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インド基礎概論

A-1-2 : 非公開会社の株式等の有価証券の電子化について(期限延長とFAQ)

2023年10月27日付のインド企業省 (MCA)発出の通達によって、非公開会社(*1)に株式等の有価証券を電子化することが実質義務づけられました。対応期限は、2023年3月末の会計年度末日から18ヶ月以内(なお、会計年度末日が2023年3月末以降となる場合には、その会計年度末日から18ヶ月以内となり、ほとんどの既存企業は本年9月30日までに対応が必要でした。一方で、ISIN(証券識別コード)を発行するRTA(インド証券取引委員会登録業者)や、Demat Account 等を管理するDepository Participant(一定の金融機関)への業務負荷が集中し、各所で手続きの遅延が多発していました。

そんな状況下において今般、2025年2月12日付のMCAの通達で、有価証券の電子化の期限が2025年6月30日まで延長されることが公表されました(*2)。この延長により、企業にはさらに9ヶ月の猶予期間が与えられ、2025年6月30日までの救済措置が明文化された形となります。また、企業は2025年6月30日までは株式を現物で保有し続け、株式の譲渡や名義書換も同日まで現物で行うことができます。

同通達の最大のポイントは、これまでは対応遅延により実際に罰則が科された事例は見受けられなかったものの、形式的に法令違反の状態にあった日本企業にとっては、コンプライアンスを順守し、また罰則の対象にならずに済むことでしょう。

インド非公開会社の有価証券の電子化のメリットおよびデメリット

インド政府が推進する本措置は、NSDL (National Securities Depository Limited)/CDSL(Central Depository Services Limited)  などのインドの証券保管所が管理するDemat Accountを通じて、企業が発行する有価証券を電子化することで、株式の取引を迅速にし、証券市場の透明性を向上させ、市場のセキュリティを確保すると同時に、効率性と信頼性を高めることを目的としています。

ここでは、従来の紙ベースの証券と比較した際の、電子化のメリットおよびデメリットについて、ご説明します。

メリット

  1. 証券取引の迅速化および効率化
    証券が電子化され、また一連の手続きをオンラインで行うことで、有価証券の取引がスピーディーに実施され、大幅な効率化が期待できます。Demat Accountを介した株式譲渡の印紙税は非課税となり、また同アカウントにて株式の配当金を受け取ることも可能です。
  2. 証券の紛失・盗難・改ざんリスクの低減
    電子化された証券は、紛失、盗難、改ざんの危険性を低減することができます。
  3. 市場の透明性の向上
    証券の所有権がデジタル記録されるため、株主間でのマネーロンダリング等の不正行為の抑制や株式譲渡に関連するトラブルの減少につながります。
  4. コスト削減
    デジタル化によって、紙ベースの証券管理でかかっていた印刷費用や保管費用等のコストを削減できます。
  5. 環境への負荷の低減
    電子化に伴う紙の使用量の大幅な削減が、環境への負荷を和らげます。

デメリット

  1. インターネット環境が必須
    電子化された証券の閲覧や取引は、インターネットが整備された環境を前提としているため、ネットへのアクセス状況が悪い地域では、注意が必要です。
  2. セキュリティ・リスクへの懸念
    デジタル化によるサイバー攻撃や、ハッキングなどのセキュリティ・リスクへの懸念が伴います。適切なセキュリティ対策を立てる必要があります。

お客様から特に多いお問い合わせ(FAQ)

インドにおける非公開会社の株式等の有価証券の電子化に関する、弊社でよくお問い合わせを受ける質問(FAQ)をいくつかご紹介いたします。

電子化に要する期間

Q. 有価証券の電子化に要する期間を教えてください。

A. 株主側と現法側で必要な手続きがそれぞれ分かれます。2025年3月時点での情報となりますが、所要期間については、株主側のDemat Accountの開設には、必要書類の準備期間を含め約4〜6ヶ月程度、現法側の手続きについては、1〜2ヶ月程度の期間を要します。

有価証券の電子化に必要な書類および進め方

Q. 有価証券の電子化手続きをスムーズに進めるためのポイントはありますか。

A. 手続きを円滑に進めるためには、まず事前に必要書類に関する情報を収集し準備しておくこと、早めにDP(Depositary Participant = 証券決済機構への参加者、Demat Accountを扱う銀行や証券会社等の機関)を選定し、不明点を常にDPに確認できる関係を構築しておくことが鍵となります。

Demat Accountの開設に当たり株主側は、本人確認手続きの必要性から、相当量の書類の提出が要求されます。PAN(Permanent Account Number = 税務基本番号)の取得、全書類につき取締役からの署名が求められるうえ、多くの書類に公証・アポスティーユ認証を受ける必要もあるため、全体のタイムラインの把握やコスト管理へも配慮すべきです。

