必要書類や登記の細かな手続きは頻繁に変更される可能性があるため留意が必要です。

※アポスティーユ認証は、外国公文書の認証を不要とする「ハーグ条約」の締結国へ公文書を提出する際に取得すべき認証のことで、インドはハーグ条約締結国です。東京都、神奈川県及び大阪府の公証人役場では、申請者からの要請があれば外務省の公証人の認証および公印確認またはアポスティーユを一度に取得できます(詳しくは、以下外務省のホームページ内の“ワンストップサービス”をご参照ください。)

外務省ホームページ「申請手続きガイド」

それでは(1)から(3)のそれぞれのステップについて以下に詳しくご説明します。

(1)取締役のデジタル署名証明DSC(Digital Signature Certificate)取得

DSCは、デジタルで文書に署名するためのもので、USBドライブで保管されます。主に、インドの会社法や税法、労働法等において規定された各種フォーマットに基づき、オンラインで登記や申告、提出する際にデジタルで署名するために使用します。DSCの取得には必要書類が揃ってから1週間ほどかかり、取得後の有効期間は1~2年間、期限が切れるとその都度再取得が必要となります。

なお、法人設立後のGST申告や年度末の法人税申告には「PAN encrypted DSC(PANが紐づけられたDSC)」が必要になるため、通常はすでにPAN(※)を保有している居住取締役が事前に取得しておくと後々の手間が省けて便利です。また、DSCの期限が切れると税務申告が実施できない等の支障も出てくるため、DSCの有効期限を適切に管理しておくことも大切です。なお、2020年7月現在、コロナ禍に端を発するロックダウン等の影響からDSCの代わりにEVC(Electric Verification Code)による税務申告ができるようになっており、事前に登録された携帯電話のSMSに飛んでくるOTP(One Time Password)と呼ばれるパスワードを利用することで承認プロセスを代替する手続きが利用可能となっています。

※PAN :(Permanent Account Number:インドの納税者番号)

必要書類(外国人非居住者の場合)

  1. 個人ID証明のためのパスポート写真面
    写真面コピーに自署(パスポートと同じサイン)をしたものにアポスティーユ認証付与したもの
  2. 住所証明のための公共料金請求書
    電話代(携帯電話可)、電気代、水道代等で現住所と名前が記載されているもの、または銀行口座取引明細書(Bank Statement)にアポスティーユ認証付与したもの
  3. 証明写真
    なお、DSCの取得申請後は、ビデオ認証、Eメール認証、電話認証で本人確認が実施され、認証手続きがすべて終われば数日以内にDSCが発行されます。

(2)商号名の事前承認申請

インド企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)が規定するRUN(Reserve Unique Name)フォームにて申請をします。希望される商号名と類似した企業名がすでに存在している等の理由で第一希望の商号名の承認が得られないケースが散見されるため前もって候補名を複数用意しておくことをおすすめいたします。

必要書類

  1. 株主の登記簿謄本の英訳コピー
  2. 株主側の取締役会での現地法人設立に関する決議の抜粋

なお、法人登記用フォーム「SPICe+(スパイスプラス)」を使うことで商号名の事前承認と法人登記を同時に申請することも出来ますが、万が一商号名の承認が下りなかった場合には申請した商号名全てがまとめて否認されてしまうため、弊社では個別に申請することをご提案しております。

 

(3)商号名の事前承認取得後20日以内に法人登記の申請

(2)で商号名の承認を取得後、20日以内に下記の必要書類を法人登記用フォーム「SPICe (INC-32)」に添付した上で、登記費用を事前に支払った上で法人登記の申請をします。登記費用については定款に記載された授権資本金額に応じて規定されており、MCAのポータルサイト上で事前に確認することが可能です。なお、下記のa)~f)の書類は承認が得られた商号名を記入する必要があり、株主が外国法人の場合や取締役がインド国外居住者である場合は上述のとおり外務省による公印確認もしくはアポスティーユ認証付与が必要となり、もし必要書類をインド国内で作成した場合にはインド国内の公証人(Notary Public)による公証が必要となります。

<必要書類>

  1. 基本定款(MOA ::Memorandum of Association):
    社名、所在地、事業内容、資本額等の会社の基本的な情報を定めたもの。
  2. 付属定款(AOA:Articles of Association):
    株主や取締役会の開催、経営管理や組織運用上必要な手続きや規定について定めたもの。
  3. DIR-2: 取締役による取締役就任に同意する宣言書
  4. INC 9: 株主・取締役による違反行為などの経歴がない事の宣誓供述書
  5. PAN Undertaking Letter:
    取締役が外国人非居住者等でPANを取得していない場合の宣言書
  6. Resident Director Declaration:
    居住取締役によるインド滞在に関する宣言書
  7. 登記予定住所の賃貸契約書(Lease Agreement/Rental Agreement)
  8. NOC(Non-Objection Certificate):
    登記住所としての利用に異論がない旨を証明する賃貸人が発行する書類
  9. 賃貸人の直近の電気代請求書:
    請求書上の住所が登記予定の住所と合致している必要があることに注意
  10. 取締役会決議書の抜粋①(登記住所の賃貸人が企業の場合)
    賃貸人が入居者の登記住所の利用に異論がない旨の取締役会決議の抜粋
  11. 取締役会決議書の抜粋②(サブリースの場合)
    賃貸人がオーナーではない、つまり賃貸人が入居者へ又貸ししている(サブリース)場合は、本来のオーナーが登記住所の利用に異論がない旨のNOCや取締役会決議書の抜粋が追加で必要となる点に注意

法人登記の申請後、数日~1週間程を目安にMCAより取締役の登録メールアドレス宛に何らかのフィードバックが届きます。担当官によっては上記以外に追加の確認書類を求められることが稀にありますが、特に問題がなければ会社設立証明書(COI : Certificate Of Incorporation)が登録したEメールアドレスに送られてきます。

法人登記時に同時に発行されるもの

下記は法人登記時に同時に発行されるため、別途申請する必要はありません。

  • CIN(Corporate Identity Number: 企業識別番号)
  • PAN(Permanent Account Number: 納税者番号)
  • TAN(Tax Deduction and Collection Account Number: 源泉徴収番号)
  • DIN(Director Identification Number: 取締役識別番号)

 

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執筆者紹介About the writter

安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。

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