具体的には、翻訳を必要とする下記書類を先に進めておくと、Demat Account 申請書への記入含め、後々の作業負担が軽減されるでしょう。

  • 英語版の銀行残高証明書
  • 法人税納税証明書(通常は、オンラインにて和英文併記版の取得が可能)
  • 過去3年分の決算書
  • 定款
  • 登記簿謄本

企業のレターヘッドが必要なもの、公証・アポスティーユ認証を受けるもの、その他署名の仕方などそれぞれの書類に細かい留意事項が多くあります。インドに発送後の書類の差し戻しを防ぐためにも、レビューを怠らず、必要書類を漏れなく揃えることが肝要です。

KYC(Know Your Customer、本人確認)書類

Q.  全取締役分の本人確認(KYC)書類の取得が困難な場合の対応策を教えてください。

A. KYC書類とは「Know Your Customer」の略語で、インドでは本人確認書類、といった意味合いで使用されています。有価証券の電子化手続きにおいては、全取締役のパスポートおよび住所証明書類等を指しますが、何らかの理由で全取締役分の書類を取得できない場合には、例外的にレターをドラフトし、提出可能な取締役の名前と、提出ができない取締役の名前を明記して提出することで、全取締役のKYC書類の提出を免除してもらう措置が可能です。

公証・アポスティーユの有効期限

Q. 公証・アポスティーユに有効期限はありますか。

A. 公証・アポスティーユ認証の付与が必要な書類については、アポスティーユ認証時点から2ヶ月が書類の有効期限となります。まずは必要書類のドラフトの準備を進め、連携先のDPのレビューを経たタイミングで、公証・アポスティーユ認証の手続きを実施いただくことを推奨しております。

罰則とコンプライアンス

Q.(親会社や株主側の意向等により)有価証券の電子化を実施しない場合、もしくは対応が遅れた場合の罰則について教えてください。

A.  今般の通達により、有価証券の電子化の期限が2025年6月30日まで延期されました。期限内に電子化を実施しない場合、もしくは対応が遅れた場合のコンプライアンス違反については、企業および役員に対し、以下の罰金が科されます。【2013年会社法(Companies Act, 2013)第450条にて規定

会社:10,000ルピー + 1日1,000ルピー(上限200,000ルピー)

役員:10,000ルピー + 1日1,000ルピー(上限50,000ルピー)

実施や対応の遅延が法人のガバナンスや信頼性に及ぼす影響や、法的リスクを高める点も踏まえておく必要があるでしょう。

 

注記

*1 政府系会社と小規模会社(払込済資本金が4000万ルピー以下または前事業年度の売上が4 億ルピー以下で持株会社・子会社に該当しない会社)は適用対象外となるが、日本企業の子会社であるインド現地法人は全て適用対象となる。

*2 インド企業省からの通達はこちらをご参照ください。

各DPによって提出すべき必要書類が異なるため、ここでは、弊社で連携しているDP資格を有するRTA [Registrar and Transfer Agent = 株式等の管理サービスを行うSEBI(インド証券取引委員会)登録業者)] の事例を取り上げて説明しています。

 

インド進出支援ちゃんねる【田中 啓介 / Global Japan】

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執筆者紹介About the writter

寺島かほる | Kaoru Terashima
一橋大学大学院社会学研究科修了。東京大学大学院総合文化研究科在学中。出版社編集部、外資大手小売企業やベンチャー企業のスタートアップメンバーを経て、公的機関にて約3年間、主に南西アジアの調査業務に従事。南インドの地域特性を活かした、日系企業のインド進出と成長を後押しすべく、2024年5月より当社に参画。法務・会社秘書役業務(CS)を担う。

インド基礎概論

A-1-1 : インド現地法人の設立手続について

A-1-2. 非公開会社の株式等の有価証券の電子化について

A-1-2. 非公開会社の株式等の有価証券の電子化について(2)

A-1-3. インドにおける非公開会社の増資手続きについて

A-2. インド現地法人設立後のコンプライアンスについて

A-3. インドでのJV・合弁会社の設立時に注意すべきポイント

A-4. インド駐在員事務所・支店の設立条件・要件および設立前に確認すべき事項

A-5. インド駐在員事務所・支店の設立手続について

A-6. インドの支店・駐在員事務所 設立後のコンプライアンス

A-7. インドLLPの設立条件・要件および設立前に決定すべき事項

A-8. インドLLPの設立手続について

A-9. インドLLPの設立後のコンプライアンスについて

A-10. 日系企業のインド進出状況と今後の動向